宮城教育大学機関リポジトリ
主体的な活動としての放課後実践を通じた高機能自
閉症およびアスペルガー症候群の子どもへの社会性
発達支援の試み
著者
平野 幹雄, 鈴木 徹, 野口 和人
雑誌名
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀
要
号
5
ページ
22- 30
発行年
2010- 06
U
RL
ht t p: / / i d. ni i . ac . j p/ 1138/ 00000694/
< 研 究 報 告 >
主体的な活動としての放課後実践を通じた
高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子どもへの
社 会 性 発 達 支 援 の 試 み
平野幹雄(
東北文化学園大学)
鈴 木
徹 ( 東 北 大 学 教 育 学 研 究 科 ・ 宮 城 教 育 大 学 特 別 支 援 教 育 総 合 研 究 セ ン タ ー )野口和人(
宮城教育大学)
要約
本稿においては、筆者らが高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子どもを対象にお
こなっている社会性発達の支援のための放課後実践について、その概要と開始から 1年 半
の間の子どもの様子について紹介することを目的とした。対象児は、 11 歳から 17 歳まで
の高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子ども 5 名で、あった。筆者らの放課後活支援
においては、対象児が鉄道やコンピュータに興味を持っていたことから、両者を組み合わ
せて子どもがしたいと思う活動として組織した。具体的には、双方向型のブログの運営と
定例会の開催、一日旅行を通じて支援をおこなった。学校行事と日程が重なる日以外の対
象児の参加状況はほぼ皆勤であった。定例会を重ねることで、対象児から積極的に挨拶を
する様子、自らの発言に対する他者の関心の有無に注意を払う等の変化が見られた。これ
らの変化は、長期的な支援をおこなったこと、筆者らの実践が対象児において主体的に参
加できる場として機能したことによると考えられた。また、鉄道とし1う共通の土俵ができ
あがったこと、リアリティをもって長期間かかわりを続けたことによって、対象児にとっ
て筆者らが親しくもリスペクトされる存在となったことが重要であると考えられた。
はじめに
高機能自閉症あるいはアスペルガー症候群の子どもの中核的な障害は社会性の障害であ
る。知的機能に障害のない彼らにとっては社会性の困難の改善こそが喫緊の課題と言えよ
う。従来の研究で社会性の困難の改善への取り組みとして最も知られているのはソーシヤ
ノレスキル・トレーニングであろう。筆者らは、高機能自閉症およびアスペルガー症候群の
子どもを対象としたソーシャルスキル・トレーニングの現状と課題についてレビューを行
-った( 平野・鈴木・野口,2009) 。その結果、短期的な取り組みがほとんどであること、効果
が認められる場合においても般化が課題となっている取り組みが多いこと、加えて、そう
した取り組みの多くは子どもに主体を置いたものではないことが見いだされた。彼らは社
会性の困難を抱えるため、本来社会性を身につけるべき活動に参加する機会が制限されて
いる、あるいは参加する機会自体はあったとしても、その中で結局は孤立してしまう可能
性がある。それゆえ、子どもが主体的、積極的に取り組めるような活動を組織し、そうし
た活動を長期的に行うことを通じて、社会性の発達を促す支援を行う必要があるものと考
えられた。
今回は、上記のことを受けて筆者らが行っている高機能自閉症および、アスペルガー症候
群の子どもを対象とした放課後実践について、その概要と開始から 1年半の間の子どもの
様子について紹介することを目的とした。
方 法
参加者
11 歳から 17 歳までの高機能自閉症およびアスペルガー症候群の男児 5 名。加えて、筆
者ら大学教員、大学院生、学部学生、同卒業生を含む計 2 9 名が放課後実践のメンバーと
して登録された( 平成21 年 4 月末現在) 。
筆者らの放課後支援の枠組み
筆者らは、具体的な実践を開始するに当たって Col e( 1996) の実践の枠組みを参考にした。
Col e はソビエトの心理学者ルリヤの弟子であり、後にアフリカで、の数学教育フ。ロジェクト
に参加した。現地の子どもたちが、数学の学習が進まなかったにもかかわらず、実際の生
活の中で数概念など数に関する知識を獲得し使用していることに注目し、「子どもの認知発
達 は 彼 ら が 育 つ 文 化 や 文 脈 の 中 で 成 し 遂 げ ら れ るJ と し て 文 化 文 脈 説 を 提 唱 し た( Col e
1976; Col e, 1996) 。その後、独自の支援システムを各々の文化の中に人工的に作り出すこ
とを目的とした第五次元という名の放課後実践を開始した( 筆者の一人がその放課後実践
に 参 与 し た 際 の 様 子 は 平 野( 2003) が紹介している) 。筆者らが組織した放課後活動( 鉄道研
究部会と称した) においては具体的に次のことを参考にした。第一は、子どもが積極的にし
たいと思う活動を設計することである。 Col e の実践では、教育的に効果のあることに子ど
司
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今,
もの興味を結ひ、つける意図があった。我々の実践では、彼らが鉄道やコンビュータに興味
を持っていたことから、両者を組み合わせて社会性発達の支援を行うこととした。第二は、
文字や口頭でのコミュニケーションが豊富に生じる活動を作り出すことである。 Col e の実
践ではコミュニケーションを道具として捉えており、それらが問題解決の目標や方略構築
において頻繁に用いられることが重要と考えていた。筆者らの実践においては、双方向型
のブログの運営と定例会の開催( ブログへの投稿内容の振り返りをおこなう) 、一日旅行( 企
コン
画コンペをおこなって旅程を決定した) を通じておこなうこととした( 図 1)。第三は、
ヒ。ュータを用いたコミュニケーションが豊富に生じる活動を作り出したことである。 Col e
の実践においては、男児と比較してコンビュータを用いた活動を女児があまりしたがらな
コミュニケートするためにメールを書くことが用意されていた。 いことへの配慮、として、
筆者らの実践において女児は含まれていなかったが、次の理由によりコンピュータを用い
つまり、他者とのコミュニケーションを苦手としてい たコミュニケーションを重視した。
る高機能自閉症及びアスペルガー症候群の子どもが自分のペースに合わせてブログに投稿
可能であること、彼らに視覚的な要素を用いた援助が効果的であると言われていること( 別
府・奥住・小測,2005) から、写真等を利用することが可能であることである。また、対象
児にルールを遵守させたことも Col e の実践と共通していた。特に、投稿は一日一固まで( コ
メントは制限せず) というルールを設け、投稿だけなく他者の投稿にコメントすることを促
した。以上の点を含めながら、自らの投稿やコメントがその後ブログ上に残ることで自ら
の発言の振り返りを促す仕組み、他者の存在を意識させるような仕組みを作成した。参加
者には会ったことのない人や架空人物も含まれており そうした人とのコミュニケーショ
皇
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適 切 な 社 会
性 発 達 の た
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図 1 . 筆 者 ら の 放 課 後 支 援 の 枠 組 みi 二つし、て
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ンをどう図るかについても分析可能とした。また、定例会では、投稿者自身が投稿を皆の
前で振り返り、自身の投稿あるいは説明や議論においてソーシャルスキルが適切に発揮さ
れているか、大学教員や大学生・大学院生ボランティアが適切な助言をする場とした。
定例会は、毎週火曜日の 16 時より 18 時まで筆者らの大学の研究室で開催された。 2009
年度は筆者ら大学教員の都合により 17 時から 19 時までとした。
放課後支援を開始して1年半が経過して
2008 年 2 月にブログを開設以来、 10000 件を超えるアクセス、投稿数は 600 件 以 上 で
あった( 2009 年 8 月末現在) 。対象児によるこの間の投稿数は、 2008 年 3 月から 8 月まで
が87 件、 2008 年 9 月から 2009 年 2 月までが 69 件、 2009 年 3 月から 2009 年 8 月まで
が168 件で、あった。同じくコメント数は、 2008 年 3 月から 8 月までが 113 件、 2008 年 9
月から 2009 年 2 月までが114 件、2009 年 3 月から 8 月までが 209 件であった( 図 2) 02008
年度の定例会への対象児の参加状況については、学校行事と日程が重なる日以外はほぼ皆
勤で、あった。
定例会を重ねることで、対象児には次のような変化が見られた。まずは挨拶に関して、
支援の開始当初は対象児から「こんにちはJ、「さようなら」といった挨拶がなされること
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- 投請書: 圃コ文yト象
第四割月-8 J'J 2( 踊年明方、包卿年2 月 捌昨3 月 一 明 時 期
図2. 鉄道1M. 究部会にお付る子ε t m投積象、コメント象の護軍事
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は稀であった。挨拶の無かった際にはその旨を指摘し、また定例会の開会、閉会時には必
ず全体で挨拶をするように心がけた。最近では、対象児から周囲の人間へ積極的に挨拶を
する様子が見られるようになってきた。発言内容に関して、対象児は鉄道に関する話題、
それ以外の話題を問わず自分の興味関心を一方的に語りかけ、話を終えるとスーツとその
場を立ち去ってしまうことが多かった。ところが、やがて「なんでみんな俺の話を聞いて
くれないんだ」という旨の発言をする対象児、つまり自らの発言に対する他者の関心の有
無に注意を払う対象児が現れた。また、ブログ運営を開始した当初には、他者のコメント
に対してコメントバックすることはほとんど無かった。その後徐々に、コメントにおける
ターンの増加が見られた。対象児同士でコメントバックをすることも見られるようになっ
た口ただし、互いにコメントバックをしているうちに、他者に対して攻撃的な内容になっ
てしまう傾向にあった。さらには、定例会において各々の投稿の振り返りを行っていた際
には、他者の発言に割り込んでしまう、質問の順番を守れない、他者への誹誘中傷をおこ
なうなどのことが見られた。このような状況は 1年 半 の 聞 に 徐 々 に 変 化 し た が そ の 経 過 は
個々の対象児によって異なっていた。以下では5 人の対象児のうち A 君 の 様 子 を 取 り 上 げ
て、放課後実践を通してみた彼の変化についてさらに掘り下げて報告する。
A 君の様子について
A君は2008 年の 4 月から放課後支援に参加している男児である( 当時小学5 年 生) oA 君
は鉄道への関心が高く鉄道全般に関する知識が豊富であり、居住地域近郊で運行されてい
る機関車の撮影に興味があるようだ、った。
以下に2008 年 4 月から 1 年半の A君の様子について記述する( A 君の投稿数の推移と主
立ったエピソードについては図 3 を参照のこと) 。入会時には、母親と一緒に会場に来た。
A 君本人は落ち着きがなく「塾に行くからすぐに帰る」と言っていた。母親は用事があっ
て直ぐに自宅へと戻らねばならず、 i Aの帰るタイミングについては本人に任せます」と言
って帰って行った。定例会の始まる前のA 君は落ち着きが無く「早く帰りたしリと繰り返
し言っていたが、結局は自分が主張していた時間になっても全く帰ろうとせず、「来週から
塾 の 曜 日 を 変 更 し ま すj と言って帰宅した。翌週から学校行事の時以外はほぼ皆勤であり、
i( 鉄 道 研 究 会 の た め に ) 来 週 の 野 外 活 動 を ど う や っ た ら 休 む こ と が で き る か 考 え て い ま
す」と言っていたほどで、あった。入会から 2 ヶ月目まで、のブログへの投稿に関しては他の
時期よりも多かった。この頃の特徴として、投稿数と自らの興味への拘りがあげられた。
〆ム
U
ウ
投稿数そのものは多いものの写真の質はぶれてしまっていたり、途中で切れてしまってい
たりと良くなかった。
次の二ヶ月で、は投稿数が減った。その頃にあった出来事として、自分の好みの機関車に
ついて大学生に一方的に執劫に話しかけ、大学生から「興味がなし"J と言われて信じられ
ないような表情をしていたこと、他の対象児より写真の質について皆の前で批判されると
いったことがあった。その後の数ヶ月は、ブログへの投稿、コメントともほとんどなかっ
た。一方で定例会には毎回参加し、以前よりも積極的に他者とコミュニケーションを図り
楽しんでいる様子が観察された。この頃、母親と話した際には「家でもルールを意識して
見通しを持って生活できるようになってきた」との報告があった。
A 君が鉄道研究会に参加するようになって 10ヶ月が経過した後、高校生の B 君が会員
に加わった。 B 君は、鉄道に関する知識、写真の技術などで他の対象児より抜きんでてい
た。 B 君の実力を認めたくない対象児がいる中、 A 君は直ぐにB君の実力を認めて r B 君
のようになりたい」と尊敬する旨の発言を繰り返していた。またこの頃、過去の投稿写真
を全て振り返る機会があり、筆者ら大学教員や大学生からA 君の最近の投稿写真を褒めら
れた。その前後から、A君のブログに投稿される写真の質が向上し投稿数も再び増加した。
その後、 6 年生になると、投稿数はまた減少したものの写真の質は依然として高く、加え
て周囲に自分の投稿について評価を求めるようになった。
四 噌 一 話 回 奇 数
① こ の 頃 加 わ っ た 高 校 生 の 写 真 の 技 術 を 尊 敬 するようになる。
② 過 去 の 投 稿 写 真 を 全 て 振 り 返 る 機 会 が あ り 誉 め ら れ る
① 周 囲 へ の コ メン卜を求める ようになる。
② 写 真 の ぶ れ 、 本 文 が な い な ど の 問 題 は 消 失 。
入 会 時 セHャャA e 写 真 読 街 へ の こ だ
のエピ ヘ4D 胸り シ' : ; ! l : : ; P わり
ソ ー ド
写 真 技 舗 の 向 上 → 他 者 の
リアタショυを 意 識
図3 . A児 に お け る 放 課 後 支 援 へ の 参 加 後 の 軽 過
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まとめ
今回は、筆者らの行っている高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子どもを対象と
した放課後支援について、その概要と開始から 1年半の経過について紹介することを目的
とした。
筆 者 ら が 支 援 を 始 め て 1 年半が経過し、その間対象児たちの様子が徐々に変化してきた口
例えば今回紹介したA 君は、参加当初こそ投稿数に拘って対象物が全て収まっていない写
真 や ぶ れ て し ま っ て い る 写 真 で も 平 然 と 投 稿 し て い た が 、 投 稿 数 こ そ 減 っ た も の の 徐 々 に
周囲から賞賛されるレベルの写真を投稿するようになった。加えて、自分の投稿に対して
他者のコメントを求めるようになってきた。これらのことから、ブログへの投稿に際して、
他者の存在を意識するようになったと言えるだろう。そればかりでなく、図 1 に示したよ
うに、 1年半という期間の中で粁余曲折ありながら徐々に他者とのコミュニケーションを
楽しむ様子が見られるようになってきた。
本来、対象児の年代の子どもは塾やスポーツ活動など、また友達と個人的に遊ぶことを
もって放課後生活を過ごし、その年代に求められる社会性を学んでいくはずである。一方、
我 々 の 対 象 児 は 社 会 性 の 困 難 が あ る が ゆ え に 、 筆 者 ら の 活 動 に 参 加 す る ま で は そ う し た 場
に参加することが難しい、あるいは参加したとしても集団の中で孤立してしまうことが多
かったものと推察される。支援の開始から 1 年半が経過する問、対象児たちの参加状況は
ほぼ皆勤であった点、また一日旅行などについては、対象児全員自ら参加の意思を表明し、
基本的な連絡や話し合いもまずは親ではなく筆者らと子どもとの間で直接行われていた点
( 重要な案件はその後親にも報告した) で、対象児にとって積極的、主体的に取り組む実践
として機能したと言えよう。一方、従来行われてきたソーシャルスキル・トレーニングな
どの高機能自閉症およびアスペルガー症候群の子どもを対象とした社会性の支援は子ども
本 人 に 主 体 性 が あ る と は 考 え に く く 、 子 ど も が 自 然 に 取 り 組 め る よ う な 活 動 の 重 要 性 が 指
摘されてきた( Oz onof f,Da ws o n, a nd Mc Par t l and, 2000) 。それゆえ、筆者らの主宰した放
課 後 実 践 が 、 子 ど も に と っ て 主 体 的 か っ 積 極 的 に 取 り 組 め る 場 と し て 機 能 し た こ と が ま ず
は意義あることだと考える。
ところで、ロールプレイのような架空の場では無く、リアルな実践の場を通じて支援を
おこなってきたことも、上記の変化が生じたことと関係しているだろうo Da ma s I o(1994)
は、ある前頭葉損傷患者が架空場面での( 社会的な) 意思決定課題は健常者同様にできるに
もかかわらず、日々の生活場面において社会性に困難を有していることを報告しているO
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それゆえ、リアリティのある場面において生じている困難を直接取り上げて支援する必要
があるだろう。筆者らの実践においても、一日旅行の企画コンペを行った際に行き先を巡
って互いに一方的な主張を繰り返し、子ども同士誹誘中傷しあうといったことがあった。
「意見が一つにまとまらないと何処にも行けなくなるよ」というアドバイスをしたところ、
自分の意見が採用されなかった子どもも、旅行に行くことそのものを優先させて決定事項
に何とか応じることができたという出来事があった。子ども同士で誹誘中傷までに発展し
ながら、最後は折り合いをつけることができたのは、リアルな場面だからこそ生じた展開
だと思われる。リアリティがある場面だからこそ、周囲と誹誘中傷しあってでも自分の意
見を貫き通したいと思う、あるいは最終的には旅行そのものには参加したいと思うのであ
り、このようなやりとりを通じて支援を行うことで徐々に他者の存在を気にかけることが
できたのではないかと思われるO
最後に、対象児同士で誹誘中傷する様子や、大学生ボランティアを鉄道に詳しくない人
と見なして自分より下に位置づけるなどの問題は、 A 君に限らず他の対象児にも依然とし
て生じていた。上述したように、対象児は他者の存在は気にかけることができるようにな
ってきているが、鉄道の話題に詳しし、か否か等、独断的な基準で相手との上下関係を推し
量る傾向にあった。一方で鉄道に詳しい大学教員らにはそうした振る舞いは少なかった。
佐伯( 2007)は“ 発達のドーナツ論" を提唱し、自己( 1 ) が発達していくときにY O Uの役割、
つまり「その人の身になってくれる人、その人のことを親しく思ってくれる人、その人の
意図を理解してくれる人( 佐伯,2007) J を果たしてくれる人の存在が重要であり、 I はY O U
を媒介にして社会・文化の実践社会
( TH
EY)
を垣間見るということを通して発達していくと主張している。実際のところ、対象児は筆者ら大学教員と対象との間で鉄道を通じての
みでなく、学校でのこと、家庭でのことなども話題にするようになり、またそれらに関す
るアドバイスに耳を傾けるようにもなりつつある。つまり、鉄道を通じてI とY O Uとの
関係がまさに構築されたと捉えられよう。本来、高機能自閉症および、アスペルガー症候群
の子どもにとって、佐伯の述べている関係を他者と構築することがまずもって難しいはず
である。にもかかわらず、筆者らとの聞に上記の関係が構築できたのは、鉄道に詳しい対
象児と筆者らが出会ったことで、鉄道という共通の土俵( のようなもの) ができあがったこ
と、その土俵の中でリアリティをもって長期間かかわりを続けたことによって、対象児に
とって筆者らが親しくもリスペクトされる存在となり、佐伯の述べているような Y O Uの
条件を満たすことができたためであると考えられた。
n
y
今,
文 献
1) 別 府 哲・奥住秀之・小測隆司 ( 2005) 自 閉 症 ス ペ ク ト ラ ム の 発 達 と 理 解 . 全 障 研 出 版
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7) 佐 伯 昨 ( 2007) 共感. 育ち合う保育のなかで. ミネルヴァ書房.
謝 辞
本 稿 を 執 筆 す る に あ た り 、 常 日 頃 ご 助 言 を い た だ い て い る 電 気 通 信 大 学 の 橋 山 智 訓 准 教
授とお茶の水女子大学の長谷川武弘講師に感謝の意を表します。
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U