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マクロ経済学 15
金融政策の再検討
慶田 昌之
金融政策
金融政策の有効性は、新古典派マクロ経済モデルとケインズ 派マクロ経済モデルによって、全く逆の結果が得られている。 いくつかの論点があるので、以下で整理する。
貨幣数量説
もともと古典派経済学者は、貨幣需要Lは生産量Y のみに 依存して、名目利子率iには依存しないと考えてきた。 ケンブリッジ方程式と呼ばれる、名目貨幣量は名目生産量
(名目GDP)の一定率(k)で決まるという式で、この考えは 表されている。
M = kP Y
貨幣数量説
kの逆数をV とすると、
V = 1 k これを貨幣の流通速度と呼ぶ。
貨幣の流通速度は、通常安定的な定数であると考えられる。
貨幣の中立性
ケンブリッジ方程式は、取引動機によって貨幣の需要が決ま るという考え方を表している。
実際、すでにみた新古典派マクロ経済モデルでは、貨幣市場 の均衡式は先に決定されたY にあうように、利子率iが決定 するので、ケンブリッジ方程式が成立している。
さらに、名目貨幣量Mの変動は、生産量Y に影響を与えず、 物価水準PがMを同率に変動させて、均衡することが分 かっている。
このように、名目貨幣量Mが実質生産量Y に影響を与えず、 物価水準Pのみを変動させることを、貨幣の中立性が成り 立っているという。
流動性選好理論
これに対して、ケインズ派は貨幣需要関数L(Y, i)のなかで、 利子率iの役割を重視する。
利子率iが貨幣需要に影響を与えるのは、利子を目当てに債 券を保有するか、流動性を目当てに貨幣を保有するか、とい う選択のためと考えて、これを流動性選好理論と呼ばれて いる。
貨幣数量説と流動性選好理論
貨幣数量説と流動性選好理論は、新古典派マクロ経済モデル とケインズ派マクロ経済モデルの重要な対立点であるが、次 の点に注意が必要である。
流動性選好理論が重要であるのは、ケインズ派マクロ経済モ デルがLM 曲線の傾きにしたがって Y が決まると考えている からである。すなわち、労働市場が新古典派の考えるような 均衡には達していないために、流動性選好理論が重要になっ ている。
同様に、貨幣数量説は、新古典派マクロ経済モデルが、労働 市場の均衡によって生産量Y が先に決定すると考えているこ とから導き出される、ひとつの結論であるとみなすことがで きる。貨幣需要関数がi に依存しても、結果的に新古典派マ クロ経済モデル全体としては貨幣数量説が成立する。
流動性のわな
ケインズ派マクロモデルでは、流動性選好理論(と労働市場 の仮定)によって、LM曲線が傾きを持った点で生産量Y が 決定するために、マクロ経済政策の有効性を議論することが できた。
一方で、流動性選好理論には限界もあることをケインズ自身 が指摘している。
流動性のわな
ケインズが指摘したのは、利子率が非常に低い状態では、流 動性選好理論は有効には働かないという点である。
利子率が非常に低い状態では、貨幣と債券の収益率に差がな くなる。そのために貨幣を保有する動機として利子を得る機 会を失うということは、あまり重要ではなくなる。
このような状況では、貨幣需要関数は利子率iに対して反応 しなくなり、LM曲線は水平になる。
流動性のわな
流動性のわな
LM曲線が水平の状況では、金融政策は有効ではなくなる。 ケインズは、LM曲線が水平であるために金融政策が有効で ない状況を、流動性のわなと表現した。
このような状況は、極めて深刻な不況のときに表れる現象と 考えた。
その対応策として、このような場合でも財政政策が有効であ ると議論した。
マネタリスト
フリードマンは、アメリカの長期データをみた場合、名目貨 幣量と名目GDP(したがって名目生産量)の間には安定的な 関係が観察されると議論した。
このような観察にしたがって、金融政策当局は安定的に名目 貨幣量を増やすことが、名目GDPを安定的にする方法とし て妥当であると主張した。
名目GDP を安定的にするとは、景気変動を小さくするという 意味がある。
このような考え方を支持する経済学者はマネタリストと呼ば
マネタリスト
フリードマンの観察は、基本的に貨幣数量説が成立している ことを指摘したものだと考えられる。
したがって、マネタリストは、新古典派マクロ経済モデルの 妥当性を主張するひとつの考え方とみなすことができる。
マネタリスト
一方で、マネタリストの金融政策当局は貨幣供給を安定的に すべきという考え方は、景気変動にしたがって裁量的に政策 を発動することで、景気変動による社会の厚生低下を防ぐこ とができると考える、ケインズ派の経済学者と対立する考え 方といえる。
また、マネタリストの研究によって、政策のルールか裁 量か、という問題が提起された。
ルールか?裁量か?
現在でも、最適な金融政策ルールが存在するか?という問題 は重要な研究課題と考えられている。
特に、近年ではインフレーション・ターゲッティング政策の 有効性に注目が集まっている。
あるインフレーション率を目標として、そのインフレーショ ン率を達成するように金融政策をルール化するという意味 で、ひとつのルールにしたがう金融政策であると考えられる。
合理的期待形成
将来に対して合理的な期待をする家計を仮定した場合、金融 政策は、人々に予期されていない場合のみ有効であるとルー カスは議論した。
この議論を支持した経済学者は合理的期待形成派と呼ば れた。
ルーカスによると、金融政策は予期されていない場合に有効 であるが、予期されない金融政策は社会の厚生を低下させる ことが示された。
合理的期待形成
合理的期待形成派の導き出した結論は、裁量による金融政策
(予期されない金融政策)に対して否定的である。
また、人々が正確に金融政策の動向を予期できるように、金 融政策当局は事前に決めたルールにしたがって金融政策を運 営すべき、という結論が得られた。
したがって、この議論はマネタリストと整合的な結果とみな されている。
ニューケインジアンと物価の粘着性
マネタリストや合理的期待形成などの、新古典派マクロ経済 モデルの厳密な理論化に対して、ケインズ派は物価の粘着 性の重要性を指摘している。
実際のデータから、物価はそれほど速やかには変動せず、過 去の変動にしたがって緩やかに変動することが分かってきた。 また、このような物価の粘着性がある場合、将来にわたって 合理的な期待をする家計を仮定したモデルであっても、金融 政策が有効であること示されている。
ニューケインジアンと物価の粘着性
物価の粘着性を重視し、厳密な理論モデル(すなわち、合理 的期待形成の仮定を家計に課したモデル)で金融政策の有効 性を議論する考え方はニューケインジアンと呼ばれている。 このようなニューケインジアンの研究によって、どのような 理由によって物価の粘着性が発生するのか、という問題が重 要な研究課題となっている。