2016年度冬学期 大学院向け授業
可換代数入門
担当 増岡 彰
U. G¨ortz, T. Wedhorn, Algebraic Geometry I, Schemes with Examples and Exer-
cises, Vieweg+Teubner Verlag (Springer Fachmedien), 2010
.上記テキストに,代数幾何学を学ぶために必要な,可換代数に関する基礎知 識を鮮やかにまとめた,
Appendix B, Commutative Algebra, pp.547–572,
がある(Springer
社 同テキストのウェブサイトから入手可能)
.これに沿い,証明・注釈等を加える形で講義を進める.末尾に演習題を加えた.
(1)
途中省略した証 明,(2)
実例,(3)
扱われなかった基本事項,以上を補うことを意図している. 断らない限り,環は乗法単位元1をもつ可換環を意味する.環の射は1を1 に写すものとする.1. 環に関する基本的定義
A
を環とする. 元a ∈ A
が(1)
零因子(zero-divisor): ab = 0
なる0 , b ∈ A
が存在する.
(2)
正則(regular): a
が零因子でない.同値に, a
倍: A → A
が単射.(3)
単元(unit): ab = 1
なるb ∈ A
が存在する.
(4)
ベキ零(nilpotent):
ある整数n ≥ 1
に対しa
n= 0.
(5)
既約(irreducible): a
は単元でなく,a = bc
ならばb
またはc
が単元.(6)
素(prime):
単項イデアル(a)
が非零素イデアル.または同値に,a
は零元でも単元でもなく,
a | bc
ならばa | b
またはa | c.
(7)
ベキ等(idempotent): a
2= a.
A
の単元全体は乗法に関してアーベル群をなす.これをA
×で表す. 環A
が(1)
整域(integral domain): A , 0
かつ零因子を含まない.
(2)
体(field): A , 0
かつすべての元, 0
が単元.(3)
局所環(local):
ただ1つの極大イデアルをもつ.
(4)
半局所環(semi-local):
極大イデアルが有限(> 0)
個.
(5)
被約(reduced):
ベキ零元, 0
を含まない.
(6)
単項イデアル整域= PID (principal ideal domain):
整域であって,すべて のイデアルが1元生成.
イデアル
a ⊂ A
が(1)
素イデアル(prime ideal): a , A
,かつab ∈ a
ならばa ∈ a
またはb ∈ a.
または同値にA/a
が整域.(2)
極大イデアル(maximal ideal): a , A
,かつa ( b ( A
なるイデアルb ⊂ A
が存在しない.または同値にA/a
が体.(3)
ベキ零(nilpotent):
ある整数n ≥ 1
に対しa
n= 0.
(4)
単項イデアル(principal ideal):
1元生成.
真のイデアル
a ( A
はある極大イデアルに含まれる1.A
の素イデアル全体か らなる集合をSpec A
で表す.命題1 (中国剰余定理
) A
のイデアルa
1, . . . , a
nが互いに素(すべてのi , j
に対しa
i+ a
j= A
)ならば,∩
ia
i= ∏
ia
i であって,射影A → A/a
iたちが与 える環の射A → ∏
iA/a
iが同型A/ ∏
i
a
i−→
∏
i
A/a
iを引き起こす.
証明 n に関する帰納法.n = 2 の場合.a1∩ a2= (a1∩ a2)(a1+ a2)⊂ a1a2⊂ a1∩ a2よ
りa1∩ a2= a1a2.環準同型定理により,あと標準射A→ A/a1× A/a2が全射を示せば よい.a1+ a2= A より A/a1(または A/a2) の勝手な元はある元 x2∈ a2(または x1 ∈ a1) を以てx2mod a1(または x1mod a2) の形.(x2mod a1, x1mod a2) はたしかに x1+ x2の 像.n > 2 の場合.A =∏ni=2(a1+ ai)⊂ a1+ a2. . . an⊂ A より a1+ a2. . . an= A.帰納法 の仮定をa2, . . . , anに適用すれば,r = 2 の場合の結果から示すべき結果が従う.
A
のイデアルa ⊂ A
に対し(1.1) √ a := { f ∈ A ; ∃r ∈ Z
≥0: f
r∈ a} = ∩
p⊃a 素イデアル
p
を
a
の根基(radical)
と呼ぶ.イデアルa
が根基イデアル(radical ideal)
である とは, a =
√ a
のとき,同値にA/a
が被約のときにいう.A
のイデアルa
に対しa
極大イデアル⇒ a
素イデアル⇒ a
根基イデアル.
零イデアルの根基
√ 0
はベキ零元全体からなる.これをA
のベキ零根基(nil-
radical)
と呼ぶ.この√ 0
は有限生成であればベキ零イデアルである.r(A) := {a ∈ A ; ∀b ∈ A : 1 − ab ∈ A
×} = ∩
m⊂A 極大
m
を
A
のJacobson根基と呼ぶ.
A
が局所環のとき,その唯一の極大イデアルをm
Aで,剰余体をκ(A) = A/m
A で表す.局所環の間の射φ : A → B
が局所的(local)
とは,φ(m
A) ⊂ m
Bを意 味する.省略した言い回しとして,“A
がm
を極大イデアルにもつ局所環”
の代わりに
“(A, m)
が局所環”
を用いる.命題2
(1)
素イデアルp
が有限個のイデアルa
1, . . . , a
rの積∏
ia
iを含めば,あるi
に対しp ⊃ a
i:
すなわちp ⊃ ∏
i
a
i⇒ ∃i : p ⊃ a
i.
p = ∩
ia
iまたはp = ∏
ia
iならば,
あるi
に対しp = a
i.
1イデアルの包含を順序としてZornの補題を適用して示される.素イデアルの包含の逆を
順序として次が示される.環において,勝手な素イデアルに含まれる極小素イデアル(真に小 さい素イデアルを含まない素イデアル)が存在する.
2
(2) (prime avoidance)
イデアルa
が有限個の素イデアルp
1, . . . , p
r の和集 合∪
i
p
iに含まれれば,あるi
に対しa ⊂ p
i:
すなわちa ⊂ ∪
i
p
i⇒ ∃i : a ⊂ p
i.
証明 (2) p1, . . . , prの間に包含関係なしと仮定してよい.r に関する帰納法.r = 2 の 場合.a 1 pi, i = 1, 2 と仮定し xi ∈ a \ pi, i = 1, 2 を選ぶ.a\ p1∪ p2が空でないの
を示すのに,x1, x2ともにこれに含まれないとすると(x1∈ p2\ p1, x2 ∈ p1\ p2より
x1+ x2<p1∪ p2ゆえ)x1+ x2が含まれる.(この場合,p1, p2は素イデアルでなくてよ い.) r > 2 の場合.∀i : a 1 piと仮定する.r− 1 の場合の結果から,x ∈ a \∪ri=1−1piが
存在.prが素イデアルゆえap1. . . pr−11pr. y∈ ap1. . . pr−1\ prを選ぶと,x, x + y はと もにa に含まれるが,どちらかは p1, . . . , prのいずれにも含まれない.実際,x,x + y ともにp1, . . . , pr−1のいずれにも含まれない.x∈ prとすれば, y < prゆえx + y < pr. x + y∈ prとすれば,y < prゆえx < pr.
代数
A-
代数(A-algebra)
とは,
環B
とA
からの環の射φ : A → B
の組をいう.通常φ
は表記せず,φ(a)b
(ここにa ∈ A, b ∈ B
)に替えてab
とかく.このA
の元と の積によりA-
代数B
はA-
加群になる.(T
i)
i∈Iを変数の族にもつ多項式全体か らなるA-
代数をA[(T
i)
i∈I]
で表す.我々が用いるのはほとんど,I = {1, . . . , n}
が有限集合の場合で,その場合A[T
1, . . . , T
n]
とかく.B
をA-
代数とする.B
の元からなる族(b
i)
i∈I が生成するB
のA-
部分代数をA[(b
i)
i∈I] (
再びI = {1, . . . , n}
の場合A[b
1, . . . , b
n])
で表す.β(T
i) = b
i( ∀i ∈ I)
を満たすA-
代数射β : A[(T
i)
i∈I] → A[(b
i)
i∈I]
がただ1つ存在する.β
が単射の 場合,(b
i)
i∈IはA
上代数的に独立(algebraically independent)
であるという.T
1, . . . , T
n を変数としA
に係数をもつ,
形式ベキ級数全体からなるA-
代数をA[[T
1, . . . , T
n]]
で表す.2. 加群に関する基本的定義
A
を環とする.M
をA-
加群とし,N, N
′をM
の部分加群とする.このとき(N : N
′) := {a ∈ A ; aN
′⊂ N}
は
A
のイデアルになる.Ann(M) := (0 : M)
をM
の零化イデアル(annihilator)
と呼ぶ.Ann(M) = 0
の場合,M
は忠実(faithful)
であるという.中山の補題のいくつかのバージョンを記す. 命題3
M
をA-
加群,a ⊂ A
をイデアルとする.(1) M
が有限生成で, M = aM
を満たせば,あるx ≡ 1 (mod a)
を以てxM = 0.
(2) u : N → M
をA-
加群射とする.(i) a
がベキ零,または(ii) M
が有限生 成かつa ⊂ r(A)
ならば, u
が全射⇔ u ⊗
Aid
A/a: N/aN → M/aM
が全射.(3) (A, m)
が局所環でM
が有限生成とする.M
の元たちm
1, . . . , m
rがM
を生成する
⇔
それらの像がA/m-
ベクトル空間M/mM
を生成する.3
証明 (1) M の生成系 m1, . . . , mrを選んでm =t(m1, . . . , mr) とおく. M = aM より, a に成分をもつあるr× r 行列 F に対し m = Fm ∴ (I − F)m = 0. I − F の余因子行列 を左から掛けると,x = det(I− F) を以て xm = 0 ∴ xM = 0. 明らかに x ≡ 1 (mod a). (2) M = aM の場合,(i) または (ii) が成り立てば M = 0. 実際 (i) の場合, an = 0 とす ればM = anM = 0. (ii) の場合 (1) が使える.(1) にいう x はいま単元ゆえ M = 0. 示した結果をCoker(u) に適用して⇐ が従う. ⇒ は自明.
(3) u : Ar→ M, u(∑iaiei) =∑iaimiに(2), (ii) の場合を適用せよ.
系4 有限生成
A-
加群M
の全射自己準同型u : M → M
は必ず同型である. 証明 T m := u(m) により A-加群構造を延長して, M を A[T ]-加群と見なせる.T M = u(M) = M ゆえ,命題 3 (1) を環 A[T ] とイデアル (T ) に適用可能.ある b ∈ A[T ] を 以て(1 + bT )M = 0 が従う.m∈ Ker u とすれば, m = m + bu(m) = (1 + bT )m = 0. 命題5 (Five Lemma) 各行完全なるA-
加群の可換図式M
1M
2M
3M
4M
5N
1N
2N
3N
4N
5// // // //
// // // //
u1
u2
u3
u4
u5
において
, u
1全射, u
2, u
4単射⇒ u
3単射; u
2, u
4全射, u
5単射⇒ u
3全射.
自由加群A-
加群M
が自由(free)
とは,ある集合I
に対し同型A
(I):= ⊕
i∈IA −→ M
が 存在するときにいう.A , 0
であればI
の濃度はM
により一意に決まり,M
の 階数(rank)
と呼ばれる.A
(I)において,j-
成分がδ
i jであるような元e
i∈ A
(I)か らなる族(e
i)
i∈Iは基底をなす.これをA
(I)の標準基底(standard basis)
と呼ぶ.
加群の長さA-
加群M , 0
が単純(simple)
とは,0
とM
よりほかに部分加群をもたないと き,同値にある極大イデアルm
に対しM A/m
となるときにいう.A-
加群M
の組成列(composition series
)とは,部分加群の鎖0 = M
0⊂ M
1⊂ · · · ⊂ M
ℓ= M
で
,
すべてのi = 1, . . . , ℓ
に対しM
i/M
i−1が単純なるものを指す.
M
が組成列をもてば,M
i/M
i−1たちの同型類がなす列は,順序を除きM
のみ による.とくにℓ
はM
のみによる.これはM
の長さ(length)
と呼ばれ, lg
A(M)
で表される.M
が組成列をもたない場合はlg
A
(M) := ∞
とする.0 → M
′→ M → M
′′→ 0
がA-
加群の完全列のとき,M
が有限の長さをもつためには,
M
′, M
′′ がともに有限の長さをもつことが必要十分.その場合,lg
A(M) = lg
A(M
′) + lg
A(M
′′)
が成り立つ.
加群のねじれ
A-
加群M
に対しM
tors:= {m ∈ M ; ∃
正則元a ∈ A : am = 0}
4
は
M
の部分加群(∵
正則元全体が積閉).これをM
のねじれ部分(torsion
module)
と呼ぶ.M
tors= 0
の場合,M
はねじれをもたない(torsion free)
と いう.3. 加群と代数に関する有限性
定義6M
をA-
加群とする.(1) M
が有限生成(finitely generated)
または有限型(of finite type)
であると は,
ある整数n ≥ 0
に対し全射A
n→ M
が存在するときにいう.(2) M
が有限表示をもつ(finitely presented)
とは,
ある整数n, m ≥ 0
に対し完全列
A
m→ A
n→ M → 0
が存在するときにいう.命題7
0 → M
′→ M → M
′′→ 0
をA-
加群の完全列とする.(1) M
′, M
′′がともに有限型(または有限表示をもつ)ならば, M
も有限型(または有限表示をもつ)
.
(2) M
が有限型でM
′′が有限表示をもてば,M
′は有限型である.(3) M
が有限表示をもちM
′が有限型ならば,M
′′は有限表示をもつ.
証明 (1) 全射 u′: Am→ M′, u′′ : An → M′′が与えられたとき,A-加群射 u : Am⊕An→ M で次を可換図式にするものが存在する.
0 Am Am⊕ An An 0
0 M′ M M′′ 0
//
包含
//
射影
// //
// // // //
u′
u
u′′
Five Lemma から u は全射.よって M は有限型.有限表示に関しては,あと Snake Lemma を使えばよい.
(2) 全射 u : Aℓ → M と完全列 0 → L → An u→ M′′ ′′ → 0 (L は有限型) が与えられたと き,各行完全なる可換図式
0 P Aℓ An
0 M′ M M′′ 0
// //
v//
// // // //
u
u′′
を得る.v の存在は,Aℓの自由性とu′′の全射性から.これを全射としてよい.実際, 必要ならAℓ にAnを直和し,この直和因子からAnへの射を恒等射に,M への射を M → M′′との合成がu′′に一致するように選べばよい.v が全射であれば, 第1行は 分裂短完全列.従ってP は有限型.Snake Lemma から,L のある全射像 N に対し完 全列P→ M′→ N → 0 を得る.従って M′は有限型.
(3) 0 → L → Aℓ → M → 0 (L は有限型) を完全列とする. Mu ′ → M を包含と見て P = u−1(M′) とおく.この定義から次の各行完全なる可換図式を得る.
0 P Aℓ M′′ 0
0 M′ M M′′ 0
// // // //
// // // //
u
idM′′
5
Snake Lemma から P → M′の核はL に同型.従って有限型.M′が有限型ゆえP も そう.第1行短完全列からM′′は有限表示をもつ.
系7a
A-
加群M
に対し次が互いに同値になる.(i) M
が有限表示をもつ.(ii)
有限表示をもつあるA-
加群L
からM
への全射f : L → M
で,核Ker( f )
が有限生成なるものが存在する.(iii) M
が有限生成,かつ有限生成A-
加群からM
への全射の核が必ず有限生成である.
証明 前命題(2) から (i)⇒ (iii) が,(3) から (ii) ⇒ (i) が従う.(iii) ⇒ (ii) は自明.
定義8
B
をA-
代数とする.(1) B
が有限生成(finitely generated)
または有限型(of finite type)
であると は,
ある整数n ≥ 0
に対しA-
代数全射π : A[T
1, . . . , T
n] → B
が存在す るときにいう.(2) B
が有限表示をもつ(finitely presented)
とは,
上のようなπ
でKer π
が 有限生成イデアルなるものが存在するときにいう.A-
代数が有限表示をもてば有限生成である.A
がNoether
であれば逆も成り 立つ.これはHilbert
基底定理(命題32
)による.補題9
R
を環とし,(A
λ)
λ∈Λ をR-
代数の有向2帰納系,A = lim
−→
A
λする.
B
が有限表示をもつA-
代数であれば,あるλ ∈ Λ
に対し有限表示をもつA
λ-
代 数B
λが存在してB A ⊗
Aλ
B
λ が成り立つ3.証明 B A[T1, . . . , Tn]/( f1, . . . , fr) とする. 十分大きな λ∈ Λ を選べば, すべての i に 対し,fiはあるgi∈ Aλ[T1, . . . , Tn] の像になる(各 fiの係数がすべてAλ→ A の像に
入る).このときB A⊗AλAλ[T1, . . . , Tn]/(g1, . . . , gr).
命題10
A → B → C
を環の射とする.(1) B
が有限表示をもつA-
代数,かつC
が有限表示をもつB-
代数ならば,C
は有限表示をもつA-
代数である.(2) C
が有限表示をもつA-
代数で,B
が有限生成A-
代数であれば,C
は有限表示をもつ
B-
代数である.B → C
が全射であれば,その核は有 限生成イデアルである.証明 (2) (前半) A-代数全射 A[T1, . . . , Tn]→ C の核が有限生成とすると,その B へ の係数拡大 B[T1, . . . , Tn] → B ⊗AC の核もそう.あと, C の積が与える B-代数全射 B⊗AC→ C の核が有限生成を示せばよい.B = A[b1, . . . , br] とし, biのC での像を
ciとすれば,問題の核は有限個のbi⊗ 1 − 1 ⊗ ci, 1≤ i ≤ r, で生成される. (後半) B- 代数全射B[X1, . . . , Xm]→ C は,B[X1, . . . , Xm]→ B → C と分解する (XiのC におけ
る像が B に持ち上がる).Five Lemma から,第2の全射の核は第1の核の全射像ゆ え,後者の有限生成が前者のそれから従う.
定義11
A-
代数が有限(finite)
とは,A-
加群として有限生成であることを意味 する.2Λ
は擬順序集合(pre-ordered set; 順序が反対称律を満たさずともよい). これが有向的を仮 定.すなわち∀λ, µ ∃ν : λ ≥ ν ≤ µ.
3
代数として有限生成だけではこの結果が得られないことに注意せよ. 6
明らかに,有限
A-
代数は有限生成である.命題12 有限
A-
代数B
がA-
加群として有限表示をもつ⇔ A-
代数として有限 表示をもつ.証明 一般に,環A は唯一の方法で Z-代数となり,また有限生成 Z-部分代数(必然 的にNoether)たちの有向帰納極限として表されることに注意.
(⇒) Am→ An→ B → 0 を A-加群の完全列とする.これはある有限生成 Z-部分代数 A0⊂ A と部分環 B0⊂ B に対して与えられる,A0-加群の完全列 Am0 → An0→ B0→ 0 の,A0→ A に沿った係数拡大に一致する.(第1の射Am→ Anの標準基底に関する 表現行列の全成分をai j∈ A とする.さらに第2の全射 An→ B による標準基底 eiの 像bi∈ B を以て,bibj=∑nk=1ci jkbkを満たすci jk∈ A を選ぶ.すべての ai j, ci jkで生成 されるZ-部分代数 ⊂ A を A0, すべての biで生成されるA0-部分加群⊂ B を B0— そ れはA0-部分代数 — とすればよい.)明らかにB0はNoether 環 A0上の代数として有
限生成.∴ 有限表示をもつ.従ってB = A⊗A
0B0
4
はA-代数として有限表示をもつ. (⇐) 補題 9(の証明)と上の注意から,A-代数 B のある生成系 b1, . . . , brとある有
限生成Z-部分代数 A0⊂ A を以て B0= A0[b1, . . . , br] とおくと,B = A⊗A0B0.B0が
A0-加群として有限表示をもつ,同値に有限生成を示せばよい.有限 A-代数の仮定か ら,各biはA 上整,すなわちある A-係数モニック多項式 fiの根(命題51 を見よ). Z-代数 A0の生成系に fiたちの係数すべてを加えて得られるZ-部分代数 ⊂ A を改め てA0とできる.このときすべてのbiはA0上整,従ってB0は有限生成A0-加群.
定義13
A-
代数が本質的に有限型(essentially of finite type)
とは,有限型A-
代数の局所化に同型であることを意味する.4. 射影的加群,平坦加群,忠実平坦加群
A
を環とする.定義
/
命題14A-
加群P
が射影的(projective)
とは,次の互いに同値な条件が満たされるときにいう.
(i)
関手Hom
A(P, −)
が右完全.すなわち勝手なA-
加群全射p : M ։ M
′ とA-
加群射u
′: P → M
′に対し,p ◦ u = u
′ なるA-
加群射u : P → M
が存在する.(ii) M
への全射p : M → P
が必ず分裂.すなわちp ◦ i = id
PなるA-
加群 射i : P → M
が存在する.(iii) P
はある自由A-
加群の直因子.定義
/
命題15A-
加群M
が平坦(flat)
とは,次の互いに同値な条件が満たされるときにいう.
(i)
勝手なA-
加群の完全列N
′→ N → N
′′ をテンソルしたN
′⊗
AM →
N ⊗
AM → N
′′⊗
AM
もまた完全.(ii)
勝手な有限生成イデアルa ⊂ A
に対しa ⊗
AM → M, a ⊗ m 7→ am
が 単射.(iii) M
を余核にもつ短完全列0 → E → F → M → 0
と勝手なA-
加群N
に 対し,0 → E ⊗
AN → F ⊗
AN → M ⊗
AN → 0
が完全.4
前注意同様,Bが有限生成A-加群だけではこれが得られないことに注意. 7
(iv) M
を余核にもつ短完全列0 → E → F → M → 0
において,E
が平坦⇔ F
が平坦.証明 (i) は次と同値.
(i′) 勝手な (同値に有限生成, 同値に1元生成) A-加群 N に対し, Tor1A(M, N) = 0. (i′)⇔ (ii).イデアル a ⊂ A に対し,短完全列 0 → a → A → A/a → 0 が引き起こす完 全列0 = TorA
1(M, A)→ TorA1(M, A/a)→ a ⊗AM→ M から,TorA1(M, A/a) = 0 ⇔ 標準 射a⊗AM → M, a ⊗ m 7→ am が単射.この ⇒ から (i′)⇒ (ii).勝手なイデアル a は 有限生成イデアルの有向和集合∪λaλとして表せる.(ii) を仮定すれば上の標準射 (= 標準単射aλ⊗AM→ M の帰納極限) は単射ゆえ,先の ⇐ から (i′) が従う.
(i′)⇒ (iii). 容易.(i′)⇐ (iii). F が自由(従って平坦)であるように短完全列を選び TorA1(M, N) = 0 を得る.
(i)⇒ (iv). (i) のもと TorAn(M, N) = 0, n = 1, 2 ゆえ,自然な射 TorA1(E, N)→ TorA1(F, N) は同型. よって二者が 0 になるのは同時.(i)⇐ (iv). 平坦 A-加群 E = 0 に対し短完 全列0→ E → M
→ M → 0 を選べ.id
定義
/
命題16A-
加群M
が忠実平坦(faithfully flat)
とは,次の互いに同値な 条件が満たされるときにいう.(i) A-
加群の列N
′→ N → N
′′が完全⇔ N
′⊗
AM → N ⊗
AM → N
′′⊗
AM
が完全.(ii) M
が平坦,かつN ⊗
AM = 0
を満たすA-
加群N
は0
に限る.(iii) M
が平坦,かつ各極大イデアルm ⊂ A
に対しM , mM.
証明 (ii)⇒ (i). (ii) を仮定する.A-加群射 w : N′→ N′′が0 射 ⇔ w ⊗AidMが0 射
(∵ Im(w) と Im(w⊗idM) = Im(w)⊗AM は同時に 0) に注意. A-加群の列 N′→ Nu → Nv ′′が 与えられ,N′⊗AM→ N⊗AM→ N′′⊗AM は完全とする.上の注意を v◦u に適用し v◦u = 0, すなわち Im(u)⊂ Ker(v) を得る.Ker(v)/Im(u) ⊗AM = Ker(v⊗ idM)/Im(u⊗ idM) = 0
よりKer(v)/Im(u) = 0.∴ 与えられた列は完全.
例17
A → B
を局所環の局所的射とし,M , 0
を有限生成B-
加群でA
上平 坦とする.このとき,M
はA-
加群として忠実平坦.実際,命題16
により,A
の極大イデアルm
に対してM , mM
を確かめればよい.仮定からm B
はB
の極大イデアルに含まれるから,M = mM
とすると中山の補題(命題3
)か らM = 0
が従う.A-
代数B
が平坦または忠実平坦とは,B
がA-
加群として平坦または忠実平坦 であることを意味する.例18
n ≥ 0
に対し,多項式環A[T
1, . . . , T
n]
は忠実平坦A-
代数(非零自由加 群ゆえ忠実平坦). A
がNoether
であれば,形式ベキ級数環A[[T
1, . . . , T
n]]
は忠 実平坦A-
代数.また,A
のイデアルa
に対しA[[T
1, . . . , T
n]]/aA[[T
1, . . . , T
n]] =
(A/a)[[T
1, . . . , T
n]]
5.
次に示す不変性は定義から直ちに従う.
命題19 Pを次のいずれかの性質とする.有限型,有限表示をもつ,自由, 射影的,平坦,忠実平坦.
5命題39 (1)をA[T1, . . . , Tn]とイデアル(T1, . . . , Tn)に適用しA[[T1, . . . , Tn]]はA[T1, . . . , Tn] 上,従ってA上平坦.イデアルaが有限生成であることから,容易にA[[T1, . . . , Tn]]⊗AA/a (A/a)[[T1, . . . , Tn]].これより先のA上平坦は忠実平坦に強まる.
8
(1) A-
加群M, N
が性質PをもてばM ⊗
AN
も同じ性質をもつ.(2) A-
加群M
が性質Pをもてば,
環の射A → B
による係数拡大たるB-
加群
B ⊗
AM
も同じ性質をもつ.(3)
平坦加群たちの有向帰納極限はまた平坦.(4) A-
加群の族(M
i)
i∈I に対し,直和⊕
i∈IM
i が射影的(または平坦)⇔
すべてのi ∈ I
に対しM
iが射影的(または平坦).
証明 (1) P が有限表示をもつの場合.完全列 Am→ An→ M → 0 を選び ⊗AN を施す と,完全列Nm→ Nn→ M ⊗AN→ 0 を得る.ここで Nnは有限表示をもち,M⊗AN
への全射の核は有限生成.あと命題7 (3) を適用せよ.
自由加群は射影的,射影的加群は平坦である.とくに
A = k
が体の場合,す べてのk-
ベクトル空間は平坦.整域A
上の平坦加群M
はねじれをもたない6.
命題20A
が半局所環,M
は有限表示をもつ平坦A-
加群であって,すべての 極大イデアルm
に対し次元dim
A/mM/mM
が一定とする.このときM
は自由 加群である.証明 一定次元をd とする. r = r(A) とおく.m1, . . . , msをA の極大イデアルすべ てとすると,中国剰余定理から A/r =
∏s
i=1A/mi. 従って M/rM =
∏s
i=1M/miM
∏s
i=1(A/mi)
d = Ad/rAd. mod r でこの同型 Ad/rAd → M/rM に一致するような A-加群 射u : Ad→ M を選ぶ.中山の補題をこの余核に適用すると,u は全射.命題 7 (2) か ら核N := Ker(u) は有限型.TorA1(A/r, M) = 0 ゆえ N/rN = Ker(idA/r⊗Au) = 0. 中山の 補題からN = 0.∴ u は同型.
5. 局所化
A
を環,M
をA-
加群とする.S ⊂ A
を積閉集合(すなわち1 ∈ S ; a, b ∈ S ⇒
ab ∈ S
を満たす)とする.A
(またはM
)のS
に関する局所化をS
−1A
(また はS
−1M
)で表す.S
−1A
の元は as(ここに
a ∈ A, s ∈ S
)で表される.S
−1A
の2元 a
s
,
a′s′ が等しいのは,ある
t ∈ S
を以てtas
′= ta
′s
が成り立つとき,またそのときに限る.同様の記法が
S
−1M
に対し用いられる.通常の,分数の 間の和・積の演算式によって,S
−1A
上の環構造,S
−1M
上のS
−1A-
加群構造 が定義される.元
f ∈ A
と素イデアルp ⊂ A
に対し(5.1) A
f:= S
−1f
A,
A
p:= (A \ p)
−1A,
M
f:= S
−1fM,
M
p:= (A \ p)
−1M
とかく.ここにS
f= { f
r: r ≥ 0}
.f
0:= 1
と約束する. 環の射ι = ι
S: A → S
−1A, a 7→ a
1
を標準射と呼ぶ.
ι
はι(S ) ⊂ (S
−1A)
×を満たし,しかもこの性質に関し普遍性 をもつ.すなわち環の射φ : A → B
が同じ性質φ(S ) ⊂ B
×を満たせば,ψ◦ι = φ
を満たす環の射ψ : S
−1A → B
がただ1
つ存在する.ペア(S
−1A, ι)
はこの性 質によって,一意に決まる同型を除きただ1つに決まる.次の主張は定義から直ちに従う.
60 , a
∈ A倍写像a : M→ Mは,単射a : A→ Aをテンソル⊗AMしたものゆえ単射. 9
(1) ι : A → S
−1A
が同型⇔ S ⊂ A
×.
(2) ι
が単射⇔ S
が正則元だけから成る.この場合,2元 as
,
a′s′
∈ S
−1A
が 等しい⇔ as
′= a
′s.
(3) S
−1A = 0 ⇔ S
がベキ零元を含む⇔ 0 ∈ S .
u : M → N
がA-
加群射であれば,ms7→
u(m)s で与えられる写像S
−1u : S
−1M →
S
−1N
はS
−1A-
加群射になる.こうして,M 7→ S
−1M
はA–
加群の圏からS
−1A-
加群の圏への関手になる.命題21
S
を環A
の積閉集合とする.(1) A-
加群M
に対し,S
−1A ⊗
AM → S
−1M,
as⊗ m 7→
ams はS
−1A-
加群同型.(2) S
−1A
はA-
加群として平坦.(3)
関手M 7→ S
−1M
は完全であって,直和,有向帰納極限,テンソル積 と両立する.S
−1A
のイデアルは必ず,あるイデアルa ⊂ A
を以てS
−1a
の形をしている. より詳しく,a 7→ S
−1a
が全単射{ a
⊂ A
イデアル: sa ∈ a, s ∈ S
ならばa ∈ a } −→
{ S
−1A
のイデアル}
を与える7.逆写像はb ( ⊂ S
−1A) 7→ ι
−1(b)
.この全単射は全単射{ p
∈ Spec A : p ∩ S = ∅ } −→ Spec(S
−1A)
に制限される.しばしば,この全単射を通して2つの集合を同一視し
Spec(S
−1A) ⊂ Spec A
と見なす.
p ∩ T = ∅
を満たす素イデアルp
が必ずp ∩ S = ∅
を満たす(すなわ ちSpec A
においてSpec(S
−1A) ⊃ Spec(T
−1A)
)場合に,S ≤ T
とかく.これがA
の積閉集合全体の集合における擬順序(必ずしも反対称律を満たさない順 序,脚注2
)を定める.A
×= A \
∪
p∈Spec A
p
と局所化の普遍性から次が従う.補題22
S , T ⊂ A
を積閉集合とする.A-
代数射ι
T,S: S
−1A → T
−1A
が(必然 的にただ1つ)存在するためには,S ≤ T
が必要十分.S ⊂ T
であればこの 条件は満たされる.証明 {a ∈ A : a/1 ∈ (T−1A)×} = A \∪p∩T =∅p ゆえ,∃ιT,S ⇔ ιT(S )⊂ (T−1A)× ⇔ S ⊂ A\∪p∩T =∅p ⇔ S ≤ T .
とくに,
p
を素イデアルとするとき,各元f ∈ A \ p
に対し環の射A
f→ A
pが 得られる.これらの射が引き起こす射lim
−→ f∈A\pA
f→ A
pは同型である8
.
また命題21
から,各A-
加群M
に対し同型lim
−→f∈A\p
M
f→ M
pを得る.これは
M
に関して自然である.7左の集合の条件が次と同値なことに注意. 標準射A/a→ S−1(A/a) = S−1A/S−1aが単射. 8
帰納極限が拠る擬順序Sf ≤ SgはD( f )⊃ D(g)に同値.ここにD( f ) ={p ∈ Spec S : f < p}. 10