Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
ペインクリニックのための診察法
Author(s)
福田, 謙一; 一戸, 達也
Journal
歯科学報, 115(2): 107-109
URL
http://hdl.handle.net/10130/3582
Right
―――― カラーアトラス ――――
ペインクリニックのための診察法
ふく だ けん いち福 田 謙 一,
いち のへ たつ や一 戸 達 也
東京歯科大学歯科麻酔学講座カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
本シリーズ2回目の今回は,歯痛を訴えて患者が 来院した時の診察法について記述する。痛みの原因 を追求し,非歯原性歯痛としてペインクリニック診 療を行う際,器質的疾患を見逃さないよう注意が必 要である。基本的診察を丁寧に行い,腫瘍,炎症, 外傷を念頭におき,除外されたならば血管性,筋筋 膜性,神経障害性,心因性という順序で診断を進め ていく。 主訴の聴取と痛みの評価 痛みは,患者個々の主観的な症状であり,医療側 が客観的にすべてを理解することは困難である。し たがって,痛みを訴えて来院する患者を診察するに あたっては,患者の訴えによく耳を傾ける態度が重 要である。医療側の思い込みが誤診に繋がることが あるので,注意が必要である。痛みの程度を評価す るには,患者に10cm の1本の線を見せ,左端が痛 みなし,右端がこれ以上ない強さの痛みとして,現 在の痛みはどのあたりにあるかを指し示してもら い,その位置を5/10cm,50/100mm などの数値で 痛みの強さとして評価する視覚的評価尺度(VAS: visual analogue scale)(図1)などがある。患者が有 している痛みの程度を可能な限り的確に把握し,患 者の痛みに共感しようとする態度が必要である。 健康調査票の確認 ・一般情報:性別,年齢,職業,住所,家族構成な ど,痛みは患者の生活や環境に影響を受けるので 十分に認識しておく。 ・既往歴:アスピリン喘息や薬物アレルギーの既往 は,十分に確認する。線維筋痛症,慢性関節リウ マチ,片頭痛など,口腔顔面領域に影響する他の 疾患を十分に認識しておく。循環器系や呼吸器系 疾患を有する患者は,治療に対する予備力の把握 が重要である。うつなどの精神疾患を有する患者 は,精神科主治医への対診を考慮する。 ・常用薬剤:抗血栓薬の常用は,神経ブロック施行 に注意が必要である。鎮痛薬や抗うつ薬など同じ または同系統の薬剤を処方しないように注意が必 要である。 現病歴の問診 ・痛みの発症時期,きっかけ:痛みが最初に出現し た時期やきっかけは,診断上極めて重要である。 特に歯科治療後に出現した場合は,当該治療につ いて詳細に聴取する。 ・痛みの発現部位:痛みが発現する部位及び放散す る部位を,適切に認識し,図示しておく。 ・痛みの発現時間:痛みは持続痛か間歇痛か,また 痛みはいつの時間帯に発現するかを聴取する。 ・痛みの発現誘因,増悪因子:安静時自発痛の有無, 熱いお茶,冷水,咀嚼,開口,嚥下,洗顔,化粧, ひげ剃り,会話,歩行,光や音など痛みの誘発ま たは増悪因子を聴取する。 ・痛みの緩解因子:入浴,睡眠,暖める,冷やす, マッサージ,読書,会話など痛みを軽減する因子 を聴取する。 ・痛みの性質:痛みの訴えは,ズキズキ,ジンジン, ズキンズキン,ビリビリ,ピリピリ,ジーンなど 様々な表現がある。痛みの原因になっている病態 の違いによって,痛みの感じ方は異なる。例えば, 神経が障害された痛みでは,電撃痛を感じる。 ・随伴症状:痛みに随伴して出現する開口障害,め まい,しびれ,肩こり,吐き気,耳鳴り,目の充 血,流涙などの症状があれば聴取する。 ・これまでに服用した鎮痛薬:現在の痛みの除痛を 目的に服用した鎮痛薬とその効果について聴取す る。 ・これまでに施された医療:痛みに関連するこれま での歯科治療のほか,耳鼻咽喉科や脳神経外科な ど医科他科への受診状況や治療結果を把握する。 現 症 ・全身状態:血圧,脈拍,体格,姿勢,顔色,歩行 などを観察する。 ・局所部位:当該歯の器質的疾患の有無を視覚的に 確認する。う蝕の有無,修復物の状態,咬合状態, 歯肉の色調や退縮度合いなどを観察する。次に, 打診痛の有無,根尖部圧痛の有無,冷水刺激やエ アー刺激を与えた時の自発痛の変化を観察する。 さらに歯の動揺や食片圧入の有無なども確認す る。ブラキシズムの有無は,歯だけでなく頬粘膜 や舌の圧痕を確認する。 検 査 X線検査,歯科用コンビーム CT,血液検査,歯 髄診断,診断的局所麻酔,心理学テストなど,症例 に応じて診断に必要な検査を行う。 診断手順 肉眼的に診察して,歯牙う蝕症や歯周病などの器 質的疾患が認められない場合,打診,X線検査,歯 髄診断,歯科用コンビーム CT などを行い,根尖性 歯周炎,歯根膜炎,歯の破折などか否かを確認する。 それでも原因が確定できない場合,診断的局所麻酔 を行い,除痛効果がなければその歯に器質的疾患が ある可能性は低い。拍動痛であれば血管性の関連痛 で,片頭痛の既往を確認する。拍動痛でなければ咀 嚼筋のトリガーポイントを探索する。まず筋肉を指 で圧刺激し(図2,3,4),患者が痛みを訴えた部 位を図5のように注射筒を使用して細かく丁寧に探 索し特定して行く。当たれば決まった領域に放散痛 が生じる1) 。トリガーポイントが確認できなければ, 神経障害性を疑い抜髄,抜歯の既往や帯状疱疹後神 経痛,三叉神経痛を念頭に同一神経支配領域に痛覚 過敏や感覚異常の有無を確認する(図6)。その診断 も除外されれば,特発性や精神疾患関与の歯痛が疑 われる。 文 献 1)日本口腔顔面痛学会編:口腔顔面痛の診断と治療ガイド ブック,pp.154−157,医歯薬出版,東京,2013.ペインクリニックのための診察法
福 田 謙 一,一 戸 達 也
東京歯科大学歯科麻酔学講座図1 視覚的評価尺度(VAS:visual analogue scale)は, 痛みなしの0から痛み最大の100までの100mm の線が 引かれた定規のような器具を使用して採取する 図2 咬筋を指で圧迫し,放散痛の出現の有無を調べる。 上下顎臼歯部に関連歯痛が生じる 図3 側頭筋を指で圧迫し,放散痛の出現の有無を調べる。 上顎犬歯から上顎臼歯部に関連歯痛が生じる 図4 顎二腹筋を口腔内外から指で圧迫し,放散痛の出現 の有無を調べる。下顎中切歯に関連歯痛が生じる 図5 注射筒を使用して,トリガーポイントの位置を絞り 込んで行く 図6 左側下顎の歯痛であれば,同一神経支配領域の口唇 やオトガイなどの痛覚過敏や感覚異常の有無を綿棒等 を使用して調べる