-第 10 回 ミクロからマクロへ-
菅 史彦
内閣府 経済社会総合研究所
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
ミクロからマクロへ
ミクロ経済学では、
1 個々の企業や消費者の最適化行動の中身
2 他の経済主体との相互依存関係 を分析することに関心があった。
これに対し、マクロ経済学では、国全体や世界的な経済の動 向を経済全体の動きに関心がある。
マクロ経済学の関心対象
マクロ経済学は、たとえば、 インフレ・デフレ
失業率 経済成長 景気変動 などを扱う。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
ケインズ経済学と新古典派経済学
ミクロ経済学で学んだ市場の理論は、新古典派経済学の考 え方。
しかし、大量の失業者が生まれ、ものが売れない恐慌のよう な現象をうまく説明できない。
そのような状況を説明するためにできたのがケインズ経済学。 経済主体の合理性や価格メカニズムは不完全なものであると いう仮定のもとに成り立つ理論で、
政府の積極的な介入を是とする。
ミクロ経済学との違い
ミクロ経済学の分析では、ある特定の財の市場に焦点を当て ることが多いため、部分均衡分析が多い。
これに対し、マクロ経済学で使われるモデルは、基本的には 一般均衡モデル。
ただし、集計された経済変数の動きに関心がある。 経済活動の、時間的な変化に関心がある。
市場の均衡を必ずしも前提としない。 理論的整合性より、政策的な意味を重視。 経済主体間の相違は重視しない。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
現代のマクロ経済学
マクロ経済学には、いろいろな考え方があり、考え方の違い によってモデルから得られる結論や取るべき政策がまったく 異なる。
経済学の世界では、ミクロ経済学に基づくマクロ経済学(新 古典派経済学)が圧倒的主流である。
一方、現実の政策決定には、既に学問の世界では用いられる ことのなくなったケインズ経済学的なモデルが未だに重大な 意味を持っている。
この授業の流れ
まず一国の経済活動の水準を測る指標として GDP について概 観する。
次に、旧来のケインズ経済学的なモデルとして、IS− LM 曲 線による総需要の分析について説明する。
ついで、マクロの政策目標達成のための手段として、政府・ 中央銀行による財政政策 (fiscal policy)、金融政策 (monetary policy)について説明する。
次に新古典派経済学の考え方について解説する。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
国民所得の測定と政府の政策
マクロ経済学は、国全体の経済活動の大まかな動きに関心が ある。
そのため、国の経済活動が、どのくらい活発かを測りたい。 そのために、経済活動によってある期間に生み出された(付 加)価値の合計を測ったのが、国内総生産 (GDP)。
GDP が測っているもの
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
国内総生産( GDP )とは
国内で生み出された付加価値の合計。
これは、国内で財の生産によって生じた価値の合計で、これ には、キャピタルゲイン等は含まれない。
本当は GDP から固定資本減耗を除いた国内純生産 NDPのほ うが良いが、固定資本減耗を測るのが難しいため、GDP がよ く用いられる。
GDPはフローの概念である。
三面等価の原則
経済活動によって生み出された価値の総和という考え方は、 生産サイドから見た GDP。
しかし、そのようにした生み出された価値は、必ず誰かに分 配され、誰かの所得になっているはず。
また、生産されたものは、誰かに何らかの形で使われてい るはず。
すなわち、経済活動の水準を測るときに、 生産面(GDP)から見ても、
分配面(GDI)から見ても、 支出面(GDE)から見ても、
全て等しいはず。これを三面等価の原則と呼ぶ。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
三面等価の原則
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
三面等価の原則
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
三面等価の原則
三面等価の原則
生産活動によって生み出された価値の総和が、誰かに使われ たものの価値の総和に等しいというのは、供給と需要が一致 していることを意味しているかのように見える。
しかし、この関係は事後的にしか成立しないものである。 すなわち、実際には生産されたけれども誰にも消費されな かったものが存在しており、
それを在庫投資という名前で読んでいるだけである。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
名目 GDP と実質 GDP
その時その時で生み出された付加価値をそのまま足し上げた のが名目 GDP。
しかしこれでは生産活動が活発化したのか、単に価格が上 がったのかわからない。
そこで、価格だけある基準年の水準に固定して測ったのが実 質 GDP。
名目 GDP を実質 GDP で割ったのがGDPデフレーター。
名目 GDP と実質 GDP
出典:福田・照山『マクロ経済学・入門』
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
過去 20 年の GDP の推移
ケインズ経済学
ケインズの『一般理論』によって提起された理論。
大恐慌の真っ只中で、多くの失業者や遊休設備が存在して いた。
なぜそのようなことが起こりうるのか?
ケインズは、価格による調整メカニズムが機能していないか らだと考えた。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
価格調整か数量調整か
三面等価で、国内総生産と国内総支出が一致するのは、あく までも事後的な辻褄合わせの結果でしかない。
事後的には売れ残りを在庫投資と呼ぶことで三面等価が実現 するが、事前には需要と供給が一致するとは限らない。 売れ残ったら、企業は値段を下げて売るので、需要と供給は そのうち一致する、というのが伝統的な経済学の考え方。 何らかの理由で価格調整メカニズムが働かなければ、企業は 労働者をクビにし、資本設備の稼働率を抑えて、生産活動を 抑えてしまうというのがケインズのアイデア。
すなわち、需要が経済活動の水準を規定するという考え。
需要とケインズ経済学
ケインズ経済学では、前提として
1 財市場は超過供給の状態が支配的である。
2 生産能力に余裕が有り、需要さえあればその分だけ供給で きる。
3 価格調整スピードが遅く、超過供給なのに価格が下落しない。
4 そのため、総需要がどう決まるかのみが問題である。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
家計の消費需要
消費関数が以下で与えられる:
C =c0+c1Y (1)
消費関数
消費はC =c0+c1Y 平均消費性向は
0 < CY < 1 限界消費性向は
0 < ∆C
∆Y =c1< 1 税を入れるとC =c0+c1(Y −T)
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
財市場の均衡
総需要は、消費+投資+政府支出で与えられる:
A =C+I+G (2)
=c0+c1Y +I+G (3) 三面等価により、総生産と総所得は等しい。
Yは総生産に等しく、これが総需要に等しい水準に決まる。 すなわち、以下の恒等式が成立する:
Y =A (4)
財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
財市場の均衡
財市場の均衡は下図Eで与えられる:
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
乗数
1 ここで、投資もしくは政府支出が1兆円増えたとする。
2 財市場の均衡条件をYについて解くと、
Y = c0+I+G
1 −c1 (5) を得る。
3 すなわち、I+Gが1兆円増加すると総生産・国民所得は 1
1 −c1 > 1 (6) 増加する。
乗数
図で見ると…
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
乗数
図で見ると…
乗数
図で見ると…
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎
乗数の経済的意味
1 なぜ1兆円の投資・政府支出の増加が、1兆円以上になって 返ってくるのか?
2 投資・政府支出が1兆円増えると、その分誰かの所得が増え、 その合計が1兆円になる。
3 所得が増えた人はその分消費するので、それによって消費が c1兆円増える。
4 使われたc1兆円は誰かの所得となり…
5 結果、経済効果の合計は、
1+c1+c12+ · · · + = 1 1 −c1
乗数モデルから IS-LM モデルへ
1 乗数モデルは単純だが、公共事業で景気が良くなるという発 想は、基本的に乗数モデルから来ている。
2 そのため、政治経済的には非常に重要な意味を持つ。
3 ただ、ここまでの議論では、投資は外生変数で、金融市場は 考慮しなかった。
4 乗数モデルに内生的な投資と、金融市場を導入したのが IS-LMモデル。
菅 史彦 (ESRI) 経済学基礎