第15章
生殖器系
この章では、男性の生 殖 器系せいしよく き けいreproductive system と、女性の生殖器系、ヒトの誕生について説明します。 男性の生殖器系の役割は、男性ホルモンの生合成や、精子の形成、精子を女性の生殖器に運ぶことです。 せい し 男性の生殖器は、精子と男性ホルモンを生合成する精巣や、精子を運ぶ精管、精液を構成する分泌物を産生 せいそう せいかん せいえき する付属腺(精嚢と前立腺、尿 道 球 腺)、陰茎から構成されています。せいのう ぜんりつせん にょうどうきゅうせん いんけい 女性の生殖器の役割は、卵子を形成し、女性ホルモンを生合成し、交接時に陰茎や精子を受け入れ、胎生期 らん し に胚子・胎児を宿し栄養を与え、胎児を分娩し、さらに乳児に栄養を与えることです。このように異なる数多 はい し たい じ ぶんべん くの機能をおこなうため、女性の生殖器は男性のものに比べて複雑になっています。 女性の生殖器は、卵子の形成と女性ホルモンを生合成する卵巣、排卵された卵子を子宮に運び受精が生じる らんそう 卵管、胚子・胎児を宿す子宮、陰茎を受け入れ産道となる腟、母乳を産生し授乳させる乳 房から構成されて らんかん しきゅう ちつ にゅうぼう います。 ヒトの誕生では、受精や胚子、胎児、胎盤などについて説明します。 じゆせい たいばん第1節
男性生殖器
図15-1 男性の生殖器の全体像を矢状断で示す1.精子とホルモンをつくる精巣
精巣testis は、陰嚢のなかに存在する一対の卵形の いんのう 性腺で(図15-1)、長さは4 cm ~5 cm、幅は約2.5cm、 せいせん 厚さは約3cm です。 精巣は、最初、胎児の腹腔のなかで腎臓の近くで発育 しますが、通常、出産の約2カ月前に腹腔から鼡径管をそ け い か ん 通過し、陰嚢へと下降します(図15-2)。腹腔の中に精巣 が留まると、精子の形成ができなかったり、ガン化する ことがあります。 図15-2 腹腔から陰嚢へと下降する精巣を模式的に示す 精巣は、厚い白い結合組織である白膜で被われていまはくまく す(図15-3)。白膜は、精巣の後縁で肥厚し内部に伸び、 不完全な仕切りをつくります。白膜の肥厚部と仕切りは、 精巣縦 隔を構成します。縦隔の内部への広がりは、精巣 じゅうかく 中 隔と呼ばれ、精巣を不完全ながら200個~300個の円錐 ちゅうかく 形の精巣小葉に分けます。 各小葉には、1本~4本の直径が約0.2mm ぐらいの 細い曲がりくねった曲精細管seminiferous tubule があ せいさいかん ります(図15-3)。曲精細管は精子を形成するところです。 精巣門では、精細管は曲がらずに複雑な網目状になり、 精巣網をつくります。 せいそうもう 図15-3 精巣の構造を矢状断で示す 図15-4 曲精細管の構造と間質細胞とを示す 図15-5 曲精細管の管壁の構造を模式的に示す 図15-6 精巣から分泌されるホルモンを模式的に示す図15-7 インヒビンとアクチビンは前駆物質の カルボキシ末端から生合成されることを模式的に示す 1個の精巣には、約千本の曲精細管があります。 曲精細管の管壁に存在する精祖細胞が細胞分裂で増殖 せ い そ することによって1日に数百万個の精子が形成されます (図15-5)。 また、曲精細管の管壁には、支持細胞(セルトリン細 胞)が存在しています。支持細胞は、アンドロゲン結合タ ンパク質を分泌し、さらに卵胞刺激ホルモンの分泌を抑 制するインヒビンBinhibin B も分泌します。 曲精細管の間に存在する間質細胞は、男性ホルモンの かんしつ テストステロンtestosterone を生合成します。テスト ステロンの生合成は、腺下垂体から分泌される黄体形成 ホルモンの調節をうけて思春期頃に始まります。テスト ステロンは、前立腺や精嚢、皮膚などで5 αあるふぁ-リダクタ ーゼによって強力な活性を有するジヒドロテストステロ 図15-8 テストステロンの化学構造を示す ンに変換されます。 テストステロンは、精子の形成を促進し、精嚢や前立 腺を発達させ、タンパク質合成を促進し、男性の二次性 徴の発現に重要な役割を果たします。さらに、テストス テロンは、男性の性欲を強めます。 精巣に分布する血管やリンパ管、神経などは、精索に せいさく よって骨盤腔とつながります。精巣に分布する精巣動脈 は、腹大動脈から直接分枝します。右精巣静脈は、直接、 下大静脈に注ぎますが、左精巣静脈は、通常、左腎静脈 に合流します。 リンパは腹大動脈の周囲のリンパ節に流れます。 精巣に分布する精巣神経は、第十胸髄や第十一胸髄由 来の神経が腎神経叢などを経由したものです。 図15-9 精子の形成過程を模式的に示す ①精子の形成 思春期以後、腺下垂体(前葉)から分泌される卵胞刺激 ホルモンが曲精細管の管壁にある精祖細胞を刺激し、精 子を形成するようになります。つまり、精祖細胞が急速 に増加し、有糸分裂を繰り返しながら成長し、一次精母せ い ぼ 細胞に変わります。一次精母細胞は減数(還元)分裂によげんすう って2個の二次精母細胞になります。二次精母細胞の染 色体は23個で、一倍体です。その後、二次精母細胞は二 次分裂によって4個の精子細胞(染色体は23個)へと成長 します。精子細胞は徐々に成熟し精子(染色体は23個)に なります。精祖細胞から精子細胞になるまでは、通常、 74日間ぐらいかかります。 ②精子の構造 精子は、頭や頚、尾から構成されています。頭には濃 縮した核があります。尾は1本の強力な特殊化した鞭毛 べんもう で、精子の移動をおこないます。 図15-10 精子の構造を模式的に示す ◆射精 精子は、精管や射精管、尿道などを経由し、精嚢と前 立腺、尿道球腺などの分泌物とともに体の外に射 出され しゃしゅつ ますが、この現象が射精です。射精が起こっている間は、 しゃせい 精管の壁の平滑筋が収縮し、精子が尿道に向かって移動 するのを助けています。 1回の射精の量は、通常、2.5mL ~3.0mL ぐらいで す。精液には、健康なヒトでは約3億個の精子が含まれ ます。精子の数が1mL あたり2千万個以下では、 不妊になるといわれています。 ふ に ん もし、射精が起こらなければ、貯蔵されている精子は 精路で吸収されます。
2.陰嚢
陰嚢scrotum は、精巣を健康な精子の形成に必要な いんのう 温度(通常の体温よりも約3度低い)に維持するために欠かせないものです。 陰嚢は、濃く色素沈着をおこした皮膚で被われた袋状 のもので、鼡径部からぶら下がっています(図15-1)。内そ け い ぶ 部の陰嚢腔は腹腔の続きで、内表面は腹膜で被われてい ます。陰嚢の外表面の正中上には盛上がった組織である 陰嚢縫線が観察できます。陰嚢の内部にある陰嚢中隔よほうせん って左右の二つの部屋に分けられます。各部屋には一個 の精巣が入ります。 陰嚢の皮膚は、やや黒ぽっく、薄く、皺がみられ、メ しわ ラニン色素と汗腺に富みます。この皮膚には皮下脂肪が 見られず、真皮の深層に平滑筋の層が膜状になって存在 します(肉様膜)。 精巣は、通常、出生前に鼡径管を通り、陰嚢へと下降そ け い か ん します。その際に、精管や血管、神経なども引張られて ついていきます。これらは精巣挙筋や 鞘 膜に包まれ、 しようまく 精索を形成します。 せいさく 肉様膜と精巣挙筋は精巣を一定の温度に維持する上で にくようまく 重要な役割があります。寒ければ収縮し陰嚢を体幹に近 づけ、暑ければ伸び体幹から遠ざけます。 陰嚢は、大腿動脈から分枝した外陰部動脈や、内陰部 動脈から分枝した後陰嚢枝、下腹壁動脈から分枝した精 巣挙筋動脈などから血液が供給されます。 陰嚢の皮膚のリンパは、通常、浅鼡径リンパ節に流れ ます。 陰嚢に分布する神経は、腸骨鼡径神経や、陰部大腿神 経の陰部枝、会陰神経の後陰嚢神経、後大腿皮神経の会 え いん 陰枝などからの分枝です。
3.精子が通る精路
曲精細管からの精子は精巣網を通り、精巣からの出口 である細い精巣輸出管に入ります。これらの管は精巣上 体にある太い管につながります。 図15-11 精巣上体と精管を模式的に示す ①精巣上体 精巣 上 体epididymis は、精巣の後外側面に存在し せいそうじようたい ます。精巣上体は細長い形のもので、頭と体、尾から構 成されます。 精巣上体頭のなかで精巣の細い管は精巣上体管につな がります。 精巣上体管は、非常に長く6m を越えますが、良く 曲がり、わずか3.8cm ぐらいの長さの場所に収まって います。精巣上体管の管壁には偽重層(多列)円柱上皮や 平滑筋が見られます。 精巣上体尾からの出口では精管につながります。 精巣上体と精管の始めの部位とで精子を貯えています。 さらに、精巣上体は精子の成熟に貢献します。曲精細管 から取り出した精子は動きが悪く、受精する能力はあり ません。しかし、精巣上体で約20日間止まっているうち に、精子は成熟し動けるようになります。 ②精管 精管ductus deferens は、陰嚢から鼡径管を通り、骨 せいかん 盤腔に向かう細い管で、直径が約4mm で、長さが約 40cm のものです。骨盤腔に入った精管は膀胱の側面か ら後面にまわります。 精管の壁は、内表面を被う粘膜と、中間の厚い筋層、 外表面を被う疎性結合組織でつくられた外膜などで構成 されています(図15-12)。粘膜上皮の大部分は線毛がな い円柱上皮ですが、近位の停止部の近くでは偽重層円柱 上皮となり、そのなかの背が高い細胞は不動毛を持って います。粘膜固有層には、弾性線維が存在します。 図15-12 精管の横断図を模式的に示す 図15-13 射精管と精嚢とを模式的に示す 精管には、多数の自律神経が分布していますが、大部 分のものは骨盤神経叢由来の交感神経です。 精管のなかでは、精子は数カ月間受精する能力を維持 できます。 ③射精管と尿道 精管と精嚢からの管が合流して射精管となります。射 せいのう しゃせいかん 精管は、短く、前立腺を貫通して、尿道の前立腺部に開 口します(図15-14)。 男性の尿道は、尿と精液とを運び、陰茎を通過してこ れらを体の外に出します。4.精液をつくる付属腺
精液は、粘着性のある乳白色の液で、精嚢や前立腺、 尿道球腺などからの分泌物でつくられ、このなかに精子 が浮かんでいます。これらの腺は、絶え間なく少量の分 泌物を分泌し、性的刺激で多量に分泌します。 ①精嚢 1対の精嚢せいのうseminal gland は、精管に注ぎ、長さが約5cm の嚢状の腺組織です。この腺の分泌物は、粘着 性があり、アルカリ性で、やや黄色を示し、精液の約60 %を占めます。この分泌物には、精子のエネルギーとな る栄養素やフルクトース(果糖)、ビタミンC などが含 まれます。プロスタグランジンも存在しますが、これは 子宮や卵管に逆の蠕動を生じさせ、卵子に向かう精子のぜんどう 動きを助けます。 精嚢には、下膀胱動脈と中直腸動脈とから分枝した動 脈が分布し、骨盤神経叢からの神経が分布します。 ②前立腺 前立腺prostate は、1個で、底部の幅は約4 cm で、 ぜんりつせん 膀胱から出た直後の尿道を取り囲むように存在します。 前立腺の分泌物は、精液の約20%を占めます。この液 も粘着性があり、乳白色で弱酸性(約pH6.5)を示し、 クエン酸や各種の分解酵素などを含み、精子の活動を助 けます。 前立腺には、下膀胱動脈や内陰部動脈、中直腸動脈な どから分枝した動脈が分布します。前立腺には、下下腹 神経叢由来の神経が多数分布します。 高齢者で見られる前立腺肥大や前立腺癌が発生すると、がん 前立腺が大きくなり、尿道を圧迫して、尿の出が悪くな ります。 図15-14前立腺を通過する尿道の内部を示す ③尿道球腺 尿 道 球 腺bulbo-urethral gland は、左右に1個ず にようどうきゆうせん つあって、エンドウ豆によく似た形と大きさ(直径が約 1cm)で、会陰膜の上で尿道隔膜部の外側に存在しま え いんまく す(図15-11)。 表15-1 精液に含まれる組成 精子(平均1億個/mL)、pH 7.35~7.50、比重は1.028 精巣・精巣上体に由来する液体成分(微量) 前立腺(15~30%) スペルミン、クエン酸、コレステ ロール、リン脂質、プラスミン、 亜鉛、酸性フォスファターゼ 精嚢(40~80%) フルクトース(1.5~6.5mg/mL)、コ リンリン酸、エルゴチオネイン、 アスコルビン酸、フラビン、プロ スタグランジン 緩衝物質 リン酸、炭酸水素塩、ヒアルロニ ダーゼ 図15-15 矢状断で陰茎の構造を模式的に示す 図15-16 横断図で陰茎の構造を模式的に示す 尿道球腺の導管(長さは約3cm)は、会陰膜から約2. 5cm 下方にある尿道の床に開口し、尿道に分泌物を出 します。 性的興奮時に、尿道球腺は数滴のアルカリ性の透明な 液を射精の前に分泌し、酸性の尿道を中和するとともに、 陰茎の表面をなめらかにします。
5.陰茎
陰茎penis は、性的交接(性行為)によって精子を女性 いんけい の生殖器に運ぶ勃起性の交接器です。ぼ っ き せ い 陰茎の先端は拡張し、亀頭と呼ばれます。陰茎の皮膚き と う のなかで、あまり皮膚に密着していない部分は包皮と呼ほう ひ ばれるヒダを形成し、亀頭の近位部を被い、折れまがっ ています。亀頭には多数の感覚神経線維が分布するため、 陰茎では最も敏感な部位で、特に亀頭冠や包皮小 帯は鋭 しょうたい 敏です。 陰茎の深層には3本の円柱の勃起組織があります。そ のうちの1対は陰茎海綿体で、この腹側には尿道海綿体かいめんたい があります。これらの海綿体は、血液を貯め、膨脹する ことのできる大きな静脈洞から構成されます。 動脈血は、内陰部動脈の分枝である陰茎背動脈や陰茎 はい 深動脈、尿道球動脈などによって供給されます。また、 しん 静脈血は、いくつかの静脈によって内陰部静脈や内腸骨 静脈に注ぎます。 ◆陰茎の勃起 陰茎の勃起は、仙髄由来の副交感神経(骨盤内臓神経) からの刺激によって始まります。つまり、陰茎に関係し た骨格筋(球海綿体筋や坐骨海綿体筋など)(陰部神経の分 い ん ぶ 枝が支配)の収縮や陰茎の小動脈(内陰部動脈の分枝)の拡 な い い ん ぶ 張によって開始します。続いて、陰茎の勃起組織(陰茎海 綿体や尿道海綿体)が血液で満たされ、静脈が圧迫され血 液の流出を阻害し、陰茎を膨脹させ、硬くします。通常、 射精が終了すると、性的興奮が起こらない、つまり勃起 が起こらない不応期(約2時間)が存在します。これらの 一連の活動は、仙髄から始まる骨盤内臓神経や陰部神経 によって調節されています。 図15-17 男性の勃起に関係する神経を模式的に示す 図15-18 男性の勃起に関係する骨格筋を模式的に示す図15-19 陰茎での勃起のメカニズムを模式的に示す
6.男性の生殖器の老化
男性の精巣での男性ホルモンと精子との形成は、20歳 代の前半から段々と衰え始めますが、通常のヒトでは長 く精子を形成する能力を維持できます。少数の人(10%未 満)では高齢者になっても精子の形成能力を維持し、80歳 頃までも維持できます。 加齢にともなって前立腺と精嚢の分泌量が減少し、粘 着性も低下します。 また、男性ホルモンの減少にともなって約60%の高齢 者の男性では前立腺の肥大がおこります。前立腺が肥大 すると、尿道が圧迫され、尿の出が悪くなります。 表15-2 男性の生殖器に分布する神経と働き 起 始 経 由 分 布 働 き 尿道球腺 分泌(尿道の潤滑) 交感神経 Th11~L2 下下腹神経叢 精管・精嚢 収縮(精液の尿道前立腺部 ・前立腺 への射出) 内尿道括約筋 収縮(精液の逆流の防止) 副交感神経 S2~S4 骨盤内臓神経 尿道海綿体・ 血管拡張(勃起) 陰茎海綿体 体制運動神経 S2~S4 陰部神経 球海綿体筋・ 収縮(射精) 坐骨海綿体筋第2節
女性生殖器
図15-20 女性の生殖器を模式的に示す1.卵子とホルモンをつくる卵巣
1対の卵巣ovary は、卵子と女性ホルモン(エストロ らんそう ゲンestrogen、プロゲステロン progesterone)を産生し ます。 卵巣は、骨盤の外側壁近くに存在し、何本かの線維性 結合組織の靭帯によって一定の位置に固定されています。 卵巣の前面は、卵巣間膜と呼ばれる腹膜のヒダによって 子宮広膜間に付着します。 図15-21 卵巣と子宮との関係を模式的に示す 血管や神経が、卵巣間膜を通って卵巣門に出入りしま す。固有卵巣索は、卵巣の内側端を子宮に固定します。さく 卵巣提索は卵巣を骨盤壁に固定します。 卵巣は、1層の上皮組織(卵巣中皮:微絨毛を有する立 方上皮)によって外表面が被われています。この上皮組織 の直下には、白膜と呼ばれる結合組織があります。白膜 は卵巣皮質の外側部にあたり、残りの皮質は細胞を数多 く含んだ結合組織から構成されます。この部位を卵巣支 質といい、種々の成熟段階の卵細胞が見られます。 思春期頃になると、いくつかの一次卵胞が、腺下垂体 から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の働きにより さらに成熟し、卵胞液を含む卵胞洞を有する二次卵胞と なります。 図15-22 排卵可能な女性での卵巣の内部構造を示す さらに、通常では、26日~30日間隔で一個の割合で、 二次卵胞から完全に成熟した直径が2.5cm ほどの成熟 卵胞(グラーフ卵胞)が形成されます。二次卵胞や成熟卵 胞に存在する卵胞膜細胞と卵胞細胞とで、エストロゲン を合成・分泌し、子宮粘膜の増殖を促進します。 月経周期の中頃に、腺下垂体から分泌される黄体形成 ホルモン(LH)の急激な増加により、通常は単一の成熟 卵胞が破裂し、二次卵母細胞が卵巣壁から腹膜腔内に放 出されます。この現象が排卵です。はいらん 通常、排卵された二次卵母細胞は直ちに卵管に吸い込 まれます。排卵した二次卵母細胞は、通常、精子と十数 時間以内に受精できなければ、まもなく死滅します。 排卵後の成熟卵胞では、黄体の形成が始まります。黄体からはプロゲステロンとエストロゲンとが分泌されま す。プロゲステロンは、新しい成熟卵胞の発育と排卵を 抑制する働きがあります。もし、妊娠すれば、黄体はさ らに大きくなり、妊娠3カ月ぐらいまでプロゲステロン を分泌し続けます。 図15-23 卵巣のホルモンを調節する機構を示す 図15-24 年齢による卵巣での生殖細胞数の変化を示す 二次卵母細胞が受精できないときには、黄体は変性し、 新しい月経周期が始まります。変性した黄体では、線維 性の組織塊が形成され、白体となります。その後、白体 は、大食細胞によって貪 食され、徐々に小さくなります。どんしょく 45歳ぐらいから卵巣内における卵胞の成熟が段々と少 なくなり、月経の回数が徐々に減少し、ついには停止し ます。この時期を更年期と呼び、最後の月経以後を閉経こ う ね ん き 期といいます。 卵巣の最内側部は、卵巣髄質といい、多数の血管やリ ンパ管、神経などを含んだ疎性結合組織で構成されてい ます。 卵巣には、腹大動脈から枝分かれする卵巣動脈が分布 します。卵巣の静脈血は、卵巣静脈によって運び出され ます。右卵巣静脈は下大静脈に注ぎますが、左卵巣静脈 は左腎静脈に合流します。 リンパは、外側大動脈リンパ節と大動脈前リンパ節と に流れる経路などがあります。 卵巣には、仙髄からの骨盤内臓神経(副交感神経)と腰 髄からの交感神経とが分布します。 図15-25 卵子の成熟過程を模式的に示す ◆卵子の形成 卵子は卵巣で形成されます。卵巣の卵祖細胞は、精祖らん そ さいぼう 細胞と異なり、出生以前にすでに数十万個観察でき、出 生以後に新しく形成されるものはありません。 胎生期に卵祖細胞は大きさが増加し、出生までに第一 減数分裂の前期で停止した状態の一次卵母細胞(70万~ 200万個)になります。幼年期の間、この状態が続きます。 その間に、大部分の卵子は閉鎖卵胞となり、思春期の初 めには、約40万個の一次卵母細胞が存在するだけです。 思春期の初期(12~13歳頃)になれば、腺下垂体から分 泌される卵胞刺激ホルモンの働きにより毎月2個~3個 の卵胞が発育するようになります。卵胞が成熟するに従 って、一次卵母細胞は第一減数分裂を完成し、2個の細 胞を生じます。2個の細胞は大きさが不均衡で、小さい 細胞は一次 極 体と呼ばれ、大きな細胞は二次卵母細胞ときよくたい いいます。その後、二次卵母細胞は成長を続けますが、 第二減数分裂は受精まで完了しません。一次極体は、そ の後分裂して2個の細胞になります。
2.卵子が通過する卵管
排卵時、成熟した卵子は腹腔に放出されますので、卵 らん 管uterine tube の腹腔口は卵子を直ぐに取り込める位 かん 図15-26 卵管の構造を模式的に示す 置にあります。卵管の長さは約12cm で、その自由端は 卵管漏斗と呼ばれます。卵管漏斗の先端には長い指のよろ う と うな突出物である卵管采があります。 さい 卵管の内表面は線毛を有する粘膜で被われ、縱走する 卵管ヒダが内表面に見られます。粘膜上皮は単層円柱上 皮で、背の高い線毛を持った円柱細胞と、線毛が無く微 絨毛を有する分泌細胞とが存在します。粘膜の深層には 2層の平滑筋の層(輪筋層、縦筋層)があります。外層は 漿膜です。 卵管は、卵巣動脈と子宮動脈から血液が供給されます。 卵管にも交感神経と副交感神経とが分布します。卵管 の外側半分の領域には迷走神経由来の副交感神経が分布 し、内側半分の領域には骨盤内臓神経由来の副交感神経 が分布します。交感神経は、第十胸髄から第二腰髄由来 の節前神経線維が分布します。卵管の感覚情報は、交感 神経を通じて伝わります。卵管に入った卵子は、卵管漏斗や卵管膨大部、卵管 ぼ う だ い ぶ 峡部、卵管子宮部などを通り、子宮に運ばれます。 きょうぶ 【卵管炎】 卵管炎は、膣から子宮頚や子宮腔を通過しながら子宮内 ちつ 膜炎を起こした淋菌やトラコーマクラミジアなどが卵管 りんきん に入り、炎症を起こしたものです。クラミジアによる卵 管炎では、症状が軽く、治療せずに放置する傾向がある。 さらに人工流産の手術で卵管炎が起こることもある。嫌 気性菌やマイコプラズマも反復性の卵管炎を発症させる。 初回の卵管炎によって約15%のヒトが卵管が閉鎖し不妊 になり、3回以上卵管炎になった場合には約75%が不妊 となる。 【子宮外妊娠】 子宮外妊娠は、子宮以外に受精卵が着床することによる 病気ですが、もっとも頻度が多いのは卵管に着床するこ とです。受精卵の成長により卵管が破裂し、下腹部にお ける激痛と、多量の出血をおこす。診断や治療が遅れる と、多量出血で死亡することがある。
3.子宮
図15-20に示すように、子宮 uterus は、骨盤腔に存在 し、中腔の器官でナシの形をしています。非妊娠の状態 での成人の子宮の大きさは、長さが約7cm で、最も広 い部位での幅は約5cm です。 子宮は、直腸の前方で膀胱の後方に位置し、通常、前 ぜん 傾前屈の状態で存在します。 けいぜんくつ 生殖が可能な時期になれば、子宮は毎月妊娠の準備を します。そして、妊娠が始まれば、子宮は胎児を宿しま す。小さい胚子は子宮の壁に埋まり、自立して生活できはい し るまで止まります。自立が可能になれば、子宮壁は強力 にかつ規則正しく収縮し、胎児を分娩します。妊娠がお こらなければ、子宮の内面の粘膜がはく離し捨て去られ ますが、この過程が月経です。 げっけい 8本の靭帯が骨盤腔に子宮を固定します。子宮広間膜 は二重の臓側腹膜のヒダであり、子宮を骨盤壁に付着さ せます。子宮動脈・静脈や神経は、この靭帯の間を通り ます。恥骨頚靱帯や基靱帯、直腸子宮靱帯は、子宮を仙 き じんたい 骨や直腸、膀胱などに固定します。また、子宮円索は、 えんさく 卵管が入る部位よりも少し下の子宮から始まり、鼡径管 図15-27 骨盤に子宮を固定する靭帯を模式的に示す 図15-28 矢状断で骨盤に子宮を固定する靭帯を示す を通過し、大陰唇まで伸びています。 だいいんしん 子宮の主要な部位は子宮体です。卵管の入口よりも上 方で丸い部位を子宮底といいます。下部は子宮頚と呼び ます。子宮頚の一部は腟に突出し、この部位を腟部といち つ ぶ います。子宮体の空洞は子宮腔と呼び、子宮頚の狭い空 洞を子宮頚管といいます。子宮体と子宮頚管との結合部 けいかん は内子宮口で、子宮頚管の下端は狭くなり、外子宮口と 呼びます。子宮頚管は、流産の防止に貢献します。 正常な子宮では、子宮体と子宮頚との間に屈折が見ら れ、子宮体は腟に対してほぼ直角の位置にあります。子 宮体は、膀胱の上面に存在し、前方かつ少し上方に向い ています(図12-27)。 子宮体と子宮頚の壁は3層から構成され、子宮内膜、 筋層、漿膜です。漿膜は腹膜の一部で、疎性結合組織の 支持層と中皮細胞とから構成されます。外側では漿膜は 子宮広間膜と続き、前方では反転して膀胱の上を被いま す。後方では同じく反転して直腸を被うが、この際に直 腸子宮窩(ダグラス窩)をつくります。起立位では、直腸 子宮窩の凹みが骨盤腔で一番低い場所となります。 図15-29 冠状断で子宮と膣の構造を示す 図15-30 非妊娠の成人女性での子宮体の横断図 子宮の壁の中間の層は厚い筋層で、区分が明瞭でない 3層の平滑筋から構成されています。平滑筋線維は結合 組織の間にいくぶんか散在し、各層の平滑筋線維は異な る方向に走行します。内側層と外側層との平滑筋は子宮 の長軸に平行に配列し、両者の間に存在する最も厚い中 間層のものは輪状あるいはラセン状に存在します。 子宮の最内側の層は粘膜で、子宮内膜と呼びます。内 膜の薄い深層は基底層といわれ、筋層とつながっていま す。子宮内膜の厚い表層は、機能層と呼ばれます。機能 層は、単層円柱上皮で構成されています。機能層には、 深層に向かって伸びる子宮腺(単一管状腺)があります。 子宮腺は、分泌期に、糖タンパク質やグリコーゲンな どを離出分泌によって分泌します。 卵巣は毎月新しい卵子を形成しますが、子宮内膜も周 期性を示します。毎月、子宮内膜は卵巣からのエストロ ゲンやプロゲステロンに反応して妊娠の準備をします。 そのために、子宮粘膜の機能層は厚くなり、血管に富み、 分泌が盛んになります。もし、妊娠が起こらなければ、 機能層は月経期に剥離します。月経の周期は、通常、健康な女性では、26日~30日間隔で規則正しく起こります。 図15-31 性周期による子宮内膜の変化を模式的に示す 図15-32 ラセン動脈と子宮腺 子宮には、内腸骨動脈から枝分かれした子宮動脈が分 布します。子宮の静脈は、動脈に伴行する子宮静脈です。 子宮に分布している神経は、仙髄から始まる副交感神 経と腰髄から始まる交感神経です。 ◆出産 40週間におよぶ妊娠期間が終わりに近づくと、陣痛が始 じんつう まり、胎児を出産、その後、胎盤が娩出されて終わります。 陣痛が起こっている間は、子宮底や子宮体の平滑筋が間 欠的に収縮し、子宮頚はゆるみ拡大します。陣痛が進むに つれて、子宮の収縮が強まり、回数が増加します。 子宮頚が十分に拡張し子宮が強く収縮する間に、妊婦が 息をこらえ力むと、胎児の出産を助けることができます。 【子宮内膜症】 子宮内膜症は、子宮内膜が子宮以外の部位で発育し、激 しい生理痛や、多量の出血を伴う月経困難、不妊、性行 為時の痛みなどを引き起こす。発育する部位は、骨盤腔 が多い。 図15-33 産道を通過中の胎児を模式的に描く 【子宮頚癌】 女性が罹る癌の中で、乳癌のつぎに多いのが子宮頚癌でがん す。子宮頚癌の一番の原因は、性的接触で感染するヒト パピローマウイルスです。多くの男性が持っているウイ ルスで、性的交渉が始まれば、多くのヒトが感染する可 能性がある(50%近く)。感染しても多くの場合、免疫力 によって治り、一部のヒトで前癌状態になる。さらに、 その一部で癌に進行する。欧米では、性的交渉が始まる 前の女性にヒトパピローマウイルスに対するワクチンの 接種が推奨されている。
4.腟
腟vagina の働きは、性行為時に陰茎を受け入れ、月 ちつ 経時には剥離した子宮内膜の排泄口となり、また出産時 には産道の下部となります。 腟は、直腸の前方で、膀胱と尿道の後方に存在し、か なり拡張できる弾力性のある筋性の管で、約45度の傾き で上後方に向き、前壁の長さは約7.5cm、後壁は約9 cm です。 腟は、子宮頚から腟前庭の腟口まで伸びています。ちつこう 腟は子宮頚の下端を取り囲み、腟壁と子宮頚との間の 陥凹部を腟円蓋と呼びます。この後部は前部や側部に比 ちつえんがい べて広くなっています。 腟は、通常、空虚なので、前壁と後壁とは互いに接し ていて、ほとんど隙間はありません。二つの縦走する膣 粘膜ヒダが前壁と後壁にみられ、多数の横走するヒダも 存在します。腟が大きくなる時にはヒダが伸びます。 腟粘膜の上皮は、非角化重層扁平上皮です。 健康なヒトの膣の内部は、子宮からの分泌物でいつも 湿った状態に保たれ、エストロゲンの働きで膣粘膜が肥 厚し、粘膜上皮細胞内に多量のグリコーゲンが蓄積され ています。このグリコーゲンを膣内の常在菌(デーデルラ イン菌、乳酸菌の一種)が分解して乳酸を産生することで、 腟の内部を酸性(pH3.5~4.2)に保ち、膣に侵入する微 生物の増殖を抑えています。 ところが、月経期や更年期、閉経後にエストロゲンの 分泌が低下し、pH の値のバランスが崩れ、有害な細菌 が繁殖しやすくなることがあります。さらに、ビデの使 いすぎや石けんやお湯の過度な洗浄でも、膣内の常在菌 を洗い流したり、pH をアルカリ側に傾くと、細菌性腟 炎やカンジダ膣炎などの感染症に罹りやすくなります。かか 図15-34 矢状断で膣の位置を模式的に示す 膣口の縁と開口部の一部は処女膜と呼ばれる、血管に 富んだ薄い粘膜のヒダで被われています。通常、初めて の性行為によって破裂し、処女膜痕になります。 動脈叢が膣の周囲に存在し、内腸骨動脈の分枝の子宮 動脈や膣動脈からの血液が流れます。筋層のなかには静 脈叢が存在し、静脈は内腸骨静脈に注ぎます。上部のリ ンパは内腸骨リンパ節や外腸骨リンパ節に流れ、中央部 のものは内腸骨リンパ節、膣口に近い部位は浅鼡径リン パ節に流れます。 膣には、仙髄からの副交感神経と腰髄からの交感神経、 陰部神経による体性感覚神経などが分布します。5.女性の外陰部
女性の外陰部には、恥丘、大陰唇、小陰唇、陰核亀頭、 ちきゅう だいいんしん い ん か く き と う腟前庭などがあります。 ちつぜんてい 恥丘mons pubis は、恥骨結合の上を被っている脂肪 組織の高まりで、皮膚が膨れた部位です。思春期以後に は、この部位に粗い陰毛が生えます。恥丘には多数の触いんもう 覚受容器があり、非常に敏感な部位です。 1対の大陰唇labium majus は、男性の陰嚢に相当す るもので、恥丘から腟口の後ろにかけて広がっている皮 膚のヒダです。大陰唇には、脂肪組織や脂腺、アポクリ ン汗腺が多数存在します。通常、左右の大陰唇は正中で 接しており、その下の生殖器を保護します。 思春期以後には、この外側の表皮が色素沈着を示し、 粗い陰毛が生えます。この部位には感覚受容器が豊富に 存在します。 図15-35 図の左側は体の表面から見た外陰部で、 右側は外陰部の深層に存在する骨格筋を示す 図15-36 外陰部の深層に存在する勃起組織と大前庭腺 小陰唇labium minus は、うすい皮膚のヒダで、大陰 唇の深層に存在し、男性の陰茎の海綿体部に相当します。 大陰唇と異なり、小陰唇では、毛や脂肪組織、アポクリ ン汗腺がほとんど無く、脂腺がたくさんあります。 左右の小陰唇が前方で合流し、陰核clitoris となりま す。陰核は、陰茎と同様の勃起組織で構成されており、 内部には一対の小さな陰核海綿体があります。陰核亀頭 glans of clitoris は、血管が豊富な小さな勃起組織で、 男性の陰茎亀頭に相当するものです。陰核亀頭を被う皮 膚は薄く陰核包皮と呼ばれ、多数の神経終末が分布し敏 感な部位です。 左右の小陰唇で囲まれた部位は腟前庭vestibule とい い、前方には外尿道口、後方には腟口がみられます。 男性の尿道球腺に相当する一対の大前庭腺は、腟口の 両側に開口し、性的興奮時に粘液を分泌します。一群の より小さい小前庭腺は、外尿道口の近くに開口し、やは り性的興奮時に粘液を分泌します。これらの腺組織は性 病を発症させる細菌で感染しやすい。 外陰部には、内腸骨動脈から枝分かれした内陰部動脈 と、大腿動脈から分かれた外陰部動脈とが分布します。 静脈は、大きな静脈叢を形成し、内腸骨静脈へと流れ ます。この部位のリンパは、浅鼡径リンパ節に注ぎます。 また、この部位には、陰部神経の分枝が分布します。 図15-37 非妊娠の成人女性の乳房を模式的に示す
6.乳房
母乳の産生は、乳 房にゅうぼうbreast の深層にある乳 腺の働にゅうせん きによります。乳房は、大胸筋の表層に存在し、乳房 提靱帯などで胸筋筋膜に固定されています。 ていじんたい 個々の乳房には、15個~20個の乳腺葉が存在し、乳腺 葉はさらに結合組織によって乳腺小葉に分けられます。 乳腺の腺細胞はブドウの房の様に並び腺房を形成しま す。腺房からの導管は合流し、乳 管となります。各乳腺 にゅうかん 葉からは1本の乳管がでます。これらの乳管は乳頭に個 々に独立して開口しますが、その前に少し拡張します。 この拡張部を乳管洞と呼びます。乳管は、別々に乳頭に 開口するため、開口数は15個~20個もあります。 乳腺葉の周囲にある脂肪組織は、乳房の大きさを決め、 乳房の軟らかさをつくっています。非妊娠期の乳房の大 きさは、母乳の分泌能力に影響をおよぼしません。 乳頭の内部には平滑筋が存在し、この平滑筋が収縮す れば乳頭を勃起させます。 乳頭の周囲には乳 輪が見られますが、ここにはアポクにゅうりん リン汗腺の一種類である乳輪腺が存在します。 妊娠すると、乳輪のメラニン色素の量が増えたり、乳 輪腺が大きくなります。 乳頭とその周囲には触覚受容器が多数存在します。吸 飲などで乳頭が刺激されると、その刺激が視床下部に伝 わり、神経下垂体からオキシトシンの分泌が増加し、母 乳の分泌を増やします(射乳)。 乳房には、腋窩動脈の分枝である外側胸動脈と内胸動 脈・肋間動脈からの分枝などが分布します。 乳房の内側部のリンパは胸骨傍リンパ節に流れ、外側 部のものは腋窩リンパ節に注ぎます(255頁図11-10)。 図15-38 母乳を分泌する乳腺細胞を模式的に示す 母乳に含まれているリパーゼは、トリアシルグリセロー ルから脂肪酸を遊離させ、ミセルの形成によらず、乳児 での脂肪酸の吸収を容易にさせますので、1日に 4㌘から6㌘の脂質を吸収することができます。ただし、 牛乳やミルクなどには、このようなリパーゼは含まれて いません。 図15-39 乳腺の成熟過程を模式的に示す表15-3 100mLの初乳や母乳、牛乳に含まれる成分の比較 成 分 ヒトの初乳 ヒトの母乳 牛 乳 水分(㌘) - 88 88 ラクトース(㌘) 5.3 6.8 5.0 タンパク質(㌘) 2.7 1.2 3.3 カゼインと乳アルブミンとの比率 - 1: 2 3: 1 脂肪(㌘) 2.9 3.8 3.7 ナトリウム(mg) 92 15 58 カリウム(mg) 55 55 138 カルシウム(mg) 31 33 125 鉄(mg) 0.09 0.15 0.1
7.女性の生殖器の老化
女性の生殖器における老化の典型的な変化は閉経です。へいけい 閉経は生理がなくなることで、45歳から55歳の間ぐらい から始まります。閉経は卵巣の機能の生理的な低下を意 味し、卵巣は主に瘢痕組織に変わり、もはや卵子を形成 はんこん せず、エストロゲンを生合成する能力も低下します。さ らに、子宮や卵管、膣、小陰唇、陰核亀頭なども萎縮し 始めます。 閉経によるエストロゲン量の低下は、一時的な体の不 調を引き起こします。たとえば、神経系への影響として は、「いらいらする」、「顔が火照る」、「一時的なめ まい」などの症状を訴えます。 図15-40 排卵から着床までの過程を模式的に示す第3節
ヒトの誕生
ヒトの生命は、母体からの一つの細胞(卵子)と父体か らの一つの細胞(精子)との合体によって始まります 卵子と精子との融合が受精で、通常は、排卵後、 じゅせい 24時間以内に卵管の外側部でおこります(図15-40)。らんかん 卵子と精子が融合すれば、両者の細胞の内容物は混合 され、両親からの遺伝情報をもった単一の細胞となりま す。単一の状態は一時的で、一連の有糸分裂によって、 卵割(分割)がおこり、多数の細胞が生まれます。 らんかつ 最初、これらの細胞は卵管や子宮の中にある液体から 栄養をとります。 卵割で生じた丸い細胞集団の塊を桑実胚と呼びます。 そうじつはい その後、桑実胚の中心部に液に満たされた空洞が形成 され、細胞の分化が始まり、将来の胚子は い しembryo になる 内細胞塊と、表層に一層に並ぶ細胞集団(栄養膜)とに分 かれます。この状態を胚盤胞といいます(図15-43)。はいばんほう 受精後7日目頃に、胚盤胞は、栄養膜の細胞から酵素 を分泌し、子宮壁を溶かし、そのなかに進入し、収容さ れます。胚子が子宮粘膜に入り込む現象を着 床と呼び ちゃくしょう ます(図15-44)。 この時期では、内細胞塊は、隣接する二つの細胞集団 に分化します。一つの細胞群は、胚子を包む細胞になり、 外胚葉ectoderm といい、残りの細胞集団は、胚子の内 がいはいよう 面に並ぶものになり、内胚葉endoderm と呼びます。 ないはいよう その後、内胚葉の細胞集団の中に空間が出現し、 卵黄嚢を形成しますが、卵黄嚢は最終的には胎児の全長 らんおうのう を走行する管(消化管)を形成します。 図15-41 精子と卵子とが受精する過程を模式的に示す 図15-42 卵割で細胞の数が増えることを示す 図15-43 胚盤胞での細胞の分化(左)と着床の開始を示す 図15-44 子宮の粘膜に埋もれた胚盤胞(約7.5日後) 図15-45 胚子の背側面(上)と切断面の構造(下)を示す 外胚葉の細胞の中で内胚葉に隣接した領域では、細胞 数が大きく増加します。この部位は、最終的にはヒトの 外表面を被う細胞集団(外皮系)と、特殊な過程によってが い ひ け い神経系とを形成します。外胚葉の残りの細胞は、液で満 たされた風船のような細胞集団を形成します。この風船 は拡大して胚子全体を包み、第二の内側の膜をつくりま す。この膜は羊膜と呼ばれ、羊膜腔を形成し、羊水を含ようまく ようすい んでいます。この段階では、胚子は2週令~3週令で、 2mm 前後の長さです。 15日目前後に、内胚葉と外胚葉との間に中 胚 葉ちゅうはいよう mesoderm の細胞集団が出現します。 中胚葉は急速にその数と重要性を増し、結合組織や筋 組織、血液、脈 管などを形成します。脊索は、原始的な みゃくかん せきさく 脊柱ですが、中胚葉の細胞集団として発育します。この 段階になれば、胚子の体は、体節と呼ばれる約35個のブ ロックの組織が縦列に並んだものとして観察できます。 これらの体節は、時期的にはそれぞれ独立して発育しま すが、徐々に体節は消失していきます。体節の名残が、 成人となっても椎骨や肋骨として存在します。 胎生の2カ月目になれば、胚子は急速に成長し、最終 的なヒトの形に似てきます。頭側端は拡張し、他の端に は明確な尾を形成します。この尾は数カ月間存続します。 図15-46 33日から51日の胚子の様子を示す 図15-47 羊水の中の胚子を示す(約2カ月) 図15-48 胎盤内部の構造と血液の流れを示す 胚子の両側面には、2対のずんぐりした体肢芽と呼ば れる突出物が出現します。まもなくこの突出部位は長く なり、上肢と下肢になります(図15-46)。 8週の終わりには、胚子はまったくヒトの様子を示し、 大きな頭や良くつくられた顔、指を持った手と足、動い ている心臓、循環器系などが存在します。 しかし、全長は約30mm で胚子は2枚のセロハンの 様な膜(深層の羊膜と表層の絨 毛 膜)で包まれた羊水に浮 じゅうもうまく かんでいます。胚子の腹部は、臍帯umbilical cord と さいたい 呼ばれる紐状の構造物によって、絨毛膜の特殊な部分で ある胎盤たいばんplacenta に付いています。 成熟した胎盤は、直径が15cm ~25cm で、厚さが 3cm ぐらいの円盤で、重さは500㌘~600㌘ぐらいにな ります。 臍帯には、胎児fetus から胎盤へ向かう血液を運ぶ2 たい じ 本の臍動脈(静脈血)と、胎盤から胎児に帰ってくる血液 を運ぶ1本の臍静脈(動脈血)とが存在します。 胎児にとっては、胎盤は肺と腎、消化管が合わさった ものに等しい働きをします。胚子や胎児の血液は、母体 の血液と胎盤で薄い仕切りを隔てて接しますが、通常は 決して混合しません。胎盤では、酸素や二酸化炭素、栄 養素、老廃物などが関門を通過して急速な交換がおこな われます。また、胎盤では、数種類のホルモン(絨毛性ゴ ナドトロピン、プロゲステロン、エストロゲンなど)を産 生します(224頁参照)。 3カ月目には器官の形成がほぼ完了し、それ以後の主 な過程は形の大きさが急激に増加することです。 最初の2カ月~3カ月間を胚子期と呼び、残りの7カ 月~8カ月間を胎児期といいます。 多くの先天性異常は、胚子期における外来的要因(母体 の風疹や薬物の服用など)によっておこります(図15-50)。 3カ月の段階では、胎児の全長は8cm 前後で、体重 も50㌘前後ですが、これ以後は急速に成長します。胎児 が大きくなるにしたがって子宮も増大します(図15-53)。 5カ月目になれば、胎児は骨格筋を使って体肢や体幹 を動かし、母体は体内で胎児の動きを感じます。 妊娠の残りの期間に、胎児は大きくなり、自力で外環 境に対処が可能になります。未熟な状態で出産すれば、 新生児(未熟児)を生存させるためには特殊な養育設備が 必要となります。 図15-49 出産直前の胎盤を模式的に描く A:胎児側から見た胎盤の模式図。胎児側の胎盤は、羊膜と絨毛膜板とで被われています。B:母体側から観察した胎盤の模式図。一部で 基底脱落膜を取り除き、絨毛の表面が観察できる。 図15-50 成長段階を模式的に示す 図15-51 出産近くの子宮の大きさを示す 図15-52 出産近くの胎児を模式的に示す 図15-53 妊娠の週齢(数字)における子宮の拡大を示す ◆出産 10カ月の終りに、出 産という一連の過程が始ります。しゅっさん 胎児を保護していた子宮は、その役割を変え、子宮の壁 にある平滑筋の収縮で胎児を母体の外に放出します(図 15-54)。 出産(分娩)は、胎児にとっては重大な出来事です。 新生児の肺では、成人と同じ機能となり、呼吸活動を 開始します。循環器系においても重要な変化が生じて、
多くの血液が肺を通過し、もはや臍帯には血液が流れな さいたい くなります。腎臓もその機能を開始し、新生児は空腹に なり食事を与えなければなりません。 図15-54 出産の過程を模式的に示す aは分娩の始まりで胎児の頭が骨産道(骨盤腔)に入っていることを 示す。bは胎児の頭が産道(膣)を通過中を示す。cは膣から飛び出 した胎児の頭を示す。dは、胎児の頭が完全に外に出て、肩が骨産 道を通過中を示す。eは、胎児が出産後も、胎盤が子宮に残って いることを示す。fは、胎盤を取り出したが、子宮がまだ拡張した 状態を示す。