非国際武力紛争における反徒に対する国際人道法の適用根拠
東京大学大学院法学政治学研究科 修士課程 鈴木 孟 I. 問題の所在―反徒に対する拘束論の現代的意義―
非国際武力紛争における、反徒に対する人道法(共通 3 条、APII)適用の理論的問題点 ①反徒が条約当事者ではない
②政府の法秩序そのものを否定している
⇒反徒に対する人道法の適用根拠につき、学説は分散した状態
近年の国際刑事裁判における反徒訴追の実行 例:Lubanga 事件(ICC)、Katanga 事件(ICC)
*ただしこれら判例の中では人道法の拘束根拠には触れられていない
反徒に対する人道法の条約上の義務が不明確なまま、国際刑事法廷によって彼らの審理・ 処罰が行われている
⇒国際刑事法廷の活動の正統性が疑われる可能性
⇒国際刑事裁判との関連での議論の必要性(先行研究のほとんどは人道法の枠内での議 論)
*ただし、ICC 規程や ICTY 規程自体の解釈から、人道法上の拘束根拠と切り離して反 徒の審理・処罰を根拠付けられる可能性もある。一方で、国際刑事法は国際人道法の 履行確保手段としての機能があり、両法体系は連続していることにも留意すべきであ る。
本報告の範囲:人道法の枠内における、共通 3 条および第二追加議定書の反徒に対する適 用根拠(拘束根拠)に関する諸学説のうち、主要なもののいくつかにつき、その理論で説 明できる範囲の限界を確定すること。その上で、従来の学説で説明できない場合が存在す るか検討すること。(国際刑事法は範囲外)
II. 関連条文と諸学説の紹介 A. 関連条文
ジュネーヴ諸条約共通 3 条
「各紛争当事者(each Party to the conflict)」
→反徒にも義務が課されていると解するのが通説(大文字の P を締約国と解する説 も)
最終項「前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない」
→交戦団体承認を意味するものではないとの理解 第二追加議定書
名宛人が明示されていない
起草過程で「紛争当事者」の語が全て削除(パキスタン提案)されたため 共通 3 条を「発展させかつ補完するもの」
第二追加議定書の適用条件として、条約を履行できる反徒の能力が挙げられている B. 諸学説の紹介
立法管轄権説
政府はその全国民に対して立法する権限を有しており(立法管轄権の原則)、これを条 約締結について見れば、条約を批准する際に国家は領域内の全個人を代表して行っている ということになり、ゆえに国家は条約批准によって反徒も含め領域内の全個人を拘束する (Sivakumaran 要約)
「反徒、そして山賊でさえ明らかに何らかの国家の国民(nationals)であるから、そのこ とによって後者の引き受けた義務に拘束される。そして実際には全ての文明国が当該 諸条約を署名しているから、〔中略〕いかなる反徒や山賊も署名国の国民(a national)で あり、その事実自体によって(ipso facto)条約に拘束される。」(ギリシャ代表の発言)
政府承継説
「仮にその最高の責任当局が実効的主権を行使しているのであれば、当該国家、あるいは その一部を代表すると主張しているという正にその事実によって、その当局は拘束され る」(ICRC 第一条約コメンタリー(第三条約、第四条約コメンタリーも同旨)) 人々や領域に事実上の権限を行使する、国家とは独立の実体としての事実上の当局(de facto authorities)として、反徒が拘束されると論じ得る (Zegveld 要約)
第三者効力説
条約法条約 34 条以下に反映された条約の第三者に対する効力の理論を、反徒団体に対して も適用
⇒第二追加議定書が反徒をも拘束する意図を有しており、かつ反徒団体がそのことに同意 すれば、反徒は拘束される (Cassese 要約)
慣習法説
「ある国家による批准の効力を、当該国家の領域にたとえ一時的にでも自らを確立した新 しい法主体に拡張する慣習規則の存在」に依拠する説 (Bothé)
国際法上の特定の法制度においては、その同意とは無関係に、ある法主体に対する拘束を 義務付ける慣習法規則が存在し、共通 3 条はその一例であるとする説(藤田)
III. 立法管轄権説
立法管轄権説については次の A, B の 2 点が指摘できる。 A. 用語の問題
立法管轄権説と呼ばれる説は、必ずしも「立法管轄権」の語を用いていない 例: ギリシャ代表の発言
アメリカ法の原則?(Elder, Parlett などの指摘) B. 同説内部での多様性
「立法管轄権説」とされる説も実は一様ではない
① 国内法化を前提とする説(ICRC 第二条約コメンタリー、APII 起草時のソ連代表の発言) ②条約による直接的義務のみで説明し、国内法化は不要とする説(Draper, Sivakumaran) 立法管轄権説に批判的な立場は、この説を①の立場として捉えている(Cassese, Moir)
C. 同説の限界
個々人の反徒に対して
国籍(属人主義)に基づけば、いかなる場合にも説明可能
*ただし国籍による連帯がない場合(無国籍者の場合など)は問題 反徒集団全体に対して
反徒集団全体としては、元の国家の管轄権に服さなくなる時点が存在するはず C-1) 交戦団体承認の要件論からの示唆
Cf. 交戦団体承認が可能となるための要件
① その国家において、(純粋に地域的なものではない)一般的性格の武力紛争が存在して いること、②反徒が国家領域の実質的な部分(a substantial portion)を占領し、管理している こと、③反徒が、戦争法の規則にしたがって、また責任ある当局の下で行動する組織化さ れた武装組織(organized armed forces)を通じて敵対行為を行っていること、④諸外国に対し、 自らの態度を交戦団体承認という手段で定義する必要を生じさせる状況が存在すること。 (Lauterpacht)
これらが満たされるとき、「実際上は事実上の国家(a de facto state)になる」(Bond, Lootsteen)
⇒反徒集団が元の国家の管轄権に服さなくなったとき、反徒個人に対する管轄権の競合が 生じるのでは
正統政府 A→属人主義(国籍)による連帯
反徒集団 α→(準?)属地主義(実効的支配)による連帯
競合? A
α
C-2) 交戦団体承認の効果論からの示唆
「仮に反徒がその支配領域においてその国家の国内法制(its domestic legislation)を、 したがって議定書を編入した国内規則を無効(null and void)と宣言したとすれば、
〔国内法化に依拠する説は〕議定書の反徒に対する法的影響を説明しないことにな る」(Cassese)
との指摘(共通 3 条については Moir が同様の指摘をしている)は、こうした無効宣言 を事実に過ぎないと見るべきか、法秩序を創出する権限に裏付けられた規範的意味を 持つ行為と見るべきかによって、その妥当性が変化する
⇒交戦団体承認がなされると、反徒は自らの支配地域で独自の法秩序を創出することまで 認められていたのか?(交戦団体承認の効果)
・立法権限に関する占領法との関係(ハーグ陸戦規則 43 条)
IV. 政府承継説 A. 問題点
たとえ政権奪取が目的であろうと、反徒が未だそれに成功していない非国際武力紛争の 継続中においても、承継の理論を適用できるのか
B. 限界
A の問題が仮に克服されたとしても、反徒の目的がその国家からの独立である場合には、 政府承継時の国家同一性の原則で説明できないのは明らか
V. おわりに
立法管轄権説、政府承継説で説明できないような状況につき、他の学説で説明が可能か
*
【主要参考文献】
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守谷(上地)瑠美子「国際人道法における反徒の法的地位―非国際武力紛争の場合―」
『關西大學法學論集』第 56 巻 4 号(2006 年)、pp.185-204。
以上