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母音の無声化と清濁

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Academic year: 2021

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(1)

V o w e l -D e v o c a l i z a t i o n a n d S e i -d a k u

一母音の無声化と力行夕行の有声化の関係

東北方言と同様に'鹿児島県の南薩地方などでも'語中の力行夕 \ l \ と 解 釈 さ れ る 二 重 母 音 の 後 部 の   [ i ]   が 前 に 来 る ば あ い い と さ れ た   ( 注 2 ) 。 江 口       泰       生 (平成三年十月十五日 受理) Y a s u o E g u c h i 母音の無声化と力行夕行の有声化が密接な関係を有している事が わかるが'一般に'母音の無声化といった場合'その対象となる母 音 に は ' a 単語の語末や形態素末尾の狭母音 b 語中の狭母音 の二種が存在する。この二種を区別するかどうかという点には議論 があろうが (注3)t aについては母音の脱落t bについては母音 の無声化として区別したほうが良いように思われる (注4)。薩隅 方言においては、aは徹底的に行なわれ'同音異義語を生成し'後 続の形態素の語形を決定する形態音韻論的側面を有する現象であり (注5)'一方t bは幾つかの条件によって無声化が生じたりしな かった-するが'知覚されることはない音声的現象であるといえる

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2 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990 からである。 南薩方言の話者にとっても'母音の無声化はまった-知覚されて いない。ところが'力行夕行が有声化している事は'明確に把握し ていると考えられる。例えば、南薩地方の方言調査 (注6) におい て'力行夕行についてへ 調査者が聞き逃した時'再度尋ねるとはっ きりと 「濁っているカ」とか「鼻にかかるガ」などと答えるからで ある。いってみれば'母音の無声化に対しては音韻論的認識が存在 していないが'力行夕行の有声化に対しては音韻論的な弁別を有し ているのである.そして'\k\t\抑\t\g\の三項の対立を認 識しているのである。 力行夕行の有声化が母音の無声化と関連しているという指摘はこ れまでもなされてきたが'一方が音韻論的認識に関与しているのに 対し、一方が音韻論的認識に無関与であって純粋に音声的現象であ るのは何故か'という点についてはこれまでは無関心であったよう に思われる。しかし'よ-考えてみると'両者に差があるという事 は'非常に不思議な事ではないだろうか。良-いわれるように'力 行夕行の有声化が母音に狭まれて「同化」 して生じ'有声化しない 力行夕行と有声化する力行夕行とが「相補分布」 しているものであ るならば'更に清濁をひとつの構造としてみた場合に'有声化によ って力行夕行の清濁だけが不均衡をなしているとするならば (注 7)'有声化しない力行夕行と有声化する力行夕行とは音韻論的に ひとつに纏められるだけでな-、普通話し手の意識にのぼらないも のではなかろうか。 力行夕行の有声化が音韻レベルに関与した現象である事には'幾 つかの理由が考えられる。ひとつは'有声化の生じない他の方言や 中央語との接触が'力行夕行の有声化を音韻論的に認識させる契機 になったのではなかろうかという理由である。これは大きな要因で あるとは思うが'外的条件である。従って、ほかに内定条件が考え られなかった場合に考察の対象とする事にして'まず'その方言の 内的条件を吟味する必要があるように思う。 そこで'次に考えられる理由として'力行夕行が有声化する方言 においても'語頭の力行夕行は\k\対\抑\のような対立を有し ているという事である。古い日本語の清濁の対立をどのように捉え るかという問題については色々議論があろう (注8)。しかし'こ の対立を仮に非鼻音対鼻音の対立であったとして捉える事が可能で あるとしても、少な-ともこの対立の中には'それが余剰的な特徴 であるにせよ、有声音対無声音の対立を含んでいる事には間違いな い。その故に'当初は音声的レベルで力行夕行が有声化したとして も'その結果'語中の力行夕行を鼻にはかからないが「濁っている カ」として捉えられる事の下地はそもそも存在していたと考える事 が出来るのではなかろうか。\k\対\恥\の二項対立の中で'\g \の認識が行なわれる可能性があるという事なのである。 更に'このような下地に加えて'ここで注目したいのは'まず' 前掲の力行夕行が有声化しない条件には、大き-いって分野の異な る二種類の条件が存在するのではなかろうかという事である。その 二種類が同列に論じられてきたために'論を不透明にしているよう に思われる。 その分野の異なる二種類の条件のうち'ひとつは更に二種類に下 位分類される。ひとつが、力行夕行に前接する音が擬音・促音など 特殊柏の場合である。現代の、例えば薩隅方言においては擬音・促

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音は共に音韻論的独立性が弱いといわれるのであるが'音韻論的に 仝-独立していない場合'後接する力行夕行はどのような環境にあ る事になるのか、そして'時代を遡るとどうであったか'などとい う点については良-分っていない (注9) ので'ここでは考察の対 象とはしない。 もうひとつは'力行夕行に前接する音が無声母音である場合で' これは音声的な条件として考えて良いように思う。以上は上村氏の 指摘にあたるものであるが'これらの条件の時に力行夕行の有声化 が生じないとするとへ 力行夕行の有声化は有声化しない場合と 「相 補分布」をなしている事になる。このような「相補分布」をなして おり'有声化が「同化」などの音声的なものであるとすると'下地 との関連はともか-'力行夕行の有声化は音韻論的認識を得難いよ うに思われる。 しかし'更にもうひとつの大きな条件は、前接音とは無関係の場 合である。複合語を形成する際の法則'すなわち形態音韻論的分野 に属する法則に関する場合と語桑論的事実に関する場合とであって' 木部氏の指摘がこれにあたるといえるのではなかろうか。つま-' 形態音韻論的分野に属する理由と語嚢論的事実に関する理由とによ って'音声的条件からすると例外にあたる'力行夕行の有声化が出 現している事となる。このような例外が出現する事自体が、力行夕 行の有声化によって生じたガ行ダ行の音韻論的確立を示すものとい える。つまり'\k\と\恥\の二項対立の中で生じた\g\の存在 が、\g\を音韻論的対立の中に組込み、その結果'このような形 態音韻論的分野に属する法則のために生ずる例外や語嚢的事実によ って生ずる例外を生み出す事となる。これが'先に述べた下地に加 わって'語中の力行夕行の有声音が音韻論的認識の獲得をより進め る契機となへ\k\・\抑\・\g\の対立を生成したと考えるの である。 井上史雄氏は「東北方言の子音体系」(注1 0)において'有声化 が生じない筈の条件の場合にも例外的に力行の有声化が生ずる用例 を挙げて、そこに文法的「類推」や語桑の借用などが働いた結果' 無声音であるべきところが有声音になっている場合があるとされる。 そして'東北方言を記述するためには、子音の音素目録を例えば/ k¥抑¥g¥のように'三項の音素を必要とするというよう に論じている。 井上氏の論は東北方言の共時的分析であるが'これを適時的に眺 めた場合'「類推」などによって生ずる例外が'語中の力行夕行の 有声化の音韻論的独立を推進した可能性が考えられはしないだろう か。話は遡るが東国資料の疑いのある﹃元亀本運歩色葉集﹄。﹃天 正狂言本﹄などに、力行夕行の有声化と看倣される例が散見したり (注目)、力行夕行の有声化現象を記述した東国文献が稀に存在す る(注S)のは'こうした点で理由のない事ではないのではなかろ うか。 こうしてみると'語中の力行夕行の有声音は'そもそも音韻論的 認識を得る条件を潜在的に備えているうえに'音声的条件以外の条 件によって語中に生じた、「相補分布」しない\k\と\g\の対立 が二項対立を破棄させ'\k\・\恥\・\g\の三項対立の音韻論 的認識を進めていったと考える事は出来はしないだろうか(注13)。 母音の無声化が仝-知覚されないのに対して、力行夕行の有声化 が音韻レベルに関与的である事の背景には'以上述べたような理由

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鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990 が働いているのではなかろうか。 未だ一定の見解に達していないように思われるからである (注S)。 立 韻 レ ベ ル と の 関 係 Ⅲ Ⅰ 罪 非 母立 関 関 の 与 与 無 的 的 =j=ごF* 化 関 罪 カ J<-与 関 的 与 的 ( イ丁 夕 行 例 外 の 有 =土ゴ の F3 存 餐 化

二 一八世紀初頭薩隅方言資料おける母音の無表

記について

さて'以上のように考える事が出来るとするならば'力行夕行の 有声化が清濁の対立の中にどのように位置し'どのように認識され るかは'日本語の清濁のシステムに関係する問題であるといえる。 一方'母音の無声化そのものは音声的レベルの問題であると思われ る。母音の無声化によって'音声的に力行夕行の有声化が左右され るとしても'力行夕行の清濁の組織-清濁の対立が具体的にどのよ うなものであって'濁音や異音がどのように認識されるか'どのよ うに位置付ける事が出来るか'或いは清濁の対立が単語のどのよう な位置に出現するか、などとは一応別問題と考えられはしないだろ うか。南薩方言の母音の無声化が'音声として異音の関係にある\ k\・\g\を成立させても'それは直接の契機となるものではな いのではなかろうか。無声化そのものが'現代方言の話者にみられ るような\k\・\抑\・\g\の音韻的対立の成立に影響を与えた とは考えられないのではなかろうか。 しかし'これらの事を述べるためには薩隅方言において、母音の 無声化がどのような条件のもとに生ずるかt という点について論じ ておかなければならないように思われる。薩隅方言の無声化が具体 的にどのような位置に生ずるものであるのかt という点に関しては 1 八 世 紀 初 頭 の 薩 隅 方 言 資 料 と い え る ゴ ン ザ の 諸 資 料 ( 注 t e )   に は'日本語の一拍に相当する部分のロシア語表記に'母音が表記さ れる場合と母音が表記されない場合とがある。母音が表記されない 場合、これにはつぎに示すように三種がある。 ① -+ 子 音 +   ( 子 音 + 母 音 )   + -例   4 1 肘 m o   ( 雲   v o o o 肘 s a ( 辛 )   な ど ( 数 字 は   ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄   の 文 章 番 号 。 以 下 ' 同 じ 。 転 写 方 法 は 村山七郎氏に倣うが'印刷の都合上'表以外のところではt eを ( C ) ' 5 を ( Z ) t i ・ を ( i ) ' e を ( e ) t l を ( S )   で 転 写 す る ) . ② -+   ( 子 音 + 硬 音 符 号 )   +   ( 子 音 + 母 音 )   + -例   t -I L O O j e b u 肘 . r a   ( 餌 袋 は     o a i n o o f u 町 r a   ( 袋 は) (硬音符号は印刷の都合上'ピリオドで示す。以下'同じ) ③ -+   ( 子 音 + 軟 音 符 号 )   +   ( 子 音 + 母 音 )   + -例   < N I C O t # 一 g . ( 網 ) (アクセントはアポストロフィで示し'軟音符号はカンマでしめす。 以下'同じ。但し'以下に述べるように'軟音符号の付いた場合に

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ついては詳述しない) このうち、③については'単語の語末や形態素の末尾のⅠ母音相 当の部分にのみ出現する形式である。 ①②③の表記が具体的にどのような環境に現われるものかという 点については'これから考察してい-として'一般に、母音の無声 化といった場合'その対象となる母音は一節であげたようにt a 単語の語末や形態素末尾の狭母音 b 語中の狭母音 の 二 種 が 存 在 す る 。 ゴンザの資料においてはt aの母音の脱落は徹底的に行なわれて いる。語末や形態素末に狭母音が付いている場合は'例外な-長音 相当であるといってよい (注S)。前掲③は'このaに属する末尾 母音が-相当の場合にのみ用いられている。従って、aの現象を表 すのに'③のような表記が行なわれたと考えられる。この点に関し ては'とりたてて問題とする点はな-思われるので'ここでは扱わ な い 。 ところが、bについてはう その条件が一見複雑にみえる事もあっ て'〓疋の見解をみているわけではない。同時に、ゴンザの諸資料 にみえる母音の無表記が'すなわち母音の無声化を表記したものと する事は'考察を経たうえでなければ出来ない。②の方法について も'どのような場合に用いられるものかといった点からは'これま でも考察がないうえに'硬音符号というロシア語独特の表記の在-方と薩隅方言の表記のなされ方との関係を明らかにするという事は' ゴンザの資料の取扱いのうえでも必要な事であるように思われる。 また'母音の無表記に母音の無声化を表す部分があるのならば、前 述したように子音(力行夕行) の有声化の条件とも関与する問題な ので'一度は整理してお-べき問題と思われる。 そこで'﹃日本語会話入門﹄ に出現する'例えばクやスやシに相 当する音節を含む総ての単語を網催して挙げてみると次のようにな る。挙例の仕方は前掲のとお-であるが'ロシア語による表記のう ち'②のほうを示した。従って'示されてないものは①の表記がな されているものである。 ●クに相当する音節を含む単語の場合 A 母音が表記されていない場合 ( -) ^ -k s a 一 ( 辛 )   ¥ o > o o k s a   ( 草     < O L ^ k c u ¥   ( -つ う   V o < -k s a ' d ( z ) . ( 草 で )   ¥ < m o o > k s a s a g a   ( 臭 さ が )   ¥ < n i ( N i a > k s a w o ( 草 を   ^ < x I O > r H k C U ' ( -つ う   v c o c -k c u ' ( -つ う     C O O ^kcu (-つう    i'ktammana (い-たんまな     ta一 k s e   た -さ ん   , < * サ * -* * -* s k n o   す -の う           H c u k ( s ) o n (つ-しょうに) / ( 2 ) -o k m o ' 雲         m r a . k m o   ( む ら 雲 )   ¥ ^ i -ォ k m o   ( 雲 )   X ^ o o c 0 -i ' k r a d ( z ) e m   ( い -ら で も ) ( 3 ) r n l o o j e b u k . r a   え ぶ -ろ は ② )   ¥ ^ -^ m ( e ) k . r a   ( め -ら は ② ) ¥ C v I L O L O a 一 k . n e s u r   商 い す る ② )   ¥ < x i l o o o f u k . r e ( 袋 に ② ) /

(6)

鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990 B 母音が表記されている場合 ( -) 3 4 j o k u ( c ) m o t t a t   四 口 も っ た と ) / ( 2 ) ^ -d ( z ) e k u r k a   出 来 る か )   ¥ -0 -d ( z ) e . k u r ( 出 来 る )   / ・ ^ * -* c k u ' r   作 る     1 0 0 . -o t a k u m   ( 巧 む   , < n i o < o c k u r   ( 作 る )   ¥ < m < n i ^ c k u ' r   ( 作 る     < n i o o -w a k u ' r   ( 分 -る     < N I < X > O c k u ' r   ( 作 る )   ¥ < m < r > < 」 > c k u ' r   作 る )   ¥ < m < o o > c k u r   作 る )   / 2 ^ ^ c k u 一 r   ( 作 る )   ¥ < n i c -c o c k u ' r   ( 作 る )   ¥ c o c o ^ h n i k u ' m   ( 憎 む )   ¥ c o l o o a d ( z ) e k u ' r   ( 出 来 る     o > t r -k u ' m   汲 む )   ¥ ォ ー k u . r m a   車 ) ( 3 ) c o o o k u r o ' k a ( 黒 か )   ¥ c r > o k u r o k a   黒 か )   ¥ o o o o k u r o g a . n ( e ) ( 黒 金   < < * > ^ k u ' r a w ( 食 ら う ) ( 4 ) o k a r a k u ' i   ( か ら -り     < o < 」 > f a d a k c k u ' j a ( 畑 作 り は )   ¥ ( N I ( X I ^ f a d a k ( e ) c k u ' j a   畑 作 -は ) ¥ < > a i > . < x i m a d o ' c k u j a   窓 作 -は ) ・ n i t r -c o k a m a ・ c k u j a ( 窯 作 -は ) ¥ c v a a ^ o > c k u ' i t o i ( 作 -取 り ) ( 5 ) I ( N l 。 O k l l ' 食 う   , -^ サ -m o n o k u ' ( 物 食 う )   ¥ 。 o o k u ' m o n k a ( 食 う も の か ) ¥ o o o k u . m o n k a ( 食 う も の か ) / A 母音が表記されない場合 ( -) -s k a 一 j u   ( 好 か れ る ) . ¥ ^ ^ u ' s k a k a   ( 薄 か か   k N -s k n o ( 少 な う )   ¥ < ^ i r -< r > a s k e   ( あ そ こ に )   ¥ < x i o o < x i a s k e   ( あ そ こ に ) ^ c o o m m o s k w ( i ) k a ' r a   モ ス ク ワ か ら     c O O L O 一 s k a   ( あ そ こ は     c o o c o m o s k w ( i ) d u i   ( モ ス ク ワ づ い )   ¥ c o c o c -j e v ( a n ) g(e)li'st(イエワンゲリスト) ( 2 ) ・ -^ s n o f o g e . t a   ( 酢 の は げ た )   ¥ -H L O ^ S W a   唇   ^ r H l ^ C 。 s w a ' ( c )   ( c ) o r   ( 座 っ ち ょ る ) ( 3 ) ・ -o ^ w a ' s . j e ( c ) e ( 忘 れ ち ぇ ② ) ●スに相当する音節を含む単語の場合 B 母音が表記されている例 ( -) s u   ( c ) . s a m e   筋 さ ま に ) ¥ < x i -h o o s u k d ( z ) e   鋤 で ) / 2 -t a s u ' k f t a   田 鋤 -人 は )   ¥ n -w t a s u k   田 鋤 ) ( 2 ) ・ m o o s u ' g . k a k a   ( 直 か か )   ¥ < 」 > o k i j e s u m , ( 消 え 炭 )   ¥ t -I -H -^ k w a g e ロ s u r   歌 弦 す る     t -i C O ^ ( s ) g o 言 s u r   仕 事 す る   ¥ -^ ^ n i w e g a ' s u r ( 匂 い が す る           ( s ) g o t s u r ( 仕 事 す る ) / r -1 C O L O a W a ' S u r   ( 庄 す る       * -^ s u r   ( す る       o o o o b a 一 n s u r f t a   番 す る 人 は     r -t 。 。 O > ( s g o 言 s u r   仕 事 す る   -H O i r H ( s ) i ロ d o s u r   心 労 す る     * -^ -j a n m e s u r   や ん め す る   。 d O -> s u ' r   ( す る )   ¥ < n i -h l o ( c ) e j o ( s ) ( c ) e m i s u r   ( 手 様 し て み す る )

(7)

^ < x ) < N I l ^ a w a 一 s u r   合 わ す る )   ¥ ( n i ^ l o k u r a s u r   鞍 す る     < N ] ^ t o o f k a . s u r   曳 か せ る )   ¥ c v i l o i n a . k . n e s u r   ( 商 い す る     ( x I C 」 > 。 O k a d ( : z ) s u r   鍛 治 す る           s u r k o t g a ( す る こ と が   ¥ -I s 亡 k n a k a   ( 少 な か )   ¥ c o r H < x i j u c i a ロ s u r n a   油 断 す る な   ¥ ォ ー ^ s u ' r n a   す る な )   ¥ c o ( x i ( x i   ( s ) g O ' t s u r   仕 事 す る     c o c o o i ( s ) g o ' c s u r f i g a ( 仕 事 す る 日 が     C o ^ t H 。 。 S u ' r   ( す る )   ¥ i -I L O L O m i s u r   見 せ る )   ¥ o o e o s u ' z m j a   雀 は ) ( 3 ) c 。 c o o s u z u i   硯 ) ¥ ^ h ^ s u ' w a   酢 は     c o < x > O s u m j a   墨 は ) ( 4 ) < * > * -< 0 -s u ' j o n ' ( 惣 樵 に )   ¥ ^ -h o s u j o d . ( z ) e   ( 惣 様 で )   ¥ ( T O -i -I s u j o ( 惣 様           S U J O   ( 惣 様 ) ( 5 ) 2 9 8 o s u   ( 遅 う ) ●シに相当する音節を含む単語の場合 A 母音が表記されない場合 ( -) o m o ' ( s ) t u ( s )   ( c ) . ( 面 白 う し て   , < o o c u m ( e ) t o ( s )   ( c ) 一 ( 冷 た う し て   -H ^ C -( s ) t a 一 ( 下 )   ¥ r -H L O L O a g n O ( S ) t a W O   顎 の 下 を     1 < & -m u n e 一 n ( s ) t a   ( 胸 の 下   ^ r -H < 」 > O > W a 一 k , n o ( s ) t a   ( 脇 の 下       ^ -k a t a f a r a . ロ ( s t a   ( 片 腹 の 下 )   ¥ -^ -w a k n o ( s ) t a ' j o i   ( 脇 の 下 よ -          ( s ) t a 一 ( 下 )   ¥ r -1 0 > i -I ! s )   ( c ) e . k a r a ( し て か ら   ^ < x i c o o s a m u ' ( s )   ( c )   ( 寒 う し て )   / 2 1 ′ ( c ) e j O ( s ) ( c ; e m i s u r   手 様 し て み す る   < x I C T > i   ( s ) t a 一 n ( 下 の ) ¥ c n o > i > -( s ) t a ( c ) e e ( 仕 立 屋 に ) ¥ c o < x ! L ^ ( s ) t a ・ n f t a ( 下 の 人 ) ¥ c o c o c o a ' r ( s ) k o ( あ る し こ       o m o ' ( s ) t u ( s ) ( c )   ( 面 白 う し て )   ¥ -^ m i ( s ) k e k a ( 短 い か ) ¥ 。 。 r -H f t o ' C ( S ) k o k a ( 1   つ し こ か     I C 7 > C O S O   ( s )   ( c ) , ( そ し ち     < -" > s a k a s ) k a ' f t a ( 賢 し か 人 は     i -I C T > l > -s a k a ' ( s ) k a t ( 賢 し か と ) / 2 < * " ^ s o ' ( s )   ( c ) e ( そ し ち ぇ     o d o o a > . ( s ) t a ( 明 日     o a a > ^ t n a ( s ) k e   ( な し か い     ( x I C 7 > < 」 > n a 一 ( s ) k e   ( な し か い     0 3 O i 。 O n a 一 ( s ) k e ( な し か い ) ¥ c o r H r t m i g u r u ( s ) k a ( 見 苦 し か ) ¥ < T O L O s o   ( s ) ( c ) 一 ( そ し ち )   ¥ c s ] ^ o o k a t a . ( s ) k ( e ) n e ( か た し け な い ) ¥ O 。 < x i m a ' r k ( e ) k ( s ) t a t ( 丸 -し た と ) ¥ c o l o m i g u r u ' ( s ) k a   ( 見 苦 し か )   ¥ l o c r > j a w a r a ' ( s ) k a   ( や わ ら し か     L O l > -j a w a r a ' ( s ) k a ( や わ ら し か ) ¥ ^ -m ( e ) d z r a ( s ) k a ( 珍 し か ) , -n a m a . ( s k a   ( 生 し か ) ( 2 ) i c o ^ ( s ) g t o 言 s u r   仕 事 す る ) V       ( s )   o t s u r ( 仕 事 す る ) ^ < 」 > -^ ) m a u   / 仕 舞 う )   ¥ -^ -( s ) g o ' t   ( 仕 事     I 。 。 O > ( s o 言 S 亡 r ( 仕 事 す る ) ¥ o o o a > ( s )   o t ( s ) c e   仕 事 し て )   / 3 ( s ) g o t ( s ) c e ( 仕 事 し て ) V       ( s ) g o 言 s u r   仕 事 す る ) , c 。 c o a > ( s ) g o ' c s u r f i g a ( 仕 事 す る 日 が )   ¥ o u j e . ( s ) s a r o ( 嬉 し が ろ う ) ¥ -o o c o f o ' ( s ) g a r ( 欲 し が る     i o o < r > u j e . ( s ) g a r ( 嬉 し が る   ^ i -I C 7 5 ^ t f o ( s ) g a r ( 欲 し が る   v i -i o > < 」 > f o g a r ( 欲 し が る   ^ < n i l o < 」 > f o ( s ) g a r ( 欲 し が る ) ¥ < N i n s o t o r o ' ( s ) g a r ( 恐 ろ し が る ) ¥ o o o a > ( s )   o t ( s ) c e ( 仕 事 し て ) ¥ c o c o o f o ( S ) g a i i a 一 r a n   欲 し が -や ら ん )

(8)

8 ( 3 ) ( s ) t o ' k a   白 か   ^ r -H < x i a > ( s ) t a m j a   し ら み は )   ¥ c o c v a f a 一 [ s ) t a   ( 柱       ^ o m o ' ( s ) t o k a ( 面 白 か ) ¥ c o サ > . c o k a ' ( s ) t a ( 頭 ) 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻1990 B 母音が表記される場合 ( -) ・ x I O > O ( S ) i ( c )   ( c ) o i j a r k a   ( 知 っ ち ょ い や る か )   V       ( s ) c   ( c o r   ( 知 っ ち ょ る )   ¥ ォ O N ( S ) i 二 : )   ( c e   ( 知 っ て )   / 3 ( s ) i ( c ) ( c ) o i j a r k a ( 知 っ ち ょ い や る か ) ( 2 ) ・ x i ^ c o f a ( s ) f r ( 走 る ) ( 3 ) s a k a ( s ) i ' k a   賢 し か ) ¥ o ( s ) i ( s ) o f t a ( c ) \   ( 師 匠 達 ) / 2 0 0 -s a k a ( s ) i ' k a   ( 賢 し か )   ¥ c o x f a > ( s ) i ( s ) o s a m e   師 匠 さ ま に             ( s ) 一 ( s ) o   ( 師 匠             ( s ) i ( s ) o w a   師 匠 は )   ¥ -s a k a ( s ) i ' k a   ( 賢 し か )   ¥ c o o o o s a k a ( s ) i k a   ( 賢 し か) 以上を通覧すると、まず②の方法-即ち「子音+硬音符号」とい う表記は'子音の部分がほぼク (後掲の表によってス・グ・ツ・ ブ) に限られ、かつ後続音がラ行ないしヤ行 (後掲の表によって稀 にナ行) に限って出現している事がわかる。しかし'同様の条件に あっても、必ず「子音+硬音符号」という表記がなされるかという と'必ずしもそうではな-'例えばpQ-(co) のように'後続音が ラ行であっても「子音+母音+ラ行(ヤ行)」という表記も出現す る。つまり'このような環境にある場合、母音が表記される場合と されない場合とがあって'されない場合には硬音符号が施される用 例が多いという事なのである。稀に「skロ○(少う)」「57 ・」>s.kno(少う)」「----suknakaka(少なかか)」というように' 同じ音節が「子音」のみ'「子音+硬音符号」'「子音+母音」とい うような表記のなされ方をする場合があるが、珍しい。 硬音符号は固有の音価があるわけではな-'「子音字と兄tet 氾、︰巳との間にこの字が書かれているときは、兄、2、氾'︰eが千 字音字と分離して発音されることをしめ」(注1 6)すものである。 従って'ロシア語の表記法を踏襲して'「子音+母音+ラ行(ヤ 行)」とは異なった'後続音と分離した音であることを殊更に示す ための表記であると考えざるをえない(具体的発音については四節 参照)。ゴンザの諸資料には全体にこのような硬音符号の用い方が 見られるのであるが、このようにロシア語の表記に抵触しないよう な表記が用いられるということは、むしろロシア語の表記法に極め て敏感なものの手になる事を示すものと思われる。 さて'母音が表記される場合とされない場合とでは'その条件に どのような違いがあるのであろうか。 まず、oQ-(,-h)(N)によって、当該音の母音が表記される場 合'後続音が「r\(C)」などの単独の子音音節であるといえる。逆 に'他の全ての音節の場合を観察しても'後続音が単独の「子音」 音節であれば'必ず当該音の母音が表記される。「L。<NIC。fara暦. kot(腹ふ-る事)」は母音が表記されない音節が連続していて例外 のように思われるが、アッシュ本でこの箇所を確認すると「farafi'

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r,kot」となっていて'例外とはいえない。pQ-(t は後続音が 無 声 音 、 p Q   ( < m )   は 有 声 音 で あ る が ' そ れ ら の 違 い を 問 わ ず 、 後 続音が単独の子音音節であれば'当該音に母音の無表記は生じない という事は'はっきりとした条件として考えて良いように思われ る。 こ れ に 対 し t A I ( -)         M   は 後 続 音 が 「 子 音 + 母 音 」 の音節を形成していて例外はない。但し'後続音が「子音+母音」 であれば'必ず当該音の母音が表記されないかというとそうではな く BI(3) のように後続音が「子音+母音」であ-ながら'当 該音の母音が表記されているものもある。しかしt pQ-(co) のよ うな用例は'後続音が有声音である場合が多い。つま-'当該者の 母音が表記されない用例は'後続音が「子音+母音」 の構成をなし ている無声音の場合に多-、同じ構成をなしている有声音の場合に は少ないという事になる。 ま た ' 後 続 音 が 「 母 音 」 単 独 音 節   c Q -( ^ ) )   で あ る 場 合 に は 、 常 に 当 該 音 の 母 音 が 表 記 さ れ て い て 例 外 は な い 。 「 < ^ ^ c . e   ( 秩 ) 」 という例があるが'これは「硬音符号」が施されており'例外とは いえない。 更に'これは当然の事であるが、当該者が長音相当である場合 p Q -( i n ) )   に も ' 常 に 当 該 音 節 の 母 音 が 表 記 さ れ て い る 。 以上をまとめてみると'後続音が「子音」単独音節である場合や 「母音」単独音節である場合'当該昔の母音は必ず表記されるのに 対し'後続音が「子音+母音」 である場合'当該音の母音は表記さ れたりへ されなかった-するという事になる。そして'後続音の 「子音+母音」 の子音部分が無声音である場合、多-当該音の母音 は表記されず'有声音である場合'無声音である場合と比較して低 い割合で母音の表記がなされないという傾向を認める事が出来る。 そ れ で は ' 後 続 音 が 「 子 音 ( 有 声 音 )   + 母 音 」   で あ る 場 合 ' ど の ような条件のときに当該音の母音が表記され'どのような条件のと きに当該音節の母音が表記されないのであろうか。 < -( n )   と P Q -( < n i ) ( c o )   と を 比 較 し て み る と へ 当 該 音 に 母 音が表記される場合、その音節にアクセント記号がおかれることが 非常に多いという事実を指摘できる。﹃日本語会話入門﹄ において は'多-のアクセント符号が記されているが'そのアクセント符号 が当該昔におかれている場合'多-当該音は母音が表記される。逆 に当該音に母音が表記されない場合'そこにアクセント符号が施さ れたものはない。 母音の表記の有無は、﹃日本語会話入門﹄ において'概略以上の ような状態を呈している。ロシア語の表記の方法に抵触しないよう に配慮された部分もあるが'後続者が「子音+母音」か「子音」単 独音節か'或いは後続音が有声音であるか無声音であるか'或いは アクセント記号があるかどうか'などの条件によって'当該音の母 音が表記された-されなかったりするのである。このような状態を みてみるときに想起されるのが、日本語における母音の無声化とい う現象ではなかろうか。

三 薩隅方言の母音の無声化

﹃ 言 語 学 大 辞 典 ﹄   ( 注 1 8 )   に よ れ ば 母 音 の 無 声 化 は ' 「 標 準 語 の 狭 母音素\i\と\u\は'無声音の子音音素にはさまれたとき、規則

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10 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990) 的に無声化する。--あるいはまた'(b) これらの無声の子音音 素に先行された\i\・\u\が'つまる音\q\によって後続され て長い音節を形成し、そのあとに'同じ-無声の子音音素ではじま る音節がつづ.1場合である (例省略)。ただし'bの場合には'つ まる音を含む音節にその単語のアクセント核があるきとには'その せま母音は無声化されないで発音されることがある (省略)。また、 無声子音音素にはさまれたせま母音音素が2個連続する場合には' 2番目のせま母音音素は無声化されない傾向がある。3個以上つづ -場合には'ひとつおきに偶数個目のせま母音音素が無声化されな い 傾 向 が あ る   ( 例 省 略 ) 。 ま た ' 無 声 の 子 音 音 素 に 先 だ た れ た \ i \・\u\が単語のおわ-にきて'単語のアクセント核がそれよ-前の音節にあ-t かつ'その単語のあとに休止がある場合'そして' その単語が普通のイントネーションをもって発話される場合には' そのような短いせま母音音素は'その直前のせま母音音素が無声化 されていないかぎり'無声化されて発音されることがある (略)」 という。つまり'標準語においては'後続音が無声音である'無声 化した音節が連続しない'アクセント核がおかれないt などの条件 によってその音節の母音が無声化するのである。 更に'九州地方の方言においては、前田勇氏が「母音無声化の原 因 に 就 て 」   ( 注 1 9 )   に お い て 述 べ ら れ た 例 の う ち 、 語 末 ・ 形 態 素 未 の 狭 母 音 の 脱 落   ( a の 場 合 )   の 例 を 除 外 す る と ' 「 ① 無 声 音 [ i \ u ] + 無 声 音 L a \ e \ o ]   は   [ i \ u ]   が 無 声 化 す る 。 ② 無 声 音   [ i \ u ] / + 無 声 音   [ i \ u ] ・ ③ 無 声 音   [ i \ u ]   + 有 声 音   [ a \ e \ ○ ] ・ ④ 無 声 音   [ i \ u ]   + 有 声 音   [ i \ u ] ・ ⑤ 有 声 音   [ i \ u ]   + 無 声 音   [ a \ ○ \ e ] ・ ⑥ 有 声 音   [ i \ u ]   + 無 声 音   [ a \ e \ ○ ] ・ ⑦ 有 声 音   u   + 有 声 音 [ i \ u ]   な ど は   [ i \ u ]   が 無 声 化 す る 事 も あ る 」 と い う 事 に な る 。 糸 井 寛 一 氏 は   「 大 分 県 長 湯 方 言 」   ( 注 S )   の 母 音 の 無 声 化 に つ い て、「一般に無声子音音素にはさまれたi.uに該当する母音は無声 化 し や す い 。 特 に 後 の 音 節 の 母 音 が   a   [ e l   [ ○ ]   で あ れ ば ' 必 ず 無 声 化 す る 。 -( 以 下 省 略 ) -」   ( ﹃ 九 州 方 言 の 基 礎 的 研 究 ﹄ ) と さ れ ' 野 林 正 路 氏 は 「 熊 本 県 深 海 方 言 」   ( 注 S )   の 母 音 の 無 声 化 について'「(-) この方言のイ列音・ウ列音の母音は、その直後に [ a ]   e ]   [ ○ ]   を 含 む 音 節 ( そ の 子 音 が 無 声 )   が 来 る と 、 無 声 化 す る 。 -( 例 省 略 ) -( 2 )   直 後 の   [ a ]   [ e l   [ ○ ]   を 含 む 音 節 が 有声子音に始まるものであるときも'無声子音で始まるイ列音・り 列音の音節は'その母音が短縮する傾きがある。(例省略) -( 3 )   有 声 子 音 に 始 ま る イ 列 音 ・ ウ 列 音 の 母 音 も 、 直 後 に   [ a ] [ e ]   [ ○ ]   を 含 む 音 節   ( そ の 子 音 が 無 声 で も 有 声 で も )   が 来 る と ' 短縮する傾向がある。--(例省略)--」とされた。 つま-'九州地方の方言における母音の無声化は、無声子音に挟 まれた狭母音はもちろんのこと'後続音が有声音であっても無声化 する可能性を有するのである。そして三者は述べられていないが、 ﹃言語学大辞典﹄ によればアクセント核が関与する可能性があるの で あ る 。 このような状況と、前述した ﹃日本語会話入門﹄ における母音の 無表記とは'大変、良-対応した状況を呈しているといって良いの ではなかろうか。 ﹃日本語会話入門﹄ における母音の無表記と、現代九州方言にお ける母音の無声化とが良-対応した状況を呈しているという事が認

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められるならば'﹃日本語会話入門﹄ における母音の無表記は'全 てがそうではないにしろ (四節参照)'一八世紀初頭の薩隅方言の 母音の無声化の状況を反映していると考えることが出来るのではな か ろ う か 。 国語史において、母音の無声化は日本人自身には知覚されにくい 事もあって、これまで主に外国資料から断片的に報告されてきたに 過ぎない (注RS)。しかし、それらはいずれも纏まった記述をなす にはあまりに情報が少な過ぎたといえる。また'現代語の薩隅方言 において'母音の無声化について調査したものもあるが'必ずしも 十分な記述に耐え得るだけの資料を収集してなされたものとは言い 難い。特に薩隅方言の場合'形態変化が激しいために'その条件を 十分に記述していないように思われる。 ところが'ゴンザの諸資料はおそら-ロシア語の担い手によって 表記された蓋然性が極めて高-(注S3)'従ってロシア語のフィル ターを通したものであるが'日本人には知覚する事の出席ない'母 音の無声化を把握Lt それを表記に反映させた可能性は十分に考え られる事である。しかも'ゴンザの諸資料にはこのような精密な観 察による表記が多-の単語になされ'質と量とを兼ね具えた外国資 料を形成しているのである。ロシア語の表記の在-方やそこから得 られた情報の処理を誤らなければ'薩隅方言資料として十分に耐え 得るものと思われる。 そこで'ゴンザの諸資料から ﹃日本語会話入門﹄・﹃新スラブ・ 日本語辞典﹄ における母音の無表記を後続音などの観点からまとめ たものが'後掲の表Ⅰ-Ⅳである。特に用例を必要とするものは表 に示し'次節において説明を加える事にした。後続音の欄に星印を 施したものは無声化したりしなかったりする場合である。また'ロ シア語の転写方法は村山七郎氏﹃漂流民の言語﹄ に従うが'軟音符 号や硬昔符号の表記については前節で示した方法によった。 表を通覧していえば、母音が無声化する場合の条件としては'後 続 音 が 「 子 音 ( 無 声 音 )   + 母 音 ( a \ u \ e \ ○ ) 」 で あ る 場 合 で あ る 。 無声化しない場合の条件としては'後続音節が「子音のみ」或いは 「母音のみ (リから転化した1/二から転化した-)」であったり' 当該音節にアクセント核がある場合である。また'無声化したりし な か っ た り す る 場 合 と し て は 、 後 続 音 が 「 子 音 ( 有 声 音 )   + 母 音 」 の場合である。しかし'これも用例を通覧すると、当該音よりも前 にアクセント核が存在する場合無声化が生ずる (次例)。 c o c o c o i ' k r a   幾 ら ) ' ( x I L O L O 一 k . n e s u r   ( 商 い す る ) ' L O C 」 > r t f n u s d a ( 盗 人 は ) 、 ^ h o o c o f o / g a r a r ( 欲 し が ら る ) ' L O t -I -^ i 一 J g a r a ( 足 軽 は ) ' -> -k u ' r m a ( 車 ) 、 1 -^ b o ' b r a ( ボ ー ブ ラ ) ( 以 上 ' ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄ ) ^ c v K N l -X ' ^ 斗 *   ( 少 な か ) 、 O O L O ¥ C ^ ) [ > -C > ¥ O Q O < X l ¥ ^ C O ・ = > ¥ % * ? ! サ ) ] /   ( 温 む る ) ' 9 9 U . A X ^   ( 小 娘 ) t a > o ¥ t -i o c o A ' R j   ( 娘 ) t r -1 C O C O > f ' 斗 坊 ( 葦 ) ' 1 7 2 ヤ 斗 サ   ( 孤 ) ' 3 6 U . 7 + . ( 小 髭 ) 、 H C 」 > ( X I 1 7 . 7 サ   ( 小 舟 ) 、 i -i < x > o ¥ o o l q o ^ ' ; 1 / v   ( 車 ) ' i -H L O t -1 ¥ ( M L O 。 0 3 . A ' /   小 溝 ) ( 以 上 ' ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典 ﹄ 。 番 号 は 活 字 本 の ペ ー ジ 数 。 以 下 ' 同 じ ) また'当該者よ-も後にアクセント核が存在する場合'無声化が 生じない傾向が顕著である。

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12 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻1990 ^ -o < m k i k a ' r   聞 か る ) t l -k i m o ' w a   肝 は ) 、 -J i f o t a ' c ( 師 匠 達 ) ' ^ ^ f u k u s u ' r ( 奉 公 す る ) へ   1 < 」 > -o m u n e 一 n f t a   胸 の 下 ) t l o l o o ^ m u z o ' g a c   無 恵 が っ て ) ' L O C D O b u g e 一 n j a ( 分 限 者 ) ( 以 上 ' ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄ ) 8 3 斗 \ . 3   ( 茸 ) ' 1 6 1 ヾ ヽ つ i l   ( 芝 居 屋 ) ' 1 3 3 ヾ 党 . ) V   ( 絞 る ) 、 1 8 5 早 舟 一 ( 霜 ) ' L O L O f 布 山 . ( 奉 行 ) t C o l -H ¥ r -i C O O i f サ } . / ヾ i l   ( 分 限 者 ) t I N -^ V ' ^   具 足 ) 、 r H t ^ o y ; V > / y ル   ( 燕 ) ∼ -l o o ¥ c 0 -7 V 舟 . /   ( 強 者 ) ( 以 上 ' ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典 ﹄ ) 化は生じないのではなかろうか。また'アクセント核がある場合に 母音の無声化が生じないのも「きこえ」が大きいからではなかろう ヽ   ○ め

四 個々の用例の解釈

ま た 、 後 続 音 が 「 子 音 + 母 音 -」   の 場 合 も 多 -無 声 化 が 生 じ な い 。 「 語 末 母 音 -+ 助 詞 「 は 」 」 ・ 「 語 末 母 音 -+ 助 詞 「 に 」   か ら 転 化 し た ・ -」   の 場 合 も 大 体 無 声 化 が 生 じ な い が ' こ れ ら に は \ l \ が 生 じているので'後続者が「子音十-」 の場合に準じて良いかもしれ な い 。 このように纏める事が出来るとすれば、薩隅方言の母音の無声化 は ' 後 続 音 が 「 子 音 ( 無 声 音 )   + a \ 亡 \ e \ O 」   の 場 合 に 無 声 化 が 生 じ'後続音が「子音のみ」・「子音+母音・-」・当該音にアクセン ト核がある場合には無声化が生じない。また'後続音が有声音の場 合'アクセント核が当該音より前の場合には無声化が生じやす-' 後の場合には無声化が生じに-い傾向があるといえるのではなかろ う か 。 こうしてみると'薩隅方言における母音の無声化が生ずる原因は' 「 き こ え   ( s o ロ O r i t y ) 」 に 求 め ら れ る よ う に 思 う 。 後 続 者 が 子 音 単 独音節で「きこえ」が小さい場合、それを支えるために母音の無声 ﹃新スラブ・日本語辞典﹄ の場合'アクセント記号が一部にしか 施されていないので'用例の解釈にはやや不都合である。従って' 以下'﹃日本語会話入門﹄ の例外的にみえる用例を解釈してい-辛 によって前節の結論を追証してみたい。 ● k u の 場 合 「 r + 子 音 」   が 後 続 音 の 場 合 ' 「   i l -j e b u k . r a t   < ^ -H < N I m ( g ) k . r a ' ( n i i p o o f u k . r e 」   の よ う に ' 「 k + 硬 音 符 号 + r 行 」 と い う 表 記が用いられる場合がある。このように硬音符号が用いられるのは' 後にr行・1行・母音の音節が後続した場合で当該音節がク・ス・ グ・ツ・ブの場合に限られる。 日 本 語 に お い て ' 「 母 音 が 無 声 化 し た 音 節 に 現 わ れ た \ P , t , k \ はすべて強い気音を有する」といわれている (注2 5)。つま-、「子 普+硬音符号」 の用いられるのは、子音の部分がク・ス・グ・ツ・ ブにほぼ限られる事と併せて考えてみると、やはり母音の無声化を 表そうとしたものであるが、これらは非常に強い気音を伴うため 「息のとぎれ」を示す「子音+硬音符号」 で表記したものと考える が'いかがであろう。 と こ ろ が 1 例 だ け 例 外 が あ っ て ' 活 字 版 「 ^ ^ ^ f j a ' k . ( s ) o w o ( 百 姓 は ) 」   の よ う に 後 続 音 が 「 ( S ) 」   で あ -な が ら ' 「 k + 硬 音 符

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号」が用いられている例がある。しかし'この部分をアッシュ本で 確 認 す る と 「 f j a k 一 ( s o 」   の よ う に 軟 音 符 号 に な っ て お り ' 形 態 素 末 の狭母音の脱落を表記したものだと言える。 ● k i の 場 合 後 続 音 が 「 子 音 + 母 音 」   の 場 合 ' 無 声 化 す る の で あ る が ' 「 2 7 o f 肝 k i r   ( ふ き 切 る ) 」   の 場 合 ' 無 声 化 し て い な い 。 こ れ は こ の 位 置 が 形 態 素 未 で あ る と 考 え ら れ る 。 「 ( x I L O L O 一 k . n e s u r   商 い す る ) 」   は ' 「 商 い 」   の   「 k 」   に 硬 音 符 号 が 付 け ら れ て い る が ' こ こ も 強い気音を有していたと考えられる。 「 機 嫌 」 に つ い て は ' 「 l o o x o k j ' g e n t o i j a i 」   の よ う な 例 も あ る の で'アクセント核があったため'無声化しなかったのかもしれな ヽ ■   ○ し 「 ^ O 。 O t a t a k k j a i   叩 っ き や い ) 」   や 前 項 に 属 す る   「 5 9 8 s a b a . k k j a i   ( さ ば っ き や い ) 」   は ' 一 見 無 声 化 と 関 係 あ る 表 記 に み え る が ' 「 t a t a k i + k j a i 」 ・ 「 s a b a k i + k i a i 」 か ら こ の よ う な 形 へ 変 化 し た の で な -' 「 t a t a k i + j a i 」   か ら ' 所 謂 「 連 声 」   の よ う な 現 象 を 経て変化したものであって、ここで取扱う無声化の現象とは別個の 声化しているが'これが表記の揺れであることは前に述べた。 ま た ' 「 c o c o ^ j e v ( a n ) g ( e ) l i ' s t 」 は ' 後 続 音 が 「 t 」 で あ り な がら無声化しているが'これはロシア語を表記したものであるとい う点に例外となる理由があるかもしれない。 s )   の 場 合 「 < = > o m o ' ( s ) t u ( s )   ( c ) . ( 面 白 う し て ) 」 「 c o e g f a . ( s ) t a

(

)

c

o

i

^

o

o

k

a

'

(

s

)

t

a

(

)

か ) 」 ・ 「   1 ^ -> ( s ) t a m j a   ( し ら み は ) 」 「 ^ ^   ( s )   t o ' k a   ( 自 「 l o o o o ( s ) t a ' d ( z ) ものと考えたほうが良いように思う。

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「 -> < -m o ロ ○ ( s ) i j a   ( 物 知 り は ) 」 「 ( s   」   と い う 表 記 か ら は   [ シ リ ]   >   [ シ イ ]   と い う 変 化 が あ っ た 事 が 伺 え る 。 「 も の し 」 と い う 単 語 に 「 は 」 が 接 続 し た の で あ れ ば ' 「 m o n o ( s ) j a 」 と な る 筈 で あ る   ( 注 2 4 ) 。 「       f o ' ( s ) . ( s ) i j a   星 知 -は ) 」 ・ ・ ・ -こ れ も 同 様 に   [ シ リ ]   >   [ シ イ ]   と い う 変 化 が あ っ た と 思 わ れ る 。 「       s k n o   ( 少 う ) 」   は 後 続 音 が 単 独 の   「 k 」   で あ -な が ら 無 e n a   知 ら れ な ) 」 ・ 「 l o c d o ( s ) t a j e t ( 知 ら い ぇ と ) 」 ・ 「 5 8 6 , s ) t a n f t a   ( 知 ら ん 人 は ) 」 ・ 「 L O 。 。 < 」 >   ( s ) t a . j e n   知 ら い ぇ ん ) 」 ・ 「 l o o d -( s ) t a . ロ f t o w o ( 知 ら ん 人 を ) 」 の よ う に 、 「 s ) i 」 は「ラから転化した夕」を後続昔とする場合においても無声化す る。 後続音が「有声音+母音」 の場合'無声化したりしなかったりす るのが普通であるからへ もし後続音が「ラ」 のままであったならば' この場合のシの母音の無声化は生じなかったと思われる。事実' ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄   に お い て は ' 「 o o i ^ ( s ) t o k a ( 白 か ) 」   の 場 合 に は 無 声 化 し て い る が ' 「     ( s i i r a c u c a   白 土 は ) 」 ・ 「 ^ ^ o o > ( s ) i r o w a   ( 城 は ) 」 ・ 「 l o o ( x i ( s ) i r e   ( 城 に ) 」   の 場 合 ' 無 声 化 し て い ない。逆に'シの無声化が「ラから夕」 への転化を促したともいえ そうであるが'この前後関係については今のところ良-分らない。 薩隅方言においては'語頭のラ行はダ行に転じ'語中のリ・レは\ J\へ転じるなど'母音の無声化とは無関係にラ行そのものが不安 定な環境にある事も考慮に入れる必要があるように思うからである。 「 ( s ) i ( s ) o   ( 師 匠 ) 」   の 場 合 ' 「 ( s ) i ' ( s ) o 」 ・ 「 ( s ) i ( s ) o t a .

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14 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻1990 (C)」 の両様がある。前者はアクセント核があるから無声化しなか ったといえるが'後者はアクセント核が「達」 にあり'当該音よ-も後にアクセント核があるので無声化したのではなかろうか。 「 s o ' ( s )   ( c ) . ( そ し ち     「 ち 」 は 助 詞 ) 」   の 場 合 、 「 ち 」 は 全 て 「 ( c ) + 硬 音 符 号 」   で 表 記 さ れ る 。 こ の 場 合 に 限 っ て 、 後 続 音 が 単 独 の 子 音 音 節 で あ り な が ら ' 「 ( s ) i 」   が 無 声 化 し て い る 。 但 し ' こ の場合'「F (ここで(C)と転写している文字)」 は'ロシア語自 体において、どのような場合でも常にイの音色を伴って発音される ものである (注空。こうしてみると、この場合に限って'後続音 が「(C)」 でありながら'「(S)」が無声化しているようにみえるの は'薩隅方言における例外というよりもロシア語の表記の問題が絡 んでいるのではなかろうか。 ● f u の 場 合 「 m o o o f u j e ' f k j a ( 笛 吹 き は ) 」 は 「 語 末 母 音 -+ 助 詞 は 」 で あ りながら'無声化している。これについては良-判らない。 ● f i の 場 合 こ の 場 合 ' 無 声 化 す る と   「 f 」 と な っ て 「 f   ( フ ) 」   の 場 合 と 区 別 がつかなくなる。例えば、﹃新スラブ・日本語辞典﹄ においては、 「-7*nj 左の)-7o yjヰゝ (左さまに)」という例があ る。 ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄   に 「 f i 」   の 音 節 が 出 現 す る の は 大 体 、 無 声 化 し な い 環 境 に お い て で あ る 。 「     f i k w ( i )   ( 低 い           f i g e -w a ( 髭 は   -L D N f i g e 一 n a ( s )   髭 な し   -c D O f i d a ' i n o ( 左 の )   ¥ t -h o -f i d a r ' k a t ( ひ だ る か と )   ¥ n o ^ f i d a r u w a   ひ だ る う は )   ¥ o o a > o o f i z i k a   ( フ ィ ジ カ     ^ ( X i [ > -o w a f i g e   お わ 髭 )   / f C O t -f i b o ' d ( z ) a   紐 じ ゃ     ^ c o ^ f i d a ' r k a t a   ひ だ る か と は)」などは'後続音が有声であるものが多-'従って無声化しない。 ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典 ﹄   に は 「 7 0 鳶   ( 髭 )   / 7 0   ' f   ( 左 ) / 7 o i / 7 s ) V o   ( 低 -す る ) 」 な ど の 無 声 化 し た 用 例 を 指 摘 出 来 る が ' ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄   に は み ら れ な い 。 「 f i 」   が 無 声 化 す る 条 件 は 「 f u 」   の 場 合 に 準 じ て 良 い よ う に 思 わ れ る 。 ● m u の 場 合 「 ^ l -m m a 一 k a   ( 旨 か           m m a 一 s a k a   旨 さ か )   ¥ < N l ^ H L O m m a n   馬 の )   ¥ c o ( x i o m m a j e t a   ( 生 れ た と は             m m a 一 j e c u k j a   生 れ 付 き は   v c 」 > r -1 0 m m a 一 k a   ( 旨 か ) 」   は 無 声 化 と い う よりも'鼻音を後接する語頭の 「ウ」 の音価の問題と思われる。 ● b i の 場 合 「 ( x i t ^ o c i b i d o ' r o d ( z ) e   ビ ー ド ロ で ) 」   の 場 合 ' 第 三 日 節 が 長 音 相 当 で あ っ た 可 能 性 も あ る 。 従 っ て ' 後 続 音 が 「 子 音 + 母 音 」   で あ っ て も 無 声 化 し な か っ た 可 能 性 が あ る . 単 独 で も   「 ^ o a b i ' doro」 のように第一音節にアクセント核があり'無声化しない。 ● b u の 場 合 r行が後続する場合には硬音符号を伴って母音が無表記される事 が 多 い の で あ る が ' こ こ で は ' 「 i -I l > -O b o ' b r a   ( ボ ー ブ ラ ) 」   の よ うな語形で出現している。この理由については良-判らないが'或 いは外来語起源の単語であることが関係しているかもしれない。 以上'一見、例外と思われるものも'個々にみればそれぞれの理 由があるようで'こうした用例を除外すれば、一八世紀初頭の薩隅 方言における母音の無声化は'前節で述べたような条件のもとに生 じているといえるのではなかろうか。

(15)

五 現代九州方言との関係と国語史的意味

これまで述べてきたように、ゴンザの諸資料にみられる母音の無 表記は一部を除けば'母音の無声化を反映したものであろうと思わ れる。それではそれが三節で示したような条件のもとに生ずるとい うことは'どのような意味を有するのであろうか。 まず'第一点として既に前田氏・糸井氏・野林氏が指摘しておら れる、薩隅方言に隣接する方言における母音の無声化と非常に共通 点が多いという事実である。母音の無声化という点に限っていえば' 前田氏・糸井氏・野林氏の指摘された方言の延長線上にある方言で あるといって良いのではなかろうか。 また薩隅方言においては'音声的レベルの話になるが、本稿で指 摘したように'母音の無声化が連続しないという事や、語末の狭母 音の脱落とも連続しないという事がいえる。形態音韻論的レベルで い う な ら ば ' か つ て 論 じ た 事 が あ る が   ( 注 2 7 ) ' 助 詞 の   「 の 」   が 薩 隅方言においては擬音化して [ン] になることがある。しかし'こ れも母音が脱落して声門閉鎖音化している単語や一拍の単語に下接 するときは [ノ] の形が保たれるが'語末に母音がある場合には撹 音 化 し て   [ ン ]   の 形 に な る 。 或いは'これも形態音韻論的レベルの問題であるが (注gS)'助 詞 「 に 」 が 単 語 に 下 接 す る 時 も ' 普 通 は   [ イ ]   ( \ l \ )   に 転 ず る の であるが、7柏の単語に下接する場合や擬音で終止する単語や [ リ ]   か ら 転 じ た   [ イ ]   ( \ l \ )   や 融 合 し て い る 二 重 母 音 な ど を 語 末 に 有 す る 単 語 に 下 接 す る 場 合 な ど に は ' [ イ ]   ( \ J \ )   に 転 ず る 事 な く   [ ニ ]   の 語 形 を 保 っ た ま ま で あ る 。 薩 隅 方 言 に お い て ' 助 詞 「 に 」 ・ 「 の 」   や 狭 母 音 を 含 む 音 節 は ' 常に子音単独音節に転ずる可能性を有しているといえる。しかし、 これらの現象から'子音単独で構成される音節は互に音節を連続さ せないという'消極的ではあるが一種の法則性を見出す事が出来は しないだろうか。その規則にそって'音声現象や音韻現象や形態音 韻論的現象がおこなわれているものと考える事が出来はしないだろ う か 。 薩隅方言は所謂「シラビーム方言」とされ'\Q\や\N\など で終止する音節の存在が指摘されてきたが'それらの音節がどのよ うに連なるかという観点からの報告はあまりみあたらないように思 う。しかし'ここで述べてきたような音節連続の在り方からすると' むやみに子音のみが連続してい-事はな- 、cVを基本としてt c Vに接する場合に限ってCのみの音節が生じる事があるという事に なるかもしれない。この点'やはり日本語としての特徴を持ってい るといってよかろうと田いう。 `一 次に'冒頭で述べた鹿児島県の薩摩半島南部に行なわれている力 行夕行の語中有声化現象との関係である。 現 在 の 穎 娃 町 鶴 成 方 言 や 開 聞 町 脇 浦 方 言 の 調 査   ( 注 g 3 )   の な か か ら、力行夕行の語中の有声化に関して、母音の無声化によって有声 化しない用例と'母音の無声化が生じていないがゆえに有声化が生 じている例をそれぞれあげてみる。 母音の無声化が生じているために後続の力行夕行が有声化しない単 五口 一≡ロ 負 目 -■ 8 負 号 -卓 ・ ・ I B , , J               -                  -                          1 ・         し -  ︰ ・ 1   -1 ・ ; -            畠

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16 額   ( k i t e ' ふ と か   ( [ ◎ u t o k a ] ) ' 舌   ( U i t a ] ) 、 肱   ( [ t s u t o ] ) ' 0 は ぎ   ( [ t s u t o ] ) ' 深 い   ( [ ◎ u k a k a ] ) ' 光   ( [ c i k a i ] ) ' 明 日   ( [ a j i O t a l ) 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990 母音の無声化が生じていないために後続の力行夕行が有声化する単 五口 言 ︼ ロ

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濁のシステムに関与する問題であって'母音の無声化と直接関与し ないのではないかと思われる事は冒頭で述べたとおりである。 日本語の清濁の対立がどのような史的変遷を辿ったかという問題 は解決されたわけではな-'今後に残されているわけであるが'少 な-とも薩隅方言の母音の無声化の在-方からして'音声レベルの 母音の無声化現象が清濁の対立そのものに直接に関与しているとは 考え難いように思われる。 記述に終始した感があるが'本稿が薩隅方言の母音の無声化の記 述や清濁の捉え方・ゴンザの諸資料の研究などに寄与する点があれ ば 幸 い で あ る 。 注 注- 上村孝二氏「上飯島瀬上方言の研究」 (﹃鹿児島大学法文学部紀要 文学科論集﹄第言号 昭和四〇年二一月) 注2 木部暢子氏「鹿児島県穎娃町方言の語中有声化について」 (﹃国語国 文薩摩路﹄第三四号 平成二年三月) 注3 ﹃音声学大辞典﹄ の 「無声化」 の項目参照 注4 ﹃言語学大辞典﹄ において両者は区別されていないが'前田勇氏 「 母 音 無 声 の 原 因 に 就 て 」   ( ﹃ 音 声 学 会 会 報 ﹄   八 〇 号   ( 昭 和 二 七 年 一 二月) において'特に九州方言においては両者を区別すべき事を論 じている。従いた-思う。旧稿「形態音韻論的観点からみた一八世 紀 初 頭 の 薩 隅 方 言 -助 詞 「 の 」   の 擬 音 化 に つ い て -」   に お い て は 、 語末・形態素末の狭母音の脱落を「無声化」としたが'これを機に 改めたい 注5 注4引用の拙稿など 注6 平成二年一一月実施。崎村弘文民・木部暢子氏との共同による南薩 方言の調査 注7 服部四郎氏﹃言語学の方法﹄ 二八三頁以下 (昭和四八年三月九刷に ょ る 。 岩 波 書 店 ) 注8 現代語のように有声音対無声音の対立として捉えるのではなく'鼻 音対非鼻音として捉える在-方も無視出来ないように思われる 注 9   迫 野 虞 徳 氏 は 「 促 音 ・ 擬 音 の 表 記 の 動 揺 -﹃ 天 正 狂 言 本 ﹄   の 場 合 -」   ( ﹃ 文 学 研 究 ﹄ 第 八 四 輯   昭 和 六 二 年 二 月 )   に お い て ' 地 方 に よ っては促音と擬音の音韻論的独立の時期に違いがあったのではない かという疑いを提出されておられる 注 1 0   井 上 史 雄 氏 「 東 北 方 言 の 子 音 体 系 」   ( ﹃ 言 語 研 究 ﹄ 五 二 号   昭 和 四 三 年) 注 1 1   迫 野 慶 徳 氏 「 「 京 大 図 書 館 蔵 元 亀 二 年 本 運 歩 色 葉 集 」 に つ い て   ( ﹃ 国 語 国 文 ﹄ 第 四 二 巻 第 七 号   昭 和 四 八 年 七 月 ) 、 同 氏 「 「 中 濁 」 考 」 ( ﹃ 文 学 研 究 ﹄ 第 八 八 輯   平 成 三 年 三 月 )   な ど 注 1 2   ﹃ 荘 内 方 音 ﹄   や ﹃ 獄 中 記 ﹄   ( ﹃ 民 衆 運 動 の 思 想 ﹄ 昭 和 四 五 年 七 月   日 本思想大系五八 岩波書店) など 注1 3 この事情は東北方言においても同様であって'井上史雄氏が\k \・\的/・\g\という三項の音韻論的対立の根拠とされたのが 「類推」による語中の力行夕行の有声音の出現なのである 注 1 4   薩 隅 方 言 の 母 音 の 無 声 化 に つ い て は 、 上 村 孝 二 氏 が 「 鹿 児 島 県 薩 磨 郡高城村」において'「(-)無声子音と無声子音との間に挟まれる 場 合 ( -省 略 -)   ( ︰ 1 1 ) 語 末 の 場 合 ( -省 略 -)   ( ⋮ 3   無 声 子 音 と 有 声 子 音 と の 間 に 挟 ま れ る 場 合   ( -省 略 -)   ( . * )   有 声 子音と有声子音との間に挟まれる場合(--省略--)」 (国立国語 研究所 ﹃日本方言の記述的研究﹄明治書院 昭和三四年二年) とされた。木部暢子氏は 「鹿児島および東北方言の語中力行夕行の 子 音 に つ い て 」   ( ﹃ 語 文 研 究 ﹄ 第 七 十 号   平 成 二 年 二 一 月 )   に お い て ' 「「無声音の子音音素にはさまれた狭母音」が無声化するのではな く 「キ・ク・シ・ス・チ・ツにおける狭母音が後ろの子音に関係 な-」無声化するのである」とされた 注 1 5   本 稿 で は 主 に   ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄ ・ ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典 ﹄ を 対 象とする。前者は ﹃漂流民の言語﹄ (昭和四〇年三月 村山七郎氏 吉 川 弘 文 館 ) ' 後 者 は   ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典   日 本 版 ﹄   ( 昭 和 六 〇 年五月 村山七郎編 ナウカ書店) による。また'原本のコピーに ょって表記を確認した

(18)

18 注1 6 鹿児島大学教育学部研究紀要 人文・社会科学編 第43巻(1990 注17 注1 8 注1 9 注20 注21 注22 注 2 3 注 2 4 注 2 5 一通り調査したところでは、例外と思われるものに 「チチ (乳)」 という例があって'語末が狭母音であるにも関わらず'母音の脱落 が生じていない (﹃新スラブ・日本語辞典﹄)。面白い事に現代の南 薩方言においても「ナチ (乳)」 の語末母音は脱落しておらず'し か も ' 二 音 節 目 の   「 チ 」   が 有 声 化 し て い る 佐藤純一氏﹃初歩のロシア語﹄ (昭和六三年二月二九版 昇龍堂出 版 )   に よ る ﹃ 言 語 学 大 辞 典 ﹄ 第 二 巻 一 七 〇 三 頁 「 母 音 の 無 声 化 」   の 項 目 参 照 前 田 勇 氏 「 母 音 無 声 化 の 原 因 に 就 て 」   ( ﹃ 音 声 学 会 会 報 ﹄   八 〇 号   昭 和二七年二一月) 糸 井 寛 一 氏 「 大 分 県 長 湯 方 言 」   ( ﹃ 九 州 方 言 の 基 礎 的 研 究 ﹄   昭 和 四 四 年五月 風間書房) 野 林 正 路 氏 「 熊 本 県 深 海 方 言 」   ( ﹃ 九 州 方 言 の 基 礎 的 研 究 ﹄ ) コリヤード ﹃日本文典﹄ など。宮島達夫氏「母音の無声化はいつか ら あ っ た か 」   ( ﹃ 国 語 学 ﹄   四 五   昭 和 三 六 年 )   に 母 音 の 無 声 化 を 記 述 した外国資料が幾つかあげられており'安田華氏「方言集樺と国語 表記」 (﹃朝鮮資料と中世国語﹄ 昭和五五年七月 笠間書院) にも 朝鮮資料に存する母音の無声化と思われる例の指摘がある 田 尻 英 三 氏 「 1 8 世 紀 前 半 の 薩 隅 方 言 」   ( 昭 和 五 六 年   ﹃ 鹿 児 島 大 学 教 育 学 部 研 究 紀 要 ﹄   三 二 号 や 迫 野 慶 徳 氏 「 ﹃ 新 ス ラ ブ ・ 日 本 語 辞 典 ﹄ の   「 オ 」   の 表 記 」   ( ﹃ 辞 書 ・ 外 国 語 資 料 に よ る 日 本 語 研 究 ﹄   和 泉 書 院 平成三年八月) 拙稿「外国資料よりみた一八世紀初頭の薩隅方言-助詞の融合につ いて-」 (﹃辞書・外国資料からみた日本語研究﹄ 和泉書院 平成 三 年 八 月 ) 黄国彦氏「日本語の有気音と無気音-中日両語の比較対照の角度か ら -」   ( ﹃ 柴 田 武 教 授 定 年 退 官 記 念 言 語 学 演 習 . 7 8 ﹄ 東 京 大 学 大 学 院 柴田ゼミ) による) こ の よ う な 文 字 は 他 に 「 叫   ( ﹃ 日 本 語 会 話 入 門 ﹄   に お い て c ( s ) ) 」 があるが、これは﹃日本語会話入門﹄には用いられていない 注4引用の拙稿参照 注 2 4 引 用 の 拙 稿 参 照 注29 注6参照 注 3 0   宮 島 達 夫 氏 「 母 音 の 無 声 化 は い つ か ら あ っ た か 」   ( ﹃ 国 語 学 ﹄   四 五 昭和三六年) でも'力行夕行の有声化より前に母音の無声化が生じ たとする。また'ゴンザの資料にみえる 「fodok(e) (仏)」・ 「 f a d a k ( e )   ( 畑 ) 」 な ど の 例 は ' 語 中 の 力 行 夕 行 の 有 声 化 の 残 存 と は考え難いように思われる 注 3 1   柴 田 武 氏 「 パ ロ ー ル の 言 語 学 」   ( ﹃ 月 刊 言 語 ﹄   八 巻 五 号   昭 和 五 四 年 五月) に'清濁の対立の在り方の現代方言の分布から、日本語の清 濁の史的変遷を再構しょうとする試みがある ︹ 付 記 ︺ 原稿提出後'鹿児島大学教育学部四年生駒走昭二氏 (昭和六三年度入学) より'ゴンザのアクセンー表記は'日本語のピッチをあらわしたものでは な- 、日本語のスーレスを表記したものではないかt という案を提示され た 。 ロ シ ア 語 の ア ク セ ン -が ス -レ ス に よ る も の で あ る 以 上 ' 日 本 語 の ア クセントをそのまま写したものではな- 'スーレスを写した可能性は高- 、 非常に蓋然性の高い考えであると思う。 本稿のアクセントとの関わりにおいて'修正を余儀な-される部分があ るかもしれないが、本人の考察を待ちた-思う。 記して感謝の意を表したい。 ( 平 成 三 年 十 二 月 二 三 日 )

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