岡山県における家庭科担当者の 福祉教育に対する意識
Home Economics Teacher sConsciousness of Well−being Education in Okayama Prefecture
(1996年3月26日受理)
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
Kiyoko Ohkura Kikue Nakamura Yaeko Kasai Sachiko Asada Takako YurikusaKey word:福祉教育,家庭科教育
1.はじめに
家政学では,家庭生活の究極の目標は,個人・家族の幸福の増進(…attainment of the We11−
being of individuals and families)とされている。高齢化,科学技術の高度化,国際化,情報化,
など家庭生活を取りまく社会の状況は急激に変化してきている。時代の要請として,家庭生活を教 科の中心的な対象としてきた家庭科教育の中にも,福祉教育,生涯教育,環境教育,消費者教育な
どの視点を取り入れてゆく必要がある。1)
現学習指導要領の基本方針にも,社会の変化に自ら対応でき,主体的,創造的に生きる「心豊か でたくましく生きる人間の育成」とあり,その目標達成のためには,福祉教育が基礎的な位置を占 め,大きな役割を果たすことが期待されている。2)家庭科教育においても,高等学校の男女とも全 ての生徒に必修となった家庭科3科目(家庭一般・生活一般・生活技術から一科目選択)には,共 通して,「家族と家庭生活」の内容として「高齢者の生活と福祉」という項目がはいっている。も
とより家庭科は,教科の対象を家庭生活を中心に据えてきた性格上,内容面でも,目途とするもの も,福祉教育とは重なる部分が多い。松島は,福祉(Welfare)のいわば治療的な側面に対し,予 防的な家族の福利や家庭生活の安寧(Well−being)の重要性を強調している。3)
社会福祉の概念は,戦前の慈善・救貧活動から,戦後の憲法25条にもとつく生活保護法により,
国が困窮する全ての国民に対し必要な保護を行い,最低限度の生活を保障し,その自立を助長する ことを目的とするというように変わってきた。しかし,昭和30年代〜40年代の高度経済成長の歪み が出はじめ,さらに,昭和50世代以降経済の急成長下,福祉見直しが強調され,加えて急速な高齢 化の進展とも相まって,いまや社会福祉は国民共通の課題となってきている。4)
「福祉教育」の定義づけについては,統一されたものはないが,ここでは,大橋による「学校教 育における福祉教育」としすすめる。5)昭和52年度に始まった「学童生徒のボランティア活動普及
一57一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
事:業」による研究協力指定校では,主として特別教育活動などでの教育実践が多く,現学習指導要 領にも特別教育活動の内容に「奉仕的行事」や「奉仕的な活動」がはいっている。鈴木によれば,
福祉教育実施校では,教科よりも特別活動での実施が多く,教科教育の中では,高等学校の家庭科 での実施が際立って多い。6)
日本家庭科教育学会中国地区会では,「小・中・高等学校で,生活福祉をどう教えるか」という 大テーマのもとに共同研究を進めることになった。始めるにあたって,「生活福祉」を「人間が人 間らしく生きるための生活のあり方や自立を求めて,その実践のための具体的な生き方を探り生活 の中で実現してゆくこと,例えば,家庭内での家族員同志の相互援助,居住地域における近隣社会 と生活ネットワークのあり方,また国・地方公共団体からの支援等の広範囲な内容の観点からとら える。」との本研究者の共同理解のもとに,進めていった。7)8)9)10)もとより,「福祉教育」は,学 校教育目標の全体構想の中で捉え教育課程の中に位置づけられるべきものである。ここでは,学校 教育の家庭科の中での福祉教育を幅広く「生活福祉」として捉え,その取り組みを深め,発展させ てゆく教材を開発していくために,まず,岡山県における家庭科担当教師に,「家庭科の中での福 祉教育をどうとらえているか。内容はどのようなものと思っているか」さらに,「家庭科の中での 福祉教育の指導の現状について」調査した。「岡山県の小・中・高等学校における指導の現状につ
いて」は,既に報告済みである。 1)本報では,家庭科担当教師の意識を中心に報告する。
2.研 究 方 法
1)調査方法
岡山県内に勤務の小・中・高校の家庭科担当教員229名を対象に,郵送による自記質問紙法で 回答を得た。対象者は,小学校では家庭科専科教師,中学校では家庭科担当教師,高等学校では 「家庭一般」または「生活一般」の担当者で,いずれも各校1名である。調査期間は1994年12,月 7日目ら同12月26日である。有効回収率は,69.0%である。対象者の学校種別・学校所在地・年
齢・担当科目は,図一1・2・3・4・5・6・の通りである。
2)調査内容および研究方法
回答者の生活実態として,教職経験年数・家族形態,高齢者との関わり,子育て・ボランティ ア活動・近隣ネットワークとの関わりについて調査した。さらに,家庭科担当教師の意識を通し て,福祉教育の問題点を探るために,「家庭科の中での福祉教育について」の「意識」および,
その「内容」はどのようにとらえられているのか,17の質問項目について「5強く思う」「4そ う思う」「3どちらともいえない」「2あまり思わない」「1思わない」の5段階尺度で回答を得
た。さらに,各項目に対する意識の程度およびこれらの17項目を変量に因子分析を試み,潜在的 な意識要因を探り,これらの要因と学校種別,福祉教育への取り組み,指導の実態および生活実
態との関わりを考察した。
高等学校
(399為)
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小学校
中学枝
高等学技
r} 20 4r〕 60 鼠〕 100
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困 卜学校 〔沖学校 團高等学校 圃郡部 E猪肺部團虹回答
図一1 勤務校種 図一2 学校所在地
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中学戟 12人 32人
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(303%)
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図一3 回答者の年齢
團家畦利のみ〔コ他教科も 國その他 {コ無回答
図一4 担当科目(小学校)
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60
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櫓継
家庭一般
(柳3勾
家甦生活 食物 披服 f土居 保育
図一5 授業担当領域(中学校)
その他 囮家嘩一般 [コ生活一般 圓家嘩 生活目その他
図一6 担当科目(高等学校)
一59一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
3.結果および考察
1)回答者および回答校の属性
回答者の学校種別については,中学校,高等学校がほぼ同数で,小学校がその半数である。こ れは,小学校においては家庭科の専:科教員が少ないことによるものである。学校所在地は,6割 が都市部であり,4割が郡部であった。担当科目および領域は,小学校では,家庭科のみの担当 者は約半数で,他は家庭科を持ち同時に他教科や担任を持っている。中学校での担当領域では,
「保育」領域が60%と多く「家庭生活」「食物」「被服」領域の担当は50%前後である。高等学校 では93.6%が「家庭一般」を担当し,「生活一般」は9,5こ組ある。回答者の年齢は,小学校では 20代が少なく,中学校では30代が多く,高等学校では各年代が平均していた。 前述の「生活福 祉」および「家庭科の中での福祉教育」についての共同理解に沿って,家庭科担当者への質問項 目を,文献を参考に設定した。表一17)8)9)10)12)
表一1 家庭科の中の福祉教育について 項 目
i5強く思う 4そう思う 3どちらともいえない 2あまり思わない 1思わない)
家庭科の中の福祉教育について考えたことがない。
これからの社会で,家庭科の中で福祉教育は大切である。
福祉教育のはっきりした定義がないので分かりにくい。
全 体 意 識
テーマが大きいので扱いにくい。
現在でも指導内容が多いのでこれ以上は教えられない。
福祉教育は家庭科の中で教えるよりも学校教育全体で取り組むべきである。
人権教育を基に,共に生き,助け合うことの大切さを教える。
家族への思いやりの気持ちを持ち,互いに助け合うことの大切さを教える。
自分の家族だけでなく,地域や社会全体で助け合うことの大切さを教える。
保護を必要とする人の生活を理解させ,思いやりの気持ちを持たせる。
保護を必要とする人の手助けの仕方を教える。
ボランティア活動の意義を理解させ,可能なら活動に参加させる。
自分で身の回りのことが出来るようにすることが福祉教育の基本である。
養育放棄・経済困窮など児童・生徒自身の問題の解決のため,どのような支持・援助活動 ェあるか知り利用できるようにする。
食事や被服など健康で文化的な最:低限度の生活について具体的に考えさせる。
各種社会保障制度など健康で文化的な最低限度の生活を保障するための社会的努力・制度 ノついて教える。
例えば消費者教育のように,家庭科の内容を福祉の視点からとらえて教える。
これらの17項目から潜在的な意識の要因を探るため,17項目を変量にし因子分析を試みた。固 有値および累積寄与率は,表一2の通りである。因子数については,固有値のグラフの傾きを参 考に2から5までで最も適当な解釈が得られた4因子とした。バリマックス回転後の因子負荷量 の0.5以上のものをまとめたものが穴一3である。第1因子に負荷量の多い因子を「社会福祉的 内容」の因子と解釈した。同様に,第2因子を「消極的・否定的」因子,第3因子を「相互協力 的内容」の因子,第4因子を「実践的内容」の因子と解釈した。累積寄与率は,52.2%と低いが,
家庭科の中の福祉教育は,おおむね「漠然として分かりにくく,取り組みにくいが,社会福祉的 な内容と互いに助け合う気持ちを持たせ,具体的で実践的な指導をする」ことととらえていると いえる。
表一2 因子負荷量・固有値・累積寄与率 表一3 家庭科教育の中の福祉教育に対す
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 る意識
@ バリマックス回転後因子負荷量
変量 因 子
演ラ量
変量 因 子
演ラ:量
変量 因 子
演ラ量
変量 因 子
演ラ量 因子 変 量 因子負荷量
12 .783984 2 .795023 10 .782572 16 .797841 食事や被服など健康で文化的な最低限
xの生活について具体的に考えさせる。 。787057 13 .751111 4 .727162 11 .680471 15 .650871
14 .638202 6 .617401 9 .652070 17 .564086
竺
ン1硝 各種社会保障制度など健康で文化的な ナ低限度の生活を保障するための社会 I努力・制度について教える。
.754652 5 .481133 1 .590995 8 .568520 14 .466580
15 .440833 7 一.427186 7 .383294 3 .377207
保護を必要とする人(乳幼児・病人・
w諶メ・障害者など)の生活を理解さ ケ,思いやりの気持ちを持たせる。
.648270 8 .400381 3 .320190 3 .271990 11 .318899
17 .294240 5 .194250 12 .250560 13 .304274
福祉教育のはっきりした定義がないの
ナ分かりにくい。 ,790462 9 .166962 13 .168810 5 一.185255 9 .147125 テーマが大きいので扱いにくい。 .725692 6 .158979 9 .137072 6 .133425 4 .130447
消
諡ノハ子意 識
現在でも指導内容が多いので,これ以
繧ヘ教えられない。 .6!8951 7 一.115340 11 。136513 17 .101471 5 一.108353
家庭科の中の福祉教育について考えた アとがない。
4 .110477 17 .090909 1 .088286 8 ∴098797
.584255
10 .100885 14 ㌦084083 13 .073961 10 一.090202 家族への思いやりの気持ちを持ち,互
「に助け合うことの大切さを教える。 .782133
1 .075494 12 .079086 15 .0593Q5 7 .072613 11 .039031 16 .070121 4 .057931 1 .057994
自分の家族だけでなく,地域や社会全 フで助け合うことを教える。 .680484 耀嘱
3 一,023903 15 .027082 14 .042085 7 .033891 人権を教育に基に,共に生き,助け合
、ことの大切さを教える。 .652377 16 .019150 10 一.O11027 16 .016653 12 一.030244
2 .010253 8 一.010914 2 .013317 2 .014743
自分で身の回りのことが出来るように キることが福祉教育の基である。 .570696
寄 与 率 ボランティア活動の意義を理解させ,
ツ能なら活動に参加させる。 .793553 23.25964 11.75842 9.79638 7.34713
累積寄与率
実
鞫H諶q内 容
保護を必要とする人(乳幼児・病人・
w諶メ・障害者など)への手助けの仕 福 教える。
.641419
2325964 35.01806 44.81444 52.16157 固 有 値
養育放棄・経済困窮など児童・生徒自 gの問題の解決,改善のため,どのよ
、な支持・援助活動があるか知り,利 pできるようにする。
.570235 3.954140 L998931 L砧5385 1.249012
一61一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
0
閥強く思う 國そう思う 図どちらとも園あまり思わ{コ思わない
20 40 60 80 10α瓢
1
3 2
4 6 7
家庭科の中め福祉教育について 考えたことがない.
これからの社会で.家庭科の中で.
福祉教育は大切である。
福祉教育のはっきりした定鑑が.
ないので分かりにくい。
テーマが大きいので扱いにくい。
現在でも八三算内容が多いので、
これ以上は教えられない。
瀦祉教育は家庭科で教えるよりも 学校教育全体で取り組むべきである
(人数)
家庭科の中 これからの 福祉教育の テーマが大 現在でも指 福祉教育は
強く思う 11 58 7 9 5 29
そう思う 35 80 74 65 26 71
どちらとも 44 18 36 45 60 47
あまり思わ 35 0 32 27 50 9
思わない 30 2 8 12 15 1
今一7 家庭科の中の福祉教育に対する意識
次に図一7は,「家庭科の中の福祉教育」についての全体的な意識に関する質問項目である。
帯グラフは%,下の表は人数を示している。これによると,「家庭科の中の福祉教育について考 えたことがない」とするものは全体で29,7%と少なく,「これからの社会で,福祉教育は大切で ある」とするものが87.3%で,福祉教育に対する関心は高いといえる。しかし,「福祉教育のはっ
きりした定義がないので分かりにくい」と思うものが全体の51。6%と多く,「テーマが大きいの で扱いにくい」も46.8%ある。実態調査11)による福祉教育実施に伴う障害として十一8のとお
り「福祉の内容自体が捉えにくい」と答えた者が,小学校では48.5%,中学校で35.5%と多い。
しかし,高等学校では12.7%と有意に低い。これは,高等学校においては前述のように学習指導 要領に明記され,教科書など具体的な教材が示されているためと思われる。また,「現在でも指 導内容が多いので,これ以上は %
80
教えられない」とするものは19,
9%と少ないが,実態調査では,
「取り上げる時間がない」の理由 が,小中高とも50〜60%ある。
また,「福祉教育は家庭科で教 えるよりも学校全体で取り組む べきである」は63.7%と多い。
第2因子に負荷量の大きいこれ らの項目は,福祉教育を進めて
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内容 時間 教材 発達段階 家族 心的要因地域交流校外学習 その他
■小学校 Eヨ中門校 圓高等学校
図一8 福祉教育実施に伴う障害
いく上での問題点を指摘している。つまり,「定義がはっきりせず漠然として分かりにくく,家 庭科教育の中での福祉教育が,よく分からないし,福祉教育は学校全体で取り組むべきである」
と解釈できる。今後,学校全体の福祉教育の中での家庭科教育という視点と共に,家庭生活を学 習対象とする家庭科教育の中での福祉教育についての共同理解を進め,具体的な教材開発を進め ることが急がれる。
続いて,福祉教育の内容についての意識項目を図一9に示す。それによると「人権教育を基に,
共に生き助け合うことの大切さを教えることである」「家族への思いやりの気持ちを持ち,互い に助け合うことの大切さを教える」「自分の家族だけでなく,地域や社会全体で助け合うことを 教える」などの第3因子の「相互協力的内容」に関わる項目が90%を越えて多く,ついで「乳幼 児・病人・高齢者・障害者など保護を必要とする人の生活を理解させ,思いやりの気持ちを持た せる」「これらの人たちへの手助けの仕方を教える」「ボランティア活動の意義を理解させ,可能 なら活動に参加させたい」などの第4因子の具体的な生活援助に関する「実践的内容」に関わる 項目が多い。一方,「自分で身の回りのことが出来るようにすることが福祉の基本である」「養育
9 人搬教育を基に、共に生き
■強く思う 翅そう思う 闘どちらとも園あまり思わ囚思わない
0 20 40 60 80 100露
(人数)
人権教育を 家族への思 自分の家族 保護を必要 保護を必要 自分で身の 養育放棄経 食事や被服 各種社会保 例えば消費
強く思う 61 75 72 38 22 33 21 13 22 19 4
そう思う 86 74 77 102 96 82 6! 60 65 76 75
どちらとも 9 8 9 13 33 35 51 61 46 43 59
あまり思わ 1 1 0 5 7 8 22 22 21 19 9
思わない 0 0 0 0 0 0 1 2 3 1 5
図一9 家庭科の中の福祉は教育の内容に関わる意識
一63一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
讐5
野
一小学校 …中学校 …高等学校
4 ・
3
2・・
勇 馨、
小:高腿 中:右脚 小:臨画
小:高*
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;:妻1::i
小:高零 中:高零
脂溶零
小:高韓 中=高軍
小:高餌
* pく0.05
** p〈0.01
***Pく0.OO1 中:高零
食事や被 各種社会 生活を理例えば消 福祉教育 テーマが 現在でも 家庭科の 福祉教育 家族への 自分で家 人権教育 自分の身 ボラソテ 手助けの 養育放棄 これから
小学校 3.67 3.18 3.91 3.37 3.69 3.48 2.91 3.06 3.88 4.55 4.39 4.42 3.72 3.55 3.58 3.06 4.12 中学校 3.43 3.55 4.02 3.認 3.45 3.27 2.77 2.98 3.85 4.48 4.35 4.26 3.39 3.74 3.79 3.37 4.08 高等学校 3.54 3.84 4.27 3.48 2.82 2.銘 2.56 2.35 3.59 4.27 4.44 4.32 3.52 4.21 4.03 3.56 4.40
項 目 12 13 14 5 2 4 6 1 7 10 11 9 8 16 15 17 3
図一10小中高による意識の平均値の比較
放棄・経済困窮など児童・生徒自身の問題解決,改善のため,どのような支持・援助があるか知 り,利用できるようにする」など,児童生徒が,「生活自立を果たし,社会福祉を自分自身のも のとして利用してゆく」という視点の項目は,比較的少ない。また,「例えば,消費者教育のよ うに,家庭科の内容を福祉の観点から捉えて教える」という考え方は,支持が少ないが,福祉教 育の「自立教育」と「共生・共同の精神」は,家庭科教育の本質と重なっている部分が多いので,
全分野の家庭科の指導に際し,常に福祉の視点を持って当たることが大切である。
次に小・中・高等学校の学校種別で,17項目の質問について「5強く思う〜1思わない」の順 位得点の平均値を前述の因子ごとにまとめ,比較したものが,図一10である。t検定の結果,有 意差の有るものについて見ると,高等学校の家庭科教師は,小・中学校の家庭科教師に比べ,第
2因子「消極的意識」が少なく,第1因子「社会福祉的内容」に関わる項目の「各種社会保障制 度や保護を必要とする人の生活を理解」や第4因子「実践的内容」に関わる項目の「ボランティ ア活動への理解や参加,保護を必要とする人への手助けの仕方」等,社会的な広がりをもつ項目 や,具体的な介護についての支持が高い。また,第3因子「相互協力的内容」の項目は学校種別 による差が少ないが,「家族への思いやりや食事や被服,身の回りのことが出来る」などは小学
校がやや多い。これらは,児童・
生徒の発達段階の差とともに,
高等学校では,「高齢者と祉会 福祉」の内容が具体的に示され,
実施されていることとも関係が あると推測される。指導の実態 との関連を見ると,図一11の通 り,小学校では家庭科における 福祉教育への取り組みは,5校
(15.2%)と少ないが,題材を
%80
60
40
211
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図一11 福祉教育への取り組み
見ると,資料一1,面一12の通り,題材としては「家族の仕事や役割の理解および家族の一員と しての協力」などや「身の回りの整理,整とんや清掃の仕方」など,自分で身の回りのことが出 来るよう,生活自立の基礎的な内容がであり,これを福祉教育の視点から指導することが必要で ある。また,「各種社会保障制度など教える」についての支持が少ないのは,児童の発達段階へ の配慮と思われる。しかし,「養育放棄・経済困窮など児童生徒自身の問題の解決,改善のため,
どのような支持,援助活動があるか知り,利用できるようにする」についても,他の項目に比較
資料1(小学校)
1.家族の仕事や役割の理解及び家族の一員として の協力
2.身の回りの品物の活用,不用品やゴミの処理 3.生活時間の有効な使い方
4.買い物の仕方や金銭の使い方と計画的な生活 5.家族の生活に役立つ簡単な物の製作 6.身の回りの整理,整とんや清掃の仕方 7.住居の働き,快適で安全な住まい方 8.被服の働き及び日常着の下方 9.日常着の整理,整とん及びボタン付け
10.簡単な小物及び袋の製作 11.日常着の選び方と整え方
12.日常着の手入れ(洗濯,ほころび直し)
13.簡単なエプロンやカバー類の製作 14.栄養素の働きと食品の組合せ 15.野菜や卵の簡単な調理
16.簡単な間食の整え方や食べ方,すすめ方 17.食物のとり方と1食文の献立の作成 18.簡単な調理
19.会食
校20
15
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5
0
らコ コ ヨ コ コ コ ロ コ ロ ユ ロ むロ し じ コ コ
liil∵llllllF〕lll1711ill滋lllllllllll;lllllllllllllllllll;llllll!1凝lll{llli
家族1 身の2 生活3 買い4 家族5 身の6 住居7 被服δ 日常9
・惣i3漏i 3……麹i・…lli・…lli・iiiiili 3、 3
簡単10日常U 日常12簡単13栄養i4野菜15間食16食物17調理[δ会食19
圏既に 悪将果取り組
図一12 小学校における題材
一65一一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
資料2(中学校)
1.家庭の機能と家庭生活の意義 2.家族の生活と家族関係 3.家庭の収入と支出
4.物資・サービスの選択,契約,購入及び活用と 消費者としての自覚
5.家庭の仕事
6.家庭生活と地域との関係 7.青少年の栄養,日常食の献立 8.食品の性質とその選択 9.日常食の調理
10.適切な食品のとり方,食事作法 11.簡単な被服の製作
12.手芸品の製作
13.生活と被服との関係
14.家族の生活と住居との関連,快適な住まい方 15.住空間の計画
16.室内環境と設備
17.家庭生活における資源の適切な使い方と廃棄物 の処理
18.幼児の心身の発達
19,心身の発達に応じた遊びと遊び道具の製作 20.幼児の食生活と簡単な間食
21.幼児の衣生活と簡単な衣服の製作 22.生活習慣
23.幼児の発達と環境の関係
校30
20
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図一13 中学校における題材
して支持が少なかったが,松村も指摘の通り,7)小学校5・6年生の発達段階でも,児童自身 が問題に直面したとき,人権意識にもとづき,社会福祉サービスをもっと身近に利用する力を身 につけさせる必要がある。
中学校での家庭科における福祉教育の取り組みは,13校(21%)で,題材は資料一2,十一13 の通り「家族の機能と家庭生活の意義」「家族の生活と家族関係」「幼児の発達と環境の関係」な どが多く,被服・食物・住居領域は少ない。小学校同様,「食事や被服など健康で文化的な最低 限度の生活について具体的に考えさせる」との視点でこれらの領域での教材の研究が必要である。
高等学校では,家庭科教育の中での福祉教育への取り組みは,37校(58.7%)で,題材は資料一 3,図一14と「高齢者の生活と福祉」が際だって多く,ついで「ホームプロジェクトの実践と学 校家庭クラブ」「家庭生活」「乳幼児の保育」が多い。小・中学校に比べ,高等学校では福祉教育 への取り組みが多くなされているが,「高齢者の生活と福祉」だけでなく,生活福祉への実践を 動機づけとした幅広い分野での家庭科教育が必要と思われる。
家庭科教育の中での福祉教育の取り組みの有無と意識との関わりを見るため,図一10と同様に 順位尺度の点数の平均値を比較したものが,図一15である。既に取り組みのあるものは,全体的
資料3(家庭一般)
1.家庭の機能と家族関係 2.家族の生活と家庭経営 3.生活設計
4.高齢者の生活と福祉 5.家庭の経済生活
6.消費生活と消費老としての自覚 7.生活情報の活用 叉 8.住居の機能と住生活の設計 9.居住性と住居の管理 10.被服の機能と着装
11.被服材料と被服管理 12.被服製作
13.家族の食事と栄養 14.食品の特質と選択 15.献立と調理
16.青年期の生き方と結婚 17.母性の健康と生命の誕生 18.乳幼児の保育
19.子供の人間形成と親の役割
20.ホームプロジェクトの実践と学校家庭クラブ活動
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図一14 高等学校における題材
に各意識項目の支持が高い。取り組み未経験者は「福祉教育のはっきりした定義がないので分か りにくい」や「家庭科の中の福祉教育について考えたことがない」「現在でも指導内容が多いの でこれ以上は教えられない」等,消極的な意識が明らかに多く,一方,取り組んでいるものは
「各種社会保障制度など健康で文化的な最低限度の生活を保障するための社会的努力・制度につ いて教える」「ボランティア活動の意義を理解させ,可能なら活動に参加させる」「自分で身の回
りのことができるようにすることが福祉教育の基本である」など具体的で幅広い教育内容への支 持が多い。このことから,福祉教育の実践と意識とは深い関わりがあり,意識の高い者が,実践
へ踏切り,実践を通して教師の意識も変わるといえる。
さらに,生活実態と福祉教育意識との関わりを見てゆく。家族形態は,図一16の通り約半数が 核家族であり,後期高齢者と同居している者は,38%であり(図一17),介護が必要な高齢者と 同居している者は9%である。子育て経験者は,70%であり(図一18),ボランティア活動経験 者は17.8%で(図一19),ボランティア活動に7割以上が興味関心を持っている(図一19)。近隣 ネットワーク作りに対しては,現在作っている者は,7%と少ないが(図一20),作りたいと思っ ている者を加えると,6割の者が近隣ネットワーク作りに関心を持っている。
ボランティア活動の経験者は,家庭科教育の中に「ボランティア活動の意義を理解させ,可能 なら活動に参加させる」と思っている(図一21)。また,福祉教育を指導した教師は,ボラソティ
一67一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
ア活動への関心が高い(図一22)。つまり,福祉教育やボランティア活動の経験を持つものは,
児童生徒に「家庭科教育の中にボランティア活動の意義を理解させ,可能ならば活動に参加させ る」と思っている。
教職経験年数と意識との関係を見てみると,三一23の通り経験年数10年未満では,「福祉教育 について考えたことががない」や「定義がないので分かりにくい」は少なく,関心は高いが「食 事や被服など健康で文化的な最低限度の生活について具体的に考えさせる」や「例えば消費者教 育のように,家庭科の内容を福祉の観点からとらえて教える」のような意識は少ない。「相互協 力的内容」の項目や「実践的内容」の項目については,経験年数との関係はみられない。しかし,
経験年数の20年以上の人は,後期高齢者と同居してしている人も多く,また,子育て経験者は,
近隣ネットワークを作りたいと思っている人が多い。このことから,身近に福祉需要をかかえて いる人は,福祉教育にも関心が高い。家庭科教師は,多くの者が家庭内福祉の中心的立場にあり,
その意味でも福祉教育の推進者としての役割が期待される。
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項 目 12 13 14 5 2 4 6 1 7 10 11 9 8 三6 15 17 3
図一15取り組みの有無による 意識の平均値の比較
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図一18 経験年数別子育ての有無
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大倉聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田幸子 百合草孝子
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図一22福祉教育経験とボランティア活動
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図一23 経験年数別福祉教育意識
3.まとめと課題
学校教育の家庭科の中で,福祉教育を進めてゆくために,家庭科担当教師に「家庭科の中の福祉 教育」について,意識と指導実態・生活実態について調査をした。
1.家庭科担当教師は,家庭科の中での福祉教育に対し,「社会福祉的内容」と「相互協力的内容」
と「実践的内容」とともに「消極的・否定的」にもとらえている。
2. 「家族・地域・社会全体で,思いやりや助け合うことを教える。」という相互協力的な内容に ついては支持意識が高い。
3.「健康で文化的な最低限度の生活について考えさせ,保護を必要とする人たちへの理解と手助 けの仕方を教える。」というような「社会福祉的な」意識についても支持が高い。
4.「自分で身の回りのことが出来るようになる」や「児童自身の問題解決,改善のため,どのよ うな支持・援助があるか知り,利用できるようにする」の「生活自立を果たし,社会福祉を自分 のものとして利用してゆく」という視点の項目は,支持が比較的少ない。
5.小・中学校に比べ高等学校での指導者の方が,福祉教育に消極的な意識が少なく,社会福祉的 内容や実践的内容にかかわる「ボランティア活動への理解や参加,保護を必要とする人たちへの
手助けの仕方」など,具体的で社会への広がりのある項目への支持意識が高い。
7 福祉教育に既に取り組みのあるものは,消極的な意識が少なく,社会福祉的な内容やボラソティ ア等実践的な内容に意識が高いといえる。
8 ボランティア活動の経験者は,家庭科教育の中に「ボランティア活動や保護を必要とする人た ちへの手助け,自分自身のための支援・援助等」のような「実践的な方法や行動について教える。」
と思っている。
9 教職経験年数20年以上のものは,10年未満のものにくらべ,「食事や被服など健康で文化的な 最低限度の生活について具体的に考えさせる」や「家庭科の内容を福祉の観点からとらえて教え る」が多くなっている。これは,後期高齢者との同居や子育て経験者が多いこととも関係がある と推測される。
このことから身近に福祉需要を抱えた家庭科教師は,福祉教育の推進者としての役割が期待さ
れる。
以上より,生活福祉教育をすすめていくためには,まず,学校全体の福祉教育の中での家庭科 教育という視点と共に,家庭科の教科の中での福祉教育についての,共同理解を早急に進めるこ とと同時に実践者の経験をふまえて,具体的な教材開発をすすめることが急がれる。
また,小・中・高等学校を通じて,食事や被服など,家庭科ならではの教材を憲法25条の理念 にもとづき,権利主体として具現化してゆくこと12)も必要であると考える。
本報告は,日本家庭科教育学会中国地区会岡山県ブロックにおける共同研究の一部であり,第 15回日本家庭科教育学会中国地区会研究発表会において発表したものである。
一73一
大倉 聖子 中村喜久江 笠井八重子 浅田 幸子 百合草孝子
参 考 文 献
1)松島千代野,藤i枝恵子:新・家庭科教育法 高陵社出版 11−15(1995)
2)文部省:高等学校学校学習指導の展開 明治図書 19(1990)
3)松島千代野:IYFシンポジュウム基調講演資料 (1994)
4)阪野貢:福祉のまちづくりと福祉教育,文化書房博文社, 8−16(1995)
5)一番が瀬康子,大橋謙策,小川利夫,木谷宣弘:福祉教育の理論と展開 光生館(1987)
6)鈴木敏子,増渕朱美:高齢社会における福祉教育の実態と課題 日本家政学会誌 47,2 103−113 (1996)
7)松村祥子:社会福祉と家庭科教育,家政教育社, 12−16, (1987)
8)関志比子:生活と福祉,家庭科教育事典,家政教育社, 116−117(1992)
9)大谷陽子:家族の福祉,家庭科教育辞典,家政教育社, 214−215, (1992)
10)岡山県社会福祉協議会:福祉教育マニュアル関係資料集,福祉教育とは何か,
11)中村喜久江,笠井八重子,大倉聖子,浅田幸子,百合草孝子:岡山大学教育学部研究集録
101 149−162 (1996)
12)阪野貢:福祉のまちづくりと福祉教育,文化書房博文社, 18−20,(1995)