• 検索結果がありません。

1.はじめに

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "1.はじめに"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

茨城大学教育学部教育研究所紀要21号(1989)9−18 9

「生活科」と「家庭科」の問題をめぐって

植 村 千 枝

1.はじめに

 周知のように1992年度発足の新学習指導要領で,大きく変わる中味に小学検低学年における,生活科 の出現が真先にあげられよう。又,それと関連して,中学校における共学必修領域「家庭生活」,高校 における選択ではあるが共学の「家庭一般」があげられる。その他,中学校における「情報基礎」や高 校における「生活技術」「情報処理」など,高度情報化社会に向けての新設領域についても大きな問題 であるが,ここでは「生活科特集」にかかわっての,家庭科教育担当として,家庭科からみた「生活科」

ないしは「家庭生活」領域と「生活科」の関連について,若干の資料を入手したので,それを検討する形を とりながら述べてみたいと思う。

 なお,ここでは小学校教育の延長としての中学における技術・家庭科の「家庭生活」領域にとどめ,高校 家庭科の「家庭一般」については,枚数の関係もあって触れない。

2.文部省資料「生活科」構想の中にみられる「家庭科」

 他教科からも触れられていると思うので,主として家庭科にかかわって見ることとする。次にとりあ げるのは「小学校低学年の教育に関する調査研究協力者会議」や「教育課程審議会」に配布された資料及 び,一般に発表された文部省文書の概要を,年代を追って一覧表にすると次のようである。

年・月・日 題    目 概       要  (解説も含む)

61.5.27 小学校低学年の 低学年の教科構成検討経過から,改善の視点を5っあげ,教科

(1)

教科構成の在り 構成の在り方を3つに要約している。

方について (1>読み,書き,算の能力を基礎学習として重視

(素案)

②生活上必要な基本的きまりや習慣,道徳的心情の陶治重視,

手を使ってものをつくる指導も配慮

(3)体験的活動重視

以上から,低学年教育課程は国語,算数,生活科(仮称),音

楽,図画工作,体育,道徳,特別活動となるとしている。総目標

を具体的な体験や活動を通して,身近な自然や社会の様子に関心

をもち,自分のかかわりに気付かせ,その過程における生活上の

習慣や技能を身につけ,自立への基礎を養うとしている。

(2)

10 茨城大学教育学部教育研究所紀要21号(1989)

年・月・日 題   目 概        要  (解説も含む)

 学年目標を3つに区分し,内容を1年で6つ,2年で5つあげ トいる。内容例で家庭科に関連するものを要約してあげると,1 Nでは②家族の観察と生活習慣に気付かせること,〈4)遊び道見を

?ること,⑥自分の成長をふり返らせること,2年の(3)季節や行 魔フ活動から地域の生活や工夫に気付かせること,(4>生活に使うも

フを作りしくみに気付かけること,などがあげられる。

@各教科の改善点としては,ア国語,イ算数,ウ図画工作,工道 ソ,オ特別活動について触れているが,家庭科についてはこの時

̲では触れていない。さらに新教科設定に伴う諸問題として授業 梵狽フ弾力的運用,徹底させるために教科書や指導書は作成する。

㊨ネ指導も引続き行っていくなどと述べられている。

@なお,1年の年間計画例,単元例の資料も配布されている。

61.5.27

i1)!

生活科(仮称)

ニ他教科等との ヨ連について

@  (メモ)

 素案の各教科の改善点では,アからオまで5つあげているが,

ニ庭科との関連を加え6つとなった。1社会科,2理科との ヨ連については,知識理解に偏する傾向があったので,自分と社

?や自然とのかかわりを,体験や活動を重視して,社会認識,自 R認識の芽を育てるとしている。そのため今までの内容が削除さ 黷驍フも止むおえないとする。3図画工作科との関連では,手を gい生活に役立てる物を作る基礎学習として位置づけている。

S家庭科との関連では,児童の生活経験不足がみられること,生

?科によって5年からの家庭科学習の基礎を充実するのに有効で

?るが,家庭科内容の基礎的部分は構成していないと断っている フが注目される。5,6の「道徳」,学級指導との関連では,日 岦カ活のきまりや生活習慣を一層充実させるために,緊密に関連

もたせることを強調している。

61.7.

o2)

小学校低学年の ウ科構成の在り 福ノついて

@第1次審議

@まとめ

 今までの低学年教科構成についての検討経過を述べ,改善の視

̲を5つあげているところまでは5月27日に出された(素案)と Sく同じである。教科構成の在り方もおおむね変化はないが,

A「……手を使ってものをつくる指導……」を「日常生活で必要 ニされる基礎的な技能の指導」に改められている。また新教科の ヒらいを「総合的な新教科として生活科(仮称)を設けることと

オた。」と付け加えられており,目標及び内容を「試案」とし,

uこれについては学習活動の展開などに配慮しながら,今後,更

ノ検討する必要がある。」としている。

(3)

植村:f生活科」と「家庭科」の問題をめぐって 11

年・月・日 題   目 概         要  (解説も含む)

目標は1,2年中も全く変化はないが,内容について若干の手 直しが見られる。例えば1年では(6)の自分が生れてから現在まで の様子を「入学前のころの生活と入学してからの生活の様子」に 区切り,2年に⑥を新しく設けて「自分が生まれてから現在まで の生活の様子について調べたり,話したりしながら,自分の生活 や成長の様子に気付かせる。」としているなどである。

新教科設定の諸問題について(1)〜(4)までは全く同じであるが新 たに,(5)評価の観点,⑥教員養成が加えられているが,いずれも具 体的な点は示されていない。

6i.10.20 教育課程の基準 教育課程の基準の改善の基本方向を示し,幼稚園の教育課程の

(3)

の改善に関する 編成と小学校における各教科の編成に言及している。特に低学年 基本方向につい の教科編成に問題があるとして,今までの経過を述べ,低学年の て(中間まとめ) 教育全体の充実を図る観点から新教科として生活科(仮称)を設 定すること。社会科及び理科はその中に統合することとしている。

62.12.24 幼稚園,小学校, 教育課程基準の改善方針を,ねらいと教育課程の編成に関し・

(4)

中学校及び高等 て述べている。特にここで注目したいのは,小学校低学年にお 学校の教育課程 ける新教科「生活科」を仮称としていないこと,及び「低学年の の基準の改善に 社会科及び理科は廃止する。」と明確化されたことである。又,

ついて(答申) あわせて初等中等教育局小学校課から生活科の内容編成A案,B 案として区分,単元名,時間数が資料として提出されている。

63,3.16 生活科の目標及 総目標及び各学年の目標及び内容が示されている。すでに61年

(5)

び内容 7月に出された第1次審議に基づいて,それを更に具体的に表現

(試案1) しているのが特徴的である。例えば1年の内容②1次審の場合,

「家庭の様子を見たり,話したりしながら,家庭生活を支えてい

る家族の仕事の様子や家庭生活に必要なきまりや習慣に気付かせ

る。」を,試案1では「家庭生活を支えている家族の仕事や家族

の一員として自分でしなければならないことが分かり,自分の役

割りを積極的に果たすとともに,健康に気を付けて生活すること

ができるようにする。」,2年の内容(1)の場合1次審では「近所

における遊びや生活について調べたり,話したりしながら,自分

といろいろな人々とのかかわりや社会生活に必要なきまりや習慣

に気ずかせ考えさせる。」を試案1は「自分たちの生活は近所の

人や店の人など多くの人々とかかわっていることが分かり,日常

(4)

12 茨城大学教育学部教育研究所紀要2ユ号(1989)

年・月・日 題    目 概        要  (解説も含む)

生活に必要な買い物や使いをしたり,手紙や電話などで必要なご とを正確に伝えたりするとともに,人々と適切に応対することが できるようにする。」などと具体的生活場面に触れた内容に改め られている。

指導計画の作成と内容の取扱いの項目が,新たに加えられ実施に 一歩近づいた観がみられる。学習の場を学校,家庭,近隣に限定

し,そこから学習素材を求め,自分自身にかかわる学習展開とす るよう規定しているのも特徴的である。

経過を追って要約すると以上のようである。この作業をとおしてわかったことは,(1)/他教科との関連 メモにはっきり述べている「……家庭科内容の基礎的部分は構成していない。」と特に家庭科との関連 を否定しているのであるが,具体化すればするほど,従来の家庭科とあえていうのであるが,目標・内 容とも類似してくるのである。次に関連について低学年家庭科構想及び実践例をもとに検討する。

      3.家庭科における低学年化の主張とその実践例

 家庭科は,小学校5年から開始される教科であるが,それについて疑問視し,他教科と同じように小学校 1年から行われるべきであると主張する声が早くからあった。その例として,昭和62年11月に発行された N本家庭科教育学会編の,「家庭科教育 87時代の変化に応える 一カリキュラムの研究一」という 各地区の研究報告文がある。その中の1っ北海道地区のカリキュラム研究に,小学校低学年の案が掲載さ

れているので引用してみよう。

 それによると1986年6月の第29回大会に発表した小・中・高校家庭科教育課程案の,基本的考え方 としてゆ小学校低学年から中学校,高等学校に至るまで男女共必修とし,男女平等教育を原則とした 履習形態をとること。②家庭科教育に対する社会的受容基盤の変化に対応するため,児童・生徒の発達 段階を考慮した教育課程(生活教育,消費者教育,家庭教育等)をとり込み, 「総合演習」を加えて,

教育目的の実現を図る♂ とある。この考え方及び案は,1972年の北海道地区案を改訂したものであ る由付記されているから,15年以上も前から主張されていたことがわかる。次にカリキュラム案である が,小学校を2つに区分し,1年から4年までを週1時間とし教科名も「家庭生活科」としているので ある。内容は次のようである。

 ・わたしの1日一基本的生活リズム(早寝,早起き,着る物のしまつ,入浴,排便,清潔)あいさ       つ

 ・わたしのできるしごと一電話のとりつぎ,買物,留守番,外出のし方,安全,言葉のつかい方,

      食事の盛りつけと並べ方(一汁三菜),箸の使い方

 ・しごとしらべ一自分の生活時間,家の仕事分担(家族の関係),いろいろな家庭の習慣

 。成長とからだ一自分の生いたち,からだの変化と成長

(5)

植村:「生活科」と「家庭科」の問題をめぐって 13

その他,実験・実習,製作・演習として,おいしいおやつえらび,お泊り会,小物づくり(ポシェット,

ふくろ,菓子入れなど,紙,布,ピン,ボタン)となっている。 (筆者傍線)

 4年間の配分は不明確であるが,大よそ何をもって「家庭生活科」と考えているのかを知ることがで きるのである。内容例は,5,6年からはじまる家庭科につなげるため,食物,被服に関する実習例が 示されているが(傍線参照のこと),それを除けば,2の項でみてきた「生活科」構想の内容と類似点 の多いことに気づくのである。

 次に,実践例をみることとする。とりあげるのは1988年6月に発行された「私たちは生活をどうと らえて次の世代に伝えたいか一小学校低学年生活科をめぐって一」生活学会編に掲載されている実 践報告である。丸岡玲子氏は,給章真の「生活学習」を求めでの中で大分県の小学校低学年における実践を 紹介しているので要約すると次のような内容である。

 校庭の隅に,各班2本ずつのかぼちゃを栽培させた。この育て方は祖父母に学ばせたという。やがて 収穫したかぼちゃの種子を利用し,牛乳のふたに古ストッキングをかぶせ,ボンドや針金,縫い縮める 縫製もさせブローチを作り,手紙をかいて各自の母にプレゼントさせたこと。そのカボチャの果肉を使 ってかぼちゃもちを母親たちの指導で作り,2学期のしめくくりパーティーを開いた。後日はかぼちゃ の栄養価も含めた六つの食品群の学習会をやはり母親ともった。その他父親の指導で,郷土食の団子汁 を作った。などなどである。

      (注1)

 筆者,及び実践者の属する研究団体のとりくみを.「低学年から衣・食・住・家門・家庭について,学校生 活全体のなかで総合的実践的に学習する家庭科的教育内容を設けるべきであると主張し,各地で実践も すすめてきた」として,大分の実践を代表的なものと位置づけている。これら一連の実践のねらいを,

「1栽培から料理までの仕事を通して,協ヵして働くことの良さやxX食べる ことについてわからせる。

2.料理をすることで,父母の知恵や技術を学び,また食べもの(栄養,公害について)に関心を持たせ る。3.世界に一つしかないものを手作りする楽しさや,パーティーにより友達の父母との心の通い合い をはかる。」としているのである。

 以上,具体例をみておわかりいただけると思うのだが,家族集団の力を導入して,学校の場を借りた 地域活動ともとれる実践例である。このような実践が低学年家庭科として位置づけている背景には,こ の団体の教科観があるのである。「憲法25条,24条の規定の生活上での実現をめざし,生命と生活の再 生産にかかわる家庭のいとなみとそのしくみを家庭科教育の独自の対象としておさえている」というの である。実に雄大なテーマであるが,それ故,問題状況によっては何をとりあげてもよく,悪くいえば,

場当り的な教育観教材例に陥りやすく,教科としての系統性も普遍性もないのである。

 核家族化の進行した現代の家庭では,生活に必要な技能を教育する力が失われているとの指摘がある。

その打開の一つとして,家族集団に学ぶ状況を,家庭科教師の音頭とりで行われたということに注目し たい。しかし共働きの増加傾向の中で,果して学校教育の時間内で可能であるのか。又,親達個々の知 識,技能をそのまま教育として子どもに与えて混乱はなかったのだろうか。更には親の助けを借りて仕 上げる学習内容は,子どもの発達に適した内容ではないのではないのか,といった疑問が次々に出てく るのである。むしろ,子ども自身に問題意識をもたせるよう学習をはじめるに当って,課題として,家 族に限定せず身近な生産者にきいてくる,教師は客観的判断力でとりあげ,教材を構成する際のひとつ の視点として活用する。教師の力量がそれこそ問われる問題なのである。

 「小学校低学年の子ども達は,指や腕を自由に動かして手作業することができにくくなっている」と

いう指摘に注目したい。しかし「世界に1っしかないブローチ」という発想からも伺える,手づくりの

(6)

14 茨城大学教育学部教育研究所紀要21号(1989)

良さだけを強調する教育では,実さいには大量生産された商品を使う側からの,正しい判断力も主張も 教育されないのではないか。すなわち「家庭科」ないしは「家庭生活科」として家庭内に限定した教材 構成では,現代の家庭生活の営みには通用しないのである。

 北海道地区の「家庭生活科」構想,大分の実践およびそれを支える家庭科教科観は,家庭生活に限定 した狭さに加え,これから行われる「生活科」構想が,漠として何を教えようとするのか不明確で空転 してしまう懸念を裏付けていないだろうか。家庭科がそのような立場に陥こんで久しいことを変遷史を とおして次にみていくこととする。

4.家庭科の変遷史にあらわれた「家庭生活」指導の教科と「生活科」構想

 戦後の教育改革は,それまでの「裁縫科」 ギ家事科jを否定し,新教科としての「家庭科」を創設し た。これは社会科の誕生と類似している。以来「家庭科」は一貫して「家庭生活」にかかわる内容を対 象とした実践教科としてあり続けてきた。1947年版試案のはじめのことばに「家庭科すなわち家庭建設の 教育」としてとらえている。総目標の3つを要約すると,①家族関係によって自己を生長させ,自分の 仕事責任の理解 ②家庭生活の充実向上のための常識と技能習得 ③家庭人としての能率と教養を高め 奉仕の機会を得ること,としている。あくまでも家庭生活の枠組みの中で,なすべきことを考えている のである。

 この時点で小学校4年を改め5年から課すことになる。啓発的経験を重んじ,家庭領域もその1つと 考えて「職業科」として発足した中学とは異り,男女共学を建前としている。しかしながら具体的実践 例になると,被服製作は女子,家庭工作は男子に分かれるのである。しかも1956年版改訂までに教科書は作

らず,学校の実情によってはやってもやらなくてもよいとしたため,行わない学校が増加していった。

当時は社会科を中心にしたコァ・カリキュラム全盛時代でもあったから,家族関係や生活時間などいわ ゆる家庭管理領域の多くが,社会科と重複するなど,家庭科の独自性が問われるようになった。文部省 は1951年に「家庭生活指導の手引」を出し,家庭科内容を生活指導として,全学年に配分し全教科で扱う こととした。これも学校の事情によっては開講してもしなくてもよいとしたため,かえって混乱を招き,

「家庭科廃止」の声が多くなっていったのである。

 !956年版学習指導要領は,廃止論へ応えた形で,「小学校の家庭科が第5,6学年に設けられている 理由」の項目を設け,論理性,手指の巧ち性,応用的能力が満IO才ころから適当と判断したとしている。

目標を要約すると,①家庭の構造と機能の大要を知り,家庭構成員としての自覚,②家庭における人間 関係に適応するための態度や行動の習得,③衣,食,住などの日常必要な初歩の知識,技能,態度を身 につける,④労力・時間・物資・金銭を計画的に使用し家庭生活の合理化をはかる。⑤家庭の休養や娯 楽の意義の理解と方法の工夫,の5つをあげ,指導内容を家族関係,生活管理,被服,食物,住居の領 域としている。 改めて見直してみると,これが小学校5,6年の教育内容を規定しているのだろうか

と疑いたくなるような盛り沢山な,まさに家庭の機能すべてを網羅しているのである。翌1957年に施行さ れ,教科書も発行されるのだが,教科目標とは裏腹な家庭生活を広く浅く扱った,生活指導の手引書の 観がある。

 戦後の日本経済は,外国技術導入に支えられ1955〜56年を境にして,本格的な「技術革新」の時代に入 っていた。産業界からの教育への要望も多く「新時代の要請に対応する技術教育に関する意見 日経連

1956年12月」などで,先進諸国におくれをとらないよう義務教育の理科,職業科教育の見直しが求めら

(7)

植村:「生活科」と「家庭科」の問題をめぐって 15

れている。!958年の改訂は,高度経済成長期を反映し,一連の文教政策に支えられ,科学技術推進にかか わる理科,算数教育の高度化,及び中学における「職業・家庭科」を改め「技術・家庭科」の出現をみ たこと,及び道徳教育を義務教育の全学年に課したことが特徴的である。

 又,文部大臣の告示として「……いずれの学校においても取り扱うこと」と明記されたため,今まで のように取捨選択は許されなくなった。小学校家庭科はこの頃から定着し,実践されるようになったと もみられている。内容は家族関係など道徳教育に関係のある部分は移譲し,A被服, B食物, Cすまい,

D家庭の4領域で,それらの初歩的,基礎的な知識,技能を習得させ,日常生活に役立てるようにする としている。今までの雑多な家庭生活指導的内容が,いくらか整理統合された観がある。戦後の生活単 元学習の反省から,系統学習への転換期でもあったこと。中学の「技術・家庭科」女子向きの被服製作,

調理実習のいわゆる生活技術の基礎技能として,小学校内容を位置づけようとしたのである。

  1968年版学習指導要領は,1958年忌とほとんど変らず,内容も4領域で,目標に共通理解としてr日常 生活に必要な衣・食・住などに関する知識技能を習得させ,それを通して家庭生活の意義を理解させ,

家族の一員として家庭生活をよりょくしょうとする実践的な態度を養う」としている。中学はそれまで の「家庭工作」を「住居」に改め,ようやく衣・食・住・保育領:域が揃ったと歓迎する声が多かった。

 この頃から高度経済成長の歪は,環境汚染など顕著となり,公害の名で呼ばれるようになっていた。

中学における「技術・家庭科」の男子向きは,とりわけ「生産技術」の基礎としてとらえられていたの で,その見直しがはかられたのである。「……創造し生産する喜こびを味わわせ,近代技術に関する理 解を与え……」という部分を「……生活を明るく豊かにするためのくふうと創造の八広……」というよう

に,生活主体に改められているのが特徴的である。

 1977年版は,受験志向による過密化した教育課程を見直し,ゆとり時間の特設とそれにともなう教科の 精選がはかられ,小学校家庭科においても4領域をA被服,B食物, C住居と家族,の3領域としたの である。中学は「技術・家庭科」の出現以来,批判の多かった別学を,運用面で1領域以上の相互乗り 入れを義務づけ,教科書もはじめて統一教科書となった。これには1975年メキシコで開かれた「国際婦人       (注2)

年世界大会」で高田された「女子差別撤廃条約」の力が大きいといわねばならない。

 現在は1992年から実施される新学習指導要領の正式発表を待っているのだが,中間発表や事前に入手し た資料によると「はじめに」で触れたように,高校,中学において大きく変化することになる。女子の み必修は,主婦準備教育ではないかと批判されてきた高校の「家庭一般」は,選択の幅を残しながらも 共学となる。中学は相互乗り入れ領域では他領域を圧して多かった「食物」領域と,新設の「家庭生活」

が共学必修領域となることが決定されている。次は入手した「家庭生活」資料の骨子である。

目 標

 家族の生活に関する実践的・体験的な 学習を通して,家庭生活をよりょく実践 する能力を養うことを目標とする。

① 小学校の「家族と住居」,高校の「家  庭一般」の関連でとらえる。

② 学習活動を示しにくいが,具体的な

。家族の家庭生活については家庭の機能,家庭生活の 意義,家族関係及び地域との関連などを扱う。

。家庭の経済については,家庭の収入や支出,物資・

サービスの選択,購入及び活用など,消費者として の自覚を高めさせる内容を扱う。

①想定した家族で必要な費用などを具体的に考えさ

(8)

16 茨城大学教育学部教育研究所紀要21号(1989)

ものを通して,自己の生活と家族の生 活を考える。

 せる。

・家庭の仕事については,仕事の種類や内容,作業手 順や計画及び簡単な衣・食・住に関する実習などを

扱う。

②単なる実習でなく,手順や計画を重点に考えたり  地域や家庭の実態を考える。

③全体としては,指導の手順を示していない。

④実験・実習・調査などが考えられる。

 以上が中学に今まで全くなかった新設領域で,設置理由を小学校,高校につながるためとしているが,

同じ内容を高校からみれば薄めたものであり,小学校からみれば濃くするような繰り返しの技能や,知 識の伝達にならないだろうか。内容については具体的なことがわからないのだが,すでに発表されてい る35時間の中で,衣・食・住に関する仕事を計画,実習をとおして家庭のあり方を考えさせるというの は,大変欲ばりすぎて,学習の焦点が定まらず,実施に混乱を生じるのではないかと早くも懸念の声が 現場から多く出されている。

 次に今までみてきた「家庭科」の変遷における問題点を明らかにする。それにより類似点の多い「生 活科」構想への,警鐘としたい。

1.政治的配慮が常に優先してきたこと。

  1958年改訂が,技術革新による高度経済成長政策によるものであった。又,今回の改訂は「国際婦人  年」.による「女子差別撤廃条約」の批准を契機として,家事労働の平等化運動の高まりから,別学「家  庭科」の見直しがはかられたことなど,たえず外的な要素で改変されてきたこと。

2.教科としての「知識体系llが問われていない。

  戦後の生活単元学習による「家庭生活指導」の教科が,今なお位置ついている。即ち児童・生徒の  身のまわりの生活経験にもとつく家事処理技能を中心とした,教育内容が羅列的にとりあげられてい  る。そのため客観的知識や技術の体系は無視され,教科としての確立が未だされておらず,しで指摘  したような,政治的背景の申で改変され易い。

3.家庭科IO才ことはじめ説が引き継がれている。

  1958年版に明記されたように小学校5年から開始される。これは明治以来の裁縫教育開始の系譜でも  ある。2.でも指摘したように,家事処理技能にこだわり続ける限り,今回の「生活科」構想からもは  ずされることとなった。一見「家庭科」独自の問題点ととれるが,「生活科」も小学校1,2年のみ  で系統的学習とはなり得ず,温存される心配がある。

4.今後の課題

 従来の家庭生活経験中心のカリキュラムでは,生活自立能力が不十分になるのではないか,という懸

念が,3.の実践例及び4.の変遷史で次第に明らかになってきた。ではどのように具体的に変革すべきな

(9)

植村:「生活科」と「家庭科」の問題をめぐって 17

のか,学ぶべき実践例をもとに今後の課題としたい。

 食物学習を例にとれば,従来の献立学習に基づく調理実習と,六つの食品群の教えこみを止め,個別 の類別典型食品を,原材料からとりあげることを主張したい。このことに関して,坂本典子氏は「共学

・家庭科の授業」の中で,小麦粉を例に次のように述べている。「グルテン形成を活かす題材としては,

うどんや発酵パンなどが適切であろう。どちらも十分こねあげてねかせてはじめて効果が現われる。そ れらはなぜ小麦粉で作るのか。他の粉ではどうなるのかという疑問が次の課題追求へと発展する…・」

食品に含まれる成分が,調理・加工上に大きく影響していることを,単品の食品を扱う過程で確認でき,

この発見は学習意欲を高め,子どもたち自身の食生活を,見なおす契機ともなるのである。低学年社会 科で扱われている「パン工場の見学」などと連動させ,生産の場ではどうか,販売店では,家庭の食卓 ではどのような食べ方がされているか,生産→流通→消費を一貫して見とおす視点を育でることも可能に なる。家庭生活に限定してはできない学習内容なのである。

 「小麦粉は炭水化物を主成分とする食品であるが他の成分も含有しており,特にグルテン形成は小麦 粉に含まれる10%前後のたんぱく質の変性である。栄養素を主成分とする分類の強調は,それ以外の含 有成分を見えなくしてしまう危険性が大きい。」とも指摘する。便宣的な六つの基礎食品群を指標にし た献立作成は,科学的根拠に欠けるのである。このことは栽培学習をとおして一層はっきりさせられる。

光合成や窒素同化作用,土壌からの多くの無機質の吸収によって育成された,果肉や種子,葉や茎,地 下球や根をそれぞれ食糧として利用していることを,学習体験をとおして理解させられる。

 「人類が,地球上の植物と動物を食糧として生きてきた過程の申に,技術の発展があったことを見の がすことはできない。道具や火の発見が食生活を大きく変化させたことも気づかせることが大切であ る。」とも述べている。今日の発達した栽培,養殖,飼育生産,各種食品加工工場によって加工,半加 工された食品を利用している私たちの食生活を知るためにも,低学年からの学習の手がかりに,技術の 発達に依拠した学習を組めないだろうか。日常的な自動点火のガスコンロからではなく,野外で薪を集め,

焼きいも,蒸しいも等の学習体験を契機に,煮るためにはかまどの構築や,鍋そのものの形の要求など があったことなど,実際に学習をすすめる中で発見,確認させていくのである。

 従来の家庭科教育は,余りにも現実の家庭生活に即役立てようとして,知識や技術の体系に拠ること なく,学習指導要領が一貫して示してきた「家庭生活に必要な常識としての知識・技能」を受け入れて きた。その結果,身近な生活経験をはいまわる学習状況がみられ,廃止論や家庭生活指導の教科に甘ん じてきたことに気づかねばならない。新設「生活科」及び中学の技術・家庭科の新設領域「家庭生活」

は,同じ撤をふまないだろうか。理科,社会科からは,低学年の自然科学認識,社会科学認識の欠落を いち早く問題即している。家庭科においては,賛成の声さえあがっていることに対して,私は,家庭科 の変遷史をたどり,将来を見すえたとき,厳しく「家庭科」そのものを見直す時期にきているのではな いかと思う。そのことが家庭科担当者の今後の課題ではないかと痛感するのである。

(注1)

(注2)

 家庭科教育研究者連盟,通称家教連,月刊誌「家庭科研究」をあゆみ書店から発行している民間 教育研究団体である。

 1975年メキシコシティにおいて「国際婦人年世界会議」を開催 ①男女平等の促進 ②社

会,経済,文化の発展への婦人の参加③国際友好と協力への婦人の貢献,がかかげられ,こ

の目標達成のために,翌1976年から1985年の10年間を「世界行動計画」が採択された。我

が国では「婦人問題企画推進本部」を設置し, 1977年1月「国内行動計画」を策定した。

(10)

18 茨城大学教育学部教育研究所紀要21号(1989)

1979年の第34回国連総会において「嬬人に対するあらゆる形態の差別撤廃条約」が採択に付 され,我が国は賛成の立場をとり,それに基づき批準のための国内法の見直しが行われた。中 間年の1980年7月,コペンハーゲンでの世界会議で同条約に我が国も署名を行った。これら 一連の国際的な動きの中で,差別された雇用問題,教育問題が見直されることとなった。特に 中学における別学の技:術・家庭科,高校における女子必修の家庭一般が問題視され, 1984年 9月に政府は臨教審に諮問し, 1985年6月第1次答申, 1986年6月第2次答申を行ってい る。同年10月には中間まとめが出され,周知のように,まがりなりにも共学を前提とした「家 庭科」の出現をみている。

「文部省 学習指導要領 15」

「共学e家庭科の授業」

 参考文献

国立教育研究所内戦後教育改革資料研究会編    昭和55年12月25日

産業教育研究連盟編    昭和62年8月10日

「時代の変化に応える一カリキュラムの研究一」

      昭和62年11月

「生活科」に関する資料   教育課程審議会  文部省

日本図書センター

民衆社

日本家庭科教育学会

「私たちは生活をどうとらえて次の世代に伝えたいか一小学校低学年生活科をめぐって一」

       生活学会編  1988年6月1日  群羊社

「家庭科教育  課題と展望  」 佐 藤 清 子

      昭和63年9月1日  建寓社

参照

関連したドキュメント

父母は70歳代である。b氏も2010年まで結婚して

婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける 環境をつくる」、「多様化する子育て家庭の

 母子保健・子育て支援の領域では現在、親子が生涯

指導をしている学校も見られた。たとえば中学校の家庭科の授業では、事前に3R(reduce, reuse, recycle)や5 R(refuse, reduce, reuse,

町の中心にある「田中 さん家」は、自分の家 のように、料理をした り、畑を作ったり、時 にはのんびり寝てみた

 ファミリーホームとは家庭に問題がある子ど

◯また、家庭で虐待を受けている子どものみならず、貧困家庭の子ども、障害のある子どもや医療的ケアを必

海に携わる事業者の高齢化と一般家庭の核家族化の進行により、子育て世代との