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博 士 ( 文 学 ) 人 見 泰 弘

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 人 見 泰 弘

学 位 論 文 題 名

滞日ビルマ系難民の移住過程に関する国際社会学的研究 学位論文内容の要旨

  本 論 文 は 、1990年 頃 から 来 日 し始 め たピ ル マ 系難 民 が、 い か にし て 日本 社 会 に定 住 し て い っ た の か と い う問 い に 対し 、 国際 社 会 学の 視 角か ら 答 える こ とを 目 指 した も の であ る 。

  ビ ルマ は 、 第2次世 界 大戦 後 に 独立 を 果 たし た もの の 、  1962年 軍事 政 権によ って支 配 さ れ る よ う に な り 、今 日 に おい て もそ の 支 配は 続 いて い る 。そ の 後1988年 に は 学生 を 中 心 と し た 民 主 化 運動 が 発 生し 、 軍事 政 権 の打 倒 を目 指 し て活 動 し始 め た 。し か し 軍 事 政 権 は 民 主 化 運 動を 弾 圧 し政 権 維持 を も くろ ん だ。 民 主 化運 動 に参 加 し た人 々 は こ の 弾 圧 か ら 逃 れ る ため に 、 隣国 タ イだ け で はな く 周囲 の ア ジア 諸 国へ と 出 国し て い っ た 。 こ の 国 外 逃 避 した 人 々 の一 部 が、1990年 代 初頭 よ り日 本 に 難民 と して 移 住 し始 めた の であ る 。

  主 に 関 東 圏 に 集 住し て い るビ ル マ系 難 民 は、1990年 代初 頭 か ら2000年 代 終わ り ま で の お よ そ20年 間 に 、ど の よ うな 過 程で 日 本 社会 へ と移 住 し てい っ た のだ ろ うか 。 本 論 文は こ の問 い を 、ビ ル マ系 難 民 が(1)  いか に 市民 権 を 享受 し てい っ た のか(法 制度 的局 面 )、 (2)  い か に移 民 労 働市 場 で 雇用 を 獲得 し て いっ た のか ( 経 済的局面 )、

(3)い か にエ ス ニ ック ・ アイ デ ン ティ テ ィを 維 持 しよ う と して い るの か (社会 文化的 局面 ) 、  (4)  移 民組織を 介してい かなる越境 的な活動 を行って きたのか (トラン ス ナ シ ョ ナ ル な 局 面 ) に分 け て 考察 し 、ビ ル マ 系難 民 の移 住 過 程を 多 角的 に 描 き出 し て しヽ る 。

  本 論 文 は 、 前 半 で国 際 移 民の 受 け入 れ 国 への 移 住過 程 に 関す る 理 論的 な 検討 を 行 い 後 半 で 滞 日 ビ ル マ 系 難 民 の 移 住 過 程 の 実 証 研 究 を 行 っ て い る 。 実 証 研 究 の デ ー タ は 2000年 代 半 ば か ら 関 東 地 方で 実 施し て き たフ イ ー ルド ワ ーク で 得 られ た もの で あ る。

こ の デ ー タ に は 滞 日 ビル マ 系 難民 に 対す る 聞 き取 り 調査 デ ー タや 、 都内 の イ ベン ト へ の 参 与 観 察 デ ー タ に 加 え 、 難 民 支 援NGOや 外 務 省 関連 団 体 、宗 教 施 設な ど への 聞 き 取 り調 査 デー タ が 含ま れ る。

  ま ず 第1章 で は 、 ビ ル マ 系 難 民 の 移 住 過 程 の 背 景が 把 握 され た 後 、難 民 庇護 は 国 際 移 民 に 関 す る 社 会 統 合問 題 の ひと っ であ る と 理論 的 に問 題 設 定さ れ てい る 。 続い て ビ ル マ 系 が 難 民 と し て 日本 社 会 に編 入 して い く 過程 を 捉え る た めの 理 論と し て 、編 入 様 式論 が 採用 さ れ る。

  第2章 で は 、 ビ ル マ 系 難 民 の 移 住 過 程 を 捉 え る とい う 観 点か ら 編 入様 式 論の 限 界 と 可能 性 が論 じ ら れる 。 編入 様 式 論に . 基 づく と、送り 出し国か らの離脱 条件、国 際移民 の 属 性 、 受 け 入 れ 国 の構 造 の 相互 作 用が 、 国 際移 民 の移 住 過 程の 様 式を 決 定 する と い

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う 理論的枠組みが得られる。しかし編入様式論は、国際移民の経済的局面における定 住 を論じた社会統合モデルである。そこでビルマ系難民の移住過程を捉えるには、編 入 様式論を他局面にも拡張する必要がある。すなわち、市民権の享受を規定する難民 庇 護政策に関する法制度的局面、移民労働市場における雇用の獲得に関する経済的局 面 、エスニック・アイデンティティの変容に関する社会文化的局面、組織レベルの越 境 的な移住戦略に関するトランスナショナルな局面に編入様式論を拡張することで、

ビ ル マ 系 難 民 の 移 住 過 程 が 総 体 的 に 把 握 で き る よ う に た る と 主 張 さ れ る 。    第 3 章では 、ビルマ系 難民定住の 法制度的局面として、難民政策の構造的特徴と市 民 権の享受過程の緊張関係が論じられる。ビルマ系難民はどのようにして市民権を享 受 しているのか。この問いに答えるために、重層的市民権論の視角が採用される。重 層 的市民権論とは、国民国家が市民権をカテゴリー化することで、国内に重層的な境 界 管理構造を 構築したと する理論的 視角である 。そして、 ビルマ系難民や難民支援 NGO に対する 難民申請の 経緯に関す る聞き取り調査が実施される。その結果、国家は 国 際人権規範の浸透を規制するために、難民に市民権を段階づけた上で供与していた そ の結果、難民として定住しようとしていたビルマ系難民は、安定した在留資格を獲 得 できる見込みを持てないため、移住戦略を修正せざるを得ない事態に直面している ことがわかった。

   第 4 章では 、難民定住 の経済的局 面を検討するため難民の労働市場の形成が論じら れ る。理論的な視角は、ある移民集団がある特定の産業セクターに集中的に雇用先を 見 いだすというエスニック・ニッチ論である。来日後の初職から現職に至るまでの雇 用 先と入職経路に関する聞き取り調査が実施され、その分析が行われたところ、ビル マ 系難民特有のエスニック・ニッチが形成されていることがわかった。すなわち雇用 主 が難民たちの日本語能カの不十分さゆえに雇用を積極的に行わない中、ビルマ系難 民の多くは政治組織や宗教組織を結節点とした社会的ネットワークを活用することで、

都 心 部 の 「 飲 食 業 」 に ニ ッ チ を 形 成 し て い っ た こ と が 確 認 さ れ る 。    第 5 章では 、難民定住 の社会文化 的局面を見るためにエスニック・アイデンティテ イ が論じられる。エスニック・アイデンティティを維持するための主要な手段は宗教 信 仰の継続で ある。そこ で、ビルマ 系難民1 世と日本 で成長する 2 世との間の宗教信 仰 継承に焦点 が当てられ る。ビルマ系難民の宗教活動と難民2 世への信仰継承や改宗 へ の態度に関する聞き取り調査が行われ、構築主義的同化論の理論的視角からその分 析 が 行わ れ る 。そ の 結果 、 難民 1 世の 懸 念は 、日本 で成長する 難民2 世の「ビル マ 系 」としてのアイデンティティが侵食され「日本人化」してしまうことだとわかった そ こで、難民たちはビルマ系としてのエスニック境界を維持するための手段として、

子 どもへの信仰継承をすすめていくのである。ところが、難民たちの信仰する宗教は ビ ルマ系の内部でさえ複数存在する。その結果、同化先も複数に分節化し、いくっか のアイデンティティが並存していくことになる。

   第 6 章では 、難民定住 のトランス ナショナルな局面を検討するため、複数国家をま た ぐ移民組織の越境化戦略が論じられる。滞日ビルマ系難民組織とタイ国境地域の組 織 との間の活動に関して、ビルマ系各組織の活動内容やその目標などに関する聞き取 り 調査とトランスナショナリズム論の視角からの分析がなされる。その結果、ビルマ 系 政治組織は日本とタイ国境地域との間で情報やモノのやり取りを行うことを通じて

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それぞれの地域の「ビルマ国民」に対して便益を提供するトランスナショナルな特徴 を持っことが見いだされる。そして、トランスナショナルに活動することによって、

軍事政権下にある本国からの援助を期待できないビルマ系難民の定住を支えているの である。

   以上 の考察を踏 まえて第 7 章では、ビルマ系難民の移住過程の特徴がまとめられて いる。ビルマ系難民は、法制度的には細分化された市民権しか与えられないことによ って、経済的には限られたエスニック.ニッチにしか雇用を見いだせないことによっ て、社会文化的には信仰する宗教別に分断されたエスニック・アイデンティティしか 持てないことによって、トランス.ナショナルな組織という観点では本国ではなく国境 横断的な活動を行う組織に依存することによって、エスニック・マイノリティとして 日本社会に定住していったと論じられている。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

滞日ビルマ系難民の移住過程に関する国際社会学的研究

  海 外 で は 難 民 庇 護 に 関 し て 多 く の 研 究 が な さ れ る 中 、 日 本 に 滞 在 す る 難 民 の 研 究 は 必 ず し も 多 く な い 。 ま た 、 日 本 に お け る 難 民 に 関 す る 既 存 研 究 の ほ と ん ど が べ ト ナ ム 系 な ど イ ン ド シ ナ 難 民 に つ い て の も の で あ る 。 し か し 一 方 で 、 ピ ル マ な ど 他 国 ・ 他 地 域 か ら の 難 民 が 急 増 し て い る と い う 現 実 が あ る 。 そ こ で 近 年 急 増 し て い る 日 本 の ピ ル マ 系 難 民 に 関 す る 社 会 学 的 な 研 究 は こ の 10年 ほ ど 望 ま れ て い た も の で あ っ た 。   こ の よ う な 状 況 の 下 、 本 論 文 は 、 接 触 が 必 ず し も 容 易 で は な い ピ ル マ 系 難 民 本 人 た ち に 対 す る 聞 き 取 り 調 査 を 実 施 し 、 そ こ か ら 得 ら れ た 難 民 た ち 自 身 の 言 説 や 難 民 庇 護 に 関 わ る 主 体 た ち の 言 説 を 主 な デ ー タ と し て 用 い て 、 実 証 的 に ピ ル マ 系 難 民 の 定 住 過 程 を 考 察 し て い る 。 さ ら に 定 住 過 程 を 、 法 制 度 、 経 済 、 社 会 文 化 、 ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ リ ズ ム と い っ た 複 数 の 側 面 か ら 総 合 的 に 論 じ て お り 、 こ れ ま で の 難 民 研 究 を 大 き く 発 展 さ せ た 内 容 と な っ て い る 。

  ま た 、 理 論 的 に も こ れ ま で 国 際 移 民 一 般 の 定 住 過 程 を 扱 っ て き た 編 入 様 式 論 を 難 民 の 定 住 過 程 に 応 用 し て い る 点 、 重 層 的 市 民 権 論 、 エ ス ニ ッ ク ・ 二 ッ チ 論 、 構 築 主 義 的 同 化 論 、 ト ラ ン ス ナ シ ョ ナ1」 ズ ム 論 を 駆 使 し つ つ 各 側 面 の 特 徴 を 明 ら か にし て い る点 は 、 既 存 研 究 に は 見 ら れ な い 野 心 的 な 試 み で あ る 。

  特 に 本 論 文 は 、 ピ ル マ 系 の 定 住 過 程 に 関 し て 次 の よ う な 特 徴 を 見 い だ し た と こ ろ に 意 義 が あ る 。 第1に 、 国 際 人 権 規 範 の 浸 透 を 恐 れ る 国 家 に よ る 権 利 の 重 層 化 ・ 細 分 化 の 影 響 を 被 る こ と で 、 移 住 戦 略 を 繰 り 返 し 再 検 討 せ ざ る を え な く な っ て い る と い う 法 制 度 的 特 徴 。 す な わ ち 、 ピ ル マ 系 難 民 が 既 存 研 究 が 示 す イ ン ド シ ナ 難 民 の 安 定 し た 法 的 地 位 と は ま っ た く 異 な る 経 験 を 積 む こ と に な っ て い る と い う 点 。 第2に 、 工 ス ニ ッ ク ・ コ ミ ュ ニ テ イ だ け で は な く 本 国 の 民 主 化 を 目 指 し た 政 治 組 織 を 結 節 点 と し た 同 じ ピ ル マ 系 と の ネ ッ ト ワ ー ク を 活 用 す る こ と に よ っ て 飲 食 業 に エ ス ニ ッ ク ・ 二 ッ チ を 形 成 し て い る と い う 労 働 市 場 的 特 徴 。 す な わ ち 、 政 治 組 織 が そ の 機 能 を 超 え て 経 済 的 便 益 ま で 与 え て い る と い う 点 。(3)「 日 本 人 化 」 を 恐 れ ェ ス ニ ッ ク ・ ア イ デン テ イ テイ を 維 持 す る た め に 二 世 に 宗 教 を 継 承 さ せ よ う と す る も の の 、 ピ ル マ 系 難 民 自 体 が 複 数 の 宗 教 を 信 じ て い る が ゆ え に 「 ビ ル マ 系 」 と い う エ ス ニ ッ ク ・ カ テ ゴ1」 ー が分 節 化 して

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樹 介

英 泰

本 内

樽 宮

授 授

准 教

査 査

主 副

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いるとしゝう社会文化的特徴。すなわち、日本に難民定住することがェスニック・カテ ゴリーを不安定化させてしまうという点。ピルマ系難民の定住過程に関わるこれらの 特徴を提示することで、本論文は、難民に関する研究を一歩先に進めたと言え、当該 研究領域において今後参照されることであろう。このことは、本論文を構成する3 つ の章の元になった論文がすでに査読付き論文として学術雑誌に掲載されていることか らもうかがしゝ知ることができる。

   さらに、本論文の意義は学術的なものだけに留まらない。重層的に市民権の下層に 位置づけられたピルマ系難民は、エスニック・二ッチを形成したり、工スニック・ア イデンティティを確保することでようやく、日本社会に定住することができている。

職と技能のマッチングを助ける制度をっくるといった労働市場的政策やビルマ系自身 のエスニック・コミュニティに対する各宗教を超えた文化的な支援といったことが難 民の定住を促進することであろう。難民受け入れの経験に乏しい日本社会が、いかに 難民の定住を促進したらよいのか。このような問いに示唆を与える社会的・政策的意 義を本論文は合わせ持っている。

   ー方、本論文にはいまだ今後の検討を要する点が含まれていることも事実である。

重層的市民権論とその他の市民権論との関係といった理論的な一貫性にはまだ整理し きれていない部分がある。また、定住過程の各側面の関連付けに関しても、さらたる 検討が必要となる。しかし、これらは本論文の成果を損なうものではないと判断され る。

   以上のことを総合的に評価し、本委員会は、本論文の著者、人見泰弘氏に博士(文 学 )    の 学 位 を 授 与 す る こ と が 妥 当 で あ る と の 結 論 に 達 し た 。

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参照

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