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㻌
Investigating Effect of Elementary School Organization
for Being Submitted a Request for a Leave
波 多 江 俊 介
Shunsuke Hatae
【 要 約】 本 稿 は 、 小 学 校 教 員 の 年 次 有 給 休 暇 取 得 の し や す さ が ど う い っ た 学 校 組 織 要 因 に よ っ て 規 定 さ れ る か に つ い て 分 析 す る 。 そ の 場 合 、 休 暇 取 得 を 促 す 管 理 職 の 働 き か け や 学 校 規 模 と い っ た 学 校 レ ベ ル の 諸 要 因 か ら 、 個 人 の 抱 え る 校 務 分 掌 負 担 と い っ た 個 人 レ ベ ル の も の ま で を 考 慮 し て 、 分 析 を 行 う 必 要 が あ る 。 精 神 疾 患 等 を 避 け る た め に も 、 休 暇 取 得 と 取 得 を 促 す 雰 囲 気 は 重 要 で あ る 。 そ こ で 本 稿 は 、 マ ル チ レ ベ ル 分 析 を 用 い て 、 学 校 レ ベ ル と 個 人 レ ベ ル の 双 方 か ら 、 年 休 取 得 の し や す さ に 関 係 の あ る 要 因 を 分 析 ・ 考 察 し た 。 結 果 か ら 、 管 理 職 へ の 相 談 し や す さ を 教 員 個 人 レ ベ ル で 感 じ て い る こ と に 加 え 、 学 校 組 織 の 雰 囲 気 と し て 管 理 職 へ の 相 談 し や す さ が あ る こ と が 重 要 と 結 論 付 け た 。 キ ー ワ ー ド: 年 次 有 給 休 暇 学 校 組 織 管 理 職1.問題の所在と本稿の目的
教員の精神疾患事由による病気休職者数が問題 視されており、文部科学省公開のデータによれば、 精神疾患事由による病気休職者数の推移はわずか に減少傾向にあるものの(表1)、依然として高 水準であるとされる 1。 表1:精神疾患による病気休職者数推移 年度 H20 H21 H22 H23 H24 人数 5,400 5,458 5,407 5,274 4,960 教員の負担を軽減するため、教育行政を中心に 定時退勤を奨励したり、校務支援システムの整備 や不要な書類の提出を省くといった事務負担の軽 減を図ったりする等の対策が採られている(波多 江 2012)。教員の病気休職に対しても、相談窓 口の設置等の措置が採られている。 過酷な勤務状況のために教員が精神疾患による 病気休職に陥ってしまうことは、「限られた人員 で職務を遂行する学校組織では、当該教員の職務 を補充する同僚の負荷が増大し、組織機能の停滞 を 招 く お そ れ も あ る ( 露 口 ・ 高 木 2014:82 頁)」ため、学校管理職にとってはまさにマネジ メントの問題(重要な学校経営課題)である。 なかには教員が追いつめられていく様が克明に 記された報告さえある(久冨・佐藤 2010)。あ る新採教員が追いつめられ自死に至ってしまった 事件に関する判例に関して(川人 2014)、休む ことへの恐怖心を抱えながら苦悶に陥っていく新 採教員と、一部その新採教員の指導力に問題があ 論 文 小学校教員の休暇取得に関する学校組織要因の分析 (波多江 俊介)- 2 - るとしつつもサポートや声かけを行っていった学 校側の認識とについて、ズレ(非対称性)が生じ ていたことが示されている(朝日新聞教育チーム 2011)。確かに教員個々の適切な距離間での自 律性については一定の意義が認められており(紅 林 2007)、そういった主体性や自律性を促しつ つ学校の組織的統合を可能にする組織(化)の在 り方が研究上・実践上において模索されてきた (例えば、佐古 2011)。しかし、本当はもっと 具体的な(物理的な)サポートをしたり、介入し たりすべきであったにもかかわらず、見過ごされ てきた部分はないだろうか。このように、教員の 自律性についてはその重要性を認めつつも、一方 でサポートが及ばない空隙が教員間に生じるおそ れも指摘しておかねばならない。 そういった空隙を埋めるために、教員間支援に おいて、教員間の継続的相互支援を生むための互 恵関係の重要性(谷口・田中 2011)が指摘され てきた。実際、バーンアウト抑制等にも同僚や学 校管理職からのソーシャルサポートが関連性を もっていることが示されているが(諏訪 2004)、 ソーシャルサポートそのものの効果は認められる ものの、個人の職務負担感や事務負担の抑制に対 してまでは寄与するといえないという結果も示さ れている(露口・高木 2014)。ソーシャルサ ポートは主に相談相手の有無(可否)で測定され ているが、サポートが得られるかは相手次第の側 面があるため、教員が所属する学校によっては、 サポートが得られない場合も存在する。学校ごと の実態を考慮した上で、早期発見・予防的視点で の深刻化に至る前の何らかの介入・働きかけをよ り広範に検討していく必要がある(高木 2011)。 本稿は先行研究の視点拡張を企図し、時間的・ 身体的に効果の見込める、休息の取りやすさにつ いて検討する。具体的には、教員の年次有給休暇 (以下、年休)の取りやすさについて検討する。 この点に着目する理由は、労働者の権利として認 められている年休を適切に取得・活用できること は、職務上の精神疾患による病気休職者の発生を 事前に抑制する手段として有効であり、検討に値 すると考えるためである。
2.調査デザイン
(1)調査対象と手続き 調査対象は、政令指定都市A市内の特別支援学 校を除く公立小学校の教員及び学校管理職である 2 。2013年6月に電子媒体で質問票を作成・送付 し、回収・分析を行った。配布は、A市内の公立 全小学校に対して行った。回収票数および回収率 は下記表2の通りである。 表2:調査票の回収数及び回収率 回収結果 回収票数 回収率 小学校 管理職 237 / 260 91.2% 教員 1,503 / 2,260 66.5% 合計 1,740 / 2,520 69.1% 分析にとって十分な回収率並びにサンプルサイ ズを確保できたものと考える。 (2)調査データ 調査項目は、調査プロジェクトチームのメン バーと、A市教育委員会企画課職員とで協議を行 い設定した。以下、分析に使用する項目について 説明する。なお、分析に用いる項目の中に、「学 校規模」や「学年内の学級数」、「学級内の児童 数」等についても尋ねている。例えば小規模校で は、校務分掌上の複数担当で仕事が多いことや年 休の取りづらさといった教員からの訴えが課題と して挙げられている(藤原 2014)。このように、 学校規模・所属学年の規模・学級規模等と年休取 得しやすさとに関連があることが見込まれるため、 分析に用いることとした。 ①被説明変数(目的変数) 項目は「年次休暇等がとりやすい環境である [年休の取りやすさ]」で、4点のリッカートス ケール(「4:その通りだと思う」~「1:思わ ない」)を用いて回答を求めている。 ②説明変数(個人レベルデータ) 項目「管理職に相談しやすい環境である」につ き、4点リッカートスケール(「4:その通りだ と思う」~「1:思わない」)を用いて回答を求 め、集団平均中心化(group-mean centering) - 80 - 九州情報大学研究論集 第17巻(2015年3月)を行っている[管理職への相談しやすさ]。 統制変数については、 [年齢](20~60歳代の 10年区間の5段階順序変数)、[補職ダミー](教 諭・講師=0、主幹教諭・指導教諭=1のダミー変 数)、[校務分掌ダミー](学級担任・専科=0、 教務主任・学年主任=1のダミー変数)を設定し た。さらに「学年内の児童数(0=担任無し、1= 20人以下、2=21~25人、3=26~30人、4=31~ 35人、5=36人以上)[学級規模] 3 」・「現在所 属している学年の学級数[学年規模]」・「教科等 の専科配置の有無(0=無し、1=有り)[専科配置 ダミー]」についても尋ねている。[学級規模]が大 きいほど教員の学級経営負担が大きいことが想定 されるが、それが年休取得しやすさとどういった 関係性にあるかを検討する。[学年規模]は、年次 有給休暇を取得する場合、同学年内の教員による カバーを教員が期待する可能性があり検討する必 要がある。厳密には「学年レベル」を設定すべき であるが、分析モデルが複雑になる事を避けるた め本稿では「教員個人の相談相手の数(代替要 員)」と位置づけ、個人レベルのデータとして用 いることとする。[専科配置ダミー]も同じく年休 取得時の代替要員という視点から、個人レベルと して投入している。 ③学校レベルデータ 各学校において、実際に学校長や副校長・教頭 が配慮をしているかについて尋ねるため、「現在 の学校では、病気などで休みがちな教員の状況を 把握したり、本人とのコミュニケーションを図っ たりしながら自ら相談に応じている」という項目 を設定し、4点のリッカートスケール(「4:そ の通りだと思う」~「1:思わない」)を用いて 管理職へ回答を求めている。校長と副校長・教頭 とでは意思決定・情報収集と役割が異なるため、 別々の項目として設定した([校長からのコミュ ニケーション]・[副校長・教頭からのコミュニ ケーション] 4 )。 また、「所属校の学級数[学校規模]」項目も分 析に用いる。さらに、学校レベルでの[管理職へ の相談しやすさ]も分析に用いている 5。 上記学校レベルのデータは全体平均でセンタリ ング(grand-mean centering)している。 ④その他 上記の①~③の変数に加え、レベル間交互作用 項を設定し、投入している。具体的には「管理職 への相談しやすさ×校長からのコミュニケーショ ン」・「管理職への相談しやすさ×副校長・教頭 からのコミュニケーション」・「管理職への相談 しやすさ×学校規模」の3つである。教員個人が 相談しやすさを感じており、管理職自身も所属校 の教員へ働きかけを行っていることでマッチング が生じる場合、どういった関係性が見られるかを 検討する。
3.分析結果
前節で提示したデータについて、記述統計量は 表3の通りである。 表3:記述統計量 項目 度数 M SD 年休の取りやすさ 1484 2.80 0.85 年齢 1499 2.84 1.21 補職ダミー 1476 0.05 0.22 校務分掌ダミー 1339 0.31 0.46 学級規模 1162 2.97 1.17 学年規模 1502 1.84 1.41 専科配置ダミー 1503 0.58 0.49 管理職への相談しや すさ 1489 3.26 0.70 校長からのコミュニ ケーション 1480 3.39 0.51 副校長・教頭からの コミュニケーション 1480 3.32 0.55 学校規模 1502 14.51 5.62 これらを用いて、ランダム切片モデルのマルチ レベル分析を行った。マルチレベル分析は、「教 員レベル」・「学校レベル」のようにデータの構 成がネストした階層的なものである場合に適した 分析方法である。推定方法は最尤法を用いている。 分析結果を表4に提示している 6 。 小学校教員の休暇取得に関する学校組織要因の分析 (波多江 俊介)〈論 文〉 - 4 - 表4:>年休の取りやすさ@を被説明変数とするマルチレベル分析結果 パラメータ 係数 標準誤差 切片 2.561 ** 0.140 教員レベル(個人レベル) 年齢 0.025 0.024 補職ダミー 0.572 0.311 校務分掌ダミー 0.052 0.065 専科配置ダミー -0.014 0.070 学級規模 -0.003 0.027 学年規模 0.062 0.041 管理職への相談しやすさ 0.239 ** 0.044 学校レベル(集団レベル) 管理職への相談しやすさ 0.341 ** 0.112 校長からのコミュニケーション 0.011 0.065 副校長・教頭からのコミュニケーション 0.172 ** 0.056 学校規模 -0.001 0.009 クロスレベル(個人レベル×集団レベル) 管理職への相談しやすさ×学校規模 0.019 * 0.009 管理職への相談しやすさ×校長からのコミュニケーション 0.165 * 0.084 管理職への相談しやすさ×副校長・教頭からのコミュニケーション -0.154 0.082 教員レベルの誤差 0.640 ** 0.031 学校レベルの誤差 0.027 0.015 ICC 0.040 -2 対数尤度 2235.576 AIC 2269.576 Note.
N
= 922(個人レベル)、127(集団レベル)、 **p<.01; *p<.05. - 82 - 九州情報大学研究論集 第17巻(2015年3月)〈論 文〉 表4:>年休の取りやすさ@を被説明変数とするマルチレベル分析結果 パラメータ 係数 標準誤差 切片 2.561 ** 0.140 教員レベル(個人レベル) 年齢 0.025 0.024 補職ダミー 0.572 0.311 校務分掌ダミー 0.052 0.065 専科配置ダミー -0.014 0.070 学級規模 -0.003 0.027 学年規模 0.062 0.041 管理職への相談しやすさ 0.239 ** 0.044 学校レベル(集団レベル) 管理職への相談しやすさ 0.341 ** 0.112 校長からのコミュニケーション 0.011 0.065 副校長・教頭からのコミュニケーション 0.172 ** 0.056 学校規模 -0.001 0.009 クロスレベル(個人レベル×集団レベル) 管理職への相談しやすさ×学校規模 0.019 * 0.009 管理職への相談しやすさ×校長からのコミュニケーション 0.165 * 0.084 管理職への相談しやすさ×副校長・教頭からのコミュニケーション -0.154 0.082 教員レベルの誤差 0.640 ** 0.031 学校レベルの誤差 0.027 0.015 ICC 0.040 -2 対数尤度 2235.576 AIC 2269.576 Note.
N
= 922(個人レベル)、127(集団レベル)、 **p<.01; *p<.05. 〈論 文〉 (1)分析結果表4に関して ①ICC数値について ICC(級内相関係数)を、本稿の分析モデルに 沿って説明する。ICCは、「集団レベルの分散/ (集団レベルの分散+個人レベルの分散)」の計 算式により算出され、その値は集団間(学校間) の分散がどの程度であるかのパーセンテージを示 していると捉えてよい。具体的な解釈としては、 このパーセンテージが高い場合は、学校間で年次 有給休暇取得のしやすさに小さくない差が存在す ることを示している。一方、パーセンテージが低 い場合には、学校間の差は大きくないことを示し ており、年次有給休暇取得のしやすさは学校間の 差ではなく、学校内の教員個人間の差によって説 明されることを示している。すなわち、各学校の 中で年次有給休暇取得しやすさを感じている教員 とそうでない教員が出現していると解釈できる。 表4の分析結果では、教員間の差([教員レベ ルの誤差])は有意であるが、学校間の差([学校 レベルの誤差])は有意ではなく、ICCは「0.040 (約4%)」と低い数値であるため、年次有給休 暇の取りやすさを感じていることの分散のほとん どは、学校内の教員個人間の差(約96%)によっ て説明される。つまり、年次有給休暇取得のしや すさは、学校間ではなく、学校内の教員間におけ るバラつきによって説明できると解釈できる 7 。 ②教員レベル(個人レベル)についての解釈 個人レベルに関して、被説明変数と[年齢]・[補 職 ダ ミ ー]・[校務分掌ダミー]・[専科配置ダ ミー]・[学級規模]・[学年規模]との間にはそれぞ れ有意な関係性が見られなかった。 [専科配置]により負担が軽減されることは想定 できるものの、配置があることで担任に空コマが 生じるわけではなく、実際に専科教員が担任の授 業を代替する際には担任は教室後方で授業観察や 補助に当たる。ゆえに、年休の取得しやすさその ものとは直接的な関係性が見られないと解釈でき よう。 [学年規模]に関しても、規模が大きいほど年休 取得時の代替要員として他クラス教員が担任に把 握されているものと想定していたが、有意な関係 性は見られなかった。職員室内では学年ごとに 「島」がけ形成されるような配置がなされるもの の、「学級王国」と言われるように、所属する学 年団にまで担任教員の意識が及んでいないものと 考えられる。 [学級規模]とも関連が見出されなかったが、も し被説明変数が業務負担等であれば関連が見出さ れたかもしれないが、年休取得のしやすさとの関 連が存在するとはいえないようである。同様に [年齢]・[補職ダミー]・[校務分掌ダミー]とも有意 な関連性が見出されなかったことから、「通常業 務負担」と「年休取得しやすさ」とは区分して今 後考察する必要があることが指摘できる。 個人レベルの中では、[管理職への相談しやす さ]との間に有意な関係性が見られた。教員個人 が学校管理職への相談しやすさを感じているほど、 年次有給休暇取得しやすさを感じていることが確 認された。 ③学校レベル(集団レベル)についての解釈 集団レベルに関しては、[管理職への相談しや すさ]・[副校長・教頭からのコミュニケーション] との間にそれぞれ有意な関係性が確認された。集 団レベルの[管理職への相談しやすさ]については、 学校管理職への相談しやすさを感じることのでき る学校の雰囲気を教員が認識していれば、年次有 給休暇取得しやすさを感じることができると解釈 できよう。[副校長・教頭からのコミュニケー ション]については、校長と一般教員をつなぐハ ブの役割をする副校長や教頭が、教員に対して働 きかけを行うことが、教員の年休取得しやすさに 関係すると考えられる。 他方、[校長からのコミュニケーション]・[学校 規模]との間にはそれぞれ有意な関係性は見られ なかった。情報収集の役割が期待される副校長や 教頭と異なり、意思決定者である校長からの働き かけは、教員の年休取得しやすさと関係があると はいえないようである。同様に[学校規模]につい ても、所属校の教員が多いからといえど、教員の 年休取得のしやすさにつながるとはいえないよう である。教員レベルの[学年規模]等のように、年 休取得のしやすさと代替要員の存在との間には関 小学校教員の休暇取得に関する学校組織要因の分析 (波多江 俊介)- 6 - 連があるとはいえないことが指摘できる。 ④クロスレベルについて レベル間交互作用項(クロスレベル)の結果に ついては、[管理職への相談しやすさ×学校規 模]・[管理職への相談しやすさ×校長からのコ ミュニケーション]との間に有意な関係性が見ら れた。 [学校規模]・[校長からのコミュニケー ション]のそれぞれ単独での関係性は見られな かったものの、レベル間交互作用項では関係性が 見られる分析結果となった。 学校規模との関係性については、管理職への相 談しやすさを教員が感じていれば、学校規模が大 きくなるほど年休取得しやすさを感じる傾向にあ るということである 8 。 校長からのコミュニケーションとの関係性につ いては、管理職への相談しやすさと校長からの働 きかけがマッチングした場合に、教員は年休取得 しやすさを感じる傾向にあると解釈できる。意思 決定権者である校長からの働きかけは、それ単独 では教員の年休取得しやすさに対して有効である とはいえず、管理職への相談しやすさを教員が感 じていてはじめて校長からの働きかけが年休取得 しやすさを後押しするメカニズムが確認できる。 つまり教員・校長間でのニーズと働きかけのマッ チングが重要であることが指摘できる。 他方、[管理職への相談しやすさ×副校長・教 頭からのコミュニケーション]は有意ではなかっ た。教員個人が管理職への相談しやすさを感じて いることと、副校長・教頭からの働きかけがある ことは、それぞれ年休取得しやすさと関係するこ とが個人レベルの分析では確認されていた。この 結果との整合性を考えるのであれば、教員個人と 副校長・教頭からの働きかけが必ずしもマッチン グしていなくとも、年休の取得しやすさには影響 しないと指摘できる。
4.まとめ
(1)本稿の結論 本稿では、教員の年次有給休暇の取りやすさに 関わる学校組織要因の探索を行った。以下では分 析の結果についてまとめを述べる。 年次有給休暇取得しやすさに関して、学校管理 職への相談しやすさが殊に重要である事が明らか になった。教員個人レベルでもそうであり、学校 組織の雰囲気として管理職への相談しやすさが醸 成されていることも、その両方が重要であると指 摘できる。ただし、学校ごとに雰囲気の差がある こと以上に、学校内における教員間に差が生じて いることは考慮しておかねばならない。ゆえに、 個々の学校の管理職が相談体制・雰囲気づくりを 行うことが重要であるといえよう。 加えて、副校長・教頭から働きかけがあること も、教員の年休取得しやすさにとって有効である ことが確認された。また、校長からの働きかけも、 管理職への相談しやすさを教員が感じている場合 には、年休取得しやすさを後押しすることも明ら かになった。 学校規模の大きさも、管理職への相談しやすさ を教員が感じている場合には、年休取得しやすさ と関わってくることも明らかになった。適切な リーダーシップがフォロワーとしての教員へ与え る好影響についてはこれまで検討されてきたが (露口 2008等)、それとも整合的であるといえ よう。他方で、副校長・教頭からの働きかけは、 必ずしも教員個々人が管理職への相談しやすさを 感じていることを条件としているわけではない点 も示された。 以上、小学校教員にとって、個々人のニーズの 表明しやすさと、ニーズ表明への働きかけの双方 が年休取得しやすさにとって重要であることが、 分析の結果から説明できる。 (2)今後の課題と研究方向性 以下では、本稿の課題と今後の研究方向性につ いて提示する。 本調査は分析にとって十分なサンプルサイズを 確保できたものと考える。また質問項目そのもの は先行研究を参照し、教育委員会担当者との協議 を経て設定されたものである。ただし、質問項目 文言の検討・項目数の増加等、一層のブラッシュ アップが肝要となる。例えば、年休は丸一日分取 得する場合もあれば、半日分取得のように学校組 - 84 - 九州情報大学研究論集 第17巻(2015年3月)連があるとはいえないことが指摘できる。 ④クロスレベルについて レベル間交互作用項(クロスレベル)の結果に ついては、[管理職への相談しやすさ×学校規 模]・[管理職への相談しやすさ×校長からのコ ミュニケーション]との間に有意な関係性が見ら れた。 [学校規模]・[校長からのコミュニケー ション]のそれぞれ単独での関係性は見られな かったものの、レベル間交互作用項では関係性が 見られる分析結果となった。 学校規模との関係性については、管理職への相 談しやすさを教員が感じていれば、学校規模が大 きくなるほど年休取得しやすさを感じる傾向にあ るということである 8 。 校長からのコミュニケーションとの関係性につ いては、管理職への相談しやすさと校長からの働 きかけがマッチングした場合に、教員は年休取得 しやすさを感じる傾向にあると解釈できる。意思 決定権者である校長からの働きかけは、それ単独 では教員の年休取得しやすさに対して有効である とはいえず、管理職への相談しやすさを教員が感 じていてはじめて校長からの働きかけが年休取得 しやすさを後押しするメカニズムが確認できる。 つまり教員・校長間でのニーズと働きかけのマッ チングが重要であることが指摘できる。 他方、[管理職への相談しやすさ×副校長・教 頭からのコミュニケーション]は有意ではなかっ た。教員個人が管理職への相談しやすさを感じて いることと、副校長・教頭からの働きかけがある ことは、それぞれ年休取得しやすさと関係するこ とが個人レベルの分析では確認されていた。この 結果との整合性を考えるのであれば、教員個人と 副校長・教頭からの働きかけが必ずしもマッチン グしていなくとも、年休の取得しやすさには影響 しないと指摘できる。
4.まとめ
(1)本稿の結論 本稿では、教員の年次有給休暇の取りやすさに 関わる学校組織要因の探索を行った。以下では分 析の結果についてまとめを述べる。 年次有給休暇取得しやすさに関して、学校管理 職への相談しやすさが殊に重要である事が明らか になった。教員個人レベルでもそうであり、学校 組織の雰囲気として管理職への相談しやすさが醸 成されていることも、その両方が重要であると指 摘できる。ただし、学校ごとに雰囲気の差がある こと以上に、学校内における教員間に差が生じて いることは考慮しておかねばならない。ゆえに、 個々の学校の管理職が相談体制・雰囲気づくりを 行うことが重要であるといえよう。 加えて、副校長・教頭から働きかけがあること も、教員の年休取得しやすさにとって有効である ことが確認された。また、校長からの働きかけも、 管理職への相談しやすさを教員が感じている場合 には、年休取得しやすさを後押しすることも明ら かになった。 学校規模の大きさも、管理職への相談しやすさ を教員が感じている場合には、年休取得しやすさ と関わってくることも明らかになった。適切な リーダーシップがフォロワーとしての教員へ与え る好影響についてはこれまで検討されてきたが (露口 2008等)、それとも整合的であるといえ よう。他方で、副校長・教頭からの働きかけは、 必ずしも教員個々人が管理職への相談しやすさを 感じていることを条件としているわけではない点 も示された。 以上、小学校教員にとって、個々人のニーズの 表明しやすさと、ニーズ表明への働きかけの双方 が年休取得しやすさにとって重要であることが、 分析の結果から説明できる。 (2)今後の課題と研究方向性 以下では、本稿の課題と今後の研究方向性につ いて提示する。 本調査は分析にとって十分なサンプルサイズを 確保できたものと考える。また質問項目そのもの は先行研究を参照し、教育委員会担当者との協議 を経て設定されたものである。ただし、質問項目 文言の検討・項目数の増加等、一層のブラッシュ アップが肝要となる。例えば、年休は丸一日分取 得する場合もあれば、半日分取得のように学校組 織では柔軟に制度運用されている。このように考 えた場合に、「年次有給休暇」で回答者が何を想 定するかについて把握可能な調査票の設計工夫を する必要があるだろう。 また、教員個々人の属性的要因や抱える事情等 も重ねて調査をする必要がある。前者は事務処理 能力等であり、そういった能力が高い場合は年休 取得を必要としない場合も存在するため、そう いった要素も考慮した上で分析する必要がある。 また、後者については、本稿では調査票に組み込 めなかったものの、ワーク・ライフバランスの観 点から、育児負担や介護の有無などもできれば考 慮する必要がある。それによって年休取得のしや すさへの影響も変わってくると考えられるためで ある。 本稿では年次有給休暇取得に焦点を当てたが、 教員の労働環境改善のために今後とも教員の負担 感や勤務時間等の多様な側面から分析・考察して いくことが必要となる。実践に寄与する知見であ るため、重要な研究方向性である。以上を今後の 方向性として提示し、本稿を閉じたい。 注(註) 1:文部科学省(2013):「1-1-2.精神疾患 による病気休職者の推移(教育職員)(過去5 年間)」を参照。 2:本稿における「教員」とは、「主幹教諭、指 導教諭、教諭、講師」を指しており、栄養教諭 や養護教諭、事務職員等は含めない。また学校 管理職は「校長、副校長、教頭」を指している。 3:今次の調査において、「0=担任無し」と回 答した、担任を持たない教諭や、教務主任、専 科の講師等から得られた回答結果はマルチレベ ル分析時には除外している。したがって、担任 をもつ教員のみが分析の対象となっている。 4:例えば一つの学校に副校長・教頭といる場合 には、その人数に応じて平均値を算出したもの を用いている。 5:[管理職への相談しやすさ]項目について、個 人レベルデータをもとに、集団平均値を算出し た上で、全体平均中心化を行っている。個人レ ベル・学校レベルで区分する理由は、個人レベ ルでは「管理職への相談しやすさを感じる教員 ほど、年休を取りやすいと感じているかどう か」を検討するためであり、学校レベルでは 「管理職への相談しやすさを学校の雰囲気とし て感じるほど、年休を取りやすいと感じている かどうか」を検討するためである。 6:分析にマルチレベル分析を用いることの妥当 性については次のような検証方法が存在する (清水 2014)。すなわち、「(1)級内相関 係数が有意である場合」、「(2)級内相関係 数が0.1を超えている場合(0.05以上とする場 合もある)」、「(3)デザインエフェクト (DE)が2以上の場合(DE=1+(k-1)ICC [「k」は一校あたりの平均教員数])」の3つ である。本稿の分析では、(1)のみクリアし ていることになるが、探索的な検討を企図して いるので分析方法として用いることとしたい。 7:教育学関連の先行研究を受け、本稿の分析結 果表における表記方法は神林(2012:56頁) を、数値の解釈については露口(2013:73-75 頁)を参照している。 なお、教育学関連の先行研究を参照すると ICCの示すパーセンテージは高いとは言えない (例えば、露口・高木 2014等)。つまり、教 員間の分散と比較すれば、学校間の分散は大き くはない。単一フィールド内の組織は取組や活 動の組織間相互参照機会が多いため、類似化し やすい傾向(「制度的同型化」という)が指摘 されている(佐藤・山田 2004)。例えば、大 手携帯電話各社の類似度合いを想像すると理解 しやすい。「教育活動」というフィールドにお ける学校も同様に類似しやすい傾向にあると考 えられる。したがって、学校組織を対象とした 調査でマルチレベル分析を行う場合、ICCは低 く算出される可能性が高い。よって、マルチレ ベル分析という手法使用の妥当性や代替分析案 についても今後検討していく必要がある。 8:この場合、教員が代替要員を、同僚教員と想 定しているか、それとも指導をつかさどる教頭 等を想定しているかのいずれかについては、イ ンタビュー調査等で詳しく検討する必要があり、 小学校教員の休暇取得に関する学校組織要因の分析 (波多江 俊介)- 8 - 引き続き課題としたい。 参照文献 朝日新聞教育チーム(2011)『いま、先生は』 岩波書店。 川人博(2014)『過労自殺 第二版』岩波新書。 神林寿幸(2012)「公立中学校における非常勤 講師割合と正規職員の業務負担との関係」青木 栄一[代表・編集]『教員の勤務負担軽減等に資 するための学校のタイム・マネジメントの開発 研究(平成23年度 財団法人文教協会調査・研 究助成金報告書)』、46-61頁。 久冨善之・佐藤博(2010)『新採教師はなぜ追 いつめられたのか-苦悩と挫折から希望と再生 を求めて』高文研。 紅 林 伸 幸 (2007 ) 「 協 働 の 同 僚 性 と し て の 『チーム』」『教育学研究』第74巻(2)、 36-50頁。 佐古秀一(2011)「学校の組織特性をふまえた 学校組織変革の基本モデル」小島弘道監修、佐 古秀一・曽余田浩史・武井敦史著『学校づくり 組織論(講座 現代学校教育の高度化12)』、 学文社、131-153頁。 佐藤郁哉・山田真茂留(2004)『制度と文化- 組織を動かす見えない力』日本経済新聞社。 清水裕士(2014)『個人と集団のマルチレベル 分析』ナカニシヤ出版。 諏訪英広(2004)「教員におけるソーシャルサ ポートに関する研究―ポジティブ及びネガティ ブな側面の分析」『日本教育経営学会紀要』第 46号、78-92頁。 高木亮(2011)「教師の精神衛生・メンタルヘ ルスをめぐる学校経営および教育行政の課題と 展望-『病休』に対する配慮に重点を置き」 『九州教育経営学会研究紀要』第17号、63-70 頁。 谷口弘一・田中宏二(2011)「教師におけるサ ポートの互恵性と自己効力感およびバーンアウ トとの関連」『長崎大学教育学部紀要―教育科 学』第75号、45-52頁。 露口健 司(2008)『学校組織のリーダーシッ プ』大学教育出版。 露 口 健 司 (2013 ) 「 専 門 的 な 学 習 共 同 体 (PLC)が教師の授業力に及ぼす影響のマル チレベル分析」『日本教育経営学会紀要』第 55号、66-81頁。 露口健司・高木亮(2014)「マルチレベルモデ ルによる教員バーンアウトの決定要因分析―県 立学校教員に焦点を当てて」『日本教育経営学 会紀要』第56号、82-97頁。 波多江俊介(2012)「春日市教育委員会の『活 性化』から見えてくるものとは何か」九州大学 大学院人間環境学府(教育学部門)教育経営学 研究室・教育法制論研究室『教育経営学研究紀 要』第15号、95-102頁。 藤原直子(2014)「学校規模別小中学校教員ヒ アリング調査報告」九州大学大学院人間環境学 府教育法制度論研究室[編]『北九州市立小中学 校規模適正化に関する調査研究報告書』29-39 頁。 文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査 につい て(平成23年度~平成24年度)」・ 「教育職員に係る懲戒処分等の状況について ( 平 成19 年 度 ~ 平 成 22 年 度 ) 」 、 URL : http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/in dex.htm - 86 - 九州情報大学研究論集 第17巻(2015年3月)