産業組織
II
Part V:
製品差別化
若森 直樹
東京大学経済学部
構造推定のいろいろな手法
▶ 構造推定の代表的な手法
1. 差別化された財の需要関数の推定
2. 生産関数の推定
3. 静学ゲームの推定
4. 動学ゲームの推定
5. オークションの推定
差別化された財の需要関数の推定
▶ 究極的に知りたいこと: 価格の弾力性
Q1(p1, . . . ,pn) = α01+α11p1+α21p2+· · ·+αn1pn+ε1
Q2(p1, . . . ,pn) = α02+α12p1+α22p2+· · ·+αn2pn+ε2
.. .
Qn(p1, . . . ,pn) = α0n+α1np1+α2np2+· · ·+αnnpn+εn
▶ このような需要システムを推定することは不可能に近い
▶ 財は多数存在する場合が多い(自動車だと100車種以上)
▶ 価格のバリエーションは非常に限られている
▶ データのタイプにより異なる計量経済学的な手法を用いる
▶ 個別レベルのデータ
個別データがある場合の推定
(1/5)
▶ 人々はなぜその選択肢を選んだのか?
→効用を最大化しているから(顕示選好)
▶ 離散選択モデルが非常に有力なツール:
被説明変数が離散(連続でない)変数の時に用いるモデル
▶ 選択肢が2つ以上に容易に拡張可能 1. 順序に意味がある- Ordered Probit/Logit
▶ 車の保有台数: 1台,2台,3台,など ▶ 子供の数: 1人,2人,3人,など
2. 順序に意味が全くない- Multinomial Logit
▶ 交通手段: バス(1),タクシー(2),自家用車(3),電車(4),等 ▶ 職業選択: 医者(1),会計士(2),銀行員(3),大学教員(4),等
個別データがある場合の推定
(2/5):
簡単な例
▶ 各個人iは「車を買う」「買わない」を選択
▶ 各個人iは以下の効用を最大化するように意思決定を行う:
uij =
{
0 +εi,0, 車を買わない
αlog(yi −p) +εi,1, 車を買う
ただし,yi は個人iの所得,pは車の価格だとする
▶ εがタイプ1極値分布に従う時,i が車を購入する確率は
Pr(di =j|Xi) =
個別データがある場合の推定
(3/5):
簡単な例
▶ どのようにαを推定するのか?
実際の α= 1の時の α= 2の時の データ モデルの予測 モデルの予測
1 0 1 0 0 1 1 0 .. . ... 0 1
0.7 0.3 0.8 0.2 0.4 0.6 0.6 0.4
.. . ... 0.2 0.8
0.8 0.2 0.9 0.1 0.5 0.5 0.5 0.5
.. . ... 0.4 0.6
▶ どちらの方がよりデータに近いか?
個別データがある場合の推定
(4/5):
一般化
▶ 差別化された製品がJ個あると仮定: j = 0,1,2,· · · ,J. ▶ データにはN人の個人がおり,その人の属性や購入する製品
のベクトルをXij とする.
▶ 各個人i ∈Nの製品j から得られる効用は以下の通り:
uij =Xijβ+εij.
▶ εがタイプ1極値分布に従うと仮定すると,個人i が製品j を
選ぶ確率は以下の通り
Pr(di =j|X) =
exp(Xijβ) 1 +∑J
k=1exp(Xikβ)
個別データがある場合の推定
(5/5):
一般化
▶ 製品を何も購入しないときの効用を0で標準化する,ui 0 = 0. ▶ この時の最大化すべき尤度関数は以下の通り:
N
∏
i=1
J
∏
j=1 {
exp(Xijβ) 1 +∑J
k=1exp(Xikβ)
}yij
ただし,yij は観測されるiの意思決定のデータであり
yij =
{
1, i さんが製品j を購入した
集計データしかない場合の需要関数の推定
以下の二つの論文を非常に駆け足で紹介
▶ Steven T. Berry (1994): “Estimating discrete-choice models of product differentiation,”RAND Journal of Economics, vol. 25(2), pp. 242-262.
集計データしかない場合の需要関数の推定
(1/6)
消費者i は以下の効用関数で与えられる財のうち,最も高い効用を 与えてくれるものを購入すると仮定する
uij =Xjβ−αpj +ξj+εij,
ここで
▶ X
j: 製品j の特性(マトリックス)
▶ β: 係数のベクトル
▶ α: 価格の係数 ▶ pj: 製品j の価格
▶ ξ
j: 製品j に対する消費者の「観測されない」評価
▶ ε
集計データしかない場合の需要関数の推定
(2/6)
▶ 購入しない時の効用を0で標準化, i.e., ui 0 = 0
▶ 製品j から平均的に得られる効用δj =Xjβ−αpj +ξj と定義
uij = Xjβ−αpj+ξj +εij, = δj +εij.
▶ この時のマーケットシェアは一般的に
sj(δ,X,θ) =
∫
Aj(δ)
f(ε)dε.
で表現される.ただし,Aj は財j を購入する人の集合で
集計データしかない場合の需要関数の推定
(3/6)
▶ εがタイプ1極値分布に従うと仮定
▶ 製品j のマーケットシェアは
sj(δ) =
exp(δj) 1 +∑J
k=1exp(δk)
▶ 買わない人のマーケットシェアは
s0(δ) = 1
1 +∑J
集計データしかない場合の需要関数の推定
(4/6)
▶ 辺々を割り対数をとると以下が得られる(Berry Inversion)
ln(sj)−ln(s0) =δj =Xjβ−αpj +ξj
▶ このモデルであれば,通常と同じ回帰分析が行える!! ▶ 被説明変数: ln(sj)−ln(s
0) ▶ 説明変数: [Xj,pj]
▶ 誤差項: ξj
▶ 現実には, Cov(p
j, ξj)̸= 0の可能性があり,最小二乗法は使え
集計データしかない場合の需要関数の推定
(5/6)
▶ なぜCov(p
j, ξj)̸= 0?
消費者が好むような財を作っている場合,そのような価格は高 く設定されている可能性が高い
▶ Omitted variable bias (欠落変数バイアス)により,価格の係
数が大きく推定される可能性.操作変数の必要性
▶ 操作変数zが満たすべき数学的条件は ▶ E[ξj|zj] = 0,
▶ Cov(zj,[Xj,pj])̸= 0
▶ 操作変数が満たす経済学的な意味は
▶ 需要には影響を与えないような変数
集計データしかない場合の需要関数の推定
(6/6)
▶ このモデルは妥当か? 需要の価格弾力性を求めると...
∂sj
∂pk pk
sj =
{
−αpj(1−sj), ifk =j,
αpksk, それ以外
1. 自己価格弾力性がおかしい
▶ sjは典型的に小さく,α(1−sj)はほぼ一定 ▶ それは,価格が低い財ほど低い弾力性を意味する
▶ 低い価格ほど高いマークアップを計上していることを意味する.
2. 交差価格弾力性はおかしい
▶ jとj′の代替性はマーケットシェアのみに依存
▶ 黒板にて例を考えよう.
▶ 解決策: よりアドバンストなモデルを使用 1. 入子型ロジットモデル(nested logit)