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『文化のための追及権 ─日本人の知らない著作権』 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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2015.5.13. no.277

書籍紹介

 2011年9月、現代芸術家の村上隆氏が、都内のオークショ ン会社との間で交わしたある契約が紙面に取り上げられま した。その契約の内容は、「作品転売時に落札価格の 1% を受け取る」というものでした(asahi.com(朝日新聞社)、 2011 年 9 月 20 日)。この 1%はカタログ掲載料とされてい ますが、作品が落札された場合にのみ支払うこととなって いるため、実質的には著作権の権利の一つである「追及権」 による報酬を求めた格好になります。

 「追及権」とは、芸術家が自分の作品が転売されるごと に作品の売り上げの一部を受け取ることができる権利であ り、外国では「リセールライト」として知られていますが、 日本ではあまり馴染みがないのではないでしょうか。本書 はこの「追及権」について、わかりやすく解説した入門書 であると言えます。

 著者は、まず芸術家が日本の現行の著作権法では十分に 保護されていないのではないかとの問題提起をしたうえ で、その原因について著作財産権の一つである複製権との 関連から解説しています。ここで言う「芸術家」とは絵画 や彫刻などの伝統的な美術作品の創作者を指し、音楽の創 作者(作曲家や作詞家)、音楽の実演家(演奏家や歌手)、 小説などの文芸の著作者は含まれません。著者によると、 小説や音楽のように作品が複製されて販売される著作物 と、美術のように一点だけが制作されてその作品が販売さ れる著作物とでは、著作者の収入を得る方法に違いがあり、 複製という形をとらない美術の著作権の販売体制において は現行の著作権法は利益を生む形で機能していないといい ます。

 そして、芸術家やその遺族を貧困から救済する方として、 日本においても追及権のような新しい権利の導入を検討す る必要があるのではないかと述べています。追及権に関す る法律は 1920 年にフランスにおいて世界で初めて成立し、 その後アメリカのカリフォルニア州、欧州各国、オースト

ラリア等に普及しました。しかしながら、アメリカ全土で 適用されるアメリカ連邦法や世界の主要な美術品市場であ るイギリスにおいては、検討はなされているものの導入に は至っていません。この背景には、追及権の導入により制 度のない国へと市場が移ってしまうのではないかとの懸念 もあるようです。

 また、著者は 2009 年(平成 21 年)の著作権法改正の際 に導入された著作権法第 47 条の 2 についても言及し、芸 術家がさらなる不利益を被ることになったことを指摘して います。第 47 条の 2 は、ネットオークションを想定し、 消費者保護の観点から設けられた規定ですが、これにより 美術品を販売する際に、作品の紹介のために美術品の画像 を作成したり(「複製」)、それをインターネットで配信し たりする(「公衆送信」)ことが、一定の画像サイズ以下で あれば、著作者の許可を得なくてもできるようになり、結 果として、芸術家の権利を弱めてしまうこととなりました。  このように、芸術家は他の著作者と比較して、もともと 著作権による法的保護が薄い状況にあったにも関わらず、 近年の著作権法改正によりさらに厳しい環境に置かれるこ とになったことがわかります。冒頭で紹介した村上氏の一 件は、こうした芸術家をとりまく環境を改善し、追及権の 必要性を訴えるうえでも非常に意義のあるものと言えま す。村上氏のように既に世界的に名の知れた芸術家であれ ば、生活に困るようなことはありませんが、多くの無名の 芸術家にとっては、こうした数%の収入の有無も、彼らの 制作活動に大きな影響を与えることと思われます。また、 今後、芸術家を目指す人々のインセンティブにもつながり、 ひいては著作権法の目的である「文化の発展」に寄与する ことにもなるのではないでしょうか。本書を通じて是非多 くの人に追及権について考える機会を持って頂ければと思 います。

紹介者  審査第一部 生活意匠 谿 季江

小川 明子 著

株式会社集英社 2011.10.19 発行

『文化のための追及権

参照

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