平成13年4月1日
大腿骨頭内に転移を生じた肺癌の1例
山梨医科大学整形外科 山田明香 佐藤栄一 前川慎吾 渡邉寛 井手隆俊 浜田良機 要旨 症例は61歳の女性。歩行中に突然生じた左股関節部痛にて当科を受 診。既往歴では、8年前にサルコイドーシス、1年前に肺癌と診断され、 当院で左上葉切除術・リンパ節郭清術をうけた。当科初診時股関節の 可動域制限を認め、血液所見ではCEAの上昇をみた。 X線所見では、 左大腿骨頭から頚部にかけて骨透明像、関節鏡視下生検術にて肺癌の 骨転移と診断。放射線治療中に病的骨折をきたし、疾痛と関節機能改 善の目的でカスタムメイド大腿骨頭置換術を施行した。 Key Words:肺癌、転移性骨腫瘍、大腿骨頭 はじめに 今回転移部位としては極めて稀な肺癌の大腿骨頭転移症例を経験し たので報告する。 症例 患者:61歳、女性 主訴:左股関節痛 現病歴:当科初診の約3週間前に歩行中突然左股関節部に疾痛が出現、 徐々に痛みが増強したため、当科を受診した。 既往歴:日本住血吸虫症(約20年程前)、サルコイドーシス(8年前) にて加療(ステロイドの内服:プレドニン総投与量2125mg)、 肺癌(1年前:左上葉切除術・リンパ節郭清術)。 入院時現症:左股関節痛のため屈曲90°、伸展0°、外転20°、内転 10°、外旋25°、内旋15°の可動域制限をみた。 画像所見:X線所見:左大腿骨骨頭から頚部内側にかけて骨皮質の破 壊を伴う病的透明巣を認めた(図1)。MRI所見:病巣はT1強調像で低 信号、T2強調像で等信号、 T1造影像では造影効果はなかった(図2)。 血液生化学的所見:CEAが14.4ng/m lと上昇していたが、それ以外の異 常は認めなかった。 以上より肺癌の大腿骨頭部への転移、ステロイド内服による大腿骨 頭壊死などを疑って、股関節鏡視下骨生検術を行なった。 一13一山梨肺癌研究会会誌14巻1号2001 病理組織学的所見:骨生検では骨梁間の線維性結合織内に上皮性腫瘍 が腺管様構造を示し、また肺癌診断時の病理組織学的所見からは papillary adenocarcinomaの特徴的な所見を認め、肺癌の大腿骨頭転 移と診断した(図3)。 治療経過:手術を勧めたが家族が希望せず放射線治療をおこなったが、 放射線療法施行中に大腿骨頭下病的骨折を生じた(図4)。病巣を大腿 骨頭から転子下まで切除して、疾痛の改善と機能の回復を目的にカス タムメイド大腿骨頭置換術を行なった(図4)。 考察 肺癌の転移部位として、町並らDは、肺・気管・気管支が15%と最も 多く、胸郭外では肝・肝内胆管、副腎、骨・骨髄、腎、中枢神経系の 順に多いと報告している。また肺癌の骨転移部位としては大腿骨が 24。8%と最も多く、ついで腰椎、胸椎、腸骨の順である2)。しかし、大 腿骨頭への転移性骨腫瘍の本邦での報告は、1982年近藤ら3)の報告以 後本症例を含めて7例、そのうち肺癌の転移は2例と極めて稀である。 まとめ 今回極めて稀な肺癌の大腿骨頭への転移症例を経験したので、報告し た。 1) 2) 3) 文献 町並陸生:日本病理剖検輯報第34報.平成3年度剖検例収録(日 本病理学会編):1452,1993 日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会:全国骨腫瘍登録一覧表,国立 がんセンター,東京,1997年 近藤徹ら:大腿骨頭に嚢腫様病巣を呈した鑑別診断上興味ある転移 性肺癌の1例.中部整災誌25:1957,1982 一14一
平成13年4月1日 図1.左大腿骨頭から頚部への移行部に境界不明瞭な骨透亮像を認める。 T1強調像 T2強調像 T1造影像 図2.左大腿骨頭から頚部への移行部にT1強調像で低信号、 T2強調像で 等信号を示す病変があり、T1造影像では造影効果は認められない。 一15一
山梨肺癌研究会会誌 14巻1号 2001 (HE ×200> (H,E, x100) 骨生検 原発巣 図3,大腿骨頭部骨生検:骨梁間の線維性結合織内にadenocarcinomaを認める。 原発巣:papillary adenocarcinomaであり、脈管浸潤を認める。 骨折後 術直後 図4,大腿骨頭下骨折を受傷し、カスタムメイドの人工骨頭置換術を施行した。 一16一