P3 理論ゼミ 第 16 章
武中 亮
平成 28 年 6 月 27 日
核力は、その到達距離が核子の直径 (0.8fm) にほぼ等しいことから、核子は井戸型ポテンシャル 中の自由フェルミガスで近似される。ゆえに、核子-核子間力のポテンシャルを決められない。核 力ポテンシャルの決定には、核子-核子散乱や、重陽子などの2体系を研究しなければならない。
1 核子 - 核子散乱
π中間子生成の閾値以下 (≤140MeV) の散乱は、弾性散乱となる。また、非相対論的 (MNc2≃940MeV) で、内部構造を持たないものと見れる。核力には合成スピン依存、合成アイソスピン依存がある。 前者については両方のスピンを特定することで、後者については陽子、中性子両方を用いることで 調べられる。合成スピン S について、2粒子のスピンの向きが平行であるとき、S=1 で、反平行 の時、S=0 と 1 が同率で現れる。アイソスピンについても、陽子 I3=+1/2、中性子 I3=-1/2より、 同様の議論ができる。
図 1: 平行のとき、S=0 図 2: 反平行のとき、S=0,1
・散乱の位相
ここで波動関数を、入射粒子は平面波、散乱粒子は球面波とする。
ϕ(r) = eikz+ f (θ)e−ikz r 散乱断面積は、
dσ
dΩ = |f(θ)|
2
部分波分解を用いる。
f (θ) = 1 k
∞
∑
l=0
(2l + 1)eiδlsin(δl)Pl(cos θ)
k = 1 λ =
|p|
¯ h =
√2M E
¯
h , δl:位相差, Pl(x) : l次ルジャンドル多項式
δlの振幅への寄与がある (sinδl)のは、確率の流れの保存からの要求である。到達距離 a のポテン シャルについて、
l ≤ |p| · a
¯ h
であるため、a=2fm のとき、|p| ≤100MeV/c で l = 0 の S 波が最重要である。 δ0を、重心系運動量の関数で表すと、(図 3)
δ0 > 0 (400MeV/c以下)
< 0 (400MeV/c以上)
図 3: 位相差 δ0の全スピン依存
以下、ポテンシャルにより位相差が現れることを示す。S 波波動関数が球対称であることから u(r) = ψ(r) · r とおくと、シュレーディンガー方程式は、
d2u dr2 +
2m(E − V )
¯h2 u = 0 となる。
・半径 b, 高さ V→ ∞ の箱型ポテンシャルの場合、
u(r) = A sin (√
2mE
¯
h (r − b) )
δ0= −
√2mE
¯h b = −kb 斥力ポテンシャルで位相が遅れる。
・半径 a, 深さ |V | の引力ポテンシャルの場合、
u(r) = {
A sin k′r k′ =
√2m(E+|V |) h¯
B sin(kr + δ0) r=aでの接続条件より、
u′ u r=a
= k′cot k′a = k cot(ka + δ0)
δ0= arctan
(√ E E + |V |tan
√2m(E + |V |)
¯h a )
−
√2mE
¯ h a
この式のグラフを図 4 に表す。これは正で、運動量増加で減少する。これより a>b のとき、核力 は短距離では斥力、長距離では引力となる。実験的に位相差解析から得られた核力ポテンシャル は、ある半径以下で斥力が急激に強くなり、これをハードコアという。
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
phase shift
E/|V|
図 4: 位相差 δ0のエネルギーでの関数
・核子-核子ポテンシャル
いま、核子の内部構造は無視する。これは束縛状態、低エネルギーにおいて有効である。核子間 距離 x、相対運動量 p、全軌道角運動量 L、2核子のスピン s1, s2の相対的な向きとおいて、ポテ ンシャルがスカラー量より、平行移動、回転について不変で、更に粒子交換について対称であるこ とより、以下の形になる。
V (r) = V0(r) + Vss(r)s1· s2
¯ h2
+ VT(r)3(s1· x)(s2· x)/r
2− s 1· s2
¯ h2 + VLS(r)(s1+ s2) · L
¯ h2 + VLs(r)(s1· L)(s2· L)
¯ h4 + V ps(r)(s1· p)(s2· p)
¯ h2m2c2 ここで
第1項 通常の中心力ポテンシャル 第2項 スピン・スピン相互作用
第3項 テンソルポテンシャル、非中心力 第4項 スピン・軌道相互作用
第5,6項 条件を満たすというだけで、LS 項と比べて無視できる 特に、テンソル項は異なる角運動量状態を混合させる。
2 重陽子
重陽子基底状態
• 結合エネルギー B=2.225MeV
• スピン、パリティ JP= 1+
• アイソスピン I=0
• 磁気モーメント µ = 0.857µN
• 電気四重極モーメント Q=0.282e fm2
l=0状態のみならば、Q=0,µ = µp+ µn= 0.879µN となるはずである。実際は JP= 1+を満たす 状態3S1,3D1の重ね合わせになる。
|ψd⟩ = 0.98|3S1⟩ + 0.20|3D1⟩ 基底状態に3D1状態が 4%含まれる。
波動関数を考えると、l=0 より球対称で、u(r) = ψ(r)r とおいて、 r < aのとき、uI(r) = A sin kr k =
√2m(E−V )
¯ h
r > aのとき、uII(r) = Ce−κr κ = √−2mE¯h r = aでの u(r),du(r)dr の連結性より、
u′I(a) uI(a)=
u′II(a)
uII(a) ⇔ k cot ka = −κ ak ≈ π2, V a2≈ Ba2+π
2
8 (¯hc)2
mc2 ≈ 100MeVfm
2
a≈1.2-1.4fm がわかり、これより V≈50MeV となる。これは結合エネルギー B≃2.25MeV と比べ ずっと大きい。また、波動関数の広がり 1κ≈4.3fm も a と比べ大きい。遠く離れたところの波動関 数は、Va2一定で a を変えても、また、斥力コアを導入しても大きく変わらない。
水素分子と比較するため、動径方向をハードコア半径で規格化した波動関数は、水素原子は分子 中でかなり局在している (∆R≈10%) のに対して、重陽子中核子は束縛状態でも大きく広がってい る。平均運動エネルギー ≈ ポテンシャルの平均の深さなので、結合エネルギーが小さくなる。こ れは重い原子核でも同様である。
3 核力の性質
核力の強さと形を、核子の構造、クォークの強い相互作用によって考察する。非相対論的で、核子 は3つの構成子クォークからなり、核力はクォーク-反クォーク対によって媒介されるものとする。
・短距離での斥力
まず原子間力の斥力を考える。これはパウリの排他原理によるものである。原子が接近すると、 電子の一部が励起することにより斥力が生じる。核子ではどうか。2核子系の許される状態は、6 つのクォークに色が3通り、スピンが2通り、アイソスピンが2通り、計12通りがある。色につ いて反対称、l=0 のとき空間部分は対称であることから、スピン-アイソスピン部分は対称である が、2つの核子が重なっても空間部分は最低エネルギー状態をとる。ゆえに、核力の斥力はパウリ の原理によるものではない。
実際にはクォーク間スピン-スピン相互作用によるものである。∆ 粒子は3つのクォークのスピ ンがそろっている。相互作用によるエネルギー分裂は、
∆Mss= M∆− 3MN ≃ 350MeV
核子の接近により6つのクォークで平行スピンの対が増える。平行スピン対が1つ増えるごとにポ テンシャルエネルギーは 12∆Mssだけ増加する。この「色磁気」エネルギーは σq· σq′に比例するた め、これを最小にするためにスピンは反対称になろうとする。しかし、l=0 よりスピン-フレーバー 部分は完全対称であるためスピンはすべて反対称にはなれない。例えば ∆ 粒子どうしの接近で、
s ↑ s ↑ s ↑ +s ↑ s ↑ s ↑ −→ s ↑ s ↑ s ↑ ·s ↑ s ↑ s ↑ ⃝
−→ s ↑ s ↑ s ↑ ·s ↓ s ↓ s ↓ ×
2クォークが l=1 に遷移すればスピンはすべて反対称になれるが、実は l = 0 → 1 遷移エネルギー と色磁気エネルギーの減少分がほぼ等しい。実質の斥力は色磁気エネルギーと励起エネルギーが同 率の寄与をする。r=0 で2つのクォークが p 状態 (l=1) にある確率は、非断熱近似で 8/9 である。
図 5: 核力のモデル ダイポールを形成しないクォーク同士が交換される
・引力
原子間引力イオン結合、ファンデルワールス力、共有結合があるが、核力への類推で、イオン結 合はクォーク結合が強いため考えられず、ファンデルワールス力は2グルーオン交換は短距離では 弱く遠距離では届かない。よって、共有結合が唯一の可能性である。
ここでは核子を1組の2クォーク (ダイクォーク)+1クォークと考える。(図 5) もっともエネル ギーの低いダイクォークは ud で、S=0,I=0 である。核力は対をなしていないクォークの交換で表 す。引力が最大になる距離が 1fm なので、閉じ込めによるクォーク交換の抑制は考えない。そのた め、分子の場合と同様に計算できるが、その値は実験値の約 1/3 しかない。実際には交換される クォークは同じ色でなければならず、確率 1/3 が入る。また、S=1,I=1 のダイクォークも考慮しな ければならない。
・中間子交換
図 6: クォーク交換のファインマンダイアグラム クォーク対交換とクォーク反クォーク対交換は等価
海クォーク由来のクォーク-反クォーク対による効果は、αsが大きいことから無視できない。こ こではクォーク-クォーク交換がクォーク-反クォーク対交換になる。(図 6) この理論は無色の物質 の交換だけが許される長距離だけでなく、短距離でも有効である。
1935年、湯川秀樹のパイ中間子の予言
ポテンシャルの形は、クライン-ゴルドン方程式より求まる。 1
c2
∂2
∂t2Ψ(x, t) = (∇2− µ2)Ψ(x, t) , µ =mc
¯ h 静的な場では、
(∇2− µ2)ψ(x) = 0 となる。球対称の解を仮定すると、
1 r2
d dr
( r2dψ
dr )
− µ2ψ = 0
1 r
d2
dr2(rψ) − µ
2ψ ⇒ d
2
dr2(rψ) = µ
2(rψ)
rψ = C1eµr+ C2e−µr r → ∞ で ψ → 0 · · · C1= 0
ψ(r) ∝e−µr r
結合定数を g として、粒子の交換によるポテンシャルは V (r) = g · ψ(r) より、
V (r) = g ·e−
mc
¯h r
r :湯川ポテンシャル 到達距離は 1µ =mc¯h ,パイ中間子の場合約 1.4fm
注:粒子のスピンは無視、中間子は仮想粒子のとき質量は静止質量と同じでない。また、すぐ近く の粒子と作用し合う可能性があるので、自由粒子は近似でしかない。
ポテンシャルの到達距離 ∝ m1 より、最も軽いベクトル中間子 ϱ, ω も重要である。すなわち、 JP(I) = 0+(0)の2つのパイ中間子の交換である。パイ中間子の交換は比較的大きな距離 (>2fm) でも交換できる。
中間子交換モデルは短距離では不適当である。ω 中間子による斥力の結合定数は、実験値の 2∼3 倍になる。一方、長距離では1パイ中間子交換は良いモデルとなる。中間距離では中間子、クォー ク対モデルいずれでも一連の実験データと fit させる。
定量的記述:クォーク描像では核子のクォーク-反クォーク対が中間子を形成する確率を知らなけ ればならない。しかし、運動量移行 q が小さいとき αs大のため計算できない。そのため、中間子 モデルは最良の模型となる。