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聴覚障害のあるソーシャルワーカーの現状と課題 -地域で自律した活動を行っていくためには何が必要なのか-

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1.研究背景

ろう・難聴 SWer は主にろう・難聴者1への相談援助を行う専門職として聴覚障害者情報 提供施設や障害福祉サービス事業所等で相談援助を行っているが、情報保障や教育を受ける 場面などにおいて様々な困難に直面している。ろう・難聴 SWer が乗り越えなければならな い壁について、高山(2017)は、国家資格を取得する段階では、実習先の確保が難しいこと や、社会福祉現場で働く段階では、研修機会の確保や勤務先における情報保障の確保、就職 先の確保があると述べている。ろう・難聴者のための総合大学であるギャローデット大学の

聴覚障害のあるソーシャルワーカーの現状と課題

−地域で自律した活動を行っていくためには何が必要なのか−

Current Status and Issues of Deaf and Hard-of-Hearing Social Workers:

How can We Support Their Autonomous and Practical Community Activity

Engagement?

才 門 宏 平 Kouhei, Saimon キーワード:ろう・難聴者、ソーシャルワーカー、障壁 要旨  本研究は、社会福祉士や精神保健福祉士を取得して、社会福祉の現場で相談支援活動を行う聴覚障害 のあるソーシャルワーカー(以下、ろう・難聴 SWer という)へのインタビューを通じて、彼らがソーシャ ルワーク(以下、SW という)を行うにあたってどのような障壁に直面しているのかを明らかにし、ろう・ 難聴SWerが地域で主体性を持ちながら自律した活動を行っていくためには何が必要なのかを考察した。  調査は、ろう・難聴者で社会福祉士や精神保健福祉士等国家資格(以下、国家資格という)取得者の 中から、相談業務の経験がある手話を第一言語とするソーシャルワーカー(以下、SWer という)7 名 に半構造化インタビューを行い、6 つのカテゴリー、Ⅰ【ろう・難聴者に対する理解不足・誤解・偏見】 Ⅱ【ろう・難聴 SWer に対する情報保障の不完全さ】Ⅲ【ろう・難聴 SWer が働くための制度や予算の なさ】Ⅳ【ろう・難聴 SWer を雇用する事業所が少ない】Ⅴ【ろう・難聴 SWer が育つ環境の乏しさ】 Ⅵ【聴覚障害 SW の周知のなさ】を生成した。分析の結果、ろう ・ 難聴者に対する理解不足 ・ 誤解 ・ 偏 見が現在においても大きなウエイトを占めていること、カテゴリーが互いに影響していることが明らか になった。

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Sheridanら(2010)は、ろう・難聴の人に対して最も適切に提供することができるのは、ろ う・難聴の人の文化に関して独自の知識を持ち、また特別の言語・コミュニケーションスキ ルを持っているろう・難聴 SWer であるが、せっか SW 教育を修めて学位を取っても、いざ 専門職として働こうとする段になると、大抵様々な困難に直面すると述べている。「障害を持 つアメリカ人法」を制定している国でさえ、ろう・難聴 SWer は困難に直面しているという ことである。 本研究では、ろう・難聴 SWer の活動実態を把握し、彼らが聴者2のソーシャルワーカー と同様に地域で自律した活動3を行っていくためにはどのような環境整備等が必要なのか、 その現状と課題を明らかにする。

2.ろう・難聴者及びろう・難聴 SWer の実態

1)ろう・難聴者 ろう・難聴者の多様な実態についての理解は容易ではない。日本国内で、身体障害者手帳 を持つろう・難聴者・児は約 34.1 万人で、身体障害者手帳を持つ人々の総数 559.4 万人の約 6%である。日本の総人口の約 0.27%で、少数者であるが、その実態は多様である(厚生労 働省 2016)。 ろう・難聴者は聴力が低くなった原因や程度が様々なため、分類し定義することは非常に難 しい。一般的には、音声言語獲得以前か、獲得した後であっても幼児期・低学年期に失聴し、 ろう学校に学び、手話をコミュニケーションの中心においている重度の聴覚障害者を「ろう あ者」または「ろう者」、音声言語を取得したあと高学年、または社会人になっての失聴者を 「中途失聴者」、補聴器の使用によって音声言語の識別がある程度可能で、音声言語をコミュ ニケーションの中心にしている聴覚障害者を「難聴者」としている。 安藤(1991)は、「難聴者であっても自身をろうあ者と認識し、手話に誇りをもっている 聴覚障害者もいるし、逆に手話に堪能でありながら、ろうと言われるのに抵抗を示し、難聴 者と行動をともにする人もいる。」と、ろう・難聴者自身が持つ考え方、アイデンティティに よっても違いがあることを述べている。 ろう・難聴者は「多様性」と同時に「マイノリティ」である。原(2015)は「個々の聴力、 失聴時期、コミュニケーション手段、受けた教育(未就学含む)、アイデンティティ(ろう者 志向 or 聴者志向)、世代に応じた生活史の相違(特に教育制度による影響)など、聴覚障害 者の実態は多様な状況を呈している。聴覚障害者は、学校や就労の場など、すべての社会の 中でマジョリティである聴者とともに、マイノリティとして生活している実態がある。それ ゆえに、①社会資源の少なさ、②守秘義務遂行の困難さ、③福祉サービスの貧弱さ、といっ た福祉サービス提供における特徴がある。また、聴覚障害者は少数派ゆえに、社会生活にお

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いてマイノリティの状況にあるため、聴覚障害ソーシャルワーカーは社会資源の発見・開発 や聴覚障害についての説明や代弁に努めなければならない。」とろう・難聴者の SW の専門性 について述べている。 尚、ろう・難聴者については紙幅の関係で詳細に述べることはできないが、全日本ろうあ 連盟(2007)、 木村晴美(2009)、脇中起余子(2009)に詳しく説明されているので参照され たい。 2)ろう・難聴 SWer ソーシャルワーカー(以下、SWer という)とは相談支援を行う専門職のことを言い、日本 での国家資格の登録者数は、2020 年 9 月末現在で社会福祉士が、250,346 名で精神保健福祉 士が 90,844 名である(社会福祉振興・試験センター HP2020)。この中に、ろう・難聴者が どれくらいの数であるかは資料がなく、不明である。 手話など、ろう・難聴者に合わせたコミュニケーション手段で相談支援を担当している相 談員のなかに「ろうあ者相談員」がある。全日本ろうあ連盟(2008)は、ろうあ者相談員に ついて、「週に 3 日以上勤務して、聴覚障害者の相談に従事することにより報酬を得ている 者」と定義している。 「ろうあ者相談員」の設置名称は、「ろうあ者相談員」「ろう者福祉指導員」「ろう者生活指 導員」等まちまちであり、身分も正職員、常勤嘱託、非常勤など多様である。設置場所は、 聴覚障害者協会事務所・福祉事務所・更生相談所・社会福祉協議会等、様々であるが、近年 は聴覚障害者情報提供施設の設置箇所が増えたことにより、情報提供施設職員として従事す る例も増えている。2006(平成 18)年度の連盟による「ろうあ者相談員」登録によれば、35 都道府県 192 名となっている。ろうあ者相談員のほとんどは資格を有していなかったが、施 設職員において相談支援業務を担当する人の場合は、国家資格を有する者が増えてきている (全日本ろうあ連盟 2008)。 また、2000 年以降、ろう・難聴者が SWer としての専門的教育を受け、そのうえで国家資 格を取得するケースが増えてきた。2006 年にろう・難聴者や聴者でろう・難聴者の SW に関 わる国家資格取得者が専門職能団体として、「一般社団法人 日本聴覚障害ソーシャルワー カー協会」を設立した。会員資格は、社会福祉士又は精神保健福祉士資格を持って、ろう・ 難聴者に関する専門的な知識を持ち、ろう・難聴者とコミュニケーションを十分にとること ができることである。2020 年 9 月 30 日時点での会員数は 120 名で、その内ろう・難聴者の 会員は 35 名である。国家資格を取得したろう・難聴者は増加しているが、研修機会や就職先 を確保することは、情報保障の問題など聴者と比べて課題は多い。

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3.研究課題

1)研究目的 本研究は、国家資格を取得して、社会福祉の現場で相談支援活動を行うろう・難聴 SWer へのインタビューを通じて、彼らが相談支援活動を行うにあたってどのような障壁に直面し ているのかを明らかにし、ろう・難聴 SWer が地域で主体的に、聴者 SWer と同様に相談支援 活動を行っていくためにはどのような環境整備等が必要なのか。その現状と課題を明らかに する。 2)研究の視点および方法 ① 調査協力者 調査は、ろう・難聴者で国家資格取得者の中から、相談業務の経験がある手話を第一言語 とする SWer7 名(表 2)を対象とした。 調査協力者の選定方法は、すでに筆者が面識のあった、ろう・難聴 SWer3 名に協力を依頼 し、そのあと、スノーボール式にて調査協力者を募った。 (表 2)調査協力者の基本属性 仮名 年齢 相談歴 資格 加入団体 1 A氏 30 代 6 年 社会福祉士・介護福祉士 社会福祉士会 2 B氏 30 代 4 年 社会福祉士 社会福祉士会 3 C氏 60 代 13 年 社会福祉士・精神保健福祉士 社会福祉士会・精神保健福祉士協会 4 D氏 40 代 3 年 社会福祉士 なし 5 E氏 50 代 9 年 社会福祉士 なし 6 F氏 40 代 9 年 社会福祉士 社会福祉士会 7 G氏 60 代 20 年 精神保健福祉士 精神保健福祉士会 ② 調査方法及び分析方法 調査方法は、調査協力者全員を筆者が半構造化面接法でインタビューをおこなった。質問 事項は主に、相談支援活動を行ううえで障壁となっていることを中心に、インタビューガイ ドを作成し聞き取りを行った。インタビューは 1 時間半から 2 時間とし 2018 年 4 月から 11 月の期間に実施した。協力者は全て手話を使用するため、インタビューは全てビデオに録り (1名は、ビデオ撮りの了解が得られなかったが、その協力者は声が出る方だったので IC レ コーダーに録音した)、ビデオに撮った映像を筆者が逐語録におこした後に、ろう者の研究協 力者に逐語録の内容に手話の読み取り間違いがないかチェックをしてもらった。

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分析方法は、逐語録の中で注目した箇所に「コード」を作成し、類似するコードを集めて 仲間を作り、「サブカテゴリー」を生成した。そしてサブカテゴリーの内容が近いものを再度 集めて「カテゴリー」を生成した。また同じ手法での分析経験者と共に検討を重ねた。 ③ 倫理的配慮 本研究は、四天王寺大学の研究倫理審査委員会の承認(IBU30 倫第 2 号)を得て実施した。

4.分析結果

調査対象となった 7 名のろう・難聴 SWer が直面している障壁について、15 のサブカテゴ リーが生成され、そこからカテゴリーが 6 つ生成された。生成されたサブカテゴリーとカテ ゴリー及びデータの一部の内容を以下に示し、ろう・難聴 SWer が直面している障壁に関す る全体像を示す。なお、カテゴリーは【 】、サブカテゴリーは[ ]で示し、カテゴリーに はⅠⅡ ・・・・・、サブカテゴリーには①② ・・・・ の記号を用いた。 以下の、データの一部の調査協力者の発言については、方言や個人の言い回しによって個 人が特定されないように修正している。 (表 3)コードから作られたサブカテゴリーと生成されたカテゴリー及びデータの一部 カテゴリー サブカテゴリー コー ド数 データの一部 Ⅰ【 ろう・難 聴 者 に 対 する 理 解 不 足・誤解・偏見】 ①[無理解や誤解] 16 「聞こえないだけなのに、知的障害といわれる。または精神障害といわれる。 うつ病だといわれる時も多い。発達障害とも言われる。違う、違うと説明 するのに時間がかかる。」 ②[言 語 的マイノリ ティに 対 する 他 者 化] 2 「まわりが私を見る様子ですが、遠慮している様子。何を言ったらよいのか 分からないというふうな様子です。ですから何か言ってきてくれるというこ とはありません。」 ③[オーディズム] 10 「資格を取得した後に専門職団体へ入会しようと考えていたけれど、向こう は聞こえない人は大丈夫なのかという反応だった。本当に失礼です。まあ、 私は慣れていますけれど。」 Ⅱ【 ろ う・ 難 聴 SWer に対 する情 報 保 障 の 不 完 全 さ】 ①[手話通訳等調整 に苦労する] 14 「ろう・難聴者の利用者が相談に来られても、手話通訳者が必要な時があ ります。電話が必要な時や、聴者がいるところ、例えば仕事関係先に出向 く場合なども通訳者と一緒に行かなければならないことが多いです。」 ②[人材不足・専門 性に欠ける] 9 「各市町村の設置通訳者は、介護や相談の知識がない時に自分が言いたい 言葉をちゃんと声に出して伝えてくれているのかが不安になります。私の手 話で専門的な表現をした時にちゃんと読み取ってもらえているかそのあたり が心配になります。設置通訳者もしっかり勉強してほしいと思います。」 ③[間違った考え方] 9 「自分の役割は何っていうか、ずれがあります。私がすべてを担っています からというふうに全面的に支援していることが違うと思うんです。もし私がや るのであれば、問題になっていることをきっちりと行政に知ってもらう、繋 ぐ役割だと思うんです。」

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④[IT技術や通信 サービスの活用が進 んでいない] 10 「リレーサービスも 2 種類あって、画面で手話で会話する方法と文字で行う 方法がある。画面でする方法では、例えば仙台や熊本とのやり取りをチャッ トでやっても通じないし、読み取れないし、〇○と向こうでは同じ内容でも 表現が違うので通じない。まず単語が違うからなあ。個人の範囲なら間違っ ても構わないけれど、仕事で間違ったら困るから。使えないね。個人的に は文字でやり取りする方が把握しやすいということはあると思う。日本語力 の問題もあると思う。」 Ⅲ【 ろ う・ 難 聴 SWer が 働くため の制度や予算のな さ】 ①[手話通訳等の公 的補助がない] 8 「ろう者が働く場合、聴者(通訳者)とやることが必要になる。例えば、聴 者の場合は二人分は要らない、ろう者の場合は二人分は必要になるという ことになりますよね。二人分のお金の保障できる国の制度もないし、計画 相談だけでは二人分の経費がまかなえるのかと言ったら難しい。」 ②「ろう・難聴者の 相談支援に必要な制 度がない] 11 「一般的な介護とかの知識が聴者と同じように必要であることに加えて手話 が必要、特別な専門性が要る。そういう評価が必要かなと思う。○○ろう 重複支援施設や○○老人ホームとかは視聴覚障害特別加算というものがあ る。でも地域にはない。ケアマネージャーとか相談支援専門員とかヘルパー とかにはそういう加算はない。」 Ⅳ【 ろ う・ 難 聴 SWer を雇 用 する 事業所が少ない】 ①[ろう・難聴 SWer の資格を活かせる場 がない] 8 「障害を持っている SWer が専門職として働く場がきっちりと保障されていな い。例えば、保健所とか精神科病院とか公的な場所は障害者を雇う所がな い、専門の資格を持っている障害者を雇う考え方はない。」 ②[ろう・難聴者が 利用できる社会資源 が少ない] 12 「足りない。足りないという意味は、選択ができないということ。○○では ろう者の重複障害者の施設でいえば、○○だけ。ろう者が利用する施設は ここだけだから選べない。そこが一杯になったら行く場所がない。」 Ⅴ【 ろ う・ 難 聴 SWer が育つ環 境 の乏しさ】 ①[ろう・難聴 SWer が少ない] 2 「聞こえない SWer はいません。(聞こえない)相談員はいるけれども資格は 持っていない。他の支部も聴者ばかり。情報提供施設の相談員はほとんど 聴者ばかりです。」 ②[ろう・難聴者の 相 談 員や 資格取 得 者が少ない] 6 「支援する人の中で、聴覚障害者、当事者が少ない。ほとんど聴者、聞こえ る人が多い。私のように社会福祉士の資格を持っている聴覚障害者はまだ まだ少ないし力を発揮するのが難しいところが多い。まずは社会資源という 前に私たちの数が圧倒的に少なすぎるかなあと思います。」 Ⅵ【 聴 覚 障 害 SW の周知のなさ】 ①[専門的な技術や 理論が進展していな い] 3 「なぜ聴覚障害のある SWer が必要なのかということを社会に対して説明で きる理論も必要かなと思います。実践も勿論要るし、相談支援、ろう・難 聴者の支援と聴者の支援との違いは何かということについて研究が要るの かなあと思います。」 ②[ろう・難聴者に 必要な支援ニーズが 整理されていない] 4 「身体障害者としてまとめて出てしまう。だから聴覚障害者の実態がどうか とか困っていることは何かとか知りたいのにそれがない。市町村の障害者 福祉計画、それを読めばわかると思うんだけれど聴覚障害者の調査データ がほとんどないので。」 以下に、生成された 6 つのカテゴリーについて、説明する。 Ⅰ【ろう・難聴者に対する理解不足・誤解・偏見】 インタビュー調査(以下、調査という。)を通じて、ろう・難聴者に対する➀[無理解・誤 解]が強く存在していることが明らかになった。特に社会福祉専門職や市町村における障害 者支援課等、行政の担当者及び就労先の企業担当者にも理解不足や誤解・偏見が多くみられ た。ろう・難聴者は、外見からろう・難聴ということが簡単に識別できず、聴者の立場から みると、介助やサポートの必要性がとらえにくく、聴者で手話ができる人でも話しかけや会 話に困難を伴う場合が多い。 ろう教育には、「9 歳の壁」ということばがある。「9 歳の壁」について、脇中(2006)は、 「一般的には小学校高学年の学習が困難な現象が『9 歳の壁』とされている。本質的には学力

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に結びついた言語能力といわれている学習言語(CALP)の世界に移行できない現象であると 考えられる。また、『9 歳の壁』は、会話的な能力である生活言語(BICS)の貧弱さによるも のと学習言語(CALP)の未獲得によるものがあると考えられる。」と述べている。手話を使 わない聴者家族の中で育った幼児は、乳幼児期に大人の手話や非言語的な身振りや表情の動 きなどを見て自然と身につく生活言語(BICS)がしっかり習得できない。その後も学習言語 (CALP)の世界に移行することが難しくなる。 手話が通じない環境で自分の訴えていることがなかなか理解してもらえない状況におい て、ろう・難聴者についての知識を持たない専門家は、知的障害や精神障害と誤解してしま う可能性がある。またインタビューでの発言では行政担当者など、支援関係者に理解しても らうことに多くの時間を割かなければならないということも述べている。 次に、②[言語的マイノリティに対する他者化]についてコード化された数は 2 つであっ たが、筆者は特に必要と考えサブカテゴリーとして生成した。表 3- Ⅰ - ②の発言は、地域 のまちづくり協議会に参加している調査協力者の発言である。「この状況では、どちらかか ら新たな働きかけがない限り今後も進展しない関係が続くと思う」と調査協力者は述べてい る。他の発言では、社会福祉士養成授業のグループワークで、聴者たちばかりで話が盛り上 がる。疎外感を感じているという発言もあった。 「他者化」とは、言語的マイノリティであるろう・難聴者に対して、当事者ではない人々 がその集団をひとくくりでとらえ、単純にカテゴリー化してしまうこと、その集団に存在す る一人ひとり(個人)の個別性を理解することができていないために、それ以上の理解や関 係が進展しない状況である。田中(2018)は、他者化について、「ある特定のカテゴリーに 属する『彼ら』と、『われわれ』(in-group)の間に線引きをし、『彼ら』を異質の世界の住人 として遠ざけたり、一方的に回収・同化させようとする心性、態度、行為」と操作的に定義 したうえで、知的障害者の『他者化の事実』の様相を確認しておきたい」と述べている。田 中は、知的障害者の「他者化の事実」の様相を述べているが、本研究でいうところの言語的 マイノリティであるろう・難聴者の場合も同じことが言えると考える。 ③[オーディズム]とは、聞こえないことを損傷としてとらえ、聴者社会への同化を迫る 聴能主義のことをいう。Lane,H(1999)(=2007 長瀬)は、「聴能主義とはろう者社会を支配 し、再構成し、ろう者社会に権力を行使する聴者の方法である。これに含まれるのは、ろう学 校、ろうの大人の研修プログラムの運営者、ろう者のカウンセリングやろう・リハビリテー ションの専門家、ろうの子ども・大人を対象にしている教員、通訳者、一部のオーディオロ ジスト、言語療法士、耳科医、心理学者、司書、研究者、SWer、補聴器の専門家である。」と 専門職の中にも存在していることを述べている。ろう・難聴者は聴者社会で生きていくため には聴者社会に合わせる努力が必要であるという考え方である。このような考え方によって 引き起こされる不都合に調査協力者も遭遇している。 表 3- Ⅰ - ③の発言は専門職団体の事務局を訪ねた時の事務局員の様子を述べたものであ

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り、ろう・難聴者に専門職が務まるのかといった態度であった。すべての専門職がこのよう な態度や考えを持っているわけではないが、社会福祉の専門職でも偏見を持った対応を取っ ていることがあることがわかった。また相談員の名刺を渡しても、何か疑っているような態 度を表したり、相談員や組織の責任ある立場は聴者が行うものだという考え方があると、調 査協力者の発言にみられた。 Ⅱ【ろう・難聴 SWer に対する情報保障の不完全さ】 ①[手話通訳等調整に苦労する]について、ろう・難聴 SWer がクライアントを訪問した 場合、聴者の相談員であれば、何か確認したいときは電話をしてその場で解決できるが、一 旦事務所に帰ってから連絡を取らなければならないこともジレンマとなっていることわかっ た。また、手話通訳者は依頼者のろう・難聴者の通訳はするが、ろう・難聴 SWer の通訳は しないことがある。市町村によって対応方法に違いはあるが、ろう・難聴 SWer の通訳をし ないことは、結局は依頼者のろう・難聴者にも不利益が生じていることになる。ろう・難聴 SWerが仕事上で、法律や規定に左右されず自由に手話通訳者を使いたいと思えば、原則自費 で調達しなければならない。 ②[人材不足、専門性に欠ける]について、インタビューの発言では、社会福祉や法律な どの専門的な知識を持った手話通訳者が少ないことを述べている。また、ハローワークや基 幹病院といった公共施設には、2016 年 4 月から施行された障害者差別解消法の影響で、手話 通訳者がようやく少しずつ配置されるようになってきているが、まだ十分とはいえない状況 である。 ③[間違った考え方]について、手話通訳者の役割には、手話通訳者が所属する部署、例 えば障害福祉課であれば障害福祉課全体で、ろう・難聴者それぞれの特性や情報が共有され るために「繋ぐ」という役割も必要である。しかし、手話通訳者は他の職務も兼任して多忙 であることなどが理由で、自分一人ですべてを担ってしまい、ろう・難聴者の実態を組織や 地域で共有することができていないという状況がインタビューの発言から読み取れる。また 一般社団法人全国手話通訳問題研究会(2015)の調査報告では「職場での研修回数も年間1 ∼ 2.5 回が半数を占めており、多いとはいえない状況である」とも述べており、手話通訳者 への研修が十分ではないことが明らかになっている。インタビューでは、手話通訳者として の倫理や対人援助職としての学びが足らない人もいるという発言や手話通訳者がろう・難聴 SWerに確認せずに関係者と直接やり取りしてしまうなど、ろう・難聴者への情報提供を省い てしまうケースもあることがわかった。 ④[IT 技術や通信サービス活用が進んでいない]について、スマートフォンやタブレット で使用可能な音声アプリ「UD トーク」と「電話リレーサービス」の活用状況について、調 査協力者へインタビューを行った。「UD トーク」等は誤変換がまだ多いことや予算的な面で 導入できていないという発言があった。電話リレーサービスについては、相談業務での個人

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情報順守の難しさや手話でやり取りした場合の読み違えの恐れ、システム自体の使いにくさ やろう・難聴者への理解や普及がまだできていないという課題を述べている。 Ⅲ【ろう・難聴 SWer が働くための制度や予算のなさ】 ①[ろう・難聴 SWer が働くための手話通訳等の公的補助がない]及び②[ろう・難聴者 の相談支援に必要な制度が整っていない]について、インタビューでは制度や予算がないた めに活動が困難になっている発言が多く見られた。ろう・難聴 SWer が自分の仕事のために、 市町村が実施する地域支援事業の意思疎通支援事業(手話通訳者派遣)を使うことはできな い。ろう・難聴 SWer が聴者のクライエント・関係者との面談や調整などの時には手話通訳 者が必要であるが、自費で調達しなければならない。 ALS患者の舩後靖彦参議院議員は、障害者が仕事を持つことこそ自立支援だと訴えたが、 現在の国の障害福祉制度においては、仕事や学業にヘルパーの福祉サービスは基本的には受 けることができない。国は就労中の障害者の支援については、「通勤、営業活動等の経済活動 に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除く。」として認め ていない(厚生労働省 2006)。 また障害福祉サービスにおいて、強度行動障害者支援には、条件に適合した事業所には行 動障害支援体制加算がつく。ろう・難聴者支援においても、ろう・難聴児者支援体制加算の ような制度を作ることが望まれるという発言があった。その他、ろう・難聴者が自分で理解 し意思決定できるために、ろう難聴者のことを理解し国家資格を持った SWer が繰り返し情 報提供していくというように、実際に障害福祉サービスを利用する前段階の相談に多くの時 間と労力が必要だという発言があった。それらが障害者基幹及び委託相談支援事業所だけで は対応できていないという発言が多数みられた。 Ⅳ【ろう・難聴 SWer を雇用する事業所が少ない】 調査で①[ろう・難聴 SWer が資格を活かせる場がない] 及び②[ろう・難聴者が利用でき る社会資源が少ない]ことが改めて確認できた。国家資格を取得したろう・難聴者であって も、SW 専門職として雇用される機会は非常に少ない。また雇用されたとしても介護職員や 就労支援事業所などの支援員に就いて、SW 職ではない場合が多い。また、ろう・難聴者に 対応できる障害福祉サービス事業所や医療機関など、社会資源は非常に少ないし、施設や地 域の相談できる場所も少ないと訴えている。ろう・難聴者は選択できるだけの社会資源がな いということが大きな課題である。また精神障害を重複するろう・難聴者を専門的に受け入 れ可能な医療機関やリハビリテーション機関がほとんどないということもインタビューで明 らかになった。

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Ⅴ【ろう・難聴 SWer が育つ環境の乏しさ】 調査でまず国家資格を持っている①[ろう・難聴 SWer が少ない] そして②[ろう・難聴相 談員や資格取得者が少ない]ことがわかった。聴覚障害者情報提供施設は全国に 2019 年 8 月 1日現在で 52 箇所あるが、実態調査は行われていないのではっきりとした数字は不明だが、 ろう・難聴 SWer がいる施設は非常に少ない。インタビューの発言で、聴覚障害者情報提供 施設や市町村職員にろう・難聴者である当事者相談員がほとんどいない、そして、ろう・難 聴者の相談員で国家資格を取得している相談員の割合は、まだ非常に少ないと述べている。 原(2015)は、相談援助をおこなう、聴者を含むろうあ者相談員のうち、社会福祉士取得者 はわずかであり、その専門性についての担保は定かでないと国家資格取得者の少なさを述べ ている。高山(2017)は、日本の SWer 養成課程における問題として、ろう者を言語的文化 的少数者として捉えたうえでの教育を実施している教育機関やトレーニングプログラムはほ とんどなく、国家資格は基本的には書記日本語による国家試験を受けなければならないので、 日本語が第一言語でないろう者や日本語を不得手とする難聴者にとっては、国家試験におけ る日本語の壁は大きいと述べている。ろう・難聴者にとって、国家資格を取得するための大 学や通信制教育機関での情報保障についても大きな壁になっている。 Ⅵ【聴覚障害 SW の周知のなさ】 調査では①[専門的な技術や理論が進展していない]及び②[ろう・難聴者に必要な支援 ニーズが整理されていない]について、ろう・難聴者と聴者の支援技術についての違いは何 か、ろう・難聴 SWer に必要とされる能力は何か、またろう・難聴者支援において、今の制 度では足りないことは何かということを具体的に社会に対して示していく必要があるという 発言がみられた。 以上、生成した 6 つのカテゴリーについて、その分析結果をもとに調査協力者の発言をも とに調査結果を説明した。

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5.考察

4.で説明した 6 つのカテゴリーについての分析結果をもとにして、ろう・難聴 SWer が直 面している障壁についての調査結果図を作成した。(図 2) (図 2)ろう・難聴 SWer が直面している障壁 調査結果では、ろう・難聴 SWer が地域で相談支援活動を行う時に直面する障壁について、 カテゴリーⅠがもっとも大きなウエイトを占めていることが明らかになった。そして他のカ テゴリーに対しても影響を与えていることが考えられる。カテゴリーⅠがそれぞれのカテゴ リーに対して、影響を与えていることは何かについて、次に説明する。 調査結果のカテゴリーⅡのサブカテゴリー[間違った考え方に]は、手話通訳者がクライ エントの主体性の尊重や倫理綱領の順守などの手話通訳者の基本的な価値 ・ 倫理を基盤にし た実践に問題があるケースがみられるとともに、ろう・難聴者に対しての理解不足・誤解・ 偏見があると思われるケースがみられた。 カテゴリーⅢについて、ろう・難聴 SWer が働くための情報保障が認められていないこと やろう・難聴者の相談支援や居宅サービスには加算がつかないことなどは、国や地方公共団 体等の政策担当者に、聴覚障害 SW は特別な知識や技能が必要であることが理解されていな いからである。また市町村事業である移動支援サービスは、聴覚障害者手帳を持っているだ けでは利用が認められていない。聞こえないだけでは移動支援サービスは必要ないというこ

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とであるが、Ⅰ - ①[無理解・誤解]で筆者が述べたように「9 歳の壁」によって、日本語 がしっかり習得できなかったろう・難聴者は慣れないところへ外出する場合は情報を正確に 入手することが困難である。その結果一人で外出した経験も少ない。例えば服や靴などの日 用品も家族が代わりに買い与えたりしている場合は、本人が一人で店に行ってサイズを合わ せたり、店員と相談して商品を決めるという経験もできていない。そのようなろう・難聴者 の自立のためには移動支援サービスが必要である。手話通訳などの意思疎通支援はあくまで もコミュニケーションの支援であり、買い物などでは利用できない。 カテゴリーⅣについて、地方公共団体や保健所、精神科病院などでろう・難聴 SWer の雇 用がない、また重複障害のあるろう・難聴者が利用できる社会資源が少ない状況は、ろう・ 難聴者支援に対する社会資源の必要性が十分に理解されていないことが原因であると思われ る。国家資格を取得して、専門職として働きたいと希望しても、ろう・難聴者を SW 専門職 として雇用する事業所がほとんどないために、やむをえず独立型の事務所を模索している調 査協力者もいた。 カテゴリーⅤについて、ろう・難聴者が国家資格を取得するための教育機関での情報保障 が十分でなかったり、ろう・難聴者のろうあ者相談員を設置している地方公共団体が非常に 少ないことなどは、情報保障に対する理解不足やろう・難聴者の相談支援にろう・難聴 SWer の必要性が認識されていないことが原因と考える。 カテゴリーⅥについて、ろう・難聴者の実態調査データが不足していることや、聴覚障害 SWを行うにあたってどのような制度・政策が必要なのかの理解が深まっていないことが原 因として挙げられる。 野澤(2001)は、ろう・難聴者支援に必要な専門知識と技術について、1、 ろう・難聴者の 主体性、自己決定を尊重し支援する姿勢 2、 相手に応じた手話表現、読み取りの技術、筆談 の技術、身振りの技術 3、 ろう者のおかれてきた歴史、社会環境、現状に精通していること 4、 ろう者の考え方の特徴、行動パターンを受容していて、相談経験をつんでいること 5、 ろ う・難聴者関係の社会資源、補装具の使い方、日常生活用具等に精通していること 6、 他機 関に協力者を持っていること 7、 ろう・難聴者集団あるいは仲間の研究会等に参加して、ろ う・難聴者と行動を共にできること、を挙げている。また、ろう・難聴 SWer に必要とされ る能力に、カルチュラル・コンピテンシー(cultural competency)(以下、C.C. という)があ ると言われている。高山(2017)は「ろう者に関わる SW においては、ろう者学に関連する 各種知識とそれを実践に応用できる、つまり文化的対応能力としての C.C. が求められてい る。国際 SWer 連盟においても、C.C. の重要性が議論されており、SWer にとっては必須の能 力である。そしてアメリカでは、C.C. は全米 SWer 協会の実践倫理規範として定められてい たり、ギャローデット大学では、C.C. とろう者学の視点を取り入れた SW 教育プログラムが 構成されている」と C.C. の必要性について紹介している。また、原(2015)もろう・難聴者 の支援に必要な能力について、7 つの独自のものがあると述べている「①多様な存在である

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聴覚障害者の理解 ②クライエントに応じたコミュニケーション・スキル ③幅広い相談内容 への対応力 ④聴覚障害者のための制度に関する知識 ⑤聴覚障害者のための社会資源に関す る知識 ⑥ IT 機器の活用術 ⑦聴覚障害に関するアドボカシー」である。このような聴覚障害 SWについての研究が今後は進展して、一つの専門領域として教育プログラムに構成されて、 ろう・難聴者の相談支援活動につながっていくことが望まれる。 カテゴリーⅠは、①聴覚障害自体が多様でわかりにくいこと②社会福祉専門職の教育プロ グラムに聴覚障害についてのカリキュラムや聴覚障害 SW に関するトレーニングプログラム が皆無であること③オーディズムが依然として社会に存在していることなどが原因であるこ とが考えられる。以上の調査結果から、Ⅰがその他の 5 つのカテゴリーに影響を与えている ことが考えられる。 次に、カテゴリーⅤとカテゴリーⅥがカテゴリーⅠの解消が進まない要因になっていると 考えられる。その理由について、次に説明する。 カテゴリーⅤについては、地域で活動するろう・難聴 SWer が育つ環境が整えられて、ろ う・難聴者のロールモデルとして活躍するろう ・ 難聴者が増えることは、ろう・難聴者への 理解も促進されると考える。 カテゴリーⅥについて、聴覚障害 SW が周知されて、行政や専門職団体などにろう・難聴 者の支援には欠かすことのできない独自の相談支援における C.C. の必要性も理解されるこ とによって、ろう・難聴 SWer への理解が深まり、ろう・難聴者への無理解や偏見も低減さ れると考えられる。 カテゴリーⅤとカテゴリーⅥの二つの障壁をなくして行くことの他に、【ろう・難聴者に 対する理解不足・誤解・偏見】を解消していくためには、どのようなことが必要なのか。偏 見やスティグマを軽減していくためには、関わり(接触)の経験が有効であると言われてい る。加賀美(2012)は、「多文化しつつある日本における外国籍住民や留学生と日本人との異 文化接触を考えるうえで、『接触仮説』は重要な知見を提供してくれる。」と接触によって好 意的になるためには、表面的な接触より対等な地位で共通目標を目指す協働などが必要であ ると主張している。また山内(1996)は、障害者に対する偏見の解消について、「その偏見 の行動的側面への働きかけである相互作用による接触が有効である。」と相互作用の重要性を 論じている。これらの考え方を参考にすれば、ろう・難聴者に対する理解不足・誤解・偏見 を解消するためには、地域社会の人々が、ろう・難聴者について知識を得ること、ろう・難 聴者とのかかわりの経験を得ることは有効であると思われる。 以上のことから、ろう・難聴 SWer が直面している障壁を超えるための関係図(図 3)を作 成した。

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(図 3)直面している障壁を超える関係図 ろう・難聴 SWer が地域で自律した活動を行うことができるためには、聴者が多数を占め る地域社会の無理解や偏見をなくすといった、聴者社会のみに焦点をあてていくことで解決 するのだろうか。ろう・難聴 SWer が直面する障壁について、平川(2010)は部落問題の差 別と被差別の関係を例に挙げ、次のように論じている。「従来、差別問題の議論にあっては、 ほとんどつねに差別側に焦点が合わせられたうえで、それがもつ偏見や差別意識などについ て論じられてきた。そのさい強調されたのは『差別があるのは、差別する者がいるからであ る』という見解であった」という差別する側が変われば解決するという考え方である。藤田 (1987)は、部落民と部落外の人々が対等の立場に立った上で、協力しながら差別をなくす 努力をすることが必要だとして、そのことについて「両側から超える」という言葉で表現し ている。 ろう・難聴 SWer も今後は地域で、積極的に活動を行い、ろう・難聴者への理解不足・誤 解・偏見をなくしていくことが必要である。そのためには、聴者の無理解や偏見について論 じていくだけではなく、ろう・難聴者側から課題を明らかにしたうえで、互いに対等の立場 に立ったうえで、協働して理解不足・誤解・偏見をなくす努力をすることが必要であり、そ れは「両側から超える」ということになると考える。福祉・医療・教育の専門職へろう・難 聴者理解のための働きかけをろう・難聴 SWer から働きかけていくことが必要と考える。ろ う・難聴 SWer が地域で相談支援活動を積み重ねることと共に、地域の自立支援協議会や専 門職団体の活動を積極的に行い、地域での福祉課題に地域住民や専門職と対等な関係で取り 組むことなどは、カテゴリーⅠ【ろう ・ 難聴者に対する理解不足 ・ 誤解 ・ 偏見】を低減する ことに繋がると考える。しかし、ろう・難聴 SWer が直面している障壁があるため、上記に 述べたような地域での活動を独自で行うことは簡単なことではない。それには聴覚障害者団 体や地域の聴者 SWer との連携や協働を模索することや社会福祉士会などの専門職団体で主 体的に活動し、ろう・難聴 SWer の意見を反映させていくことが必要と思われる。 ろう・難聴 SWer が専門職団体組織の活動に参画し、ろう・難聴者を文化的な多様性の一

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翼を担う者として認知させること、ろう・難聴者会員の情報保障や聴覚障害 SW の周知など を会と協働して推進していくこと、行政や日本 SW 教育学校連盟へろう・難聴者学生への情 報保障や聴覚障害 SW についての教育プログラム策定を働きかけていくことなどが考えられ る。 6.本研究の意義と今後の課題 国家資格を取得して、社会福祉の現場で相談支援活動を行うろう・難聴 SWer が直面して いる課題について、教育現場や勤務先での情報保障の不完全さや社会資源の乏しさ、就職先 の確保の困難さなどは従来から指摘されていたことであったが、実際に相談支援活動を行っ ている SWer へインタビューを行い、彼らが SW を行うにあたってどのような障壁に直面して いるのかを明らかにした。特にろう ・ 難聴者に対する理解不足 ・ 誤解 ・ 偏見が現在において も大きなウエイトを占めていること、カテゴリーが互いに影響していることが明らかになっ た。 以上の調査結果から、ろう・難聴 SWer が直面している障壁を乗りこえるための方法を考 えた場合、解決には次の 4 点が重要であると提言できる。(A)専門職団体において、ろう・ 難聴者 SWer が主体的に活動することができるために、聴覚障害 SW 研修の開催や情報保障な どの環境を整備すること(B)地方公共団体等で、ろう・難聴 SWer や手話通訳者の雇用を増 やし、ろう・難聴者への理解や手話通訳者の専門性を高める環境を作ること(C)ろう・難 聴者児が利用できる社会資源を増やしていくこと(D)ITや通信技術向上と利用の拡大で ある。 (A)については、まず専門職への理解を深めることが何より求められると考える。専門職 団体における研修や会議での情報保障はもちろんのこと、聴覚障害 SW を一つの専門領域と して会員対象に研修を行っていくことや社会福祉士学会などでろう・難聴 SWer が発表して いくことが期待される。(B)については、地方公共団体等でろう・難聴 SWer や手話通訳者 が雇用されて、ろう・難聴者への理解や手話通訳者の専門性を高めることによって、ろう・ 難聴者クライエントの実態についての情報を地方公共団体などが正確に共有できて理解が促 進されることになる。(C)について、全日本ろうあ連盟(2016)は全国のろう・難聴者児 が利用できる事業所について調査しているが、種別でみると、例えば最も多い就労継続 B 型 事業で全国事業者数合計 10,214 ヵ所に対して 30 ヵ所(0.29%)であり、グループホームで は、7,219 ヵ所に対して 10 か所(0.14%)、障害児放課後デイサービスでは、9,385 ヵ所に対 して 7 ヵ所(0.07%)で聴覚障害児・者支援事業所がいかに少ないかがわかる。(厚生労働 省 2017) また特別養護老人ホーム等、高齢者が入所できる介護老人福祉施設数では、全体 では人口 4,454 人に 1 施設、そして視覚障害者対象の施設では、人口 2,137 人に 1 施設であ るのに対して、聴覚・言語障害者対象の施設は、25,777 人に 1 施設で非常に少ない(倉谷: 2016)。ろう・難聴者児が利用できる社会資源を増やしていくことは、ろう・難聴 SWer の雇

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用も増大することにつながる。 (D)については、UD トークなどのIT技術が今後向上して行くことが必要であるが、松 崎(2017)は、大学院の授業場面では教員や他の受講生も一定の質で音声入力することや、 専門の修正者が専門的な技術を身につけていることの必要性を述べている。ろう・難聴 SWer が働く事業所で活用するには事業所の理解や協力が必要となってくる。また電話リレーサー ビスの活用については、インタビューでは、電話リレーサービスを相談業務で使用すること については概ね否定的であった。理由は「秘密保持」の問題や「手話の読み取り」で間違い がおこりやすいなどの理由があった。しかし電話リレーサービスの利用内容が事務的な調整 や訪問時に電話で確認したい時などには活用できると考える。電話リレーサービスは、通信 サービスにおける格差解消方法であり、聴者側も電話リレーサービスを使って、ろう者に電 話をかけることに慣れるということが必要である。主要国首脳会議(G7)に加わっている 7 か国の中で、公的制度として電話リレーサービスを実施していないのは日本のみで、現在の 電話リレーサービスの課題点は、①公的サービスとして実施されていない。② 24 時間の利用 ではない。③フリーダイヤルや緊急通報など電話できない番号がある。④セキュリティの厳 しいネットワーク環境(職場など)では利用できないケースがある。⑤聴覚障害ユーザーへ の着信は可能であるが、手順が煩雑である。などである。尚、電話リレーサービス法案「聴 覚障害者等による電話の利用の円滑化法案」が 2020 年通常国会で成立し、2021 年度中の開 始に向けて公的制度としての運用が期待されているところである。 以上のようにろう・難聴 SWer が直面している障壁を乗りこえるための方法を述べたが、 それらを実現させるためには、ろう・難聴 SWer は自らがソーシャルアクションの担い手と なっていかなければならない場面が多いことが考えられる。Sheridan ら(2010)は、「ろう・ 難聴者であって SW の職に就く人の場合、ろう・難聴 SWer 自らが変革の担い手とならざる をえないような経験をする人が増える傾向にある。ろう・難聴 SWer が困難を克服するため には、SW 専門職団体や SW 教育プログラム、政策策定者及びろう難聴 SWer が連携して行動 を起こす必要がある。」と述べている。ろう・難聴 SWer が地域で、主体となって自律した活 動を行っていくためには、Sheridan らが指摘しているように SW 専門職団体や日本ソーシャ ルワーク教育学校連盟等、行政機関とろう・難聴 SWer が互いに対等の立場に立って、協働 して取り組むことが課題であると考える。そのためにはオーディズムを排除した多様な社会 が構築される必要がある。 本研究においては、ろう・難聴 SWer の人数、国家資格取得人数や就労状況なども調査資料 がなく不明であった。本研究では手話を第一言語としているろう・難聴 SWer にインタビュー を行ったが、手話を第一言語としていない難聴者や中途失聴者の SWer を対象にしていない。 今後は、手話を第一言語としていない SWer も含めた研究も今後の課題としたい。

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謝辞 本研究を実施するにあたり,貴重な時間を割いてインタビューにご協力くださった 7名の SWer の皆様に,心よりお礼申し上げます. 本論文は、2019 年 1 月に四天王寺大学大学院人文社会学研究科に提出した修士論文を加筆 修正したものである。尚、本研究は日本社会福祉学会第 67 回秋季大会でポスター発表を行っ た。 (注釈) 1聴力の程度差はあるが耳が聞こえないまたは聞こえにくい人びとを、「ろう・難聴者」と表記する。ま た特定の聞こえない人を説明する場合は、その文脈に応じた表記をすることとする。例えば、ろう者と は、手話を第一言語として使用し、デフコミュニティに属する者を指すが、聴力レベルによる分類では ないため、難聴者でもろう者としてのアイデンティティを有していることもある。このような場合はろ う者とする。 2聞こえる人々に関する表記については、現在のところ、「聴者」や「健聴者」が使われているが、本研 究では「聴者」と記すこととする。また引用部分についてはそのままの表現方法で表記する。 3地域で自律した活動とは、SWer が主に SW を行う地域において、自分の仕事に関する判断を自らの責 任で行うことができている活動をいう。 (文献) 安藤豊喜(1991)「聴覚障害と聴覚障害者」新しい聴覚障害者像を求めて編集委員会編『新しい聴覚障害 者像を求めて』㈶全日本聾唖連盟出版局 . 原順子(2015)『聴覚障害者へのソーシャルワーク』明石書店 . 平川茂(2010)「藤田敬一の「両側から超える」構想を再考する−差別・被差別関係論の展開に向けて−」 『四天王寺大学紀要』50、 5-19. 藤田(1987)『同和はこわい考−地対協を批判する−』阿吽社 . 一般財団法人全日本ろうあ連盟(2008)『聴覚障害者の相談の資格・認定に関する調査研究及び聴覚障害 者相談支援へのケアマネジメント等の研修事業報告書』一般財団法人全日本ろうあ連盟 . 一般財団法人全日本ろうあ連盟(2016)『地域で生きる 拠点を創る』一般財団法人全日本ろうあ連盟 . 一般財団法人全日本ろうあ連盟(2017)「2017 年度電話リレーサービス普及啓発推進事業報告書」. 一般社団法人全国手話通訳問題研究会(2015)「雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態調査 報告書」. 加賀美常美代(2012)「グローバル社会における多様性と偏見」加賀美常美代 ・ 横田雅弘 ・ 坪井健 ・ 工藤 和宏編『多文化社会の偏見・差別』明石書店 . 木村晴美(2009)『ろう者の世界−続・日本手話とろう文化−』生活書院 . 公 益 財 団 法 人 社 会 福 祉 振 興・ 試 験 セ ン タ ー HP(http://www.sssc.or.jp/touroku/tourokusya. html,2020.10.17). 厚生労働省(2006)「障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービス等及び基準該当障害福祉サービス に要する費用の額の算定に関する基準告示第 523 号」. 厚生労働省(2016)『平成 28 年生活のしづらさなどに関する調査』厚生労働省 .

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厚生労働省(2017)「平成 29 年介護サービス施設・事業所調査の概況」 (https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service17/index.html,2019.7.1).

倉谷慶子(2016)「日本社会福祉士会 第 13 回独立型社会福祉士全国研究集会 実践報告」公益社団法人日 本社会福祉士会独立型社会福祉士委員会 .

Lane,H.(1999) The Mask of Benevolence:Disabling the Deaf Community (= 2007、 長瀬 修訳『善意の仮面 ――聴能主義とろう文化の闘い』現代書館 .)

松 丈(2017)「音声認識アプリを活用した支援システムの構築に関する検討―少人数討論型授業を事例 に―」『宮城教育大学情報処理センター研究紀要』24,3-8.

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Current Status and Issues of Deaf and Hard-of-Hearing Social Workers:

How can We Support Their Autonomous and Practical Community Activity

Engagement?

Kouhei SAIMON

This study aims to clarify the difficulties that deaf and hard-of-hearing social workers who are qualified in Social welfare or Mental Health and Welfare face. Further, it outlines how they could be better supported to engage in essential autonomous and practical community activities. Semi-structured interviews were conducted with seven deaf and hard-of-hearing social workers who have social work degrees. The results indicate six categories of difficulties: Ⅰ【lack of understanding, misunderstanding, and prejudice toward deaf and hard-of-hearing people 】,Ⅱ【lack of guaranteed information accessibility for deaf people】,Ⅲ【lack of efficient systems and budgets supporting deaf and hard of hearing social workers to work like hearing social workers】, Ⅳ【lack of business establishments that employ deaf and hard-of-hearing social workers】,Ⅴ 【poor environment for professional growth of deaf and hard-of-hearing social workers】, and Ⅵ【lack of awareness about social work as a career option for deaf and hard-of-hearing individuals】. These issues are interrelated and have a significant negative effect on deaf and hard-of-hearing social workers today.

参照

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