課題研究 P3 理論ゼミ
第 5 章 Dirac 方程式 5.5 ∼ 5.7
加須屋春樹
2016
年11
月24
日5.5 スピノールの規格化と完全性関係
規格化
スピノールも単位体積あたり2E個の粒子があるように規格化する:
∫
単位体積
ρ dV =
∫
単位体積
ψ†ψ dV = u†u = 2E (1)
u(1), u(2)(v(1), v(2))はヘリシティの異なる固有状態であるから直交し、上と合わせて
u(r)†u(s)= 2Eδrs, v(r)†v(s)= 2Eδrs (r, s = 1, 2) (2) を得る。ここでu(s)= N
( χ(s)
σ·p E+mχ(s)
)
であったから
u(s)†u(s)= |N|2 [
1 +
( σ· p E + m
)2]
= |N|2 2E
E + m (3)
より規格化定数は
N =√E + m (4)
ととれる。v(s)についても同じNにとれる。
u, ¯ ¯ v
に対するDirac
方程式u, vに対するDirac方程式は
{(/p − m)u = 0
(/p + m)v = 0 (5)
Hermite共役をとって
{u†(㵆pµ− m) = 0 v†(㵆pµ+ m) = 0 右からγ0をかけ、γ0γ0= 1を挿入
{u†γ0(γ0㵆γ0pµ− m) = 0 v†γ0(γ0㵆γ0pµ+ m) = 0 γ0㵆γ0= γµ —–(∗)
{u(γ¯ µpµ− m) = 0
¯
v(γµpµ+ m) = 0 よってu, ¯¯ vに対するDirac方程式は
{u(/p − m) = 0¯
¯v(/p + m) = 0 (6)
(∗)の証明 (γ0)† = γ0, (γi)†= −γi, {γµ, γν} = 2gµνより
γ0(γ0)†γ0= γ0γ0γ0= γ0, γ0(γi)†γ0= γ0(−γi)γ0= γi (7)
完全性関係
次の関係がなりたつ:
∑
s=1,2
u(s)(p)¯u(s)(p) = /p + m, ∑
s=1,2
v(s)(p)¯v(s)(p) = /p − m (8)
∵ ∑
s=1,2
u(s)(p)¯u(s)(p) = ∑
s=1,2
√E + m
( χ(s)
σ·p E+mχ(s)
) √E + m(χ(s)† −σ·pE+mχ(s)†)
=
(E + m −σ · p σ· p −(σ·p)
2
E+m
)
(∵∑
sχ(s)χ(s)†= 12
)
=
(E + m −σ · p σ· p −E + m
) (
∵(σ · p)2= p2= E2− m2)
= (1 0
0 −1 )
E −
( 0 σ
−σ 0 )
· p + m (1 0
0 1 )
= γµpµ+ m (9)
同様に
∑
s=1,2
v(s)(p)¯v(s)(p) = γµpµ− m (10)
5.6 双 1 次形式とその変換性
4× 4行列Γを用いて表される次の形の量をスピノルの双1次形式と呼ぶ:
ψΓψ¯ (11)
4 × 4行列の独立な成分の数は16より双1次形式のうち独立なものも16個存在し、以下のように分類できる: 名前 形 独立な個数 ローレンツ変換(x′µ= Λµνxν)に対する変換性 スカラー ψψ¯ 1 ψ¯′(x′)ψ′(x′) = ¯ψ(x)ψ(x)
ベクトル ψγ¯ µψ 4 ψ¯′(x′)γµψ′(x′) = Λµνψ(x)γ¯ νψ(x) テンソル ψσ¯ µνψ 6 ψ¯′(x′)σµνψ′(x′) = ΛµρΛνλψ(x)σ¯ ρλψ(x) 擬スカラー ψγ¯ 5ψ 1 ψ¯′(x′)γ5ψ′(x′) = (det Λ) ¯ψ(x)γ5ψ(x)
軸性ベクトル ψγ¯ 5γµψ 4 ψ¯′(x′)γ5γµψ′(x′) = (det Λ)Λµνψ(x)γ¯ 5γµψ(x) 16
ここでγ5= iγ0γ1γ2γ3,σµν =2i[γµ, γν]。 γ5の性質
{γ5, γµ} = 0, (γ5)†= γ5, (γ5)2= 1 (12)
∵ γ5γµ= iγ0γ1γ2γ3γµ= (−)3iγµγ0γ1γ2γ3= −γµγ5 (13) (γ5)† = −i(γ3)†(γ2)†(γ1)†(γ0)†= −i(−γ3)(−γ2)(−γ1)(+γ0) = iγ3γ2γ1γ0
= (−)6iγ0γ1γ2γ3= γ5 (14) (γ5)2= −γ0γ1γ2γ3γ0γ1γ2γ3= (−)7(γ0)2(γ1)2(γ2)2(γ3)2= −(+1)(−1)(−1)(−1) = 1 (15)
独立性の証明 14, γµ, σµν, γ5, γ5γµの形で表される16種類の行列が一次独立であることを示す。それぞれ にΓ1, Γ2, · · · , Γ16と名前をつけ
∑16 n=1
anΓn= 0 (an∈ R) (16)
とする。右からΓmをかけ、両辺のトレースをとると
tr (
∑
n
anΓnΓm
)
=∑
n
antr (ΓnΓm) = 0 (17)
このとき、もしtr(ΓnΓm) ∝ δnm (n, m = 1, · · · , 16) —— (⋆)なら
am= 0 (m = 1, · · · , 16) (18)
が成立し、Γ1∼ Γ16は一次独立である。ゆえに(⋆)を示せばよい。 地道に計算する。例えば
tr 14= 4 (19)
tr γµ=
↑ tr
(γµ(γ5)2)=
↑ − tr
(γ5γµγ5)=
↑ − tr
(γµγ5γ5)
(γ5)2=1 {γ5,γµ}=0 tr(AB)=tr(BA)
= − tr(γµ) = 0 (20)
tr γ5= tr(γ5(γ0)2)= − tr(γ0γ5γ0)= − tr(γ5γ0γ0)= − tr γ5= 0 (21) tr(γµγν) = tr({γµ, γν} − γνγµ) = 2gµνtr 14− tr(γµγν) ⇒ tr(γµγν) = 4gµν (22) 表は見出しの行列をかけあわせトレースを計算した結果である。確かに(⋆)がなりたっていることがわかる。
tr(↓ · →) 14 γρ σρλ γ5 γ5γρ
14 4 0 0 0 0
γµ 0 4gµρ 0 0 0
σµν 0 0 4(gµρgνλ− gµλgνρ) 0 0
γ5 0 0 0 4 0
γ5γµ 0 0 0 0 −4gµρ
変換性の証明 ローレンツ変換(x′µ= Λµνxν)に対して次がなりたつ:
ψ′(x′) = ΛDψ(x) —— (♡) Λ−1D γµΛD= Λµνγν —— (♣) ψ¯′(x′) = ¯ψ(x) Λ−1D —— (♢) Λ−1D γ5ΛD= det Λ γ5 —— (♠)
(23)
[proper,orthochronousの場合]
Λ = e−2iθµνMµν ((Mµν)ρσ = i(gµρδνσ− δµσgνρ))と書いたときΛD= e−2iθµνMDµν (MDµν = i4[γµ, γν])と表 せる。(♡)は定義より従う。
(♢) [proper,orthochronous]
ψ¯′(x′) = ψ′†(x′)γ0= (ΛDψ(x))†γ0= ψ†(x)Λ†Dγ0= ¯ψ(x)γ0Λ†Dγ0 (24) ここで
γ0Λ†Dγ0= γ0e2iθµν(MDµν)†γ0= ei2θµνγ0(MDµν)†γ0
= e2iθµνMDµν = Λ−1D (
∵ γ
0(Mµν
D )†γ0= −4iγ0[(γν)†, (γµ)†]γ0
= −i4[γν, γµ] = MDµν )
(25)
より ψ¯′(x′) = ¯ψ(x) Λ−1
D (26)
(♣) [proper,orthochronous] [γρ, MDµν]
µ̸=ν
=↓ i
2[γ
ρ, γµγν] = i
2({γ
ρ, γµ}γν− γµ{γρ, γν})
= i(gρµγν− gρνγµ) (µ = νのときも成立)
= i(gρµδνσ− gρνδµσ)γσ= (Mµν)ρσγσ (27)
∴Λ−1
D γ ρΛ
D= e2iθµνMDµνγρe−2iθµνMDµν
= γρ+[ i 2θµνM
µν D , γ
ρ
] + 1
2! [ i
2θµνM
µν D ,
[ i 2θµνM
µν D , γ
ρ
]] + · · ·
=(1 − i 2θµνM
µν+ 1
2! (
−i 2θµνM
µν
)2
+ · · ·)ρ
σγ σ
=(e−2iθµνMµν)ρ
σγ σ = Λρ
σγσ (28)
[一般のLorentz変換の場合]
ΛとΛDの関係を(♣)で定める。(♡)は定義より従う。 (♢) [一般] (♣)より
Λ−1D γµΛD= Λµνγν (29)
両辺のHermite共役をとって
Λ†D(γµ)†(Λ−1D )†= Λµν(γν)† (30) 左右からγ0をかけて
γ0Λ†D(γµ)†(Λ−1D )†γ0= Λµνγ0(γν)†γ0 γ0Λ†Dγ0γ0(γµ)†γ0
| {z }
γµ
γ0(Λ−1D )†γ0= Λµνγ0(γν)†γ0
| {z }
γµ
∴(γ0Λ†
Dγ
0)γµ(γ0Λ† Dγ
0)−1= Λµ
νγµ (31)
再び(♣)より
(γ0Λ†Dγ0)γµ(γ0Λ†Dγ0)−1 = Λ−1D γµΛD
∴(ΛDγ0Λ†
Dγ 0)γµ(Λ
Dγ0Λ†Dγ0)−1 = γµ (32)
よってΛDγ0Λ†Dγ0はすべてのγµ (µ = 0, 1, 2, 3)と可換であるから、Schurのlemmaより
ΛDγ0Λ†Dγ0= a14 (33)
がなりたつ。ここでaは定数でありa = 1として一般性を失わない。ゆえに
γ0Λ†Dγ0= Λ−1D (34)
となる。後は前と同様にして
ψ¯′(x′) = ¯ψ(x)γ0Λ†Dγ0= ¯ψ(x)Λ−1D (35) が導かれる。
Schurのlemma
群Gの完全可約な表現Dが既約であるための必要十分条件は、すべてのD(g) (g ∈ G)と可換な1次変 換AがA = a1 (a ∈ C)に限られることである。
(♠) [一般]
ϵµ0µ1µ2µ3=
+1 (µ0µ1µ2µ3) = (0123)の偶置換
−1 (µ0µ1µ2µ3) = (0123)の奇置換
0 その他
(36)
とすると
ϵµ0µ1µ2µ3 = gµ0ν0gµ1ν1gµ2ν2gµ3ν3ϵν0ν1ν2ν3= g00g11g22g33ϵµ0µ1µ2µ3 = −ϵµ0µ1µ2µ3 (37) がなりたつ。まず4 × 4行列Aについてそのµν成分をAµνとかくと、行列式は定義より
det A = −ϵµ0µ1µ2µ3Aµ00Aµ11Aµ22Aµ33 (38) とかける。次に任意の完全反対称テンソルTµ0µ1µ2µ3 について
Tµ0µ1µ2µ3 = −ϵµ0µ1µ2µ3T0123 (39) がなりたつ。最後にϵµ0µ1µ2µ3γµ0γµ1γµ2γµ3 = −4!γ0γ1γ2γ3より
γ5= − i
4!ϵµ0µ1µ2µ3γ
µ0γµ1γµ2γµ3 (40)
とかける。以上から
Λ−1D γ5ΛD= −4!iϵµ0µ1µ2µ3Λ−1D γµ0γµ1γµ2γµ3ΛD (∵ (40))
= − i
4!ϵµ0µ1µ2µ3Λ
−1 D γµ
0Λ
DΛ−1D γµ1ΛDΛ−1D γµ2ΛDΛ−1D γµ3ΛD
= − i
4!ϵµ0µ1µ2µ3Λ
µ0
ν0Λ
µ1
ν1Λ
µ2
ν2Λ
µ3
ν3
| {z }
完全反対称テンソル
γν0γν1γν2γν3 (∵ (♣))
= + i
4!ϵν0ν1ν2ν3ϵµ0µ1µ2µ3Λ
µ0
0Λ µ1
1Λ µ2
2Λ µ3
3γν
0γν1γν2γν3 (∵ (39))
= (det Λ)γ5 (∵ (38)) (41)
したがって
ψ¯′(x′)ψ′(x′) = ¯ψ(x)Λ−1D ΛDψ(x) = ¯ψ(x)ψ(x) (∵ (♡), (♢)) (42) ψ¯′(x′)γµψ′(x′) = ¯ψ(x)ΛD−1γµΛDψ(x) = Λµνψ(x)γ¯ νψ(x) (∵ (♡), (♢), (♣)) (43) ψ¯′(x′)σµνψ′(x′) = ¯ψ(x)Λ−1D 2i[γµ, γν]ΛDψ(x) = ΛµρΛνλψ(x)σ¯ ρλψ(x) (∵ (♡), (♢), (♣)) (44) ψ¯′(x′)γ5ψ′(x′) = ¯ψ(x)Λ−1D γ5ΛDψ(x) = (det Λ) ¯ψ(x)γ5ψ(x) (∵ (♡), (♢), (♠)) (45) ψ¯′(x′)γ5γµψ′(x′) = ¯ψ(x)Λ−1D γ5γµΛDψ(x) = (det Λ)Λµνψ(x)γ¯ 5γµψ(x) (∵ (♡), (♢), (♣), (♠)) (46)
5.7 質量 0 のフェルミオン : 2 成分ニュートリノ
Weyl表示(chiral表示)もよく使われる:
γµ=
(0 σµ
¯ σµ 0
)
(σµ≡ (12, σ), ¯σµ≡ (12, −σ)) (47) この表示ではγ5が対角化される:
γ5=
(−12 0 0 12
)
(48)
Dirac方程式は
(/p − m)u =
(−m σµpµ
¯
σµpµ −m )
u(p) = 0 (+m σµp )
(
p0=√p2+ m2) (49)
ここでm = 0の場合を考える。u = (χ
ϕ )
, v = (ξ
ζ )
とおけば
{
σ· ˆpχ = −χ σ· ˆpϕ = +ϕ
{
σ· ˆpξ = −ξ
σ· ˆpζ = +ζ (50)
を得る。すなわち上2成分がヘリシティ負、下2成分がヘリシティ正の状態を表す。 一方γ5 =
(−12 0 0 12
)
であったから、ψR = (χ
0 )
, ψL = (0
ϕ )
はそれぞれ、γ5の固有値(chirality)が∓1の固 有状態である。
すなわち、m = 0のときはカイラリティ±1とヘリシティ±1/2の固有状態は一致することがわかる。
また、m = 0のときは上2成分と下2成分は互いに混じり合わず、独立に理論を組み立てることができる。どちら
か一方のみが関与する相互作用もつくることができる。例えば弱い相互作用のカレントは次のように表される:
Jµ= ¯ψeγµ1 2(1 − γ
5)ψ
ν (51)
弱カレントは(ベクトル(V )) − (軸性ベクトル(A))の形をしておりV − A型と呼ばれる。これは左巻き粒子(右巻 き反粒子)のみに結合する。これは実際
1 2(1 − γ
5) =
(12 0 0 0 )
(52) からわかる。
逆にm ̸= 0の場合は質量mを通じてψLとψRの混合が起こる。つまり、質量を持つためには、ψRとψLの両方 が必要となる。これをDirac質量と呼ぶ。しかしながら、粒子と反粒子が同一のフェルミ粒子であるマヨラナ粒子な らば片方のカイラリティ固有状態だけで質量項をもつことができる。これをMajorana質量と呼ぶ。ニュートリノ振 動実験などからニュートリノはわずかだが質量を持つことがわかっているが、右巻きニュートリノは発見されておら ず、ニュートリノの質量起源がディラック質量であるかマヨラナ質量であるかは未だ決着がついていない。
参考文献
[1] 坂本眞人,『場の量子論』量子力学選書,裳華房 [2] 佐藤光,『群と物理』,丸善出版