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……… 第46回関東理科教育研究発表会
1 はじめに
学名 Alium cepa はユリ科の二年生植物で,一般的にはタマネギの名で知られている。原産地は中央アジ アとされ,我が国には明治初期から導入された。貯蔵性が高く,栄養価も高いことから人気野菜の一つであ るが,理科の観察・実験の教材としてもよく用いられ,その実験内容も多岐にわたる。我々が食用としてい るタマネギの球は植物の葉の部分にあたり,葉が何層にも鱗状に重なり合うことから鱗片葉(りんぺんよう) と呼ばれる。鱗片葉は球表面を覆う茶色の保護葉と,その内部に形成される肥厚葉に分けられる。
タマネギの生育の経過は,幼苗期・生育期・球肥大期に分けられ,球肥大期にいわゆる球が形成される。 春まき栽培や秋まき栽培など,地域の気候に合わせた栽培方法が存在するが,関東地方では秋まき栽培が一 般的である。秋まき栽培では苗が越冬し,翌春,気温が上がり長日条件になると球が肥大する。肥大が終わ ると地上部や根は枯れ収穫される。肥大が完了した球は2~3ヶ月休眠するが,休眠が終わると萌芽してく る。萌芽後は,10℃以下の低温に30日以上さら
されることで花芽分化がおこる。収穫されずに 畑に残ったタマネギは,休眠が打破された後に 萌芽し,冬の低温にさらされることで花芽分化 を起こす。その翌春には地下部では長日条件に より再び球が肥大をはじめ,地上部では花を咲 かせ種子を残す。
2 実験内容
タマネギでは,各鱗片葉の表皮細胞の大きさを測って葉の成長の過程を考察するものや,発芽種子の体細 胞分裂の観察が代表的な実験として知られている。しかし,観察している器官が異なることから,それらの 実験が生徒にとっては別々のものとして捉えられやすい。また,普段食するタマネギではあるが,植物とい う視点で見る事はあまりない。そこで,タマネギの鱗片葉の内部に存在する成長点での体細胞分裂を観察し, タマネギの球が肥大していく過程をイメージできるような実験を行った。
【実験①】 鱗片葉の表皮細胞の観察
(1) タマネギの保護葉を剥がして,白い鱗片葉(肥厚葉)を露出させた。 (2) 外側の鱗片葉から第1葉とし,内側に向かって
第7葉までの鱗片葉表皮の最も横に広がっている 部分を検鏡し,長径と短径を測定し面積を求めた。 また,同様に成長点の細胞面積も測定した(図2)。
【実験②】 成長点の観察
(1) 鱗片葉を最も小さい葉が残るまで剥がした(図3)。 (2) 残った葉と茎の境目周辺をカミソリで薄く切り
取った。
(3) 試料を塩酸で解離させ酢酸ダーリア溶液で染色 し,押しつぶして検鏡した(図4)。
タマネギの鱗片葉における体細胞分裂の観察
山梨県立上野原高等学校
藤江康太郎
図2 各鱗片葉および成長点における細胞面積の変化
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千葉大会
3 実験における注意点
① タマネギの休眠時期は避ける。
収穫後三ヶ月程度は休眠していることから,体細胞分裂の観察には適さないと考えられる。 ② 成長点は非常に小さいので,採取時のケガや採取後の紛失に注意する。
成長点の大きさは1㎜程度と小さく,切断作業において怪我のないよう注意が必要である。 ③ すべてを実施するとかなりの時間を要する。
本実験をすべて実施すると,最初にミクロメーターの校正が必要である。また,表皮細胞の面積の測 定も複数の細胞の平均値を出す必要がある。また,成長点は一度の採取で分裂細胞が観察できるとは限 らないので,きちんとした視野の観察には時間を要する。
4 まとめ
本実験を一通り実施することで,顕微鏡の使用方法からミクロメーターの校正,また細胞の伸長生長の様 子や細胞が分裂で増殖していく様子が観察できる。また,それらを通してさまざまな観点から生徒の実験技 能や考察を導く力を見る事ができる。ただし,注意点でも述べたようにすべてを実施するにはかなりの時間 を要する。授業では,ミクロメーターの校正で50分,表皮細胞の面積の測定で50分,成長点の取り出しと観 察で50分と,合計3回は授業時間を確保する必要がある。そのあたりは教員側の事前準備をどの程度してお くのかという事で若干の改善の余地はあるが,時間的な条件は厳しい。しかし,この実験のスタートは,普 段は“野菜”として意識しがちなタマネギを “植物”として捉えてほしいというものであり,少しはその目 標が達成できたのではないかと考えている。
5 参考文献
馬場昭次ほか(2013) 『高校生物基礎』 実教出版株式会社 伊藤正ほか(2000) 『野菜』 実教出版株式会社
日本農業教育学会(2000) 『学校園の観察実験便利帳』 農山漁村文化協会 農文協編(2014) 『野菜園芸大百科 第2版 19』 農山漁村文化協会
図3 鱗片葉をはがした最深部にある 成長点付近の写真
図4 酢酸ダーリア溶液での染色に よる分裂細胞の様子