理論ゼミ 第 2 章
藤井涼平
2016 年 7 月 24 日
1 原子とその構成要素
■電子 放電管の中で発見された. 電場・磁場中で 曲がることから比電荷(e/m)がわかった.後に油滴 の実験で電荷が決定され,質量もわかった.
■原子核 金箔にα線を散乱させる実験により,ト ムソン模型(電子と正電荷が原子中に一様分布)は 否定され,ごく小さい原子核の周りに電子が飛んで いることがわかった.
■陽子 α粒子を窒素にぶつけることで正電荷をも つ粒子が飛び出すことが発見された. 水素を標的と した実験でも同様の粒子が観測されたことから,飛 び出た粒子は水素の原子核であることがわかった.
14N +4He →17O + p (1)
原子核中の陽子数はZで表され,原子番号と呼ば れる. 原子番号は原子の特性X線1)を測定すること でわかる. Kα 線2)のエネルギーはモーズリーの法則 から(Z − 1)2に比例する.
■中性子 α 粒子を原子核にぶつけることで放出 された中性粒子が検出されたが,電荷がないので質 量などは間接的にしかわからない.
放出された中性粒子を水素・ヘリウム・窒素に衝 突させ,それらの原子核の反跳エネルギーを測定す ることで,中性粒子の質量が陽子とほぼ同じことが わかった.
中性子数はNで表される.
■その他の用語 中性子数と陽子数の和を質量数と いい, Aで表される.元素と質量数・原子番号・中性 子数をまとめてAZXN と表す.
1)励起された電子が下の準位に移る際に出る X 線 2)L 殻→ K 殻に遷移した電子が出す X 線
Z と N の組み合わせを核種という. A が同じ 原子核を同重体(isobar), Zが同じ原子核を同位体 (isotope), N が同じ原子核を同中性子体(isotone) という.
2 結合エネルギー
■結合エネルギー 構成物がばらばらに存在する時 の質量と,構成物が結合している時の質量の差(質 量欠損)にc2をかけたものを結合エネルギーBと いう.
B(Z, A)≃[ZM(1, 1)+N Mn−M(A, Z)] · c2 (2) M(1, 1) は水素原子の質量. Mn は中性子質量. M(A, Z)は原子質量3).
■結合エネルギーの決定1―質量分析法 質量分析 法により原子の質量を測定し,そこから結合エネル ギーを求める.
電場・磁場中で荷電粒子が曲がることを利用して エネルギーと運動量を同時に測ることができる. 電 荷Q,質量 M,速度 v の粒子は,円筒電場E, 一様 磁場Bの中で以下の半径で円運動をする(別紙図 参照):
rE
Mv2
QE (3)
rM
Mv
QE (4)
うまく磁場を与えると,特定の比電荷Q/Mを持つ 粒子のみ収束させることができる. 電荷が既知であ れば質量がわかり,これを用いて結合エネルギーが 求められる.
3)厳密に言えば, 水素原子をさらに陽子と電子に分けるエネ ルギー(水素原子の結合エネルギー)も必要だが, それは 無視できる程度.
1
■結合エネルギーの決定2―原子核反応による方法 水素が中性子を捕獲する反応から,結合エネルギー を求めることができる:
n +1H →2H + γ (5) n,1Hの運動量は無視できるので, pγ −p2Hに注 意すれば
B Eγ+ 1 2M2H
·* ,
E2γ c2 +
- (6)
が得られる(別紙図参照). 別の例として,
1H +6Li →3He +4He (7)
を考える.エネルギー収支は, EK1
H+E M 1H+E
K 6Li+E
M 6Li
EK
3He+E M 3He+E
K 4He+E
M
4He (8)
なお, EKX は核種Xの運動エネルギー, EMX は核種X の静止エネルギーである.
すべての運動エネルギーと3つの質量が既知なら ば,残り1つの質量がわかる. これを用いて結合エ ネルギーが求められる.
図2.4はこれら2つの方法で得られた結合エネル ギーをAで割ったものを横軸をAとしてプロット したものである. なめらかな曲線は,すぐ次の節で 説明するWeizsäckerの質量公式である.
3 結合エネルギーのパラメータ化
結合エネルギーを式で表すことを考える. 先述の 通り,質量がわかれば結合エネルギーがわかる. 核 種の質量を表すWeizsäckerの質量公式という現象 論的な式が知られている:
M(A, Z)N Mn+ZMp+Zme−avA + asA2/3 +ac Z
2
A1/3+aa
(N − Z)2
4A +
δ A1/2
(9) av, as, ac, aa, δは質量数の領域により適当に与える. 第1, 2, 3項は,単にバラバラの時の陽子,中性子, 電子の質量を足しただけである. 第4∼8項が結合
による質量欠損∝結合エネルギーを表す. これらに ついて順に説明していく.
原子半径Rは,質量数AとR ∝ A1/3の関係にあ る. これを使うと式(9)をよりわかりやすく解釈で きる.
■体積項 第4項. 図2.4の縦軸に注目すれば,質 量数が特に小さい核種を除けば, B/Aはほぼ一定で ある(飽和).従って, M(A, Z)∝B ∝ Aとなる.
これは,核力は極近くの核子としか相互作用しな いことを示している. なぜなら,クーロン力のよう に遠隔まで作用する力であれば,エネルギーは粒子 数の2乗に比例するはずだからである(クーロン項 参照).
■表面項 第5項. 原子核表面の核子は,中心部の 核子に比べて少ない核子に囲まれているため核力 の影響を受けにくい. そのため結合エネルギーは小 さくなる. この影響は原子核の表面積∝R2に比例 する.
■クーロン項 第6項. 陽子同士の反発力によって 結合エネルギーは小さくなる. 反発によるエネル ギーの導出は少々長くなるので付録Aにまとめた. 結果は
ECoulomb≃Z(Z − 1)·3 5 ·
1 4πε0
· e
2
R (10)
となる.これは近似的にZ2/A1/3に比例する. より直感的には,陽子間の平均距離を ¯rとすると
ECoulomb≃Z(Z − 1)· 1 4πε0
·e
2
¯r (11) となる. ¯r ∝ Rと考えれば同様の結論が得られる.
■非対称項 第7項. 陽子・中性子は共にフェルミ オンだから,パウリの排他律に従い同種核子は同じ 状態をとれない. Z, N のバランスが崩れると同種 核子が増えるため,より高い準位に核子を入れなけ ればならない. この影響により, Z, Nの差が大きい ほど結合エネルギーが増す(17章で詳説).
一方,質量数が大きい原子核では,クーロン斥力 を各力で帳消しにするため陽子よりも多くの中性子 が必要である. そのため,非対称項はA−1に比例す
2
る4).
以上より,非対称項は(N − Z)2/Aに比例する.
■対結合エネルギー項 第8項. 原子核の質量を調 べることで,陽子および中性子数が偶数であればよ り安定なことがわかった. これは陽子―陽子対や中 性子―中性子対の間には他の組み合わせよりも強い 引力が働くことによる. この効果は経験的にA−1/2 に比例する.
■補足 原子核の性質と液滴の性質は,密度が一定 であること,力の到達範囲が短いこと,飽和,変形す ること,表面張力があることなどにおいて類似して いると考えられる(液滴模型). Weizsäckerの質量 公式はこの液滴模型に基づいている.
しかし,原子核中の核子は古典流体ではなく量子 流体(低い励起エネルギーではフェルミ気体)とし て考えるべきとして考えるべきである(17章で詳 説).また, Weizsäckerの質量公式には原子核の詳 細な構造は取り入れられていない.
4 核力の荷電独立性およびアイソスピン
■核力の荷電独立性 クーロン力は電荷に依存す るが,強い力は依存しない. 核力は強い力によるも のだから,陽子と中性子は原子核中では非常に近い 性質をもつ. 図2.6は146C8,147N7,148O6 の準位をプ ロットしたものである5).これらの核種は,すべて質 量数が同じで陽子・中性子数がわずかに違うのみな ので,点線で繋がれた準位は非常に似通ったパター ンを示している6).
しかし,147N7にのみ,他の核種にない準位がある ことがわかる. これを説明するためにアイソスピン という考え方を導入する.
■アイソスピン アイソスピンの前に,まずはスピ ンについて見てみる.
4)ここらへんはあまり自明じゃない感じ. 17 章でちゃんと 説明がある模様.
5) 14
6C8と148O6のように, 陽子数と中性子数を入れ替えた核 種を鏡映核という.
6)点線で繋がれた状態をアナログ状態という. これらはアイ ソスピンの大きさが等しく, 第 3 成分のみが異なる状態で ある(後述).
スピン1/2の2粒子系でのスピン3重項
|1, 1⟩ , |1, 0⟩ , |1, −1⟩ (12) と1重項
|0, 0⟩ (13)
を思い出すと, S 1の状態はSz −1, 0, 1のすべ てに存在するが, S 0の状態はSz 0の場合のみ 存在する.
ここから,図2.6の点線で繋がれた準位は“スピン らしきもの”の大きさが1のとき(3重項)で,147N7 にのみ存在する準位は“スピンらしきもの”の大き さが0のとき(1重項)だと考えられる.この“スピン らしきもの”をアイソスピンと呼び, I (I1, I2, I3) と表す.
147N7, 148O6,146C8 のI3が順に0, +1, −1である7)
ことから,アイソスピンの第3成分の正体は I3 Z − N
2 (14)
だと考えられる8).
スピンの第3成分が足せることを思い出せば,核 子のアイソスピンは
|I, I3⟩
{ |1/2, +1/2⟩ (陽 子)
|1/2, −1/2⟩ (中性子) (15) と考えられる.つまり,陽子と中性子は“同じ”核子 のアイソスピンが違う状態であると言える.
同様にして,145B9,149F5 はそれぞれ|2, −2⟩ , |2, 2⟩ のアイソスピンをもつ核種だと言える9).
付録 A クーロン項の導出
簡単のために半径Rの球に電荷が一様分布して いると考える. Z個の陽子がZ − 1個の陽子と反発 するから,
ECoulomb≃Z(Z − 1)
×(電荷eが一様分布した球のエネルギー) (16)
7) 14
8O6と146C8のどちらを +1 にとってもよいが, 原子核物 理の分野では148O6を +1 にとるのが普通らしい. 8) 14
6C8を +1 にとれば,(N − Z)/2 になる.
9)|2, 1⟩ などの核種が何なのか考えてわけがわからなくなっ た.
3
を求めれば良い.
電荷e が一様分布した半径Rの球のエネルギー を求める. 電荷密度ρ が一定の半径rの球を考え る. これに無限遠方から微小電荷4πr2ρdrを加え 半径をdr だけ増やすのに必要なエネルギーは,半 径rの球の電荷をQ(r)≡4πr3ρ/3として
dW
∫ r
∞
− 1 4πε0
Q(r)·4πr2ρdr r′2 dr
′
1
4πε0
16π2ρ2r4
3 dr (17)
である.半径Rの球を作るのに必要な全仕事は,
∫ R
0
1 4πε0
16π2ρ2r4 3 dr
3 5 ·
1 4πε0
·e
2
R (18) となる. 後はこれにZ(Z − 1)をかければクーロン 項が求められる.
用語の意味や質量公式の各項の説明,クーロン項 の導出に以下の文献を参考にした.
参考文献
[1] 東京工業大学理工学研究科 基礎物理学専攻 原 子核物理学 武藤研究室
http://www.th.phys.titech.ac.jp/
~muto/lectures/INP02/INP02_chap03.pdf [2] 九州大学原子核理論研究室 「原子核三者若手夏
の学校2008年度原子核パート」のスライド http://www.nt.phys.kyushu-u.ac.jp/ yonupaSS2008/slides/Lecture_Uesaka. pdf
[3] 千葉大学理学研究科 物理学コース 原子核理論 倉澤治樹「原子核物理学」
http://homepage2.nifty.com/kurasawa/ nucleus.pdf
[4] 理化学研究所 重イオン核物理 青木保夫 http://www.tac.tsukuba.ac.jp/~yaoki/ ion.pdf
4