• 2015 年 6 月 19 日の「『財政破綻後の日本経済の姿』に 関する研究会」「金融システム研究フォーラム」合同研 究会(於:東京大学)で報告したものの改訂版である。
• 報告に向けて作成した「 6/19 の報告のための前置き」 を [2] として挿入した。
• 研究会での議論を踏まえて、 [5] を新たに作成し、試算 例の読み方のメニューを明示した
目次
• [1]. まえおき
• [2]. 6/19 の報告のための前置き
• [3]. 問題設定
• [4]. [ 試算例 ]
• [5]. 試算結果の読み方
• [6]. Discussions: (1)~(5)
• [7]. Concluding Remarks
• [8]. 付論:関連する 4 つの論点
[1]. まえおき
• 「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」をスタート させて、「『財政は破綻するか』とか 『いつ破綻するか』では なく、破綻後の姿に関する検討」を開始してすでに 3 年が経過 しようとしている。「破綻」の実現形態として想定している国 債価格の大幅下落と激しいインフレが、広範な話題にすらなら ず、国債価格がかくも平穏に推移しているのは、少なくとも三 輪にとっては「想定外の事態」である。「やはりオオカミ少年 のような・・・だったか」と思われているかもしれない。
• ほぼ 10 年前の小泉内閣の終わりごろの時期に、「今を逃して は・・・財政再建は・・・」という見方が話題になり、その具 体化として構造計画(「骨太方針」)が作成された。小泉内閣 の総辞職とともに、実質棚上げされたようである。この時期に は、私を含む少なからぬ経済学者は、「『財政再建』にはすで に手遅れ…だ」と考えていた。
• 2012 年の研究会のスタートはその 5 年以上後のことである。 そのような研究会の発足が招くかもしれない批判・反撥や 混乱を棚上げすれば、極めて自然で当然の project であっ た。
• 「破綻」の現実化プロセスまで含めた予想する諸現象およ びその発生メカニズムに関しては、多くの点について研究 会で話題にし、議事録とともに関係資料も公表してきた。 結論だけを公表してきたわけではない。
• より具体的に考え方を説明し、検討の素材として関係数値 例・ scenarios をより具体的に示せないかと考えてきた。 そういう需要・要請が存在した。
• 重視している FTPL(fiscal theory of the price level) を中心とし て、基本的な考え方を広範な読者に理解・受入可能な形で 提示することは、残念ながら、容易ではない。また、はな はだ面倒なことである。結果として、試みなかった。
• 今回は、 FTPL の基本部分の理解を自ら試みる読者を想 定して、それに基づく試算例としてより具体的な数値例 およびその読み方としての scenarios 示すこととした。
• その意味で、分かる人、分かろうとする人にしか分から ない・・・ものである点に変わりはない。
• 分かろうとするかどうか・・・は読者の自由である。
• 経済学者を含む多くのエコノミスト・官僚・メディア関 係者などが FTPL にほとんど関心を示さず、これを理解 しようともしない現状に照らせば、この選択の意図と意 味を理解し了解する読者も少なくないだろう。
• まずは、驚き、お楽しみいただきたい。
• ここでは t=0 で(必要な)インフレによる「調整」(を通じ る「財政再建」:「調整」を「ガス抜き」のようなものと考 えればイメージしやすい?)が現実化するものとして、その 規模(幅)に検討の焦点を合わせる。
• T=0 を現時点( 2015 年)として読むのが素直で標準的だろう。 とはいえ、 t=0 をたとえば 10 年前のことと想定して読むこと を妨げるものではない。
• 左辺(調整前時点における (B+M)/y 、分母、分子ともに名目 値)の値を 2 とした試算例だから、そのまま 10 年前に適用し ても大きな問題はないと考える読者が多いだろう。しかし、 問題があるとする読者は 2 に替えてたとえば 1.5 とすればよい
。
• もっとも、 10 年前には FTPL は今日ほどは広く受け入れられ ていなかった。筆者もこれに基づいて「財政再建」「財政破
[2]. 6/19 の報告のための前置き
• 論点を把握し分析するためには道具・装置が必要
• 道具・装置は、検討対象・目的に照らして適切なものを 設計・作成し、的確に使用する必要がある
• 試算例は、使用した結果の一部である
• 使用する前の steps についても、冷静に評価する必要が ある
• 当然、必ずしも適切ではない装置を使用したり、「万 能型」の装置では如何に慎重に用いたとしても、結果 が妥当だとはかぎらない・・・
道具・装置の設計の基礎・前提: FTPL
• FTPL (fiscal theory of the price level) が macro-economics の標準 となりつつある。 ( 次ページの Christopher A. Sims の AEA 会 長講演 , Jan 14, 2013, よりの引用を参照)--物価水準やイ ンフレ率の決定メカニズム・今後の推移の検討には、これ しかない・・・?
• とりわけ近年の日本を含む先進諸国では国債残高額、その 対貨幣残高比率が圧倒的に高くなり、さらに「財政破綻」 が国民・政府の重大関心事になっている。--これに検討 の焦点を合わせる。
• さらに、金利水準が限りなく 0 に近い水準で推移している
• FTPL が基礎・前提となる
Sims の AEA Presidential Address: Paper Money
の slides の冒頭より
中心となる論点:検討の焦点
• 「財政破綻」といっても、実現する事態として想定するの は、政府による国債の default 宣言ではなく、高率のイン フレ( inflation tax?)
• 論点は、「どうやって防ぐか?」「防げるか・・・?」で はない。--高率のインフレ等は、「回避すべき事態」と して検討の視野から外されてしまう(しまっている)
• 「そのような事態が発生するか否か」ではなく、「インフ レによる『調整』が、『財政再建』にどれほどの役割を果 たす(果たすことになる)か」
• つまり、「財政再建」策の the best mix の検討、その基
盤・前提としての「投資家の予想・期待」の検討ーーこれ が検討の焦点
政策手段?
• 物価水準、インフレ率等を決めるのは「投資家」であって、 このことを前提に政府の政策が実施される
• (Mt, Bt, st) の組み合わせの選択: M は money 、 B は Bond 、 s は primary balance
• もちろん、将来時点でのこの組み合わせは、投資家が予想す るのであって、政府が計画値を公表するとしても、投資家が そのまま「信用」して受け入れるとはかぎらない・・・。
• 「財政破綻」は絶対回避すると政府が宣言しても、投資家が 信用するとはかぎらない。インフレについても同じ。
• 「インフレが発生するとして、それはいつか・・・?」とい う設問について、「投資家に聞いてくれ・・・」と言うだけ では、面白くない・・・
インフレによる「調整」の image?
• とりわけ先進国で過去に発生した高率のインフレを見 ると、爆発的な勢いで発生して短期間に「完了」す
るーー正常時に比してより高率の物価上昇が長期間にわ たって安定的に継続する・・・というものではない。
• この点に照らして、 t=0 でインフレによる「調整」は完 了する・・・として定式化するーーたとえていえば、
「ガス抜き」のようなイメージ?
• t=0 (たとえば、現時点?)までに現実化していない理 由(その基盤である投資家の行動)については立ち入 らない
「破綻」が顕在化する時点は・・・?
• 政府の負債償還(支払)が実行できないという事態が顕在化する時 点 (t=T?) で、「財政破綻」 ( 高率のインフレ?)が顕在化するので はない
• 「破綻」(のタイミング)を「決定する」のは投資家だから、その ような事態の顕在化あるいはそのおそれを投資家が予想し懸念を抱 き始めた時点から、国債価格(したがって、物価水準)に影響が現 れ始めるーーたとえば、 t=0
• もちろん、投資家は多様だから、予想・意見が一致することはない。 だから、市場が存在し、重要な役割を果たすーーこの点では、政
府・日銀も市場参加者の一部にすぎない。外国政府等についても同 様
• ただし、この報告の読み方 (t=0 の適用の仕方を含む)は多様・・・
この報告の読み方?
• 分析の framework を作成して、それを使った試算例およびそ の読み方としての scenarios を示した
• 基本的役割は framework の作成・提示であり、試算例・ scen arios はあくまで例示・・・。試算例・ scenarios のうちの何 を選択して「結論」を導くかは、各読者の役割。
• 選択肢の幅を広げるための作業、さらに、 framework の「改 善」等の作業も、各読者の役割
• 幅と深みの両面で既存の「財政再建論議」の大幅変更・改 良・改善に寄与する・・・?
• もちろん、国債暴落・インフレを予測・予告し、待望す
[3]. 問題設定
• FTPL(fiscal theory of the price level) では、物価水準を決めるのは投 資家であり、その予想・行動が決定的役割を演じる。--政府の 政策は、投資家の予想を通じてのみ物価に影響を与える。--イ ンフレ(リフレ?)政策というものがあるとしても、その政策 波及経路は同じ・・・。
• B+M の合計額が決定的に重要であり、その構成を変化させるに
すぎない「金融(超緩和)政策」は直接のインパクトを持たな い・・・。そうだとしても、このことから今後のインフレ率や その発生のタイミングなどが「わかる」わけではない。--投 資家の予想形成と行動次第・・・だから。
• 「国債価格の大幅下落や激しいインフレはいつ現実化するのか」 という設問に対して、「そんなことはわからない、投資家に聞 いてみてくれ・・・」として放置しておくだけでは、あまり面 白くもない。--そこで、各種の仮定に基づく試算例・・・。
問題設定:続き
• 多くの試算例(計算例)では、 (1) 代表的投資家を前提 とし、 (2) 今後のインフレ率に関する長期予想と整合的 な範囲で推移すれば・・・(大丈夫?)と考え、 (3) 代 表的投資家の代理人(代表)として政府が行動し、 (4) インフレ(あるいは default) にならない範囲で経済を推 移させるためには、今後の財政バランスをどのように 推移させればよいか・・・という状況設定を採用して いる。
• 結果として、インフレ(あるいは default) は起こらず、 実質的に real variables だけで考えており、物価水準・イ ンフレ率は検討の視野に入っていない。
• ここでは、一応は代表的投資家(のようなもの)を考え るが、インフレのような「調整」が発生するケースでは
、早い者勝ちになるから、イザとなれば、投資家の予想 形成も行動も大きくばらつく、と考える。
• 他の投資家がいかにして予想を形成しどのように行動す るか・・・が各投資家・消費者の重大関心事であり、こ れが国債価格・物価水準の決定・変動に大きく影響する
• 物価水準を決定するのは投資家であって政府ではない。 政府にできることは限られる・・・。--政府に対する 信頼が揺らげば、「取り付け騒ぎ」のようなものが発生 すると考える。
t=0 における投資家の行動に関する仮定
• FTPL で、中心に位置する意思決定主体は投資家である。
• t=0 以前の投資家の行動については容易には理解しがたい点 が多く、今回もその検討は棚上げする。
• そのうえで、 t=0 時点での投資家の予想形成・行動に関して 次の仮定を置く。ーー以下の試算例は、当然、この仮定に 基づく。
• この仮定およびそれに基づく試算結果の読み方については
、 [4] の試算例に続く [5] 「試算結果の読み方」で立ち入る
。
• 当然のことながら、たとえば、「現時点までの状況の推移 に照らせば、日本国債の投資家、日本の消費者の行動は合 理的意思決定主体のものとしては理解しがたい・・・」と したままでは、今後の国債価格の推移や物価水準・インフ レ等に関するいかなる検討も不可能となる。
投資家の行動 (at t=0) に関する仮定
• t=0 で、投資家は将来の政府財政の primary balance (st) の推移 を予測し、自らの割引率 ρ を用いてその割引現在価値を求め
、これを反映する国債需要価格 (q) とその逆数である財の需 要価格 (p) に基づいて最適な選択を行う
• 少なくとも、そのように行動する投資家の行動が t=0 の国債 市場、さらに財市場を dominate する。
• t=0 で突如、市場が合理性に覚醒して、インフレによる「調 整」(ガス抜き)が実現する・・・・・と想定して、その必 要性の有無と幅に検討の焦点を合わせようというのである。
• この仮定およびそれに基づく試算結果の読み方については、 [5] 「試算結果の読み方」で立ち入る。
• インフレによる「調整」(「ガス抜き」?)が t=0 で現実化する として、その規模(幅)に焦点を合わせて検討する。
• 「調整」後の日本経済は平穏に推移すると考える。
• 「調整」前の時点の名目 GDP(y0) に対する比率として primary bala nce の surplus (st) を投資家が予想し、その割引現在価値から国債 等に対する需要価格を求め、市場で決定する国債価格に連動し て物価水準、したがって t=0 のインフレ率が決まると考える。
• インフレによる「調整」が t=0 で発生し短期間で完了するという 設定に違和感を覚える読者がいるかもしれない。しかし、 t=0 ま でに「調整」が完了していない理由を棚上げすれば、「調整」 が長引くと考えるべきだとする根拠も不明だろう。いずれ実現 する「調整」であれば、対応が早いほど利益が大きく被害が小 さいから、各投資家にとっては「早い者勝ち」であり、対応を 先送りする合理的理由はない。この点の評価も読者に任せる。
• 単純化した明快な検討の framework を明示し、それに 沿った試算例を示す。
• 多様な前提に基づく試算例(結果)を求める作業は、高 校生にも実行可能なものである。各読者は、自らのイ メージに沿った scenarios を描いてみればよい。
• Framework に違和感を覚えたり不満な読者は各自「改 良」「改善」を試みられれば良い。
問題設定:続き
• Sheet 17 に copy した 2 本の式の最初のもの(以下、 (1) 式)の右
辺に注目する。 Cochrane のいう如く、政府債務という equity の ようなものに対する投資であり、将来の予想 cashflow の割引現在 価値( DPV) 。ーーこれを各種の想定のもとで求め、これに対す
る demand price (q) の逆数として物価水準 p が決まる。
• 今後の長期間にわたる予想インフレ率がシフトする・・・と考え るのではなく、「調整」は瞬時に完結すると考える。--予想イ ンフレ率は、これまで通り・・・。--過去の観察事実に照らし て、大幅なインフレは、短期間に「完了」すると考える。
• ーー結果として、大幅なインフレを通じる債務の減額を政策(シ ナリオ)の一環として含む、財政見通し、再建策・・・というこ と?(―- Seigniorage, inflation tax などの表現でおなじみの議論 と密接に関連するが、これらの表現が、基本的に通貨発行権との
関連で money に限定したものである点に注意。)
計算のために必要な情報(想定)?
• もちろん、検討の目的に依存する。だから、網羅的ではない。
• (1) インフレが発生した際の、政策的対応の内容・・・。-- たとえば、金融資産の目減りの影響が深刻な老人…への対応? 年金の目減り・・・?医療費?--これへの対応次第では、イ ンフレによる「調整」は実質無効になる?
• (2)(1) の一部でもある (?) が、政府の収入と歳出面での対応?-
-物価水準の上昇は実質増税になるが、これへの批判があるか もしれない・・・?より重要なのは、歳出カットや歳出
増・・・?--第 1 次大戦後のドイツのインフレのケース( 1 923 年)では、大胆な歳出カットが断行された。
• (3) 結局は投資家の p に関する予想の形成の仕方と結果・・・。 その基本は、政府の surplus の推移の予想と、割引率。--ま ずは、この (3) が基本。
作業の意義づけ?
• 「常識的見通し」では、近い将来に primary balance がプラ スに転じ、大規模な cash flow が投資家に還元される・・・ ようになることはない。それにもかかわらず、国債価格が 現行水準を維持し、国債利回りが低い状況のまま推移して いる。--これに結果する投資家の行動を合理的に説明す ることは容易ではない・・・?とはいえ、この点の理解・ 説明には今回は challenge しない。
• そうではなく、想定しうる今後の展開シナリオをいろいろ 考えてみる・・・、ということ。投資家は「不可思議」で われわれの理解能力を超える存在のままであり、その行動 の検討は棚上げしておく。--シナリオ・メニューをより 具体的に示す・・・ということ。--もちろん、そのうち のどれが現実化するか(どれでもないかもしれな
い・・・)は投資家が決めること。
今回の検討の焦点・・・?
• インフレによる「調整」(「ガス抜き」?)が現実化す るとして、その幅はどの程度か、どの程度の幅で落ち着 くか?ーー投資家の行動については rational であると想定 する。--たとえば、第 1 次大戦後のヨーロッパでのイ ンフレに関する Sargent の検討の方法を参考にする?-- adaptive expectation ではない。
• 政府の政策的対応については、いろいろ scenario を考える
。
• 現時点での日本で「インフレによる調整」がほとんど話 題にもなっていないことに鑑み、こういう各種 scenarios
・・・ということは(一つの読み方?)
• 試算結果が左辺の設定値である 2 を超えるケース(たと えば、割引率 ρ=0.02 、 s=0.1 では N が 10 を超えても)で は、現状が平穏なまま継続的に維持されても、何の不思 議でもない、ことになる。
• 検討の焦点は、現時点の日本経済が、そのようなケース に該当するか否かであり、読者の見解も大きく分かれる かもしれない。
• たとえば、割引率が 0.02 で、近い将来に primary balance の黒字の対 GDP 比 10% という状況が実現してその後も 維持される(一時的な「非常時の緊急措置」として実施 されるのではない)・・・という scenario について、多 くの投資家が現実的なものだと考えているとする想定の 現実性・妥当性である。
• 一部の投資家がそのように考えるというにとどまらず
、国債価格の現状を維持するに十分な数と規模の投資家 が存在し、それが今後も継続する・・・・と多くの投 資家・消費者が確信している必要がある。
• そのような条件が満たされていれば、 t=0 におけるイ ンフレによる「調整」は不要であり、これまで同様、 平穏な状況のまま、推移する。
• [5] および [8] で再論する。
さらに・・・
• 「財政再建」を至上命題として議論の枠組みとして設定す ると、インフレによる「調整」や「破綻宣言」の規模など は検討の視野に入らない。
• ここでは、割引率 ρ 、 stの推移(したがって N) と規模の 組み合わせに、必要なインフレによる「調整」の規模
(幅)を対比させるから、これらの the best mix による
「財政再建」の scenarios について検討することもできる。
• これまでの議論を見ながら「もう手遅れだ・・・」とか
「そんな極端な stは政治的にも実現不可能だ・・・」と考 えてきたとしても、インフレによる「調整」との組み合わ せを視野に入れることにより、より現実的で建設的な「財 政再建」論議が可能になる・・・と考え始める読者が少な くないかもしれない。
[4]. [ 試算例 ]
検討のための framework の basic design
• 右辺の値である cash flow の割引現在価値を求めるこ
と。ーーこれを求めれば、これと等しくなるように p が決 まる(投資家の demand price が決まる)ということ。
• この決定要因を列挙して、数値例を代入する・・・。
• たとえば、右辺が 3 だとしよう。この全額を債権者に支払 う必要はないから、必要分の 2 と等しくなるように左辺の p が決まる。
• 右辺の計算を現時点 (t=0) の名目 GDP に対する比率だとする と、左辺が現時点で B+M の残高の名目値の対 GDP 比率が 2 以下であるとすれば、 p は変化しない。--債権だから、 cash flow の全額に対する請求権があるわけではない。
• これに対し、右辺が 1 であり、左辺が2であれば、 p が 2
[ 参考 ]
• 左辺の変数は期間 0 の期末の値であり、左辺は政府債務 のその時点での市場の時価評価。
• 期間 0 の GDP の時価評価を y0 とし、各時点での surplus (st) は y0 に対する比率で示す。
• GDP の成長率や物価の変動の影響は、 [6] の discussions で考える。
簡単な数値を用いた試算例
• 今後 N 年間 s=-0.1 であり、 N+1 年から継続的に s=0.01 にな るとする。割引率は 0.02.
• (B+M)/y at t=0 は 2 としておく。ーー右辺がこれを下回れば
、乖離分をインフレで調整する・・・・ことになる。
• 最初の表が基本形。 N+1 年後の s は、基本形の s=0.01 とと もに s=0.05, s=0.1 についても併記する。続いて、インフレに よる「調整」後の p の水準を示す対応表を示す。基準とな る p は p=100 である。
• これに関する解説に続いて、割引率が 0.01 、 0.03 、 0.05 の ケースについて、同様の表を掲載する。
基本形
基本形の解説
• たとえば、 5 年後に primary balance が収支均衡するとし、 それまでの 5 年間は現在の GDP の 10 %にあたる赤字を計上 し、 5 年目以降に 1 %づつの黒字を計上する、とする。
• 表の N=5 、 s=0.01 を見ると、 -0.03 である。このケースでは
、 primary balance の DPV はマイナスだから、インフレによ る調整は不可能である。
• N=3 であれば、 0.18 だから、調整によって実質負債残高が 1 /10 以下になる必要がある。つまり、物価水準が 10 倍、 100 0 %( p=1133) のインフレ・・・。
• S=0.05 だとすると、 N=5 でも 1.78 だから、 10 %程度の「調 整」 (p=112) で OK となる。
• S=0.1 なら、 N=5 でも 4.04 だから、インフレによる調整は不 要となる。
基本形の解説:続き
• 2020 年までに primary balance の均衡を達成するという経済財 政諮問会議の民間議員の提言が話題になり、財政審議会がこれ について経済成長の見込みが楽観的すぎる・・・とするコメン トを公表したとのことである。
• 現時点からちょうど 5 年後にあたる 2020 年に primary balance が収支均衡し、その後一貫して GDP(y0) の1%にあたる黒字を 計上し続ける・・・・としても、インフレによっては調整不可 能、である。そのような政策「目標」の実現可能性について政 治の場での決着がどうなるか、さらに「目標」として採用し たとして、実際に実現するかどうかなどの転移ついても、投 資家の予想は多様だろう。ーーもちろん、インフレ率を決定す るのは、これらの点に関する「投資家」の予想である。
• S=0.05 さらに s=0.1 については、その relevance および興味深さ については読者の関心に任せる。まずは対比のための試算例
ρ=0.01 と 0.03 のケース
• 割引率の設定に結論がどの程度 sensitive かを見るために ρ=0.01
、 0.03 、 0.05 のケースについて対応表を作成した。
• 割引率をどの水準にすればよいか、これを一定にしてよいか など、各読者の気になる論点も多岐にわたるだろう。もちろ ん、「割引率」とは何か、今後予想されるインフレ率の大幅変 動との関連についても、検討すべき論点は多岐にわたる。
• ここでは、長期金利が低い水準で安定的に推移していることや 国債価格が長期間にわたって安定的に推移していることに鑑み て、ここで想定しているように、インフレによる調整が突然 到来して瞬時に完了する・・・という多くの投資家にとって
「想定外の事態」を除いて、金利もインフレ率も低水準で安定 的に推移し、割引率についても同様だと想定しておく。
• 割引率の水準についてのみ、基本形の 0.02 との対比を考えて
、まずは 0.01 と 0.03 を想定した検討結果を示す。
ρ=0.01
• 割引率が 0.01 のケースでは、 s=0.01 で、 N=5 で 0.46 だから、 負債の実質価値が 25 %程度にまで低下するようなインフレに よる調整が必要となる。つまり、物価水準で 4 倍、 300 %超の インフレが必要となる。
• 1 年後に始まれば、 0.89 だから、物価水準で 2 倍強、 100 %超 のインフレが必要となる。
• この値がマイナスになるのは 10 年後以降だから、インフレに よる調整の余地は、割引率 0.02 のケースよりは拡大する。
• このケースでは s=0.05 であればインフレによる調整の必要はな くなる。とはいえ、このケースの relevance については読者の 判断に任せる。--投資家は、こういうことを考えてい
ρ=0.03
• 割引率が 0.03 となると、状況は大幅に悪化する。割引率 0.02 のケースでもシナリオは相当暗かったが、 0.03 では、見たく ないと考える読者が多いだろう。--投資家の行動はさらに不 可解・・・となる・・ということか?
• S=0.01 のケースでは、 N=1 であっても 0.22 である。必要なイ ンフレによる調整は、実質価値をほぼ 10 %に低下させるもの である。つまり、物価水準で 10 倍、インフレ率で 1000 %
弱・・・。
• N=3 でほぼ 0 であり、 N=4 でマイナスになる。
• このケースでは、 s=0.05 でも即座にスタートしてもインフレ は必要であり、 N=5 であれば物価水準を 2 倍以上に引き上げる 必要がある。
• このケースでは、 s=0.1 を実現しても、スタート時点が 8 年後 以降であればインフレによる調整が必要になる。
ρ=0.01
ρ=0.03
ρ=0.05
• Equity-premium puzzle との関連で話題になった市場の観察事 実から導かれる risk premium の長期的な水準に照らせば、割 引率は 0.03 でも低すぎるとする不満を抱く読者が少なくな いだろう。
• 右辺は、 st に関する投資家の予想の割引現在価値であり、 c ash flow の予想値の割引現在価値として equity value を求め るケースに対応するとの見方が有力である。
• このような読者を想定して、 ρ=0.05 のケースについて対応 表を作成した。
• s=0.1 を初年度から実現しても、インフレによる「調整」が 必要となる。 10 年前に、 10 年後には s=0.1 を実現するが、 それまでは s=-0.1 が継続すると予想したとすれば、 p がほ
ρ=0.05
[5]. 試算結果の読み方
• [4] の試算例を含む以上の検討結果は、 t=0 の投資家の行動に 関する以下の仮定 ( 前掲)に決定的に依存している。この点に 焦点を合わせて、試算結果の読み方について見ておく。
• t=0 で、投資家は将来の政府財政の primary balance (st) の推移 を予測し、自らの割引率 ρ を用いてその割引現在価値を求め
、これを反映する国債需要価格 (q) とその逆数である財の需要 価格 (p) に基づいて最適な選択を行う
• 少なくとも、そのように行動する投資家の行動が t=0 の国債 市場、さらに財市場を dominate する。
• t=0 で突如、市場が合理性に覚醒して、インフレによる「調 整」(ガス抜き)が実現する・・・・・と想定して、その必 要性の有無と幅に検討の焦点を合わせようというのである。
4 つの scenarios
• 試算結果の読み方は多様である。
• 以下に示す読み方の例示( 4 つの scenarios) を含む、い かなる読み方を選択するかは、読者の役割であり、選 択は自由である。
• 本研究の検討内容から読み方の(「望ましい」?)選択 が論理的に導かれるものではない。
• 最初の 3 つの senarios はいわば「純粋型」であり、最後 のものは混合型である
Scenario 1: 近い時点でのガス抜きの現実化
• 近い時点で合理的な評価に覚醒した投資家の選択が市場 を dominate するようになり、その時点 t=0 でガス抜き が現実化する・・・とする読み方である
• つまり、試算例通りの事態の推移が現実化する
• 試算結果のうちのいかなる事態が実現するかは、投資 家の予想に依存する ーー投資家の予想する s の推移と
、投資家の ρ 、さらに覚醒時点での左辺の比率などに依 存する
• もちろん、 s の推移に関して、たとえば、「無理は続か ない・・・」と考えれば、より現実的な s の推移を想定
Scenario 2: これまでと同様、
今後も投資家は合理的に行動する・・・
• 一定の条件を満たせばインフレによる「調整」は今後も不要 だとする Tables の試算結果を見て、「これまでと同様、今後 も投資家は合理的に行動する。合理的に行動する投資家が市 場を dominate する状況が継続する・・・と考える投資家・消 費者が dominant だろう。『ガス抜き』が必要なガスは、これ までと同様、今後も蓄積しない」という読み方を採用する。
• たとえば、 ρ=0.02 、 N=1 、 s=0.05 が実施され、その状態が継 続的に維持されるから、「財政破綻」は杞憂に終わる・・・ というのである。
• さらに、 N=1 、 s=0.05 が実施されるということは無理だとし ても、 N=0 で s=0.01 が実現し継続的に維持されれば、 ρ=0.005
( 0.05 ではない)であれば、右辺の値は 2 となりインフレに よる「調整」は不要である。
Scenario 3:
今後も投資家が合理性に覚醒することはない
• 「これまでと同様、今後も投資家が合理性に覚醒することはな い。したがって、『ガス抜き』を要するガスが蓄積するとし ても、それが噴出することはない」とする読み方である。
• 「いかなる原因・メカニズムによるか」という点に関しては 意見は多様だろう。しかし、原因・メカニズムに関する認識・ 意見やその将来の推移に関する見方などは異なるとしても、
「『投資家が合理性に覚醒することはない』とする結論に関し て確信する投資家が市場を dominate する状況が継続す
る・・・と考える投資家・消費者が dominant だろう」と考え るのである。
• 「試算例」の基礎となる将来の stの flow の割引現在価値に基 づいて国債の需要価格を決める投資家は、存在するとしても、 市場からは淘汰され続けるだろう・・・・というのである。
Scenario 4: 混合型?
• 以上の 3 つの senarios はいわば「純粋型」である。最後 の scenario 4 は混合型である
• 以上の 3 つの scenarios のいずれについても、「いささ か極端にすぎて・・・」と違和感を覚え、受け入れに 抵抗感を覚える読者が多いだろう。もちろん、違和 感・抵抗感の内容・強さなどについても読者は多様だ ろう。
• Scenario 1 については、「基本的見方についてはその通 りだと思うが、日本の現状を見るかぎり、今にもガス 抜きが現実化する・・・とも思えないし・・・」と考 える読者が多いだろう。
• Scenario 2 については、「 primary balance s がプラスへ転 換し、その水準( st=St/y0) が 0.05 や 0.01 になって、その 状況がその後も継続的に維持されるという事態が今日明 日にも実現すること、このことに関して確信し続ける投 資家が市場を dominate してきたし、今後も dominate し 続ける・・・・というのは」と考える読者が多いだろう。 S の政治的実現可能性を含めて、投資家・消費者の中に
この点に関する確信が揺らげば、より高い ρ を用いる投 資家が増大する。
• Scenario 3 については、「よくはわからない理由により
、『大丈夫だ・・・・』と言われ、『運用は専門家に任 せてあるから』などと説明されても・・・と違和感・不 安を覚える消費者が増大しないだろうか?」考える読者 が多いだろう。「素直に考えればガス抜きなどの対応が
• 3 つの「純粋型」の scenarios に関する以上に見た如き違 和感・抵抗感に鑑みて作成される「混合型」の scenario 4 は、そのタイプ・内容・タイミングなどの各点で、多 様な読者の選択を反映して、内容も多様だろう。
• Scenario 4 の内容としてもっともらしいものが、以上の 検討内容から直接導かれるということはない。とはい え、 scenario 2 や scenario 3 の世界から scenario 1 の世界 への移行を予想するのであれば、その時点までの期間 にインフレによる「調整」を要するガスの蓄積量が増 大する点にも留意する必要がある。
Scenario 4 (混合型)の一例?
• あくまで一例である
• 以前から ρ=0.01 で将来を安定的に推移すると楽観的に考えてい た。 t=0 でも 2 年後に s=0.1 が確実に実現しその後も安定的に推 移すると予想した。そうであれば、右辺は 9 を超えるから「財 政破綻」等は話題にする必要もない、と考えた
• 2 年経過後にも s=-0.1 のままであることに気づき、予想が楽観的 に過ぎた・・・と認識し、 t=0 で 5 年後に s=0.05 に移行すると考 え、 ρ も 0.02 で評価すべきだったと、立場を転換する
• 5 年経過後にも s=-0.1 のままであることに気づき、 t=0 で 7 年後 に s=0.01 に移行すると考え、 ρ も 0.03 で評価すべきだったと、 立場を転換する
• 7 年経過後にも s=-0.1 のままであることに気づき、 t=0 で 10 年 後に s=0.01 に移行すると考えることについても楽観的に過ぎる か・・・と考えはじめ、 ρ も 0.05 で評価すべきだった、と立場
• このような「投資家」を典型と考えると、気づいた時には
、右辺の値は t=0 で 7 年後に -0.46 (これは前倒しにして即 座に s=0.01 を実現した時の値)、 10 年後に実現した際に は -0.68 だから、大騒ぎになり、大インフレが現実化する。 インフレを通じる「調整」だけでは「財政再建」は不可能 である。おそらく、政府も「お手上げ」の状態にな
る・・・
• 典型的「投資家」がそこまでのんびりしていることはない だろう・・・・と考える読者は t=0 で ρ=0.05 、 10 年後で ようやく s=0.01 が実現すると予想するという修正 scenario を作成するかもしれない。そうなれば、 t=0 で大インフレ が現実化する。しかし、右辺は -0.68 だから、インフレを 通じる「調整」だけでは「財政再建」は実現しない。その 落ち着き先に関する scenario については、各読者自らのさ らなる検討・模索が必要となる。
• 上に示した例示シナリオほどは「のんびりしているこ とはない」としても、典型的「投資家」が即座に国債売 却と換物に走り出すことはなかろう・・・と考える読 者は、より穏やかな修正 scenario を想定するだろう。
• t=0 をどの時点( 2015 年、 2005 年、あるいは 2020 年) に設定するかにより基準となる左辺の値が変化する
• t=0 が遅くなり、インフレを通じる「調整」のスタート が遅くなれば、左辺の値が大きくなるから、「調整」 による対応(「ガス抜き」)を要するガスの蓄積量が 増大し、事態はより深刻化する
[6]. Discussions: (1)~(5)
• ここまでの検討内容を見ながら、「アレはどうなって いるか・・・?アレについてはどのように考えている のか?アレは考慮に入れないのか?」と不満を抱き不 安な読者が少なくないだろう。不満・不安の内容も多 岐にわたるはずである。
• 以下の discussions では 5 つの論点を取り上げる。以上の 検討内容のより的確・正確な理解にも資するはずであ る。
• もちろん、これで論点が尽きることはないだろう。残 される論点については読者自らが吟味されればよい。
Discussion 1: インフレを通じる調整への政策的対応
• インフレによる調整が現実化した際の政府の対応
は・・・?ーー必要なインフレによる「調整」の幅は、これ に決定的に依存する。
• 以上の試算例では、投資家については、「インフレによる調 整は想定外の事態」であり、調整後にも影響は残らな
い・・・と想定している。
• しかし、消費者・選挙民・国民の多くには、インフレに伴っ て発生する所得・富の移転への不満が発生し、それへの対応 が重大な政治的課題となるだろう。
• もっとも、インフレを通じる「調整」の相当部分は、それ以 前に存在した「錯覚」の修正にすぎないとする見方も有力だ ろう。とはいえ、このような修正に対する不満への対応も少 なくとも政治的には重大な課題となる・・・かもしれない。
• 以上の検討では primary balance の surplus の推移予想は調 整によって影響されない・・・と想定しているが、この 点については慎重な検討を要する。
• 年金の indexation をはじめとして、各種の対応が講じられ れば、必要なインフレ率にも大きな影響が現れる。
• 影響を中和するように対応すれば、必要なインフレ率は 大きく拡大する。とめどのないインフレ・・・。--そ のような政策的対応を投資家が予想すれば・・・。
• 逆に、「だからやっぱり・・・」と増税と歳出カッ ト・・・を加速すれば、よりマイルドなインフレです む・・・?-- 1923 年のドイツのインフレの後・・・?
• 現時点の日本を含む各国の政治状況を見れば、後者の可能 性が高いと考える読者は、存在するとしても稀だろう。
• いずれにしても、今後の重要な検討課題・考慮項目として 残る。
単純化した例示
• 形式は特定化しないが、結果として、インフレによる「調 整」の 50% が、政府の政策的対応により s の悪化( N+1 年 後以降の s の幅の縮小)として現実化するとしよう。そう であれば、必要なインフレの幅は 2 倍になる。
• 政府の対応の結果が 80% に上昇すれば、必要なインフレ率 の幅は 5 倍になる。
• 政策的対応は即時的なものに限定する必要はない。さらに
、対応の実現可能性については、将来のものまで含めて、 評価者は投資家である点に注意。
• 当然、インフレに伴う富・所得の移転は政府債務の価値の 変動によるものに限定されない。しかし、政府債務以外の 者に起因する分は現状では考慮対象外としている。
• ちなみに、第 1 次大戦後のドイツのインフレのケース では、激烈なインフレは一挙に止まった。厳しい歳出 カット等が並行した。
• 重要な点は、急ブレーキに伴う生産活動や支出の落ち込 みは、軽微かつ短期間に終了したことである。
• 第 1 次世界大戦終了時点でのドイツの生産設備・能力は 破壊されず、ほとんど無傷で残されていた。ーー日本 の戦後の激しいインフレを想起する向きがあるかもし れないが、これは戦争に伴う破壊と戦後の混乱の後の ものである。現時点の日本では、激しいインフレが起 こったとしても、これによって生産能力が低下するわ けではない。
Discussion 2: p の変化のへの影響?
• 将来の財政状況を考慮した物価水準 p ・国債価格 (q=1/p) の調整は現時点 (t=0) で発生する。以上の検討では、この 幅に関わりなく、 s の水準を一定として与えている。 P の 上昇幅に比例して名目 GDP は増加するから、税収が大幅に 増加して、 s も上昇する・・・はずだと考える立場からの 異論が生まれるかもしれない。ーーここでの検討では、 s は y0に対する比率で与えられている。 ytに対する比率で はないから、 p の上昇は、 yt/y0を上昇させる。
• P の変化が実質 GDP の水準に影響しないとしても、名目値 の増加は、税収の名目値を増加させるし、さらに累進税率 のためもあって実質値も増加させる・・・だろう。
• 対応する支出の名目値 Gt への影響も同時に考慮する必 要がある。
• 結果として s への影響をどのように判断するかは、読者 の選択に任せる。ーー税収の増加だけが現実化すると 考える分析者、支出も変化するとしても、 s は増加する と考える分析者も少なくないかもしれない。しかし、 そうは考えない読者も少なくないだろう。
• ここでも重要な点は、 q 、したがって p を決定するの は投資家の行動であって、 s への影響に関する投資家の 予想こそが決定的に重要だということである。
Discussion 3: Debt (B) の範囲?
• 高齢者医療費や生活保護費などのように政府が(一部)支 払いを実質的に約束している支出項目が少なくない。しか し、国債等の形で目に見える形での政府負債となっている わけではない。防災・インフラ整備・教育・国防など同質 の支出項目は少なくない。
• 右辺の政府支出と位置付けるか、実質的な負債として左辺 に計上するかは分析上の選択事項だろう。高齢化の進展に 伴う医療費負担等の今後の急増に注目して、実質的な負債 として左辺に含めるという選択もある。
• このような項目の金額が今後どのように推移するか・・・ は投資家にとっても重大関心事であり、 p との関連では、 投資家の予想こそが決定的に重要である。
• 同じく、税収についても同様である。
• 重要な点は、左辺を 2 と設定したここまでの議論は、 B を 国債残高に限定したイメージだということ。したがって、 将来の政府支出の約束等は右辺の s に含まれることである。
• そうであれば、国債残高の対 GDP 比率に極端に大きな比重 を置いて注目することは、あまり適切ではない・・・?
• 日本と比べてアメリカでは、高齢化の進展、医療費の高騰 に伴って政府支出が今後急激に増大することに大きな注目 が集まっている(しばしば entitlements と表現される ) 。
• このため、現在の国債残高は多くないとしても、「財政危 機」への警戒心ははなはだ高い。
• このような将来の政府支出の約束は実質額の負担だから、 インフレによる「調整」は有効ではないことにも注意を要 する。
Discussion 4: 経済成長率?
• 以上の議論については、経済成長率 (g) の高さ、今後これ が高まる可能性を軽視あるいは無視しているとの批判があ るかもしれない。
• St は税収 Tt と支出 Gtの差額 Stの対 y0 比率であって、経済
成長率の水準やその変化の可能性を無視あるいは軽視して いるわけではない。
• Ttが経済成長率 g に比例(依存)し、 Gt がこれに依存しな ければ、 St 、したがって stも g に比例(依存)するかもし れない。--それなら、そのように考えればよい。--し かし、そうはならないかもしれない。
• いずれにしても、投資家の予想が stを通じて p を決定する。 g が高まれば、 st も高まる・・・と政府が断言しても、投 資家が政府を信頼してそれを受け入れるとはかぎらない。
• 政府の政策が g を高めることに成功するとはかぎらない。
• 「成長戦略」にかぎらず、より高い経済成長を目指すこと は、どの時代のどの国の政府にとっても、できれば実現し たい「目標」であった・・・。
• もちろん、ここでの g は、短期の変動のスピードではなく
、中長期の成長率である。
• もちろん、「成長率が高まったら・・・、税収も増えるか ら・・・、福祉の充実を進める・・・だろうな」と考える 国民・政治家も多いから、この点を考慮して投資家も同様 に考えるかもしれない。
Discussion 5: s の中身と評価?
• 政府とは中央政府のことか・・・という設問は、 Et に 地方政府や政府関係機関のものをどこまでどのように 含めるかという視点から見ると、 p にも深くかかわる。 もちろん、これも政府の行動に関する投資家の判断・ 予想である。
• さらに、 St として flow 変数として取り扱っているが、 政府の保有資産等を cash flow にして投資家への支払い の充てることが予想されれば(物理的に可能であって も、そうはしないと投資家が予想しなければダメ)、 これも St に含まれる。
• 国債発行によって調達した資金は無駄に浪費されたわけで はなく道路建設等に有効に使用された・・・とし、道路等 に有形固定資産が豊富に存在することを強調する主張があ る。
• ここでの論点は、政府資金が「有効」に活用されたか否か ではない。
• たとえば、道路や国会議事堂を売却して、それによって調 達した資金を債務返済に使えるか、使うか・・・が論点で ある。投資家が政府の行動をそのようなものと考え予想し なければ、 p の決定には影響しない。
• 日本の外貨準備や海外保有資産の面で、日本は大幅な資産超 過だから・・・・という主張についても同様である。ほと んどは国の所有ではないし、国が処分して債務返済にあて る・・・とは投資家は考えない。
[7]. Concluding Remarks
• [6] の Discussion 1 の内容を考慮して、試算例に示した発生イン フレ率の予想を上方に修正する必要があるかもしれない。
• しかし、それ以外の点を考慮しても、最初に示した表に関連し て記した内容を大きく修正する必要はなさそう・・・?
• 棚上げした、「不可解」な投資家の行動の解明は、まことに興 味深いことになる。
• 冒頭に記した如く、 t=0 は 2015 年と想定して読むか、その 10 年前として読むかは読者の選択による。後者のように考えれ ば、不思議な投資家が少なくとも 10 年以上にわたって支配的 であったことになる。もちろん、この状況が、今後も継続す ると考えてよいとする根拠はない。
• Sims の主張の如く、 FTPL (fiscal theory of the price level) is r elevant to the most prominent current macro-policy issues, and it provides intuitively useful insights である(前掲 sheet 10)
• FTPL に基づく共通の基盤・土俵の上で、試算例として示 した予想される諸事態・状況の多様なメニュー(および
、読者自らがさらに拡張したもの)、その読み方として の scenarios (および、読者自らが内容をさらに具体化し たもの)を参照しながらの、具体的内容を伴った「財政 再建」論議の論拠を明示した展開が望まれる。本研究が そのための素材・触媒となることが筆者の希望である。
• これまでの「財政再建」論議は、長期均衡モデルを用い
、「財政破綻」回避を最優先目標とすることにより、物 価水準や「インフレを通じる『調整』」の検討を実質的 に棚上げ・無視してきた。
[8]. 付論:関連する 4 つの論点
(1). 「調整」後の状況
• この研究は、 ( 少なくとも potential には不安定な)現状からの脱出 に必要なインフレを通じる「調整」(「ガス抜き」?)の規模
(幅)に検討の焦点を合わせている。とはいえ、「調整」後の状況 についてもう少し解説が必要で有用かもしれない。
• 「調整」は t=0 で完了する。調整後の平穏な状況下で、経済は順調 に推移する(と投資家は考えるはずである)。
• stは y0に対する比率として想定されている。「調整」後の GDP 名目 値 ytに対する比率は、「調整」幅が大きければ小さくなる。このこ とは primary balance が N+1 年目からプラスに転じるとして、その前 後で同様にあてはまる。 y0に対する比率 (s) が 0.1 だとしても、調整 後の物価水準が 3 倍になれば、 ytに対する比率は 0.1/3 になる。とは いえ、この比率がマイナスになることはない。
• 「調整」後は平穏だから、 N+1 年目の前後を問わず、割引率( ρ )
• 一定の条件を満たせば t=0 でいかなるインフレによる
「調整」も現実化することなく平穏無事な状況が今後 も維持されると期待できる。
• 年金受給年齢に達している筆者の世代にかぎらず、 多くの読者の関心が、そのようなケースが現実の日 本経済に妥当するか否かという relevance の検討に向 かうはずである。
(2). 「投資家」とは誰のことか?
• 「投資家」とは誰のことか、誰の割引率が重要であり、割引 率として何を用いるべきか、 s や N に関する予想として誰の ものが重要かなどの設問に関する周到な検討が必要なはずで ある。この点の検討も読者に任せよう。
• 特殊なタイプの資産運用機関の特異なタイプの運用担当者が 現状の維持に支配的影響を与えている・・・というようなこ とがあるとしても、その資産運用行動が国民・投票者・消費 者の意向に沿わなければ、早晩市場から淘汰されるはずであ る。
• もちろん、一部の官僚・政治家・メディア関係者・識者の意 向・動向についても同様だろう。より不安定かつ流動的であ り、実質的影響はさらに小さいかもしれない。
• 棚上げしている、「不可解」な「投資家」の行動の解明は、 まことに興味深い。
(3). 割引率 ρ は・・・?
• 検討内容に照らしても、 ρ として何を用いるべきか、 投資家が ρ として何を用いているか・・・という点に 多くの読者の関心が集中するだろう。しかし・・・。
• Asset prices should equal expected discounted cashflows. Fort y years ago, Eugene Fama (1970) argued that the expected pa rt, “testing market efficiency,” provided the framework for org anizing asset-pricing research in that area. I argue that the “dis counted” part better organizes our research today.
• John Cochrane “Presidential Address: Discount Rates”, Journal of Finance, August 2011 の冒頭の文章である (p.1047) 。