田 中
由 浩
名 古
屋 工
業 大
学 大
学 院
工 学
研 究
科
助 教
自 己
を 見
つ め
、 個
性 と
協 調
性 を
育 む
。
Yoshihiro Tanaka
●1980 年埼玉県生ま れ。東北大学機械電子 工学科を飛び級し同大 学大学院に入学。博士 課程修了後 06 年、名 古屋工業大学へ。専門 はロボティクス。
触覚 研究 との 出会 い 小さ い頃 から 私は 胃腸 が弱 く、 よ くお 腹を こわ して はト イレ にこ も って いた
。そ の度 に、 この 腹痛 は 他の 人に とっ ては どの 程度 痛い も のな のか
、相 手の 痛み を体 感し た り自 分の 痛み を伝 える こと はで き ない もの かと 考え てい た。 また 一 方、 不器 用な がら
、も のづ くり に は興 味が あり
、高 校で は、 数学
・ 物理 の数 式を 使っ た明 快な 説明 に 魅了 され
、大 学で は機 械系 を専 攻 した
。そ の後
、学 部三 年次 の研 究 室配 属の 際に
、小 さい 頃の 感覚 へ の興 味か ら、 皮膚 や布 の触 感を 計 測す るセ ンサ を開 発し てい る研 究 室を 選択 した
。以 後、 触覚 研究 の 奥深 さに 魅了 され 現在 に至 る。 感覚 の自 己言 及性
「私 は嘘 つき であ る」 とい う表 現 が有 る。 これ は自 己を 含め て言 及 しよ うと する 自己 言及 の性 質を 持 つ。 感覚 器官 も基 本的 には すべ て 自己 言及 的だ
。触 覚は その 最た る もの で、 我々 は対 象を 触り
、対 象 の質 感を 認知 する が、 その 情報 は 自身 の皮 膚で 生じ た変 形が 元に な って いる
。変 形は 対象 だけ でな く、 触り 方そ して 皮膚 その もの の機 械 的特 性( 厚み や硬 さな ど) にも 影 響さ れる
。す なわ ち、 同じ もの を 触っ ても
、本 来ヒ トは 他者 とは 別 な情 報を 取得 し認 知し てい るの で ある
。
ヒトの指。ヒトは触覚を通じて外界を認知し、同時に自己を認知する。
我々 は目 を閉 じて も身 体の 位置 を知 るこ とが でき る。 これ も深 部 感覚 と呼 ばれ る触 覚の 一つ であ る。 これ には 面白 い別 名が あり
、 自己 受容 感覚 とも 呼ぶ
。こ の深 部 感覚 がな いと きの こと を想 像す る とな んと も不 思議 であ る。 目を 閉 じる と自 分と 外界 との 境界 がは っ きり しな い。 まさ に自 己を 受容 す る感 覚で ある
。そ うす ると
、触 覚 は自 己と いう 存在 を潜 在的 に意 識 させ 得る 極め て原 始的 な感 覚で あ ると いえ る。 触覚 研究 を通 じて
、 ヒト ある いは 生物 の心 の理 解、 身 体と の関 係の 本質 を垣 間見 るこ と がで きる かも しれ ない
。 研究 の独 自性 触覚 の研 究を して いる が、 主な フ ィー ルド はロ ボテ ィク スで ある
。 ロボ ット の分 野は 歴史 も浅 く、 幸 いに して まだ 注目 を浴 びて いる
。 しか し、 多く の技 術が 生ま れた が、 今一 歩、 実用 とい うと ころ では 進 んで いな い。 ロボ ット 研究 者は
、 一つ の転 換期 を迎 えて いる
。 ここ で、 重要 にな るの が、 研究 の個 性で あろ う。 ロボ ット の分 野 は、 既存 のも のを 組み 合わ せて 新 しい 装置 を作 る、 シス テム イン テ グレ ーシ ョン の分 野で ある
。組 み 合わ せの 斬新 さや その 装置 を作 る 発端 とな った アイ デア が肝 にな る。 力技 で行 った 研究
、ポ リシ ー のな い研 究は
、他 者と の差 を薄 め、 結局
、同 じ問 題に 当た って しま う。
自己 を見 つめ る 先に 述べ た自 己言 及性 が、 自身 の 研究 を見 つめ るき っか けと なっ た。 自分 が何 を面 白い と思 って 研 究を して いる のか
、何 を目 指し て いる のか
、研 究の どこ に個 性が あ るの か、 問い かけ を常 に行 い、 模 索し 続け る。 自己 を見 つめ るに は、 自己 の外
、専 門分 野の みな らず 学 術全 体を 俯瞰 する こと も必 要で あ ろう
。答 えは 変動 する が、 学術 に おけ る自 身の 立ち 位置 を定 め、 他 の研 究と の協 調も 取り 易く なる
。 異分 野交 流の 醍醐 味 研究 の個 性、 他の 分野 との 関係 を 考え てい ると
、私 の場 合、 ヒト の 心理
、脳 科学
、生 体構 造の 成り 立 ちに 興味 がわ いた
。あ る時
、解 剖 学の 先生 に研 究を 紹介 する と、 ヒ ト胎 児の 指断 面標 本を 持っ てい る から と研 究室 に誘 われ た。 互い に 顕微 鏡で 覗い てみ ると
、思 わぬ 発 見が あっ た。 解剖 学的 には 皮膚 構 造は 詳細 に観 察さ れて いる が、 力 学的 な視 点で は十 分に 解析 され て いな い。 一方
、触 覚研 究者 が良 く 見る 教科 書で は、 解剖 学的 知見 は 簡素 化さ れ、 皮膚 構造 は簡 単に 図 示さ れて しま って いる
。異 分野 が 交じ るこ とで
、い つの 間に か教 科 書に 抜け 落ち てし まっ た重 要な 部 分に 気が つい た。 発見 した とき の 興奮 と喜 びは 何に も代 え難 い。 独自 な視 点は
、異 分野 との 連携 によ り益 々磨 かれ る。 そし て何 よ り連 携を 通じ て、 新し い発 見や 解 決法
、研 究の 裾野 を広 げる こと が でき る。 自己 を見 つめ
、個 性と 協 調性 を育 むこ とは
、す べて の学 問 にと って 発展 のた めに 再認 識す べ き重 要な キー ワー ドで あろ う。
三指三関節に刺激を与えるだけで、微小な起伏を感じることができ る触覚ディスプレイ。ヒトの触知覚原理を追求しデバイスに落とし 込むことで、ある種、必然的なデバイス開発が行える。モータを制 御し、各刺激子が独立に上下に動く。
指の断面標本の顕微鏡写真。不規則に見える中にも規則性があり、機能的構造に魅せられる。 膠原(こうげん)繊維を染色したサルの指(上図)。ヒト指の指紋直下にある真皮乳頭(下図)。
ベルベットハンドイリュージョン。単なる六角形の 金網だが、両手を合わせて触ると、滑らかなフィル ム、赤ちゃんの肌のような触感を手のひらに感じ る。ヒトの触覚は、現象を捉えているに過ぎない。
触覚ネイルチップ。爪に変形を与えて、指先の触覚感度を変化させる。爪の根元にはメルケル細胞と呼ばれる 機械受容器があり、指腹が受けた刺激は爪を通じてこの受容器にも伝えられている。ヒトの指そっくりの爪付 シリコーン指(右図)を製作し、指に作用する力の分布を調べ、爪と触覚との関係を明らかにした。