• 検索結果がありません。

『人生使用法』における「制約」について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『人生使用法』における「制約」について"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)『 人生使用法』 における「制約」 につ いて 酒. 詰. 治. 男. ジ グソー・ パ ズルの組 み立 て に生 命 を賭 ける,無 邪気 とも見粉 が う主人公 の物語 を中心 に展 開 され る ジ ョル ジュ・ ペ レツク Georges PEREC(1936∼ 1)(以. 1982年 )の 小説『 人生使用法』. 下 しばしば『使用法』と略記す る)は ,実 の と. ころその 内奥部 に,読 者 の侵入 を阻 む「仕 掛 け」 を幾重 に も張 り巡 らす こと で,作 品 自体 を も一個 の壮大 なパ ズルに仕 たてあげて い る。 ところで,性 質 規模 ともにさまざまのそれ らの「仕掛 け」 はまた,な によ りも作者 自身 が. ,. ,. この作 品 の着想 と執 筆 に際 して 自 らに課 した パ ズル と,そ の解答 で もあ っ た。 か くして,実 現 されたテキ ス トは,主 人公 が作 中 で取 り組 む パ ズル,作 者 が読者 に仕掛 けるパ ズル,そ して作者 自身 が挑 み解決 したパ ズル とが幾層 に もわた って交響 しあ う未曾有 の「言 語遊戯」 の空間を出現 させて い る。奇 想 の小説 と称 され る所以 であろ う。 以下 に取 り上 げ るの は,数 あ るそ のよ うな仕掛 け―一「 制約」 と呼 ばれ る 一一 の うちの二 つの実態解 明 の試 みで あ る。一 つ は「 ラテ ン方陣」,ま た一 つ は F概 曇 ]ム と名 づ け られて い る。前者 は 600ペ ー ジに余 るこの小説 の本文 の 全体 を支配す る,全 面 的 な手法 の典型 であ り,後 者 は作 品 の ほぼ 中央 に位 置 して,テ キス トの全 体 を要約 しか つ反映 しつつ も,制 約 の及 ぶ範囲 を章 の一 部 に とどめ る,部 分 的手法 の典型 であ る。 いずれ もがす で に多 くの解釈・ 注 釈 の試 み の対象 とされて きたが, とりわけ前者 には未 だ に謎 に包 まれた部分 が多 い。 1)Lα 力θποαθα物り JOtt Hachette,1978.拙 訳,水 声社,1992年 。.

(2) 『 人生使用法』 にお ける「 制約」 につ いて 1。. 「 ラテ ン方陣」. 本論 に入 るまえに,「 制約」 とい う概念 と,『人生使用法』 とい う作品 の概 略 をなぞ り直 してお こ う。1960年 ,数 学好 きの文学者 レイモ ン・ クノ ー と文 学好 きの数学 者 フ ラ ンソ ワ・ ル・ リヨネの 呼 びか けで「 潜在 的文学 工 房」 (Oπ vrdr de Lづ. ttё. rature Potentidb― 略称「 ウリポ」)な る実験 的文学集団が結. 成 された。 その 目的 は現 代 の作家 が応 用 しうる文学 の数学 的 な構造 を歴 代 の 作品 か ら抽 出 し,あ るいは人工 的 な手法 を新 たに開発 しなが ら,そ れ らを も とに 自 ら実作品 の創 出 を試 み ることであ った。 そ こで注 目された のが作品 の 着想 ,構 想 の根底 に働 く「制約」 とい う概念 であ る。す なわ ち「小説 (章 分け 等 々)あ るい は古典悲劇 法 の制約 ,定 形詩. (ロ. (三 一致の規則)に. お ける諸規則 の制約 ,一 般 的 な作詩. ンドーやソネットの場合)の 制約」 こそが作 品創 出 の原動. 力であ るとい う認 識。主 と して西洋 の,古 今 の あ らゆ る ジ ャ ンルの この側面 での分析 が試 み られ ると同時 に,そ のよ うな制約 の概念 を応 用 した作品 の創 造 が つ ぎつ ぎと実践 に移 され た。 67年 に この グル ー プに参入 した ペ レ ック は, と りわ け「文字落 と し」 と呼 ばれ る,字 母―― とりわ け母音字―一 のい くつ かの使用 を意 識 的 に排 除す る制約 に則 って,大 部 の小説 を書 いた ばか り か,記 録 的 な回文 を もの して,た ちまち グルー プの寵児 とな ったの であ る。 「 ウ リポ」 にお け る この よ うな研鑽 を通 して得 られ たあ らゆ る知 識・ 経験 を 駆使 して構想 され,十 年 の歳 月 を費 や して完 成 されたのが『 人生使用法』 で あ った。 小説 の そ もそ もの構想 はパ リ市 中 の あ る集 合住 宅 immeubleの 正 面壁 を 取 り去 って,そ こに観察 され るあ らゆ る人 物・ 事物 の現在・ 過去 ,時 には未 来 を網羅 しよ うとい うもの。 この 目的 に沿 って利用 されたい くつ もの制約 の 中心 をなすのが「 ラテ ン方陣」 であ る。. * 作品刊行 の翌年 ,作 家 は着想・ 執筆時 に用 い られた四 つ の図形 を中心 に. ,. この 自作を解説す る小文――「 『 人生使用法』のための四つの図形」―― をあ.

(3) 酒 2)が. る雑誌 に公表 す る. 詰. 治. 男. , そ こで述 べ られて い る構想 と, この制約 の概念 の関. 係 はおお よそ次 のよ うに要約 で きよ う。 つ ま り,当 時「 ウ リポ」 で注 目され て いた, い くつ かの要素 を n× nの 格子 に均等 に配分 す るこの概念 の小説 で の利用 の可能性 が一 方 で作家 の関心 を惹 いて いた。他方 が,『 源氏物語絵巻』 ,. 英 国 の あ るイ ンテ リア雑誌 な どか ら想 を得 た,正 面壁 を とり払 われた集合住 宅 の描写. (こ. の見取図が「第一図」をなすが,本 稿では再現 しない)と い う構想 で. あ った。 この建物 の 10× 10の 部屋 を持 つ格子 か ら成 る断面 図 が「 方陣」の格 子 と重 な ることに気 づ いた とき,構 想 は飛躍 的 な発展 を遂 げ る。 す なわ ち. ,. 建物 の各部屋 が作 品 の一 章 に照合 し,各 章 の構成要素 ,「 家具 ,室 内装飾 ,人 物 ,歴 史・ 地理 的暗示 ,文 学 的暗示 ,引 用 ,等 々」 が 置換原 理 に則 って配分 され る作 品 が具体化 した ので あ る。 だが,ま ず も って決定 され たの は,10× 10の 格子 の対応 す る集合住 宅 の. 100の 部屋 , す なわ ち 100の 章 を持 つ小説 の各章 の叙述 の順番 で あ った。 こ こで もまた「桂馬跳 び の図形」 と呼 ばれ る もう一 つ の制約概念 が用 い られた 3)の. が, その詳細 に関 して は他所 ですで に幾度 か触 れて いる. で, ここで は以. 下 の記述 に必要不可欠 な要点 をなぞ るに とどめ る。 つ ま り作家 はチ ェスの愛 好家 の あ いだで古 くか ら知 られ る独 り遊 び の一 つ,「 ナイ ト (キ ャヴァリエ)に チ ェス盤 の 64(=8× 8)の す べ ての格子 を,決 して重 複 す ることな く,連 続 し た軌跡 によ って経巡 りつ くさせ る」方法 を チ ェス盤 を拡大 した格子 に適 用 し,そ の解答 を「 手探 りで,ほ とん ど奇蹟 的 に」見 つ けだす ことによ って上 の問題 の解決 を はか った。第 1図 はその駒 の軌跡. (中 央近 くが起点)を 示 す も. の,ま た第 2図 は駒 の同 じ移動 を数字化 し,章 の記述 の順番 と,建 物 の部屋 の位 置 を 同時 に図示 した もので あ る4)。 起点 た る第 1章 は「 階段」 であ り,第 3章 で右 の辺 ,第 7章 で上 の辺 ,第. 2)≪ Quatre. οづ ≫inИ π N° 76,1979,pp.50∼ 53. figures pour Lα 7グ θποαθαυttρ ι Jα s α πtt pο ttη ″ グ θ妨勿 ″ θJJa Gallimard,1981。 に再録 され た。 後 に ス′ 3)た とえば『 人生使用法』,前 掲訳書,「 あ とが き」 を参照。 4)作 者 自身 が用意 した この集合住宅 の断面図 が作品 の巻末 (p.603,訳 書 569ペ ー ジ) に再現 されて い る。建物 との照 合関係 の詳細 に関 して は この図 を参照 された い。.

(4) 『 人生使用法』 における「制約」 について 第 2図 57. 女中部屋. 46 55 60. 49. 98. 28. 44. 94. 30. 99 70. 88 69. 78. 68. 77. 63 24. 72. 39. 38. 76. 地 下倉. 12章 で左 の辺 , 第 21章 で下 の辺 を経 由 して, キ ャヴ ァ リエの一 巡 目が終 わ り,こ こで第 1部 が終了 し,第 22章 か ら第 2部 が始 まる。以下 同様 の操作 が 五 回繰 り返 され,五 つの部 を経 た後 ,左 の辺 の 中央近 くの第 99章. (「. バー トル. プース,5」 )で 第 6部 が終了す る。だが 100の 部屋 =章 とい う小説 の設定 はあ くまで も原理的 な もので あ り,内 実 あ るい は決定稿 とは異 な る。地下倉 およ び屋 根裏 の二 つ の階 の女 中部屋 には原則通 リー 格子 =一 章 しか割 かれて いな いが,全 般 に裕福 な人物 には五 つ の格子 に相 当す る空 間 が割 かれてお り,そ の数 に相 当す る五 部屋 に等 しい五 つ の章 が,そ れ らの人物 に関す る描写 に充 て られて い る。最 も大 きな空 間 を あてが われて い るの は階段―-12部 屋分 一― であ る。 補足 を い くつ か。 まず, この「 桂馬飛 び の図形」 もや は り高度 の数学 の概 念―一 グラフ理 論―― に属 して いる。す なわ ち,「 ナイ トの駒 が,チ ェスで定 め られたそ の駒 の動 きに従 って,各 格子 を一 度 ず つ, しか も一度 だけ経 由 し なが ら,す べ て の 格 子 を連 続 した軌 跡 で も って 埋 め つ くす こ とが で き る か ?」 とい う問題 は,専 門的 には「 有 向ハ ミル トン道」chemin hamiltonien と呼 ばれ る もので,よ り身近 な例 と して は,1955年 に合衆国 で,セ ール スマ ンが 国内 の 48の 主要都市 を最短距離 で経巡 る方法 の解決 に 10万 ドルの懸賞 金 が提供 された ことがあ るとい う。現在 で は この都市数 が 536ま での解答 が.

(5) 治. 酒. 男. 得 られて い るが,そ れ以上 に昇 ると,強 力 な コ ンピュー ターで も解決 は困難 5)。. で あ る らしい. 重要 な補足 を い ま一 つ。 この「桂馬飛 び」 の手法 の適用 の過程 で作家 にお な じみ の「 ク リナ メ ン」clinamen6)の 応用 がすで に観察 され る。 つ ま り「世 界 は偏椅 があ って こそ初 めて十全 に機能す る」 とい う,原 子論 か ら借用 され た ウ リポの共有概念 の一 つ であ り,数 理的・ 機械 的 な原理 の適用 の際 に作家 が しば しば意識 的 に併用す る「欠陥原 理」 あ るい は「反制約原 理」 で あ る。 第 2図 で は識別 で きな いが,章 の進展 を詳細 に辿 るとき,左 下 隅 の第 66章. 7). に該 当す る「 地下倉」 の描写 が省 かれてお り,実 質 的 には第 65章 「 モ ロー. ,. 3」. の次 に,元 来 の 67章「 マル シア,4」 がや って くる ことが確認 され る。 そ. の結果 ,第 65章 以降 は,本 来 の章番号 が一 つ ず つ ずれ ることにな り,『使用 法』 には,原 理 的 に予測 され る百 の章 の代 わ りに 99の 章 しか存在 しな い。. * ところで, この断面 図 に ラテ ン方陣 が重 な ることの発見 か ら,そ もそ もの 作 品 の構想 が具体化 した ので あ った。作者 の解説 を借 りて, この制約 の概念 の詳細 に立 ち入 ることに しよ う。作者 が ここで依拠 す るの は,方 陣 の最 も初 歩 的 な モ デ ルで あ る。す なわ ち,三 つ の章 を持 つ物語 にデ ュポ ン,デ ュラ ン ,. シュス タ ンベ ル ジェの二 人 が登 場 す るとす る。 この二 人 に二連 か ら成 る三 つ の要素. (属 性)を 付与 す る。つ ま リー方 で帽子 (ケ. ピ=K,山 高 =M,ベ レー=B). を被 らせ,他 方 で大 =C,鞄 =V,バ ラ=Rの 花束 を持 たせ る。問題 は,二 人 の 人物 が これ ら六 つ の要素 を順繰 りに,た だ し三 度 にわた って 同 じものを持 た 5)C.Berge et E.Beaumatin,Gθ. O,9θ s. π,Cahier Go Perec οづ Rπ εθιJα εοttbづ πα″. 4, 1990,1).83-96.. 6)た. とえば 『 ロベ ール仏和大辞典』 (小 学館 )で は,clinamenは 「 エ ピク ロスの 原子論 で,不 特定 的 に原子 の運動方 向 に生 じる微小 な偏椅。原子 の衝突 ,結 合 を導 く多様 な 自然 の生成原理 とされた」 と説 明 されて い る。 7)こ の「左下隅 の欠陥」 は,作 家 の最初 の記憶 た るヘ ブライ文字 の イメ ー ジ(″ Oπ θ,Denoё l,1975,23ペ ー ジ参照 ),つ ま り自伝 的要素 の反映 で あ γαυイ aη ε ι θsο zυθπグ り, 作 品 の他 のい くつ かの側面 に も関 わ りが あ る。 また 66と い う数字 も後 に見 る よ うに偶然 の もので はない。.

(6) 『人生使用法』 における「制約」 について. ないような物語 を考案す ることである。 その解答 の一例 は次 のよ うになる。 Dur.. Sch。. 1.KV. BR. MC. 2. BC. MV. KR. 3.MR. KC. BV. Dup。. す なわち,第 一 章 で はデ ュポ ンが ケ ピ帽 と鞄 を,デ ュラ ンはベ レー とバ ラ を, シュス タ ンベ ル ジェは山高帽 と犬 を携 えて登 場 し,第 2章 で は. .…. とい う ことにな る。 これ は正 式 には 2元 3次 ラテ ン方陣. の要素が. (各 格子 =章. 云々. 二つずつ,格 子の数が 3× 3)の 例 であ るが,『 使用法』 で は格子 の数 が 3で はな く 10で あ るよ うな もの,つ ま り 2元 10次 ラテ ン方陣 が用 い られ た。要 す る に「 方陣」の概念 とは,こ こで は,小 説 の各章 にいずれかの要素 を満遍 な く ,. 均等 に,重 複す ることな く配分 す るため の置換原理 であ る。 なお, もう一 つ の「 図形」 と して「 明細表」 cahier des chargesな る もの が付 されて い ることを記 してお こ う. (第. 5図 参照)。 上 の ラテ ン方陣 に適用 さ. れた 42の 要素 ,す なわち先 の「 家具 ,室 内装飾 ,人 物 ,歴 史・ 地理 的暗示. ,. 文学 的暗示 ,引 用 ,等 々」 と呼 ばれて いた ものの具体的実例 の一 覧表 であ り ,. ここに挙 げ られて い るの は小説 の第 23章 ――「 モ ロー,2」 ―― に該 当す る もので あ る。. * 確 か に「 四 つの図形」 は,『 使用法』が組織 的 な「制約」 に則 って書 かれた もので あ ることを 明示 し,か つ その制約 の内容 をかな りの詳細 にわた って解 説 す るとい う意味で啓示的であ った。 しか し,こ こで「解説」 された「 方陣」 と,そ のよ うな概念 の行使 の結果 に他 な らな い「 明細表」 の あ いだに は, さ らに い くつ もの手続 きが介在 し,両 者 の関連 を突 き止 め ることはほとん ど不 可能 であ った。 そ の意味で は この解説 はむ しろ読 者 の欲求不満 を一 層募 らせ た とい うのが実情 に近 い。 つ ま り作者 は, ここで作品 が パ ズルの側面 を もつ ことを,い くつ かの ヒン トを添 えて示唆 した ので あ る。以来 ,た ぶん作者 の 意図 を上 回 って,『 使用法』批評 は,こ の手法詮索 の側面 に集 中す ることにな.

(7) 酒 詰 治 男. る。 に もかかわ らず ,実 体 が漸 くあ き らか にな るの は,作 者 の没後 , ご く最 近 の一 連 の研究 を通 して の ことにほかな らな い。それ らの助 けを借 りて,「 四 つ の図形」 の行 間 を補足す ることに しよ う。 そ もそ も,ど うして にわか に「 ラテ ン方陣」 なのか,そ して よ り詳細 なそ の概念 は いかな る ものなのか ?「 ウ リポ」 に この概念 を紹介 した ク ロー ド・ ベ ル ジュの解説 8)に よれば,「 配 置」configurationの 問題 は,文 学作品,と り わ け小説 に構成要素 を配 分 す る優 れた方法 と して,当 初 か ら,「 ウ リポ」にお ける大 きな関心 の対象 であ った。なかで も最 もよ く知 られて いたのが n次 の ラテ ン方 陣 で あ る。 た とえば,5× 5の 方形 に A,B,C,D,Eお よび 0,1,2,. 3,4の 記号 を,① 方形 の 25の 格子 の各 々が,そ の文字 と数字 の組 み合 わせを 一 つずつ持 ち (2元 ),② その文字・ 数字 の組 み合 わせが反復 されることな く ,. ③文字・ 数字 のいずれ もが縦 の列 で も横 の列 で も一度以上反復 されない. (直. 己列す ると,第 3図 のよ うな格子 が得 られる。す なわち 2元 交する)よ うに酉. 5. 第 4図. 第 3図. A0. Bl. C2. D3. E4. El. A2. B3. C4. D0. 7/8 6/9 5/0 0/2 9/4 8/6 2/3 3/5 4/7 7/9 6/0 0/3 9/5 3/4 4/6. 8/7 2/2 9/6. 7/0 0/4 4/5 5/7 6/2. 3/3 2/8. D2. E3. A4. B0. Cl. 0/5 9/7 8/2 4/4 3/8 2/9. C3. D4. EO. Al. B2. 2/0 0/6. B4. CO. Dl. E2. A3. 7/3. 5/6. 8/3 5/5 4/8 3/9 6/7 7/2. 4/9 3/0 0/7 9/2 8/4 6/6 5/8. 2/5. 9/3 8/5 7/7. 2/4 3/6. 6/8 5/9 4/0. 3/2 4/3 5/4 6/5 7/6 5/3 6/4 7/5 7/4. 2/6 3/7. 2/7. 8/8 9/9 0/0 4/2 9/0 0/8 8/9 5/2 6/3 0/9 8/0 9/8. γ θ οづ ,前 掲書。 8)C.Berge et E.Beaumatin,Gθ οttgθ s Rγ θθθ′Jα θθπbづ ηα′.

(8) 54. 『 人生使用法』における「制約」 について. 次 直交 ラテ ン方陣 であ る。 この次元 の方陣 (1,036,800通 りの組み合わせが存在す るという)を 見 出す ことは比 較 的容易 で あ る と して も, ドイ ッの数学者 オイ ラー を筆頭 に,6次 の方陣 は不可能 であ り,同 様 に 10次 の もの もあ りえ ない とされて きた。や っ と 1960年 に,ア メ リカの数学者 たち,ボ ーズ,パ ーカー. ,. シュ リックハ ン ドが,6次 と 2次 を除 くあ らゆ る n次 の方陣 の可能性 を発見 し,67年 に会員 ベ ル ジュによ って「 ウ リポ」 に事態 が紹介 され,こ の概念 の 文学 的 な利 用 が ル ー ボー とペ レ ックに もちか け られ たので あ った。第 4図 (な. おこの図ではアルファベ ットも数字 に変えられているが,原 理に変更はない)は. ,. その よ うな貴重 な 10次 ラテ ン方陣 のモ デ ル で あ る。 この数学 的 な配分 の概 念 が,正 面壁 を 除去 され た パ リの建物 を描 写 しよ うと して いた ペ レ ックに よ って 10× 10の 部屋 を持 つ 集合住宅 とい う, もう一 つ の方形 に重 ね 合 わ さ れたのであ る。. * しか らば, この方陣 はどのよ うに『使用法』 で行使 された のか。機能 の実 態 が つ かめなか った最大 の原因 は, 方陣 に組 み込 まれた 42の 構成要素. (「. 四. つの図形」の「家具,室 内装飾,人 物,云 々 .… 」 )の 詳細 が不明 であ ったか らだが. ,. それが よ うや く明 らか に され た の は作者 の草稿 を参照 しえ た ご く最 近 の研 究. 9)に. よ っての ことに他 な らな い。 これ によれば,方 陣 に適用 された 42の 要. 素 とは第 6図 のよ うな もの であ る。 これ らの要素 の各 々に,以 下 に見 るよ うな 1か ら 10の 下位項 目一―「 リス ト」 と呼 ばれ る一一 が恣意 的 に選択 され,各 要素 の一 項 目ず つ が ペ アに され て,そ の ペ ア ごとに方陣 に組 み入 れ られたのであ る。 因 み に,最 初 の二 要素 ――① 態勢 と②活動―― の リス トの内容 は以 下 の ごと くであ る。. 9)B.Magnё. :Dπ ″gづ s′ ″ απ ε ん づ ′ ″ 」ι θcahier des charges de Lα `ゅ αυπpJο グde Goerges Perec,in fbη sθ ち CJα ssθ 4 Eε 万 θ ,PUV,1990。 “. yグ θπο αθ.

(9) 酒 詰 治 男 第 5図. 第 7図. 第 6図. 8,4 Gd Appt. ch。. 23. ① 設営 する ② 分 類 ③ ヴェルヌ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ③ ⑨ ⑩. ⑪ スェズ運河(191罫 D. Faux. ︶④ ⑫ ⑬ ② ⑮ ④ ④ ④ ⑩ ⑩ ① ① ⑩ ③ ① ⑮ ⑪ ⑩ ⑩ ⑩ ④ ④. Chatirrlent. 中 東 中国様式 書 架 ∼10ペ ージ 1860年 代の生理学 新生児 猫 外 套 無地 の ウール 赤 G)ス トッキング, 靴下 ② メダル ⑮ 美術書 ④ クラシック音楽. ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑮ ⑭ ⑬ ⑩ ⑩ ④ ⑫. Manque. Faucille. ジョイス 二 人 居住者 手 帳 夢 を見 る 板張 り ゥールの絨毬. 7. ④ 『女官 たち』 ④ 『 白鯨』 ④ お 茶. 8〔3黒. 罫 毒 誓 チ. ・パズル ① クロスワード き ⑩ 驚 `季. 9(3三 角 島. ⑮ 平行六面体 ⑪ 観葉植物 ① 銅,錫 10⑩ 4に おける欠如 ⑩ 3に おける虚偽 ①鎌 ⑫罰.

(10) 『 人生使用法』 における「制約」 について 態勢 ひざまず いた 降 りる, うず くま った 腹這 いになった 4座 った 5立 った 6 床,地 面 よ り高 くあがる 7入 る 8 出る 9 仰向けになった 0 腕を振 り上 げた ①. ②. 活動. 1描 く. 1 2 3. 2 3 4 5 6 7 8 9 0. 維持する 化粧 エロティック 分類する,整 理する 地図を使 う 修理する 読む,書 く 棒 もしくは楽器を もつ 食べ る. ところで, この リス トが適用 されたの はまさに先 ほどの第 4図 に示 した方 陣 であ り,た とえば左上隅 には 1/1の 数字 が見 られる (左 が第 1要 素,右 が第 2要 素)が ,第 2図 で確認で きるように,こ の格子 は第 59章 ,「 ハ ッティング ,. 2」. に照合する。すなわち,こ の章 では原理的に「 ひざまず いた」態勢 と,「 描. く」活動 とが見 られる。 ただ しリス トの内容 はい くつかの研究を通 して散発的 に しか公表 されてお らず,全 容 は不明である。既知 の ものは筆者 の知 るか ぎり,③ 引用 1,④ 引用. 2,⑦ 第 3セ クター,⑮ 読書,④ 音楽,② タブロー,④ 書物,⑭ 絵画,① カ ッ プル 1,⑫ カ ップル 2で しかない。 「要素」 に関す る他 の特質を ここで補足 してお くな ら,③,④ 「引用」 は. ,. 『 使用法』 の「追記」 に列挙 された作家 たちの うち 20名 のなん らかの作品か ら具体的 な引用10)を ,⑤ ,⑥ の「数」 ,「 役割」とは登場人物 の数 と役割を,⑮ の「長 さ」 はその章 のテキス トの長 さを,② の「 タブロー」 おょび④ の「書 物」は,10の 既存 の絵画作品 と,上 の「追記」の残 りの作家 10名 のいずれか の作品 に関わ る語句―一時に引用 と識別 しがたい一― の援用を意味す る。 ⑦ の「第 3セ クター」 とはフラ ンソワ・ ル・ リヨネが提唱する「第二部門 の文学」 という概念 か らの借用 で. 1.三 面記事. 2。 書誌 3。 規則 4。. 10)ペ レック自身 の もの も含む,既 存 の文学作品 の「引用」 は「要素」中で も特異の 重要な位置を占める。作品巻末 の「追記」 の意味 も含めて, この側面 に関 しては別 稿 (『 人生使用法』 における 〈 文学〉 の 「引用」 について―一 甲南女子大学,「 ヨ ーロ ッパ文学研究」 ,第 16号 ,1992年)で 検討 した。.

(11) 酒 詰. 通知状 5。 8。. レシピー. 6.薬. 治 男. 局 のパ ンフ レ ッ ト. 7.手. 帳 , カ レンダー. プ ロ グラム 9。 辞書 10。 使用法 ,案 内書 ,必 携 の項 目を擁 して い る。 ⑪ ,⑫ の「 カ ップル 1」 ,「 カ ップル 2」 は「 ロー レル とハ ー デ ィー」,「鎌. と槌」,「 ラ シー ヌとシェイクス ピア」,「 フ ィ レモ ンとボ ー シス」,「 罪 と罰」 ,. 「 高慢 と偏見」,「 夜 と霧」,「 灰 とダイヤ モ ン ド」,「 耕作 と牧畜」,「 美女 と野獣」 の対語 の各 々 を二 つ の系列 に分 け, この順番 で振 り分 けた もので あ る。 このよ うに して,先 の 42の 要素 が二 つ ず つ組 み合 わ され, 21回 にわた っ て方陣 に組 み込 まれ,各 章 の構成要素 が決定 された。 そ の際用 い られた方 陣 は固定 的 な もので はな く,方 陣 を置換 させ る もう一 つの原理 ,い わば メ タ置 換原 理 に従 って,そ れ 自体置換 された。各研究 で見 られ る限 り,行 使 されて い る方 陣 は毎 回異 な る11)。 要素 を配分 す るラテ ン方陣 の行使 の原 理 は以上 のよ うな ものであ るが,そ の原 理 の テキ ス トヘ の組 み込 み に際 して,そ の過程 で,あ るいはその結果 に お いて各要素 が果 たす機能 は必 ず しも均 一 で はな い。第 一 に,上 の各要素 の 観察 か ら,す で に要素 間 に大 きな性質 の差異 が窺 われ る。 す なわち,あ る も の (形 状,色 彩,素 材,等 々)は 比較 的範囲 の限定 された物語 内容 の決定 に関 わ り,ま たあ る もの. (引. 用,役 割,時 代,場 所)は 比較 的広範囲 の物語 内容 の決定. に関 わ るが,他 のい くつ か. (長. さ,登 場人物数,役 割,等 々)は む しろ物語行為. そ の ものに関 わ る本質 的 な側面 を決定 す る もので あ る。 だが さ らに,他 を律 す る要素 ,い わば メ タ要素 とで も言 うべ きもの さえ設 け られてお り,方 陣 の機能 的 な使用 を意 図的 に阻 んでい る。要素 の⑩「 欠如」 と⑩「虚偽」がそれであ る。す なわち,こ の 20番 目の ペ アは,方 陣 が指定 す るいず れ か の項 目 の不 在―― 欠如―― と,元 来 の指定 とは違 う項 目 の設 定 ――虚偽一― を指示 す るのに用 い られた。最後 の 2要 素 ,つ ま り「 カ ップル. H)方 陣 の縦 0横 の列 のいずれかを一定 に保 ったままで も,. 各列 の 18通 りの組 み合 わせが可能であ り,縦・ 横 の軸 を同時 に変換す ればさらに 81通 りの変化 が得 られ る。作家 はこの組 み合わせの変換 にあたって「 クニーヌ」 と呼 ばれる, もう一 つの υ πθ メタ制約 の概念 に依拠 していたことが指摘 されて いる。Bo Magn6:Cグ ηgπ づ γG.力 πεl,Hachette,1985を 参照。 θ カリπ pο %γ La Vie mode d'emploi,in Cα んグ.

(12) 『人生使用法』 における「制約」について 1」. および「 カ ップ ル 2」 を除 く 40の 要素 が 4つ ず つ上 か ら 10の グルー プ. に分類 され,方 陣 で指示 され る各 グルー プの,そ れ ら 4つ の要素 のいずれか を削除す るとともに,方 陣 の原則 が指示 す る もの とあえて異 な った項 目が選 ばれた. (第. 6図 参照)。. この よ うに して,全 般 に, テキ ス トに馴染 みに くい要. 素・ 項 目が排除 され るか,他 の もの と変更 され るか したので あ る。 ただ し第 10グ ルー プはそれ 自体欠如・ 虚偽 を含 む グル ー プで あ り,方 陣 が それ 自体 を指示 す るときには欠如 の欠如 ,つ ま りそ の ままの使用 が, さ ら に虚 偽 の虚偽 で指示 どお りの ものが配分 され ることもあ った。 つ ま り厳密 な 配分 を逃 れ る 「遊 び」, 作家 の選択 の若干 の 自由 が このよ うに して確 保 され た。先 に見 た欠陥原理「 ク リナ メ ン」 が ここで も再度姿 を見 せてい ることに な る。. * さて,以 上 のよ うな特性 を持 つ各要素 の,毎 回 ペ アに され た 21ず つ の下位 項 目が,以 上 のよ うな手続 きを経 て ラテ ン方陣 に組 み込 まれ,小 説 の 100の 章 に 42項 目ず つ配分 された ので あ るが,先 に挙 げた「 明細表」――「 四 つの 図形」 の最後 の もの一一 は,そ のよ うな操 作 の結果 を示 す 100の 例 の一 つ に 他 な らな い。作者 自 らが公表 して くれ た この希有 な資料 を手掛 か りに,以 下 に これ らの項 目の,テ キ ス トヘ の具体的 な適用 の実体 を眺 めてみ ることに し よ う。 第 7図 は第 5図 の明細表 の項 目に,各 要素 に照合す る 1∼ 42の 通 し番号 を. )を 補足 した も 付 し,な ぜか脱落 して いる④ の「古典音楽」 (要 素名は「音楽」 ので あ る。 他方 , この 明細表 が 指示 す る第 23章 の 内容 はおお よそ以 下 のよ うな もの で あ る。 す で に第 20章 で幼友達 と看護婦 と共 に寝室 にい る モ ロー夫人 が,工 具会 社 の社長 であ ることが, そ の製品 のカ タ ロ グと共 に紹介 されて い る. (こ. の第. 23章 での初めの数段落での要素の不在 は, この既出部分 との辻棲を合わせるためと解 釈す ることができる)が ,第 23章 で は夫人 が社長 とな った経緯 に始 ま って,社.

(13) 酒 詰 治 男. 長 としての活動,田 舎 の家 へ の往来 が語 られた後,建 物 の一部屋一一喫煙室 兼書庫―一 の造営 の経緯,そ の現況 の詳細 な描写 が行 われる。 このようなテ キス トの物語内容・ 行為 の根底 と細部 を決定 して いるのが, これ ら42の 要 素 に他 な らない。 以下 にそれ らの具体的な「嵌 め込み」 の実態 を確認 してみ よう。 まず もって,項 目の大半 は,「 書庫兼喫煙室」で描写 される事物 の属性 に関 わるものであるが,そ もそ も, この部屋 の構想 および用途 自体, ジュール・ ヴェルヌの『 海底二万 マイル』 の ネモ艦長 の潜水艦「 ノーチラス号」 のそれ か らの,具 体的引用 (③ )を 含 む借用である。 その部屋 の設営 (① )の 経緯 が述 べ られたのち,そ の描写 が展開 される。す なわち,壁 はプラ ド宮. (④『女. 官たち』の暗示)に 由来す る八枚 のパ ネルの板張 り (⑨ )で あり,銅 (① )の 象嵌 された本棚 (⑭ )が 並 び,大 半 を 占める美術書 (⑮ )が アルファベ ッ ト ‖ 頂 (② )に 収 ま っている。床 には三 角形 (⑮ )の 模様入 りの赤 い (⑫ )ウ ー ルの (④ )絨 毯 (⑩ )が 敷 かれ,書 棚 の前 にはやはり銅 (① )の 装飾 の入 っ た脚立 が置かれてお り,そ の側木 の一 つ には,『 白鯨』(④ )を 暗示 する (白 鯨 を見つけた者に船長が供する賞金)金 貨 が打 ちつ けられている。 書棚 の数 ヶ所 は ショーウイ ン ドウに設 え られて いるが,そ の一つめには第 二帝政期 の手帳 (⑦ )お よび小 さない くつかのポスター (⑭ )な どが飾 られ. ,. 二つめにはスエズ運河 (⑪ であり⑫ ではない,す なわち虚偽⑩)に 由来す る 工具類. (ヴ. ェルヌからの三度めの弓1用 ③)が 並 んでいる。二 つめには生理学者 フ. ルー ラ ンス. (「. 索引」に 1794∼ 1967年 ,と 補足されている一―⑪)が 実験 に用 いた. 赤 い (⑫ )子 豚. (新 生児 (⑬ )が 収 ま っている。四つめ は平行六面体 (⑩ )の. 「人形 の家」だが,こ の描写 のほとんど全体が ジョイスの『 ユ リシーズ』か ら の大幅 な引用 (④ )で ある。 ここに も ミニ ュアチュアのウール (④ )の 絨毯 (⑩ ),銅 (① )の 用具 を備える暖炉,精 密時計 (⑪ ),短 いケープ (⑩ ),靴. 下 とス トッキ ング (④ ),観 葉植物 (① )の 植 え られた純銅 (① ,② )の 鉢 が 姿 を見せ る。最後 の五 つめの シ ョー ウイ ン ドウを飾 るのはハ イ ドンの楽譜 (古 典音楽,④ )で ある。.

(14) 『 人生使用法』における「制約」について. 残 りの多 くは章末近 くの, この部屋 の現況 の描写 に関わ りを もつ。す なわ ちモロー夫人 の旧友 トレヴァン夫人 と看護 の女. )が , この. (二 人⑤の現存者⑥. 部屋 で先刻お茶 (⑩ )を 飲 んだ ところであ り,皿 には まだ何枚 かの クラッ カー (⑩ ?)が 残 され,傍 らには手 をつ けられたばか りのクロスヮー ド・ パ ズル (⑫ )が 放置 されている。その解 かれた二語 の一つが「驚 き」(⑬ )で あ る。二 匹 の猫 (⑬ )が 眠 り,夢 を見てい る (③ )ら しい。傍 らの床 に鉢 が砕 け,牛 乳 のこばれた跡 が見分 けられるが,猫 たちの仕業 らしい。 だが,そ の 罰 (⑫ ?)に ,絨 毯が牛予Lを 吸 って しまい,彼 らは獲物 にあ りつ けなか った 。 ¨ これ ら主要 な二 ヵ所以外 にも,章 の冒頭近 くの,モ ロー夫人 の田舎 の家 に も猫 (⑬ )が お り,時 計 (⑪ )の 音 が聞 こえ,ま た会社 の二千人 の従業員 の 職種 の分類 (② )が 行われる。以上 の記述 の全体 は印刷 されたペー ジで七枚 (⑮ )に 収ま ってい るが,た だ しこのページ数 の指示 はおそ らく草稿 の枚数 に. 関わ るものであろう。. * 多少 の補足 が必要 であろ うか ? まず もって,42の 項 目の す べ てがそのまま,す なわ ち字義 どお りに採用 さ れて い るわ けで はない。 「外套」 は「 短 い ケ ー プ」 で しかな い し,「 ロシア式 おや つ」 は「 クラ ッカ ー」 に縮減 されて しま って い る。 また「夢 を見 る」 の が猫 で あ り,「 新生児」 が子豚 であ ることもやや意表 をつ かれ る し,「感情」 に該 当す る「 驚 き」 が パ ズルの答 えで しか ない ことにい た って は,む しろ卓 抜 な創意 と言 うべ きか。 さ らに,木 に打 ちつ け られた金 貨 か ら『 白鯨』 を. ,. あ るい はプ ラ ド宮 か らベ ラスケスの『女官 たち』 を想起 す ることは,大 方 の 読者 に とって, もはや作者 のみの「秘儀」 に属 す る暗示 で しかない。繊維 の 要素⑩ の 「 無地」, 装身具 た る② の 「 メ ダル」, カ ップルの片方 であ る① の 「 鎌」 はつ いに見 当 らない ことをつ け加 えてお こ う。 機能 の複雑 な「欠如」 と「虚偽」に関 して も若干補 って お こ う。4に お ける 欠如 ,3に お ける虚 偽 とは,先 に も見 たよ うに,42の 要素 を上 か ら 4つ ず つ の グルー プに分 けて番 号 を付 した第 4グ ルー プ (要 素⑬,⑭ ,⑮,⑮)に「欠如」.

(15) 酒. が,第 3グ ループ. 詰. 治. 男. (⑨ ,⑩ ,⑪ ,⑫ )に 「虚偽」が該当す ることを示 して いる。. その結果,⑬ の「様式」 にあたる「中国様式」 が省 かれ,ま た⑪ の「時代」 にあたる「戦後」の代 わ りに「 19世 紀」のスエズ運河 があえて選ばれたので ある。. * 以上 か らも明 らかなよ うに,配 分表 の指示 す る「構成要素 」 の適用 はすで に必 ず しも機械 的 で はない。第 23章 で もそ うで あ ったよ うに,各 章 にお ける 以上 の よ うな要素配分 はあ くまで も原理 的 な もので あ り,予 定 された 42項 目の使用 が全 章 にわた って厳密 に遵 守 されたわ けで はな い。 因 み に,上 の章 で の要素 の適 用率 は 42の うち 38,つ ま りほぼ 93パ ーセ ン トに止 ま って い る。執筆 時 に作家 はそ の実現数 を第 42章 まで記録 して いた らしいが,途 中 で 断念 した。それ によると,42の 制約 が遵 守 された の は うち 18章 で あ り,他 の. 24章 に関 して は,そ の数 は 41か ら,極 端 なケ ースであ る 24(第 5章 )ま で と 12)。. ば らつ きがあ る。. 意 図的 な「欠陥原 理」に加 えて,制 約 に対 す る作家 の態. 度 には常 に この種 の「遊 び」 が観察 され るので あ り,数 理 的 な制約 が いつ も 厳守 された とは限 らな い。 しか し,そ のよ うな「欠陥」 を認 めた うえで も ,. これ らの要素 が上 の よ うな第 23章 の物語 内容 を決定 して い る ことに変 わ り はな い。 以上 のよ うな制約 の適用 か ら,『 使用法』のテキ ス トの全 体 が,ま さに「 断 片」 の組織 的 な嵌 め込 みによ って成立 して い ることは明 らかで あろ う。原理 的 な 100の 部屋. (ピ. エス)の 各 々に,原 理的 な 42の 断片. (ピ. エス)が 配 され る. ,. とい うのが この作品 の本質 的 な特徴 であ る。 す なわち,上 に見 たよ うな操作 が, ただ し互 いに有機 的 な関連 を保 ちなが ら, 100回 にわた つて反復 されて い るので あ る。リス トの各項 目 は一 つ の章 に 10回 出現す るのであ るか ら,し たが って作品全体 で これ らの項 目数 は「欠如」 を考慮 して も,原 理的 に 4000 以上 に昇 ることにな る。 そ して,た だちに理 解 され るよ うに,主 人公 バ ー ト 12)Bo Magn6,前. 1匿:書. , p.7..

(16) 『 人生使用法』 における「制約」 について. ル ブースの物語,つ まり自 らが描 いた水彩画 をパ ズルの断片 に解体 し,そ れ を生涯かけて組 み立てなおす という物語 は,作 家 自身 のこの ようなまさにジ グソー・ パ ズル的作品制作 の方法 の明瞭 な 自己表示 なのであ り,主 人公が作 中で洩 らすそのゲームに対す るあ らゆる感慨――熱中,創 意,工 夫,習 熟. ,. 錯誤,混 迷,襖 悩,煩 悶一― は,終 局 での頓挫 は別 に して も,作 者 が この作 品 に抱 く感慨その ものに他 な らない。. 2。. 概. 要. 『 使用法』 にお ける二 つめの制約 は,第 51章 ――「 ヴ ァ レーヌ」一― に現 れ る「概要」compendiumと 呼 ばれ る部分 に関 わ る もの で あ る。 この部分 は 作品 の刊行 に先立 って,1978年 に「 ポ エ ジー」誌第 4号 に独立 して発 表 され た ことがあ る。 詳細 は割愛 す るが,こ の第 51章 で は,そ れ まで に幾度 か にわた って作 中 で 暗示 されて きた「 画面」 (第 7章 ,第 28章 )が 初 めて大 々的 に 出現 し,物 語 の あ らゆ る章 が作者 によ って書 かれ ると同時 に,作 中人物 の画家 ヴ ァ レーヌに よ って描 かれて もい るとい う事実 が啓示 され る。画家 が また この物語全体 の 主要 な「語 り手」 で あ る らしい とい う推測 も, この章 を侯 って初 めて強固 な もの とな る。 自 らを描 く画家 の姿 が描 写 され る い くつ か の段 落 に継 いで,先 行 す る 50 の章 と後続 す る 49の 章 か ら選 ばれ た 179の 挿話 が,そ れ ぞれの人物 た ちを 中心 に韻文形式 で要約 され,「 画題」 と して 179回 にわた って列挙 され る。 プ ロロー グとエ ピロー グを勘定 に入 れ るな ら,ま さに作品 の 中央 に位置す るこ の部分 は,前 後 を照 射 しつつ全体 を要約 す る「 中心紋」様式 13)の 典型 であ る 13)mise en abimeと 呼 ばれ るこの様式 は,「 絵 のなかの絵」,「 物語 のなかの物語」 とい うよ うに,作 品内 であ る要素 が その性 質上全体 に反映す るよ うな手法 や構造 と りわ け この反映 が無 限 に反 映 され るか,作 品 自体 を虚 構 と して内包 して い る もの を い う。 ,.

(17) 治. 酒. 男. と と もに,作 品 の 構 造 を その深 淵 か ら暗示 す る「 核 心 」 で もあ る の だ。 ちな み に, この 章 に の み ,章 番 号 に定 冠 詞 が 付 され て い る。 と ころで , この「 概 要 」 の 部 分 に も,極 めて 厳 密 な い くつ か の 形 式 的「 制 近 く〕 約 」 の 支 配 が 窺 わ れ る。 冒頭 の 10行 を こ こに再 現 して み よ う (各 行末 〔 の下線部 の強調 は筆者 による)。. l. P61age vainqueur d'Alkhamah se faisant couronner a CovadOngュ. 2. La cantatrice exi16e de lRussie suivant Schonberg a AInsterdュ m. 3. Le petit chat sourd aux yeux vairons vivant au dernier Otュ. ge. 4. Le cr6tin chef d'1lot faisant preparer des tonneaux de sュ. ble. 5. La ferrlrrle avare Ocrivant ses moindres dOpenses dans un cュ. hier. 6. Le faiseur de puzzles s'acharnant dans ses parties de jュ cquet. La concierge prenant soin des plantes des locataires ュbSents 8 Les parents prOnommant leur fils Gilbert en hommage tt Bё Caud. 7. 9. L'6pouse du Corrlte libOr6 par l'C)ttomane acceptant ltt bigarrlie. 10 La ferrline d'affaires regrettant de ne plus Otre a lュ. campagne. まず も って ,各 詩 行 は,各 語 間 の 空 間 も計 算 に入 れ て ,60字 か ら成 る。全 体 は, この よ うな 60の 詩 行 が ひ と纏 ま りを なす三 つ の 詩 節 か ら構 成 され て い る。 と ころで ,そ れ ぞ れ 60行 か ら成 るそれ らの 詩 節 の 各 々 は,そ れ ぞ れ の. 1行 日末 の文字 の , 行 ごとの一 字 ず つ の右 か ら左 へ の移 動 とい う制 約 に支 配 されて い る。す なわち,第 一 節 で は. (そ. の冒頭部を上に確認できるように)Aの. 文字 が,第 2節 で は Eが ,下 に図示 したよ うに,右 上か ら左下 にか けて,い わば 60の 詩行 を斜 めに貫 いて い るのであ る。ところで,そ の三 文字 の連 な り. ameは ,一 般 的 には「魂」 を,ま 心」 を意味す る。. た技術 的 な狭義 で は楽器 ,彫 像 な どの「 核.

(18) 『 人生使用法』 における「制約」 について. 韻文 の形式 に関す るこのよ うな特性 の枢要 な部分 は明 らか に,作 家 の もう 一 つ の「 ウ リポ」 的詩作品『 アル フ ァベ』14)か らの借用 であ る。. E,S,A, R,T,I,N,U,L,0に ,こ れ ら以 外 の字母 B,C,D,G,H,J,K,P, Q,V,W,X,Y,Zの いずれか (Bな らBだ け)を 専 一 的 に加 えた,H文 字 か ら成 る 1行 を H回 反復 し,そ の配列 の「読 み」の可能性 を探 りなが ら作 ら れた詩文 か ら成 る,極 めて制約度 の高 い, ウ リポの一 典型 とみなされ るべ き 『 アル フ ァベ』 は,フ ラ ンス語 で最 も使 用頻度 の高 い 10の 字母. 異文字詩作 品 で あ る。 す なわ ちあ る詩 で は, 上 の 10の 字母 に もっぱ ら Bが 加 え られ,各 行 の配列 を組 み変 え,区 切 ることによ って,読 解可能 な詩文 を 組 み立 ててゆ くので あ る。 16の 字母 の一 つ につ いて われ た結果 ,176(=16× 11)の 下 はそ の 41番 目の詩 であ り,. H回 ず つ 同 じ操作 が行. H行 詩 が この「詩集」 に収 め られて い る。以 ここで は,H番 目の字母 は Fで あるが, この. 場合 が まさにそ うであ るよ うに,時 と して,最 初 の 1行 の左右 と,左 端 の縦 の行 の文字 の配列 が 同 じ (二 重のアクロスティッシュ形式)で あ り,な おか つ そ の. め. の. 斜. 一. 文. 字. ―. こ. こ. ―. で. は. 一. E一. が 一. 一. す. 定. る. と. い. う. よ. う. に. ロ. ,ア. バ. ク. テ ィックな制約 を含 む もの もい くつ か見 うけ られ る。. 41. 訳. Soif nulatre,oさ 1'anis,. とるに足 りぬ渇 き―― ア ニ ス酒 が. tr6filant ruse,offrant. そ こで策略 を透 か し見 させ,場 を. lieu(son flair eut sous. 供 す る (そ の影響 の もと,か れの. aile front las),. 直感 は疲労 の相貌 を呈 したが). t'enfouira:. ―一 がお まえを没頭 させ るだ ろ う。. trё s. 規則 と規制ず くめの鉱脈 を拒 む. loin fut le fusain,. or refusant loi et filon. 金科玉条 た る. saur.. 筆致 はあま りに も遠 か った. 14)∠ Jpん αbθ た,Gali16e,1976.. 15)。.

(19) 酒. 詰. 治. 男. S OIFNULATRE SOIFNULATR E OULANISTR E F ILANTRUS E OF FRANTLI E USO NFLAIR E UTSO USAIL E FRONT LAST E NFOUIR ATR E SLOINFU TL E FUSAINOR R E FUSANTLOI. E TFILONSAUR. O I F N U L A T R E. ULANISTREF LANTRUSEOF RANTLIEUSO FLAIREUTSO SAILEFRONT ASTENFOUIR TRESLOINFU LEFUSAINOR EFUSANTLOI TFILONSAUR. 形式 に少 か らぬ差異 が窺 え るとはいえ,先 の「 概要」 の部分 は,明 らか に 『 アル フ ァベ』にお いて も この『 アル フ ァベ』の原 理 を踏襲 す る もので あ る。 ,. 各詩 は H× 11の 方形 か ら成 るが,「 要約」も 60× 60文 字 の方形 を形成 して い る。 さ らに,そ の 60× 60の 二 つ の方形 の各 々 は, この 41番 めの詩 にお ける. Eの 文字 同様 の配列 で,A,M,Eの 二 つの文字 によ って,右 上 か ら左下 に向 か って貫 かれて い る。 ここで もまた,い くつ かの補足 を加 えてお こ う。 まず も って「 ク リナ メ ン」。 この「概要」の韻文 において も,極 めて意識 的 な制約 の欠陥原 理 が働 いてい る。 す なわち,先 の実例 で も見 たよ うに,各 詩 行 は 60文 字 か ら成 って い るが,第 6行 のみ一 文字多 い 61文 字 か ら成 り,そ の結果. Aの 文字 も本来 の場所 か ら一字分右 にずれて い る。そ もそ も,一 詩行. の文字数 も,一 詩節 の行数 も 60,つ ま り 6の 倍数 であ るが,ま さにそ の 6に 関 わ る部分 に欠 陥 が 設 け られて い るので あ る。 さ らに三 つ め の詩 節 の最 終 行 , つ ま り第 180行 も省 かれて い る。 6の 倍数 の ここでの到達点 であ るとと もに,第 二 連 を斜行 す る Eの 文字 の到達点 で もあ るこの箇所 は,ま た三 つめ 15)も とよ り,内 容 の概 略 をなぞ る意訳 に過 ぎな い。 あ る解釈 によれば,「 ア ニ ス酒」 の 白濁 は 『 失踪』 に も明示 されて い る 「空 白」, ひいて は Eの 文字 の欠落 を暗示 す る ものであ り,「 制約」 に則 った作 品創 出 自体 を主題 と して い る。 A.R市 iё re: S in ∠妙んαbθ ι. Cα. γ G.ル 筵εl,前 掲書 ,pp.134∼ 145を 参照。 θ んづ.

(20) 『 人生使用法』 における「制約」について. の方形 の「 左下 隅」 に他 な らな い。 そ して, ここに見 られ るよ うな欠陥 原 理 は言 うまで もな く,先 に見 た章 の記述 の順番 を決 め る「桂馬跳 びの図形」 の 適用 に際す る「 ク リナ メ ン」,す なわち,や は り左下隅 の第 66章 の欠落 とい う事態 に重 な って もい る。 『 使用法』の欠陥記号 であ る数字 の 6は ,「 左下 隅」 の欠陥 とい う自伝 的要素 を介 して,作 家 の もう一 つの恒常 的 な欠陥記号. Eに. 通底 して い ることが密 かに暗示 されて い るのであ る。. * 二 つの制約 の分析 を通 して 明 らか にな った『 人生使用法』 のなによ りもの 特質 は,手 法 が作 品創 出 の絶大 な原動力 を提供 す ると同時 に,作 者 自身 の取 り組 む壮大 か つ 緻 密 なゲ ー ム と して機能 して い るとい う事 実 で あ ろ う。 だ が,そ のよ うな事実 は一 方 で入念 に隠蔽 され ると同時 に他方 で露呈 され ると い う,そ れ 自体作家 が読者 に仕掛 けたパ ズル と して提示 されてお り,解 読 の 試 み の 悉 くは,作 者 の 謎 解 き の 追 体 験 とい う性 質 を 帯 び ざ るを え な い。 ジ ャック・ バ ンス も指摘す るよ うに,「 潜在 的文学作品」が「外見 に限 られ る ことな く,秘 密 の豊 さを もち,進 んで探究 の対象 とな るよ うな」16),そ れ と意 識 した作家 と読者 とのあいだの一 種 の ゲ ームた る作品であ るとす るな らば. ,. F使 用法』こそ まさに,そ のよ うなま った く新 しい概念 の文学作品 の頂点 を窮. め る ものの一 つ に他 な るまい。. 16)Jacques Bens:Ozθ ηθ απOπ ι θηin五 ′ ι αs αθι 夕ι り ,り ′ π わグ p.23.. `″. p。 ″η′ づ θJJO op.ε づ ぁ.

(21)

参照

関連したドキュメント

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

人の生涯を助ける。だからすべてこれを「貨物」という。また貨幣というのは、三種類の銭があ

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

使用済自動車に搭載されているエアコンディショナーに冷媒としてフロン類が含まれている かどうかを確認する次の体制を記入してください。 (1又は2に○印をつけてください。 )

【フリーア】 CIPFA の役割の一つは、地方自治体が従うべきガイダンスをつくるというもの になっております。それもあって、我々、