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判例法理の立法化(PDF:111KB)

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日本労働研究雑誌 1 裁判所の役割は,本来「法律上の争訟を裁判す ること」(裁判所法 3 条)にある。そのために裁判 所は,まずは一般的な法原則や判断枠組みを示 し,それに認定事実を当てはめることにより結論 を導くという,3 段論法を取ることが通例であ る。そして,そのような一般的判断枠組みが繰り 返され,定着したと認識されるようになった場 合,そのような判断枠組みを「判例」ないしは 「判例法理」と呼んでいる(本来,判例中心の法体 系とされる英米法における「判例」の理解との異同 については,ここでは触れない)。 しかし,裁判所は,決して個々の紛争の処理を 離れて判例法理の形成を目的とするものはなく, 裁判所自身が意図的に判例法理を構築し,体系化 することもない。判例法理とは,あくまで多数の 判例の蓄積により,結果として認識されるものに ほかならない。 このような判例法理について,労働法の分野で は,このところそれを立法化しようとする動きが 顕著である。その最初の例が,2003 年に新設さ れた労基法 18 条の 2 による解雇権濫用法理の立 法化であり,この規定は,2007 年の労働契約法 制定以降は同法 16 条となった。また,同法の制 定に際しては,もう一つの就業規則に関する判例 法理が立法化された。そして,2012 年の労働契 約法改正では,有期労働契約の更新拒絶に解雇権 濫用法理を類推適用するという判例法理が立法化 された。 たしかに,確立した判例法理であると言われれ ば,その内容自体について異を唱えることは難し い。しかし,それを立法化するとなると,そうと ばかりは言っていられない。 もともと判例法理とは,個別事案の特色や社会 的状況を反映して流動的で柔軟なものであり,不 断に変化・発展する性質を有している。判例法理 の立法化とは,いわば判例法理の固定化であり, 判例の持つそのような特徴を失わせることにな る。判例が立法化された途端,裁判所は,当該条 文の解釈という方法でしか事案の処理ができない ことになる。 また,判例法理の立法化に当たって,何をどの ように確立した判例法理として把握するのか,そ のことをどのように条文として起草するのかも問 題である。一例として,有期労働契約の更新拒絶 への解雇権濫用法理の類推適用という判例法理を 立法化したとされる労働契約法 19 条が,同法 16 条の解雇規定の類推ではなく,労働者の申込みと 使用者による承諾のみなしについて定め,しか も,これまで判例が問題としてきた更新拒絶と一 般の解雇の濫用評価における「合理的差異」には 言及しなかったが,それは,立法による判例法理 の変更とも受け取られかねない。 さらに,判例の立法化とは,その反面で,立法 による独自の法原則や法制度の採用を放棄したこ とを意味する。解雇権濫用法理の立法化は,解雇 には正当事由が必要であるとする外国の立法とは 異質であり,就業規則法理の立法化は,立法自体 が使用者による一方的な労働条件変更権限を承認 したことになるだけでなく,ドイツのような労使 共同決定による労働条件決定や,フランスのよう な使用者による一方的労働条件決定の制限という 法制度とは一線を画するものとなった。 考えてみれば,わが国の労働法分野において判 例法理が重要な役割を果たしてきた背景には,多 様かつ流動的な労使紛争を処理するために,裁判 所としては一般的な法原則に依拠し,柔軟な対応 をせざるを得なかったという事情がある。そのこ とが,個別具体的な事案の処理にとっても最善の 方法であった。立法にとって必要なことは,むや みに判例法理を立法化することではなく,あくま で立法自体が明確な原理・原則を定めたうえ,そ の解釈・適用は裁判所に委ねることではないの か。その意味で,立法と判例の間の役割分化ない しは棲み分けこそが追求されるべきであろう。 (もり・せいご 一橋大学大学院法学研究科教授)

提 言

判例法理の立法化

盛  誠吾

参照

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