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トミヨ属淡水型と雄物型の生殖的隔離および共存機構

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)鶴田哲也 学位論文題名

トミヨ属淡水型と雄物型の生殖的隔離および共存機構 学位論文内容の要旨

  生物 多様性の 起源やそ の維持機 構を理解す る上で、 同所的に生息する近縁種間の生 殖的 隔離およ び共存機 構を解明 することは 、最も重 要な研究 課題のーっである。なぜ なら 、ある生 物群集内 の種数が 増えれば増 えるほど 、系統的 に近縁な種が共存する機 会 は 増える し、また 、ある個体 群におけ る2集団問 の生殖的 隔離機構 の進化と その後 の共存は種多様性を創出する機構とも言えるからである。

  冷水 性淡水 魚類であ るトミヨ属(Pungitius)淡水型と 雄物型は 、約80万年 前に分岐 し、 二次的接 触により2型の同所 的生息地が 形成され たことが示唆されている(Takata etal.,1987; Takahashi and Goto,2001)。このように系統関係が明らかにされているトミ ヨ属 淡水型と 雄物型は 、生物多 様性の創出 機構を研 究するの に適したモデル脊椎動物 のーっである。

  そこ で本研究 では、ト ミヨ属淡 水型と雄物 型の生殖 的隔離およぴ共存機構を解明す るこ とを目的 とした。 先ず、(1)秋田県雄 物川水系 における2型の分布の詳細を明か に し た上で 、(2)同所的 生息地にお ける繁殖 期の野外 生態調査 と交配実 験および 分子 生 物 学的手 法を用い た同類交配 の調査結 果から、2型の間に 働いてい る生殖的 隔離機 構 と その 進 化に っ い て考 察 し た。 次に、(3)これら2型 の間で胃 内容物組 成、生活 様 式お よび摂餌 生態に関 係する形 態学的特徴 を比較し 、同所的 生息地における共存機構 にっいて考察した。

(1)雄 物川水系 における2型の分布と 遺伝的集 団構造

  雄物川 水系にお けるトミ ヨ属淡水型 と雄物型 の分布の詳細を明らかにするために、

アロザ イム多型 解析をも とに調査を 行った。 本水系に おいては、淡水型は主に本川に 近い場 所に分布 している のに対し、 雄物型は 仙北平野 の扇状地の湧水地を中心に、内 陸 部に 限 られ た 分 布を し て いた。また 、2型の同 所的生息 地が3地点 確認され 、そこ では2.4〜31.8%の雑種 が確認さ れたが、す べての地 点で2型に 特徴的な5遺伝子座 で 遺伝子 型頻度にHardy‑Weinberg平衡から の逸脱が認 められた 。このこ とは2型の 間に

(2)

生殖的隔離が存在することを示唆する。

  さらに、対立遺伝子頻度の変異パタンを知るために主成分分析を行った。その結果、

雄 物型 には 地域性を反映した遺伝的集団構造が認められたのに対し、淡水型にはその よ うな 構造 が認められなかった。これは、近年の遺伝子流動の制約だけでなく、過去 に 起こ った 歴史的イベントによって雄物型内の地域集団問で長期間にわたって遺伝子 流動が制限されたことを示唆する。

(2)生殖的隔離機構

  2型 が同 所的 に生息 する 池に 調査 区域 を設 け、時間的および空間的営巣活動を調査 し た。 調査 区域 内に おけ る2型 の営 巣数 の経 時的 変化 は、 両型 とも に5月 に盛期を持 つ 単峰 型で 、ほ ぼ同様のパタンを示した。したがって、時間的隔離は淡水型と雄物型 の 間の 生殖 的隔 離機構としてほとんど機能していないと考えられた。一方、空間的営 巣 活動 を見 ると 、幾 っか の営 巣場 所の 環境 要素には2型の間に有意差があり、淡水型 は 雄物 型よ り岸 から離れた開けた場所に営巣する傾向が認められた。しかし、営巣場 所 の5つの 環境 要素を 用い た判 別分 析に おい ては2型を 明確 に識 別す るこ とはできな か った 。ト ミヨ 属魚 類の 繁殖 生態 を考 慮す ると、2型の営巣場所の違いは生殖的隔離 機構として十分に機能していないと推察された。

  淡水 型と 雄物 型およびそれらの交雑個体の間で人為交配を行い、雑種個体の初期生 残 率と 繁殖 能カ を調査した。その結果、異型問交配の受精率や初期生残率は、同型間 交 配の もの との 間に有意な差を示さなかった。また、戻し交配においても受精率や初 期 生残 率の 著し い低 下は 認め られ なか った 。これらのことから、2型間の遺伝的要因 に よる 交配 後隔 離機構は十分に機能していないと考えられた。しかし、同所的生息地 に お い て2型 は 雑 種を 形成 しな がら もそ れぞ れの 遺伝 的特徴 を維 持し てい るこ とか ら 、 生 態 的 要 因 に よ る 交 配 後 隔 離 機 構 が 働 い て い る と 推 察 さ れ た 。   同所 的生 息地 において営巣雄とその保護下にある卵を採集し、両者のミトコンドリ アDNA制 限 断 片 長 多 型(mtDNA PCR‑RFLPパ タ ン ) の 比較 か ら 自 然 水 系 に お け る 同 類 交 配 の 頻 度 を 調 査 し た 。 採 集 し た21個 の 巣 に 含 ま れ て い た133卵 塊 のmtDNA PCR‑RFLPパ タ ン を 調 べた 結果、Fi雑 種の 雄に よっ て保 護さ れて いた6卵塊 を除 き、

127卵 塊 中126卵 塊 のmtDNA PCR‑RFLPパ タ ン が 営 巣雄 のもの と一 致し た。 これ によ り 、淡 水型 の雌 は淡水型の雄の巣に、雄物型の雌は雄物型の雄の巣にそれぞれ産卵し て いる こと 、す なわち同類交配することが示された。この結果は、強い交配前隔離機 構の存在を示唆する。時間的および生殖場所隔離がほとんど機能していないことから、

行動的隔離が最も重要であると推察された。

(3)

  トミヨ属淡水型と雄物型の生殖的隔離機構に関する以上の結果は、生殖的隔離の強 化(Dobzhansky1940)が生じる条件に当てはまる。したがって、これら2型の間の交 配前隔離機構は、2型が異所的に分布していた問にそれぞれ進化したとするよりも、

二次的に同所的に生息するようになって以降、生殖的隔離の強化によって現在見られ るような頑強な隔離機構に進化したと推察された。

(3)共存機構

  2型の非繁殖期における胃内容物組成を、同所的生息地と異所的生息地の間で比較 調査した。同所的生息地の淡水型からはほばカイアシ類しか見られなかったのに対し、

雄物型からはカイアシ類に加えてユスリカ類を中心としたハエ日の幼虫や蛹およびカ ゲロウ日の幼虫といった大型の底生無脊椎動物も多く見られた。一方、異所的生息地 の2型の胃内容物は、両型ともカイアシ類と底生無脊椎動物で占められていた。この こ と は、 同 所的 生 息 地に お いて 餌 資源 分 割が 生 じて い るこ と を示してい る。

  次に、2型の同所的生息地において、シュノーケリングにより非繁殖期の生活様式 を調査した。両型とも水生植物や水底で摂餌する頻度が高いとはいえ、淡水型は水中 (water column)で摂餌する頻度が高くほとんどなわばり行動を示さないのに対し、雄 物型は水中で摂餌する頻度が低くなわばり行動の頻度が高い傾向が認められた。この 結果は、同所的生息地における淡水型は摂餌なわばりを持たずにカイアシ類を主な餌 資源として利用しているのに対し、雄物型は摂餌なわばりを持ち幅広い餌資源を利用 していることを示している。したがって、型間の干渉型競争によってマイクロハビタ ットの分割が生じ、淡水型は大型底生動物の少ない場所で摂餌することを強いられ、

結果として食性がシフトしたと考えられる。

  さらに、2型の摂餌生態に関係する形態形質を計測し、型問で比較した。その結果、

淡水型はより小型の餌生物を摂餌するのに適合した形態を、一方、雄物型はより大型 の 餌 生 物 を 摂 餌 す る の に 適 し た 形 態 を 持 っ こ と が 明 ら か と な っ た 。   トミヨ属淡水型と雄物型の共存機構に関する以上の結果は、2型が二次的に接触し たときすでに存在した表現型(摂餌関連形態および摂餌なわばり)の差と、淡水型の 食性の可塑性が2型の共存に重要な役割を果たしたことを示唆する。すなわち、同所 的生息地におけるトミヨ属淡水型と雄物型は、表現型の可塑性に富む一方の種が生態 的 特 性 を シ フ ト さ せ る こ と に よ り 共 存 を 可 能 に し て い る と 考 え ら れ る .

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(4)

学位論文審査の要旨 主査    教授    荒井克俊 副査    教授    中尾    繁 副査   助教授   後藤   晃

学 位 論 文 題 名

トミヨ属淡水型と雄物型の生殖的隔離および共存機構

  水 圏 動 物 の 生 物 多 様 性 の 起 源 お よ び 近 縁 種 の 共 存 機 構 を 明 ら か に す る こ と は 、 進 化 生 物 学 に お い て も 、 ま た 水 産 資 源 の 管 理 や 保 全 に お い て も 重 要 で あ る 。 申 請 者 は 、 日 本 北 部 に 生 息 す る 冷 水 性 ト ミ ヨ 属 の2つ の 系 統 、 淡 水 型 と 雄 物 型 を 対 象 に 、 ア ロ ザ イ ム と ミ ト コ ン ド ル アDNA (mtDNA)を 遺 伝 的 マ ー カ ー に 用 い て2型 の 遺 伝 的 集 団 構 造 、 同 所 的 生 息 域 で の 繁 殖 生 態 と 生 殖 的 隔 離 機 構 、 お よ び 摂 餌 生 態 ・ 摂 餌 行 動 に 関 す る 研 究 を 行 い 、 以 下 の 評 価 す べ き 結 果 を 得 た 。

1) 秋 田 県 雄 物 川 水 系 に お け る ト ミ ヨ 属 淡 水 型 と 雄 物 型 の 分 布 関 係 を ア ロ ザ イ ム 多 型   解 析 を 基 に 調 査 し 、 淡 水 型 は 本 流 沿 い の 本 川 に 分 布 す る の に 対 し 、 雄 物 型 は 主 に 仙   北 平 野 の 湧 水 地 に 生 息 す る こ と を 明 ら か に し た 。

2) ト ミ ヨ 属2型 の 同 所 的 生 息 地 の3地 点 に お い て 、 ア 口 ザ イ ム 多 型 解 析 に よ っ て2   型 間 の 雑 種 の 出 現 頻 度 を 調 査 し 、2.431.8% の 割 合 で 出 現 す る こ と が 示 さ れ た 。   ま た 、3地 点 で の 集 団 の 遺 伝 子 型 頻 度 がHardyWeinberg平 行 か ら 逸 脱 し た こ と か   ら 、 2型 間 に 生 殖 的 隔 離 が 存 在 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。 3) 主 成 分 分 析 に よ っ て2型 の 対 立 遺 伝 子 の 変 異 パ タ ン を 解 析 し た 結 果 、 雄 物 型 に は   地 域 性 を 反 映 し た 明 瞭 な 集 団 構 造 が 存 在 す る の に 対 し 、 淡 水 型 で は そ の よ う な 集 団   構 造 は 認 め ら れ な か っ た 。 こ の こ と か ら 、 雄 物 型 で は 過 去 の 地 史 的 イ ベ ン ト に よ っ   て 地 域 集 団 間 で の 遺 伝 子 流 動 が 長 期 間 に 渡 っ て 制 限 さ れ て い た こ と が 示 唆 さ れ た 。 42型 の 同 所 的 生 息 地 に お い て 時 間 的 ・ 空 間 的 な 営 巣 活 動 の 比 較 調 査 を 行 っ た 結 果 、   営 巣 活 動 の 時 間 的 パ タ ン に は2型 間 で 差 異 が 認 め ら れ な か っ た 。 一 方 、 営 巣 場 所 に   2型 間 で 若 干 の 相 違 が 見 出 さ れ た が 、 交 配 前 生 殖 的 隔 離 機 構 と し て は 十 分 に 機 能   し て い な い と 推 察 さ れ た 。

52型 間 で 人 為 交 配 を 行 っ た 結 果 、 異 型 間 交 配 で の 受 精 率 と 初 期 生 残 率 に は 同 型 交   配 の 場 合 と 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 、 戻 し 交 配 に お い て も こ れ ら の 比 率 に

(5)

  著しい低下は認められなかった。この結果から、淡水型と雄物型間には遺伝的要因   に よ る 交 配 後 隔 離 機 構 は 十 分 に 機 能 し て い な い と 考 え ら れ た 。 6)自然水系における2型の同類交配の程度を明らかにするため、同所的生息地にお   いて営巣雄とその保護下にある卵塊を採集し、mtDNA制限酵素断片長多型解析に   よって、卵と保護していた雄との遺伝子型の一致性を調査した。その結果、Fi雑種   の雄によって保護されていた6卵塊を除いて、127卵塊中の126卵塊で一致するこ   とが認められた。この結果から、2型間には同類交配を介しての強い生殖前隔離が   存在すると考えられた。

7)淡水型と雄物型の共存機構を明らかにするため、非繁殖期における摂餌生態を2   型の同所的個体群と異所的個体群で比較調査した。その結果、同所的生息地では   淡水型は主にカイアシ類を、一方、雄物型は水生昆虫幼生を摂食し、2型間で餌資   源分割が生じていることが示された。また、淡水型にはほとんど摂餌なわばりを示   す個体が見られないのに対し、雄物型では高い頻度で摂餌なわばりを持つ個体が観   察された。これらの結果から、同所的生息地では2型問に干渉型競争によルマイク   口ハビタットの分割が生じ、そのために淡水型は食性をプランクトン専食にシフト   すると考えられた。

8)以上の結果から、同所的生息地での淡水型と雄物型間での生殖的隔離機構として   は同類交配が機能していること、および2型の共存には、.2型が二次的に接触した   時代にすでに獲得していた摂餌生態形質(表現型形質)に型間で差異が生じたこと   と、淡水型の食性が可塑性に富むことが重要な役割を果たしたと推察された。

  申請者による以上の研究成果は、水圏生物の多様性の起源とその創出機構の解明に 大きく寄与するものであり、審査員一同は博士(水産科学)の学位を授与される資格 のあるものと判定した。

参照

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