三火会 報告(2 月例会) 開催日:2013/2/19
話題提供者:新村正純氏(S36 農)
演題:「地球環境を壊さないで食糧問題を解決する」
内容: 20 世紀の食糧問題は解消された。20 世紀は膨張の時代。世界の総人口は 1900 年の 16 億人が 2000 年には 60 億人に、3.75 倍になった。一方、穀物総生産は 7.5 倍に、一人当たりの食糧は 2 倍にな った。人口は増えたが穀物の供給は潤沢になった。これは、農地面積増大と化学肥料・農薬・育種など農業 技術の進歩による。特に 20 世紀の後半は穀物生産が増え、緑の革命と云われる。しかし 21 世紀はガラリ と変わることになる。人口が 2050 年には 90 億人以上になるが、農地面積はむしろ減少する。肥料や農薬 はすでに行き亘ってこれ以上の効果は期待できない。また、発展途上国で 20 世紀には穀物のみ食べていた のが、肉や乳製品を多く食べるようになることから、穀物が不足する。よって 21 世紀には食糧危機が起こ る。 地球環境問題について。20 世紀には SOx、NOx などの産業公害などがあったが、日本の技術のお蔭で 良く制御されるようになった。廃棄物問題、酸性雨やオゾン層の問題、海洋汚染なども解決しつつあるが、 地球温暖化問題のみが未解決で残っている。自然生態系の問題は地球温暖化が原因となっている。
地球温暖化は二酸化炭素の過剰排出が原因。温室効果ガスにはいろいろあるが、圧倒的に多いのが二酸化 炭素で、1750 年以前までの 280ppm から 2000 年には 370ppm に上昇した。1997 年の COP3 で京都 議定書が締結されて二酸化炭素の排出削減目標が合意されたが、米国は批准しなかった。また、中華人民共 和国は発展途上国として二酸化炭素削減対象から除外されている。世界の 20%を出している米国と、同量 を排出している中華人民共和国の主犯二国が排出削減の責任を負わないことが問題。
二酸化炭素の問題はエネルギー供給に化石燃料を用いるため。2000 年には化石燃料で炭素換算 60 億ト ン/年消費してきたが、今後削減努力をしないと、2050 年には 220 億トン/年の化石燃料消費になる。小 宮山宏氏は、2050 年に全体のエネルギー消費は現在のままで、化石燃料の消費を 45 億トンにしようとい うビジョン(ビジョン 2050)を出した。自動車はハイブリッド・電気自動車などに。家庭の電気機器は効 率向上させて 40%の省エネ型にすること。発電所や送電の効率を上げて化石資源の消費を2/3に削減する 等のデザインである。この提案は現実的だと思うが、小宮山氏は原子力発電にはあまり期待していない。私 は、原子力発電所については安全性の担保ができるので、利用するべきと考える。
一方、ブラジルやアメリカでは穀物を原料とするバイオエネルギー(アルコールを使用)を提唱している が、これは食糧とバッティングすることが問題。
二酸化炭素の封じ込めについては、地下に埋める、鉄粉を海に播くことで植物プランクトンの増殖をして 吸収するなどの考え方があるが、一番の手段は森林を増やすことである。日本の二酸化炭素削減量 6%のう ち、3.8%は森林を増やすことで対応する。森林を増やすためには木造住宅を増やすことが必要。コンクリ ート住宅でも内装は木質を用いることになる。技術進歩によりコンクリート家屋なみの耐火性能の木造家屋 が可能である。そこで 100 年住宅を提案する。3 代に亘って使用するので大型で質が高い住宅になるし、 1代の経済的負担は相対的に少なくなる。
メソポタミア、エジプト、インダス川流域、黄河流域などの古代都市文明は森林破壊をした。土木工事に よって森林破壊をしたと考えられているが実際は食糧確保のための農業が森林破壊をした。森林破壊の結果、 旱魃が起こり荒地や砂漠となった。ギリシャ文明、ローマ文明も森林破壊をして畑や荒地にした。中世ヨー ロッパでは森林には魔女がいるなどとして森林を破壊して畑や牧場にした。その後大航海時代に入り、ヨー ロッパ人は新大陸や植民地でも森林破壊を行った。米国では 1620 年頃は森林が沢山あったが、300 年間 で森林が極端に減少して畑地や牧地に変った。この傾向はアフリカ、南米、アジアでは現在でも続いている。 農作物も二酸化炭素を吸収するが、森林と比較すると桁違いに少ない。農地や牧場は二次元であるが森林は 三次元だ。また、農作物や牧草は成長期のみ二酸化炭素を吸収するが、森林は年間を通して吸収する。した がって、農業(農耕と牧畜)が地球環境を破壊したといえる。特に牧畜は地球環境破壊の首魁である。
世界の陸地の 37%(=48.5 億 ha)が農地と草地なので、ここを森林に戻して二酸化炭素を吸収するとい う提案をしたい。杉林での二酸化炭素吸収で計算すると、9.3 億 ha の森林育成で化石燃料から発生する二 酸化炭素(約 60 億トン/年)を吸収できる。この面積は陸地の 7%に相当する。
現在の農業は平面(二次元)であるために生産性が低い。これを三次元で、さらに時間軸を加えて四次元 で活用する。人工飼料養蚕の例:年間を通して実施。立体的に利用。毎週カイコを孵化させて、毎週 1 トン、 毎年 50 トンの繭(まゆ)生産をすることができた。キューピーの野菜工場の例:三角パネルで野菜を噴霧 栽培。スペースを 2 倍に使える。赤色 LED 使用の野菜生産の例:10 段の立体構造。生育速度を 2 倍にす ることが可能で、ビタミン含有量も増大する。
農業の工業化を提案する。上述の技術を活用して、水耕栽培による稲作を行う。完全制御型の植物工場で ある。20 段の水耕パネル田で年 50 回播種・収穫すれば土地生産性は 100 倍以上になる。これにより 99%以上の水田面積が節約でき、余った土地を、森林化する。
その他の食糧増産として、鯨食がある。クジラはオキアミしか食べないと考えられていたが、調査捕鯨で カタクチイワシ、サンマ、サケ、スケトウダラなどの大量の小魚を食べることがわかった。捕鯨禁止の結果 ミンククジラが増え南氷洋で 76 万頭になり、漁業と競合することになった。一方、世界の漁獲量は増えて いない。魚が減少した。これはクジラの増大が一つの原因。3.5 億トンの魚類をクジラが食べているが、人 間による漁獲量は 1 億トン。結果として、クジラが自然破壊していることになる。毎年増殖分のミンククジ ラ 3 万トンを捕獲して食糧にするだけでもウシ 30 万トンに匹敵。幸い、クジラは西洋では食べない。 IWC 加盟国の多くは、カリブ海諸国、ハンガリーなど偏りがある。IWC では捕鯨賛成国が過半数に増大し てきたが、3/4 決定の少数決ルールが商業捕鯨再開の障害となっている。
海産物を食べよう。養殖漁業を推進すべし。養殖昆虫を食べよう。イナゴ、カイコ、アリなどを食する。 昆虫は栄養の効率が良い。食習慣の問題があるので、畜産や魚の養殖に用いるのではどうか。
遺伝子組み換え作物の利用に賛成。安全性の確認が必要ではあるが、遺伝子組み換えをしたことを明示し て、消費者が選べるようにすると良い。
微生物利用。酵母。single cell protein 生産技術はできたが、石油酵母の名称のために使用されなかった。 この技術の復活と実用化を提案する。その他にアミノ酸発酵なども有効。
新村氏の話題提供に続いて参加者の間で議論があった。①紹介したカイコの生産技術はできたのだが、農 林省は企業がマユ生産すると農家と競合するとの理由を云って普及できなかった。②コメを作らない農家に 森林を作らせたらどうか。しかし、農地解放によって小規模農家が大量に生まれ、これらが土地を手放さな い構造になっている。③国際的に捕鯨賛成が優勢になったのは最近の傾向。④文化の違いにより食習慣は変 えにくいが、多様な選択肢を作って、消費者に選択を任せると良い。日本では鯨文化を守る会もある。⑤農 業の構造が変わらないのは政治の問題。在来農業にはいくら金を突っ込んでも無駄。日本の農業の競争相手 は外国の農業でなくむしろ日本の工業。日本の農業産品は質が良く、競争力はある。⑥農業は、経済効率の みで見ることができない面があり、国防費と同じ性格がある。しかし一番の問題は食糧自給率よりもエネル ギー供給であり。現在のエネルギーの自給率は数パーセント。太平洋戦争の原因もエネルギー問題だった。 この点では国民のコンセンサスが必要。⑦生態系なども含んでトータルに考える必要がある。自然に対して は人為的な施策がうまくいかないことがある。⑧森林化する具体的な方法として、自然林は放置しておけば 良いが、人工林は管理が必要。林業家が少ないことが問題なので、土木建築業からの人材を入れるとよい、 などが議論された。(文責:林しん治)
参考:新村正純著「地球環境を壊さないで食糧問題を解決する」(日本食糧新聞社、2008 年 7 月発行、 1,575 円、全 208 ページ)
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