労働経済学2(第 11 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
復習:組織の意思決定
Type 1 error: Type 2 error:
選択肢を実行するために、必要な賛成数が増えた場合、 間違った情報に基づいた反対票の影響が強くなり、Type 1 errorが増える。
正しい情報に基づいた反対票の影響が強くなり、Type 2 errorが減る。
直観
• 個人Aが実行するかどうかを決める。 Type 1 errorを犯す確率⇒低い
Type 2 errorを犯す確率⇒高い
個人A,Bが実行するかどうかを決める。 Type 1 errorを犯す確率⇒高い
Type 2 errorを犯す確率⇒低い
Quiz1
• よりアグレッシブな意思決定(Type 2 errorを増やしても いいので、Type 1 errorを減らす)を行いたい場合、どの ような意思決定形態をとればよいか?
(答え)
Type 1 error VS Type 2 error
• 組織が置かれている状況に応じて、どちらのerrorがよ り深刻なのかは異なる。
⇒ある組織で成功している制度を、別の組織が導入する 場合、その企業が置かれている状況と自社が置かれてい る状況の違い(とくに各errorの深刻さ)に注意する必要が ある。
複数での意思決定の問題点
• 複数で意思決定を行う場合、組織はより「 」になり、 Type 1 errorを犯す確率が増大してしまう。
• 他の問題として、意思決定者がだれなのか不透明にな り、各個人の貢献水準と業績指標との が大きく なってしまう。⇒意思決定に関するインセンティブ設計 の障害となる。
• 多くの組織において、一人の最終的な責任者を置いて いる。
単独での意思決定:決定権の付与
• 個人Aに比べ、Bのほうが��が大きく、��が小さいとする。
• もしどちらか一方に、意思決定権限を与える場合、A,B どちらに任せるのが望ましいか?⇒
• 一般に、情報取得能力に優れた個人に意思決定権限 を与えることで、意思決定の精度を向上させられる。
• この決定については、Aも不満はない(Bに任せることで、 よりよい意思決定を行うことができるため)。
←
単独での意思決定:情報伝達
• もし自身が受け取ったシグナルを他者に伝達可能なら ば、どちらかに意思決定権限を与えた後、もう一方のも つ情報を意思決定権限者に伝達することが望ましい。
• 上位者と下位者からなる。
• 上位者は、下位者から情報を受け取り、意思決定を行 い、下位者に命令を出す。
個人間の対立
• ここまでの議論:個人の目的は共通
• 現実的には、個人間で目的が全く同じであることは少な い。(例:会社全体の利益よりも自身が属している組織 の利益を大きくしたい、世間の注目を集めたい)。
• このような個人の目的の対立は、効率的な意思決定メ カニズムの確立に対して、極めて大きな障害となる。
⇒
⇒
個人間の対立
• 戦争やスポーツの試合、財の分配とは異なり、組織の 意思決定の問題においては、利害は完全には対立して いないケースが多い(完全に間違った選択をして、会社 がつぶれた場合、全員の利得が低下する)。
• 、という 状況を分析することが重要。
意思決定権限の分配
だれが意思決定者となるか?
• 利害が対立している状況においては、意思決定権を下 位者に権限移譲を行うかどうかは、微妙な問題。
• 形式的には意思決定権限を持たない個人が、実質的 な意思決定権限を持つ場合がある(例:上司と部下、官 僚と政治家、天皇と外戚)。
• なぜか?⇒
モデル分析
上司(A)(意思決定)
部下(B)
上司(A)
部下(B)(意思決定)
情 報 伝 達
情 報 伝 達
モデル分析
• 組織は、上司(A)と部下(B)からなる。
• 3種類の選択肢(1,2,3)の内どれを実行するか、あるい はどれも実行しないか、を決定する必要がある。
• 部下、上司とも情報収集を行うか否かを決定する。
• 個人� ∈ {�, �}には確率��で、各選択肢を行った場合の 利得が判明する。
利得構造
• どれも実行しなかった場合、利得は0。
• 3種類の選択肢の内、
• 一つは両者に非常に低い利得をもたらす。
• 一つは上司に利得H、部下にL � > � > 0
• 一つは部下に利得H、上司にL
⇒だれも情報を取得していない場合、どれも選択されない。
上司に意思決定権限がある場合
• 三つのケースが存在する。
• 上司が情報取得に成功した場合(確率: )、上司の利 得はH、部下はL
• 上司が情報取得に失敗しかつ部下が成功した場合(確 率: )、上司の利得は�、部下はH
• 共に情報取得に失敗した場合(確率: )、 利得はともにゼロ
部下に意思決定権限がある場合
• 三つのケースが存在する。
• 部下が情報取得に成功した場合(確率: )、上司の利 得はL、部下はH
• 部下が情報取得に失敗しかつ上司が成功した場合(確 率: )、上司の利得はH、部下はL
• 共に情報取得に失敗した場合(確率: )、 利得はともにゼロ
実質的な意思決定権限
• 利害が不完全に対立している状況では、意思決定者が 情報取得に失敗した場合、非意思決定者が実質的な 意思決定を行う場合がある。
• 各場合の上司の期待利得は、 上司に決定権限がある場合
部下に決定権限がある場合
• ��の向上は、上司の利得を向上させる場合もある。
• 差は、
権限移譲費用
• 上司は部下に形式的な意思決定権の権限移譲を行わ ない。
• 権限移譲を行うことによって���� � − � だけ利得が低 下し、これは 意思決定を 行ってしまうためである。
• ���� � − � は、決定権を手放すことの費用であり、利 害対立が激しい( )ほど、この費用 は大きい。
両者が成功した場合に部下が
内生的情報収集
• ではなぜ下位者に権限移譲を行うケースが存在するの か?⇒一因として下位者が情報収集を行うインセンティ ブを提供するため
• 今部下は情報収集費用Cを払った場合、情報収集を行 い確率��で選択肢の価値を知ることができるとする。
• 金銭的なインセンティブを部下に提供することは、でき ないとする。
部下の意思決定
• 上司に意思決定権限がある状況において、部下が情 報収集を行うIC条件は、
• 部下に意思決定権限がある状況において、部下が情 報収集を行うIC条件は、
部下の意思決定
• (1 − ��)��� − ��� +���� � = <0より、 部下に権限移譲することで、部下の情報取得を促すこ
とができる。
• 権限移譲を行うことで、ともに情報収集に成功した場合、 部下が意思決定を行うことを「確約」でき、結果部下に 情報収集を行うインセンティブを与えることができる。
まとめ
• 多くの意思決定において、名目上の意思決定者は一人 であり、他者は情報伝達に徹するヒエラルキー型の組 織形態が見られる。
• 名目上の意思決定者と実質的な意思決定者はかい離 しうる。(情報を握っているものが、実質的な意思決定 者となる。)
• 情報収集のインセンティブを引き出すためには、意思決 定の権限移譲が有効である。