2011年度 学類4年生向け授業 代数学II
ガロア理論
担当 増岡 彰
はじめに
知りたい対象の情報を得るのに, これをよりわかりやすい別の対象と結びつけて, それ から引き出す. これはいまや数学全般にわたる常識であるが, この方法を確立したのは, エ ヴァリスト・ガロア(1811–1832)である. 彼は代数方程式の根を考察するのに, 群の概念 を確立しこれと結びつけた.
代数方程式 f (X) = 0 は, ある体 K に係数をもつ多項式 f (X) により与えられる. K にこの代数方程式の根すべてを添加して体拡大 L/K が, さらに L/K の自己同型全体か
らなる群 Aut(L/K) が得られる. これらは根の集合に比べ, より豊かな代数的構造をも
つ対象であり, 発展的考察を可能にする. かくして代数方程式の根(本文では多項式 f (X) の根と呼ぶ)の考察が, 体拡大と自己同型群の考察にとって代られる. これにより, 根につ いて知るべきことが正しく定式化され証明されるのである. 例えば, 「一般的な代数方程 式が根の公式をもつか否か」といったことが厳密に定式化でき, この代数方程式が4次以 下であれば公式をもち, 5次以上であればもたないことが証明できる(アーベルの定理). この授業を通し身につけて欲しい代数学の普遍的方法は次の2つである.
1. ある対象を考察するのに, 付随する写像の集合(例えば自己同型群といった)に結び つけて行う(これはホモロジー代数につながる).
2. 数学的事象を定式化するのに, ある集合 X から別の Y への写像を構成し, その性 質(例えば全射, 単射といった)を記述する形にする(これはカテゴリー論につなが る).
これらの方法を習慣化してしまえば, ガロア理論はもはや易しい.
本文は5節からなり, 各節はいくつかの小節に分かれる. 引用の際, 例えば 3.6 節の命 題Aを命題 3.6A と呼ぶ.
1 復習ー環 , イデアル , 剰余環
この節では上の概念について復習する.
この授業を通し, 環といえば, 乗法単位元 1 を含む可換環で, 0 と異なる元を含む(同値 に0 ̸= 1 を満たす)ものをさす.
1.1 Z
のイデアル整数全体がなす環を
Z = {0, ±1, ±2, . . . }
で表す. 次はユークリッドの原理と呼ばれる. この定理と系に関して, [1, 定理 2.1, 2.2, pp. 68, 69 ]を参照のこと.
定理. n, d ∈ Z, d > 0 に対し,
n = d q + r, 0 ≤ r < d
を満たす q, r ∈ Z が1通りに存在する.
系. Z の各イデアル I は, I = (d), 0 ≤ d ∈ Z の形に1通りに表せる.
この I = (d) が素イデアル(或いは極大イデアル) ⇔ d = 0 or 素数(或いは d が素数).
1.2 K[X]
のイデアルK を体とする. K に係数を持つ文字X の多項式 f (X) = cnXn+ cn−1Xn−1+ · · · + c0, ci ∈ K 全体からなる環を, K[X] で表す. しばしば, f (X) を単に f と書く. cn ̸= 0 の場合, n = deg f と書き, これを f の次数と呼ぶ. 次は K[X] におけるユークリッドの 原理である. この定理と系に関して, [1, 定理 2.17, 2.18, pp. 89, 93] を参照のこと. 定理. g, f ∈ K[X], deg f > 0 に対し,
g = f q + r, deg r < deg f
を満たす q, r ∈ K[X] が1通りに存在する.
系. K[X] のイデアル I は必ず I = (f ), f ∈ K[X] の形をしている. (この f を 0 また はモニックに制限すると, 表し方は1通り.)
この I = (f ) が素イデアル(或いは極大イデアル) ⇔ f = 0 or 既約(或いは f が既約).
1.3
剰余環と同型定理環 R とイデアルI ( R に対し, 剰余環 R/I が構成される. これは環 R において I の 元をすべて 0 とみなして得られる環. R/I において, a ∈ R の剰余類 a + I をa と書く
(単にa で表すこともある).
例. Z/(d), 1 < d ∈ Z はd個の元0, 1, . . . , d − 1 からなる. Z/(d) における演算は, これ らの元を Z の元 0, 1, . . . , d − 1 と思って計算し, 最後にまたは途中いつでも, d の倍数を 0 とみなせばよい. ためしに Z/(5) において 43− 2 · 3 を計算せよ.
「準同型」に替えて「射(morphism)」という語を用いる. たとえば環準同型を環(の) 射と呼ぶ. 環射は 1 を 1 にうつすものとする. 環の同型定理を思い出そう. [2, 定理2.9, p. 78], [3, 定理9.7, p. 54] 等を参照せよ.
定理. 環の射 ϕ : R → S に対し, 核 Ker ϕ は R のイデアル, 像 Im ϕ は S の部分環で あって,
ϕ : R/Ker ϕ → Im ϕ, a 7→ ϕ(a)
はwell-defined, さらに環同型になる.
勝手な環 S に対し, 環射 ιS : Z → S がただひとつ存在し, それは次で与えられる.
ιS(n) = n 1 =
1 + · · · + 1 (n個の1の和) n > 0
0 n = 0
(−1) + · · · + (−1) (−n個の− 1の和) n < 0
実際, これは ιS(1) = 1 を満たすただひとつの加法群の射であり, これが積を保つことが 見てとれる.
定義. Ker ιS = (d) なる 0 ≤ d ∈ Z, d ̸= 1 を以て S の標数と呼び, 記号 ch S で表す. d = ch S とするとき, ιS が環同型ιS : Z/(d)
−→ Im ι≃ S(⊂ S) を引き起こす.
問題 1. S が整域であれば, ch S = 0 or 素数である(ことを示せ). [以下, 問題において
「ことを示せ」をしばしば省略する.]
問 題 2. 環 S の う ち, 部 分 環 ( S を 持 た な い も の を 素 環と 呼 ぶ. 素 環 は Z ま た は Z/(d), 1 < d ∈ Z のいずれかひとつに同型である.
定義. 環の部分環のうち体であるものを部分体と呼ぶ. 体K であって, 部分体( K を持 たないものを素体と呼ぶ.
命題A. (1) 体K の標数ch K は 0 または素数である.
(2) 素体 K は, ch K = 0 であれば有理数体 Q に同型, ch K = 素数p であれば有限 (個 の元からなる)体Z/(p) に同型である. この素体 Z/(p) をFp で表す.
証明. (1) これは問題1 の特別な場合として従う.
(2) ch K = 0 の場合. Ker ιK = (0), すなわち 0 ̸= n ∈ Z ならばιK(n) = n 1 ̸= 0. 従って, ιK はeιK : Q → K, eιK(m/n) = (m 1)(n 1)−1 に拡張できる. この eιK が環の射 であることは見やすい. 一般に, 体からの環の射は必ず単射(実際, 核が体の真のイデア ルゆえ (0) に等しいから) だから, Im eιK は Q と同型な K の部分体. K は素体だから K = Im eιK ≃ Q.
ch K = 素数p の場合. ιK : Z/(p) → K, n 7→ ιS(n) は環の単射. Z/(p) は体だから,
Im ιK は Z/(p) と同型な K の部分体. K は素体だから K = Im ιK ≃ Z/(p).
命題B. 体K は最小の部分体として素体を含む(これを K の素体と呼ぶ). 具体的に K の素体≃
{Q ch K = 0の場合 Fp ch K = p > 0の場合
証明. 命題A の証明から従う. 実際 ch K = 0 の場合, K をその部分体 K′ に替えて得ら れるeιK′ は(値域が K′ に替わるだけで) eιK に一致するから, K′ はIm eιK を部分体とし て含む. 従って, Im eιK(≃ Q)は K の最小の部分体である. ch K = p > 0 の場合, 同様に Im ιK(≃ Fp)が K の最小の部分体である.
問題 3. 体 K の素体を P とする. K から K 自身への環射 ϕ : K → K は P 上不変で ある, すなわち ϕ(x) = x, ∀x ∈ P が成り立つ(2.2 節で定義される用語を用いると, ϕ は P 代数射である).
2 K 代数
この節を通し, K を体とする. ガロア理論は K とそれを含む体との相対的関係を考察 する. この節ではK を含む環(K 代数と呼ばれる)を考察する. 1元生成 K 代数からの
射を多項式の根を持って記述する命題2.4 が, 以後大事になる.
2.1 K
代数の定義など定義. K を部分体として含む環を K 代数と呼ぶ.
体 か ら 環 へ の 射 ϕ : K → S は 必 ず 単 射. そ れ 故 こ れ を K の R へ の 埋 め 込 み と 呼 ぶ. R を K 代数とすると, 包含写像 K ֒→ R は埋め込みである. また環 S と埋め込み ϕ : K → S が与えられると, 各元 x ∈ K を ϕ(x) ∈ R と同一視することでK を S の部 分体と見て, S は K 代数になる. こうして, K 代数とは環 S と K の埋め込み K → S のペアのことだとしてよい. R を K 代数とする. 環の射 ψ : R → S が与えられたとき, 包含写像 K ֒→ R と ψ との合成 K ֒→ R
→ Sψ を埋め込みとしてS は K 代数になる.
特に R のイデアル I ( R に対し, 上の ψ として射影 R → R/I を採り R/I がK 代数 になることに注意しよう.
K 代数 R は, その和と, R における積 c a (c ∈ K, a ∈ R) の定めるスカラー倍によ り, K 上のベクトル空間になる. この場合, K 次元 dimKR を[R : K] と書く.
例. K[X] は K 代数. 無限個からなる 1, X, X2, . . . を基底に持つから[K[X] : K] = ∞. 上の注意から, n(> 0)次多項式
f = cnXn+ cn−1Xn−1+ · · · + c0, ci ∈ K, cn ̸= 0
に対し, K[X]/(f ) はK 代数である. 命題. この K[X]/(f ) は1, X, X
2, . . . , Xn−1 を基底に持ち,従って [K[X]/(f ) : K] = n である.
証明. 1, X, . . . , Xn−1 が K[X]/(f ) を張ることを見るため, K[X]/(f ) の勝手な元をと る. それはある g ∈ K[X] を以て g の形をしている. K[X] において g を f で割った商 をq, 余りを r = b0+ b1X + · · · + bn−1Xn−1 とすれば,
g = f q + r = r = b01 + b1X + · · · + bn−1X n−1.
1, X, . . . , Xn−1 が K 上線形独立であることを見るため, K[X]/(f ) において d01 + d1X + · · · + dn−1X
n−1 = 0, di ∈ K
とする. これは K[X]において, 多項式 d0+ d1X + · · · + dn−1Xn−1 がイデアル (f ) に
属す, すなわち f を割ることを意味する. 次数を比べて, この多項式が 0 であること, す なわち d0 = d1 = · · · = dn−1 = 0 が従う.
例. R[X]/(X2+ 1) は, X の1 次以下の多項式a + bX, a, b ∈ R から成る. 各元a + bX の表し方は1通り. 和と積はそれぞれ
(a + bX) + (c + dX) = (a + c) + (b + d)X, (a + bX)(c + dX) = ac + (ad + bc)X + bdX2
= (ac − bd) + (ad + bc)X
で 与 え ら れ る. ま た a 7→ a + 0X を 埋 め 込 み R → R[X]/(X2 + 1) に 持 つ. 高 等 学 校 で 学 ん だ 複 素 数 体 C の 定 義 と 照 ら し 合 わ せ, 虚 数 単 位 i と X を 同 一 視 す る こ と で C = R[X]/(X2+ 1) (R代数として)となる.
2.2 K
代数の同型定理R, S をK 代数とする.
定義. K 代数射ϕ : R → S とは, K 線形な環の射, 同値に ϕ(x) = x, ∀x ∈ K
を満たす環射を指す. これが更に全単射であるとき, K 代数同型と呼ばれる. この場合 ϕ−1 : S → Rも K 代数同型になる. S の部分 K 代数 とは K を含む S の部分環 T , す なわち中間環K ⊂ T ⊂ S を指す. この T 自身 K 代数になる.
次は K 代数の同型定理と呼ぶべき定理である.
定理. K 代数射ϕ : R → S に対し,核 Ker ϕはR のイデアル(̸= R),像Im ϕ はS の部 分K 代数であって,
ϕ : R/Ker ϕ → Im ϕ, a 7→ ϕ(a)
はwell-defined, さらに K 代数同型になる.
証明. 定理1.3 から, あと (i) Im ϕ が K を含むこと, (ii) ϕ が K の各元を保つこと, を 示せばよい. (i) は ϕ が K の各元を保つことから, (ii) は次から従う. 任意の x ∈ K に 対し, ϕ(x) = ϕ(x) = ϕ(x) = x.
K 代数射 ϕ : R → S 全体の集合を AlgK(R, S) と書く. 続く 3 小節において, R が多 項式環またはその剰余環の場合に, 集合 AlgK(R, S) を記述する.
2.3 1
元生成K
代数S をK 代数とする.
元 a ∈ S を固定する. 各多項式 f (X) = cnXn+ cn−1Xn−1+ · · · + c0 に, X に a を
代入して得られるf (a) = cnan+ cn−1an−1+ · · · + c0 を対応させる写像を
λa : K[X] → S, λa(f (X)) = f (a)
と書く(記号 λ は「代入」の「入」の連想). この λa はK 代数射, 従ってその像 Im λa = {f(a) ∈ S | f(X) ∈ K[X]}
はS の部分 K 代数になる. これを K[a] で表す. これは a を含む S の最小の部分 K 代 数として特徴付けられる.
定義. Ker λa = (0)の場合, aはK 上超越的であるという. Ker λa ̸= (0)の場合, aはK 上代数的であるという. この場合, Ker λa = (pa) を満たすモニックな多項式 pa ∈ K[X] が一意的に定まる. この pa をa の K 上の最小多項式と呼ぶ. これはf (a) = 0 を満たす 最小次数のモニック多項式 f (X) ∈ K[X]として特徴付けられる. 次数 deg pa をa の K
上の次数 と呼ぶ.
問題 4. 虚数単位 i ∈ C の Q 上, R 上, C 上次数をすべて言え.
AlgK(K[X], S)を記述しよう. 各 ϕ ∈ AlgK(K[X], S)は値 ϕ(X)だけで決まり, また どんな S の元に対しても, それを値 ϕ(X) にもつ ϕ ∈ AlgK(K[X], S) が存在する. この 事実は次のように定式化できる.
命題. ϕ 7→ ϕ(X) が全単射 AlgK(K[X], S)
−→ S≃ を与える.
問題 5. 次を示すことにより, この命題を証明せよ. ϕ 7→ ϕ(X) と a 7→ λa が互いに逆写
像である. すなわち
(1) ϕ ∈ AlgK(K[X], S)に対し a := ϕ(X) ∈ S とおくと λa = ϕ, (2) a ∈ S に対し ϕ := λa ∈ AlgK(K[X], S) とおくと ϕ(X) = a.
2.4
多項式の根S をK 代数とする. 定数でない多項式f ∈ K[X] を1つ固定する.
定義. f (a) = 0 を満たす元 a ∈ S を, S におけるf の根または解 (solution) と呼び, そ の全体の集合を Sol(f ; S)で表す. すなわち Sol(f ; S) := {a ∈ S | f(a) = 0}.
この集合を用いて AlgK(K[X]/(f ), S) が記述できる.
命題. ϕ 7→ ϕ(X) が全単射AlgK(K[X]/(f ), S) −→ Sol(f; S)≃ を与える. 問題 6. 次を示すことにより, この命題を証明せよ.
(1) a ∈ Sol(f; S) ならば, λa : K[X] → S はイデアル (f ) を零化し, 従ってK 代数射 K[X]/(f ) → S, g 7→ g(a) を引き起こす. この代数射も λa と書こう.
(2) ϕ ∈ AlgK(K[X]/(f ), S) に対し, a := ϕ(X) とおくと a ∈ Sol(f; S) でありλa = ϕ.
(3) a ∈ Sol(f; S) に対しϕ := λa ∈ AlgK(K[X]/(f ), S) とおくと ϕ(X) = a. 問題 7. 次の各集合を決定せよ.
(i) AlgQ(Q[X]/(X4− 1), C) (ii) AlgQ(Q[i], C) (iii) AlgQ(Q[i], C × C)
一般に, 環 S1, S2 に対し直積集合 S1× S2 は成分ごとの演算で環になる. S1, S2 が更 にK 代数の場合, 環射 K → S1× S2, a 7→ (a, a) を埋め込みとして S1× S2 はK 代数
になる. 前問題(iii)において C × C はこの方法で Q 代数と見る.
2.5
有限生成K
代数K に係数を持つ n(> 0) 文字 X1, . . . , Xn の多項式全体からなる環を K[X1, . . . , Xn] で表す. これは更にK 代数である. S をK 代数とする.
n個の S の元の組 a = (a1, . . . , an) ∈ Sn を固定するとき,文字 X1, . . . , Xn のそれぞ れに a1, . . . , an を代入する
λa : K[X1, . . . , Xn] → S, f(X1, . . . , Xn) 7→ f(a1, . . . , an)
はK 代数射である. これの像
Im λa= {f(a1, . . . , an) ∈ S | f(X1, . . . , Xn) ∈ K[X1, . . . , Xn]}
をK[a1, . . . , an] と書く.
定義. K[a1, . . . , an] = S の場合, S は n元 a1, . . . , an で (K 上) 生成されるという. 有 限個の元で生成される K 代数を有限生成 K 代数と呼ぶ.
問題 8. 1 元生成 K 代数は, K[X] または K[X]/(f ), deg f > 0 のいずれかに同型で ある.
次は命題 2.3の一般化である. 問題5 の方法と同様にして証明できる.
命題. ϕ 7→ (ϕ(X1), . . . , ϕ(Xn)) が全単射AlgK(K[X1, . . . , Xn], S)−→ S≃ n を与える.
3 体拡大
この節では体拡大(定義はすぐ下)を考察する. ガロア理論を, 自己同型群でコントロー ルできる種類の代数体拡大を特徴づける理論と見ることもできる. その第1の特徴が 3.6 節で論じる分離的という性質である(もう一つの特徴は 4.1 節でみる正規拡大なる性質). 有限次分離拡大を特徴づける定理3.6 がこの節の最重要定理である.
3.1
拡大次数定義. L が体, K ⊂ Lが部分体であるとき, L は K の拡大体 である, L/K は体拡大 で あるという. この場合, Lは特にK 代数であるから,これにこれまでの議論が適用できる. 例えば K 次元 [L : K] が定義される. [L : K] をL/K の拡大次数と呼ぶ. これが有限か 無限かに従い, L/K は有限次拡大, 無限次拡大であるという.
例. [C : R] = 2. また, 1 変数有理関数体, すなわち K[X] の商体 K(X) = {f/g | f, g ∈ K[X], g ̸= 0}
はK の無限次拡大体.
L/M/K が 体 拡 大, つ ま り L/M , M/K が と も に 体 拡 大 の と き, M を L/K の 中 間 体と呼ぶ. この場合, 次が成り立つ.
定理. (aλ)λ∈Λ を L のM 基底, (bγ)γ∈Γ をM のK 基底とすると, (aλbγ)λ∈Λ,γ∈Γ は L のK 基底になる. 従って次の等式が成り立つ.
[L : K] = [L : M ] [M : K]
証明. 一般に体 K 上のベクトル空間V において, 元からなる系 (vλ)λ が基底であるため の必要十分条件は, 写像
·(vλ) :
⊕
λ
Kλ → V, (cλ) 7→∑
λ
cλvλ
が全単射であること. ここに Kλ = K(のコピー). 有限和
∑
λcλvλ が内積 (cλ) · (vλ) と
見なせることからこの写像を·(vλ) と記す. 従って定理の状況で, 次の2つの全単射を得る.
·(aλ) :
⊕
λ
Mλ −→ L, M≃ λ = M,
·(bγ) :
⊕
γ
Kγ −→ M, K≃ γ = K.
第2の全単射の λ に関するコピー ·(bγ) :
⊕
γKγλ
−→ M≃ λ (Kγλ = K, Mλ = M ) の直
和
⊕
λ を第1の全単射と合成して, 全単射
⊕
λ,γ
Kγλ =⊕
λ
⊕
γ
Kγλ −→≃
⊕
λ
Mλ −→ L≃
を得る. これが ·(aλbγ) と一致することが見て取れるから, (aλbγ)λ,γ が L の K 基底で ある.
問題 9. [L : K] =素数ならば, L/K はL, K よりほかに中間体を持たない.
3.2
有限生成体拡大,
特に単拡大L/K を体拡大とする. L の元 a1, . . . , an をすべて含むような L/K の最小の中間体を K(a1, . . . , an) と書き, K に a1, . . . , an を添加した体と呼ぶ. これは L の部分 K 代数 K[a1, . . . , an] の商体に等しい.
定義. L の有限個の元 a1, . . . , an が存在して, L = K(a1, . . . , an) となるとき, L/K は 体拡大として有限生成であるという. 特に 1 元生成体拡大 K(a)/K を単拡大と呼ぶ. 問題 10. Lが体であれば, 多項式 f ∈ L[X] に対し
因数定理. f がL のうちに相異なる根 a1, . . . , an を持てば, f = (X − a1) . . . (X − an) g
を満たす g ∈ L[X] がただ1つ存在する.
が成り立つことを証明し, 不等式
#Sol(f ; L) ≤ deg f
を導け.
定理. K(a)/K を体の単拡大とする.
(1) a が K 上超越的ならば, X 7→ a なる K 代数同型 K(X)−→ K(a)≃ が存在する. (2) a が K 上代数的ならば, K(a) = K[a]. 拡大次数 n := [K(a) : K] は a の K 上の次 数に一致し, 1, a, a2, . . . , an−1 が K(a) の K 基底を与える. また任意の体拡大 L/K に 対し, 不等式
#AlgK(K(a), L) ≤ n
が成り立つ.
証明. (1) a の超越性から, λa : K[X] → K[a] はK 代数同型になる. これは双方の商体 の間の K 代数同型 K(X)
−→ K(a), f(X)/g(x) 7→ f(a)/g(a)≃ に拡張される.
(2)最小多項式pa の定義2.3から, K 代数全射 λa : K[X] → K[a]の核は, aのK 上 最小多項式 pa が生成するイデアル (pa). 定理2.2 から K 代数同型
K[X]/(pa)−→ K[a], f(X) 7→ f(a)≃
が引き起こされる. K[a]は(体K(a)の部分)整域ゆえ,定理1.2の系からpa は既約,従っ て再び系からK[X]/(pa) は体. これと同型な K[a]はすでに体になるから, K(a) = K[a]. 命題2.1 から K[X]/(pa) の K 次元 n は deg pa (すなわち a の K 上次数)に一致し, K[X]/(pa) は1, X, . . . , Xn−1 を基底にもつ. 上の同型から [K(a) : K] = aのK 上次数 で, K(a) は 1, a, . . . , an−1 を基底にもつ. 命題2.3 と問題10 から
#AlgK(K(a), L) = #AlgK(K[X]/(pa), L) = #Sol(pa; L) ≤ deg pa = n.
問題 11. 体拡大 L/K において, K 上代数的な元 a ∈ Lの K 上最小多項式 pa は, a を 根にもつモニック既約多項式∈ K[X] と同義になる.
例. a =
√3
2 ∈ C とおく. 多項式 X3 − 2 は a を根にもち, 下記のアイゼンシュタイン 判 定 法 か ら Q 上 既 約. 従 っ て a の Q 上 最 小 多 項 式 は X3 − 2 に 等 し く, Q 代 数 同 型 λa : Q[X]/(X3− 2)−→ Q(a), X 7→ a≃ を得る. この同型を通しQ(a) をQ[X]/(X3− 2)
と同一視し, 命題 2.4 を適用する. ω = (−1 +√−3)/2 とおくと Sol(X3− 2; C) = {a, a ω, a ω2} だから, AlgQ(Q(a), C) は3つの K 代数射からなり, それらは
a 7→ a, a 7→ a ω, a 7→ a ω2 で決まる. このうち最初の K 代数射は恒等射である.
アイゼンシュタインの既約判定法 ([1,定理2.25, p.101] 参照). 整係数多項式 f = cnXn+ cn−1Xn−1+ · · · + c0, ci ∈ Z, n > 0
に対し, 素数 p で
p ∤ cn, p | ci (0 ≤ i < n), p2 ∤ c0 を満たすものが存在すれば, f は Q[X] において既約である.
例. 上 の 例 を 一 般 化 す る た め, p を 素 数, n を 正 整 数 と し, ζ = exp(2πi/n) ∈ C と お く. √np の Q 上 最 小 多 項 式 は Xn − p, し た が っ て Q(√np)/Q は n 次 拡 大, ま た AlgQ(Q(√np), C) は
√n
p 7→ √np ζk, 0 ≤ k < n で決まる n 個の K 代数射からなる
3.3
代数体拡大定義. 体拡大L/K が代数的である, または代数拡大であるとは, L のすべての元が K 上 代数的であるときにいう.
定理A. 体拡大L/K に対し, 次の3条件は互いに同値である. (a) L/K が有限次拡大.
(b) L/K が有限生成代数拡大.
(c) ある有限個の K 上代数的元a1, . . . , an ∈ L に対し L = K(a1, . . . , an).
証明. (a) ⇒ (b). 条件 (a) のもと L/K が有限生成であることを示すため, 次の操作をす る. L = K の場合, L は K 上空集合で生成されるから何もしなくてよい. L ) K なら, 元a1 ∈ L \ K を勝手に選ぶ. L ⊃ K(a1) ) K から
[L : K] ≥ [K(a1) : K] > [K : K] = 1.
L = K(a1) なら操作終わり. L ) K(a1) なら, 元 a2 ∈ L \ K(a1) を選ぶ. すると [L : K] ≥ [K(a1, a2) : K] > [K(a1) : K] > 1
を得る. L ) K(a1, a2) なら, 操作を続け [L : K] ≥ [K(a1, a2, a3) : K] > [K(a1, a2) : K] > [K(a1) : K] > 1 を得るが, この操作は有限回 (n回とすると n < [L : K])で終わ りL = K(a1, . . . , an).
L/K が代数拡大であることを示すため, 勝手な元 a ∈ L をとると, [K(a) : K] ≤ [L : K] < ∞. 定理3.2 から a は K 上代数的である.
(b) ⇒ (c). これは自明.
(c) ⇒ (a). K0 = K, ま た 0 < r ≤ n に 対 し Kr = K(a1, . . . , ar) と お く. 特 に L = Kn である. Kr = Kr−1(ar) に注意. ar は K 上代数的だから, Kr−1 上代数的. 定 理3.2 から [Kr : Kr−1] < ∞. 定理3.1 から
[L : K] = [Kn : Kn−1] [Kn−1 : Kn−2] . . . [K1 : K0] < ∞.
問題 12. 単拡大 K(a)/K に対し, 次の3条件が互いに同値であることを示せ.
(a) K(a)/K が有限次拡大. (b) K(a)/K が代数拡大.
(c) a は K 上代数的である. 系 1. 体拡大 L/K において,
M := {a ∈ L | aはK 上代数的}
は中間体であり, かつそのうち K 上代数的であるような最大のもの.
証明. M がL/K の中間体であることを示す. 残りは易しい. 明らかに M ⊃ K だから, あとM がLの部分体であるのを示すため,任意のa, b ∈ M に対し3元 a−b, ab, a−1 が M に属すことを見る. (元 a−1 に関しては a ̸= 0 と仮定する.) 定理A から, K(a, b)/K は (条件(c) を満たすから) 代数拡大. よって K(a, b) ⊂ M. 問題の3元は K(a, b) に属 すから, M にも属す.
系 2. 体拡大 L/M/K に対し, 次は同値である. (a) L/K が代数的.
(b) L/M, M/K がともに代数的. 証明. (a) ⇒ (b). これは易しい.
(b) ⇒ (a). 定 理 3.2 か ら, 任 意 の a ∈ L に 対 し [K(a) : K] < ∞ を 示 せ ば よ い. a の M 上 最 小 多 項 式 の 係 数 の す べ て を c0, . . . , cn−1 ∈ M と す る. 定 理 A か ら K := K(ce 0, . . . , cn−1) は K 上 有 限 次. a は Ke 上 代 数 的 だ か ら, 定 理 3.2 か ら [ eK(a) : eK] < ∞. これら2つから
[K(a) : K] ≤ [ eK(a) : K] = [ eK(a) : eK] [ eK : K] < ∞.
問題 13. 代数体拡大 L/K に対し, 「L の部分 K 代数」と「L/K の中間体」は同義語 になる.
定理B. L/K を有限次体拡大とすると, 任意の体拡大 Ω/K に対し
#AlgK(L, Ω) ≤ [L : K].
証明. まず定理A から, LはL = K(a1, . . . , an) の形をしている. nに関する帰納法で定 理Bを示す. n = 1 の場合は定理3.2 (2) に他ならない. M = K(a1, . . . , an−1) とおく. L = M (an) となる. また帰納法の仮定から,
#AlgK(M, Ω) ≤ [M : K].
制限写像
res : AlgK(L, Ω) → AlgK(M, Ω), σ 7→ σ|M
について考えよう. τ ∈ AlgK(M, Ω) の逆像
res−1(τ ) = {σ ∈ AlgK(L, Ω) | σ|M = τ }
は集合
AlgM(L, (Ω, τ ))
に一致する. ただし (Ω, τ ) は, Ω を埋め込み τ : M → Ω により M 代数と見たものを表 す. n = 1 の場合の結果を L = M (an)/M に適用したものと合わせ,
#res−1(τ ) ≤ [L : M].
AlgK(L, Ω) は res−1(τ ) の τ ∈ AlgK(M, Ω) 全 体 を わ た る 直 和 集 合 (disjoint uinion)
∪
τres−1(τ ) に等しいから,
#AlgK(L, Ω) =∑
τ
res−1(τ ) ≤ [L : M] [M : K] = [L : K].
問題 14. L/K を代数拡大, M1, M2 をその中間体とするとき, 次を示せ.
(1) 勝手な元 a ∈ M1, b ∈ M2 の積 ab ∈ L の有限和全体からなる集合を M1M2 と書 く. これは, M1, M2 を含む L/K の最小の中間体である. これを M1 と M2 の合成体と 呼ぶ.
(2) 拡 大 次 数 [M1 : K], [M2 : K] が と も に 有 限 で 互 い に 素 で あ れ ば, [M1M2 : K] = [M1 : K] [M2 : K].
問題 15. 拡大次数 [Q(
√3
2, ω) : Q] を求めよ.
3.4
代数閉包補題. 体 Ω に対し, 次の4条件は同値である. これらが満たされるとき, Ω を代数閉体と 呼ぶ.
(a) 各f ∈ Ω[X], deg f > 0 がΩ のうちに根を持つ.
(b) 各f ∈ Ω[X], deg f > 0 がΩ[X] において1次式の積に分解する.
(c) Ω[X] における既約多項式は1次式に限る.
(d) Ω の代数体拡大は Ω自身に限る.
証明. (a) ⇒ (b). (a) の仮定のもと, (b) が成り立つことを deg f に関する帰納法で示す. deg f = 1 の 場 合, 自 明. deg f > 1 の 場 合, a ∈ Ω を f の 根 と す れ ば, 因 数 定 理 か ら f = (X − a) g を満たす g ∈ Ω[X]が存在する. この g に帰納法の仮定を適用すればよい. (b) ⇒ (c). 自明.
(c) ⇒ (d). L/Ω を代数拡大とし, L ⊂ Ω を示すため, 元 a ∈ L を勝手に選ぶ. (c) よ り, a のΩ 上最小多項式は1次. 従って a ∈ Ω.
(d) ⇒ (a). f ∈ Ω[X], deg f > 0がΩ のうちに根を持つことを示すのに, f を(その既 約因子に替えて)既約としてよい. すると, Ω[X]/(f ) は Ω の代数拡大体になるから, (d) より Ω に一致. 従ってdeg f = 1 となり, f は Ω のうちに根を持つ.
例. 後述するように C は代数閉体である. しかし, R, Q はそうでない(X2+ 1 が R[X] において, 従って Q[X] において既約だから).
定義. K の代数拡大体 Ω で代数閉体であるものを, K の(1つの)代数閉包と呼ぶ. 問題 16. 有限体, すなわち有限個の元からなる体は, 代数閉体でないことを示せ. 命題. Ω/K が体拡大で, Ω が代数閉体であれば,
K := {a ∈ Ω | aはK 上代数的}
はK の(1つの)代数閉包である.
証明. 定理3.3A の系1 から, K/K は代数体拡大. あと K が代数閉体であること, すな わち任意の多項式 f ∈ K[X], deg f > 0 が K のうちに根をもつこと(前補題条件 (a)) を示せばよい. f は Ω のうちに根 a をもつ. K(a)/K は代数拡大. 最初の結果と合わせ ると, 定理3.3A の系2 から K(a)/K は代数拡大, よって a ∈ K.
例. Q := {代数的数,すなわちQ上代数的な複素数} は Qの代数閉包である.
定理. 体 K の 代数閉包が K 代数同型を除きただ1つ存在する. 以後これを K で表す (定理が主張する一意性は, eK を K の別の代数閉包とすると, K 代数同型 K ≃ eK が存 在するということ).
証明はやや長いので省略する. 例えば [3, 定理29.13, p. 172] の証明を見られたい. 系. 代数拡大 L/K はK に埋め込める. すなわち K/K の中間体 L′ でK 代数としてL と同型なものが存在する.
証明. L の代数閉包 Ω をとると, 問題17(の解答)から, これは K の代数閉包でもあ る. K の代数閉包の一意性から, K 代数同型 ϕ : Ω
−→ K≃ が存在する. ϕ(L) をL′ とせ
よ.
規約. この系により, 代数拡大 L/K は必ず K/K の中間体であるとしてよい. 今後常に そうする.
問題 17. L/K が代数拡大であれば L = K である.
3.5
分解体K を体とする. 各 f ∈ K[X], deg f > 0 はK[X] において1次式の積として f = c
∏n i=1
(X − ai), 0 ̸= c ∈ K, ai ∈ K
の形に1通りに分解し, K において重複度を込めちょうど n = deg f 個の根 a1, . . . , an を持つ.
定義. K の拡大体 L が f の根 a1, . . . , an を含むとき, L を f の分解体と呼ぶ. そのう ち最小の K(a1, . . . , an)(⊂ K) をf の最小分解体と呼ぶ.
例. C は R 上X2+ 1の最小分解体である. 問題 18. Q(
√3
2, ω) はQ 上 X3− 2の最小分解体である.
3.6
分離体拡大K を体とする. 定義. 多項式
f = cnXn+ cn−1Xn−1+ · · · + c0 ∈ K[X] の導分 f′ (∈ K[X]) を
f′ = n cnXn−1+ (n − 1)cn−1Xn−2+ · · · + c1
により定義する.
問題 19. f, g, h ∈ K[X], a ∈ K とする. 次を示せ. (1) (f + g)′ = f′+ g′, (a f )′ = a f′
(2) (f g)′ = f′g + f g′
(3) f = (X − a)2h の場合 f′ = (X − a) {2h + (X − a) h′} 補題A. 多項式f ∈ K[X], deg f > 0 に対し, 次は同値である.
(a) f は K において重根を持たない(前小節の f の表示で a1, . . . , an が相異なる). (b) f と f′ とが K[X]において互いに素である.
証明. (a) ⇒ (b). 対 偶 を 示 す た め, f と f′ が 素 で な い と す る と, こ れ ら は (共 通 因 子 の 根 と し て) 共 通 根 a ∈ K を も つ. f = (X − a) g, g ∈ K[X] と 書 け る が, f′ = g + (X − a) g′, f′(a) = 0 より, g(a) = 0. 従って a は f の重根になる.
(b) ⇒ (a). (b)を仮定すると, ある g, h ∈ K[X]に対し, 等式 f g + f′h = 1 が成り立 つ. (a) に反し f が重根a ∈ K をもつとすると,問題19(3) から f′(a) = 0 となるが, こ れは上の等式と矛盾する.
定義. f を K[X] における既約多項式とする. f が分離的であるとは, f が K において 重根を持たない, 同値に f′ ̸= 0 を満たすときにいう(同値性は, f が既約の場合, 上の条 件(b) ⇔ f ∤ f′ ⇔ f′ ̸= 0から従う). 分離的でないとき, 非分離的であるという. 命題A. (1) ch K = 0 ならば, すべての既約多項式∈ K[X] は分離的である.
(2) ch K = p > 0 の場合, 既約な f ∈ K[X] が非分離的であるためには, ある g ∈ K[X] に対しf (X) = g(Xp) が成り立つことが必要十分である.
証明. 次 数 n > 0 の 多 項 式 f = cnXn + · · · + c0 ∈ K[X], cn ̸= 0 の 導 分 f′ = n cnXn−1+ · · · + c1 が 0 になるための必要十分条件を求める.
(1) ch K = 0 ならば, K において n 1 ̸= 0, よって n cn ̸= 0. 従って f′ = 0 とはなり 得ず (1) が従う.
(2) ch K = p > 0 とする. 0 < r ∈ Z とするとき, K において r 1 = 0 が成り立つた めの必要十分条件は p | r. 従って求めるべき条件は, p ∤ r なる 0 < r ≤ n に対し cr = 0
が成り立つこと,すなわちある g ∈ K[X]に対しf (X) = g(Xp) が成り立つこと. これよ り(2) が従う.
一般の多項式 f ∈ K[X], deg f > 0 が分離的であるとは, その K[X] における各既約 因子が分離的であるときにいう. この場合も分離的でないとき, 非分離的であるという. 定義. 元 a ∈ K が K 上分離的であるとは, その K 上最小多項式 pa が分離的であると きにいう. 代数体拡大L/K が分離的である, または分離拡大であるとは, L のすべての元 が K 上分離的であるときにいう. この場合も分離的でないとき, 非分離的である, 非分離 拡大であるという.
定義. 体K が完全体であるとは, K/K が分離拡大であるときにいう. 問題 20. 完全体の代数拡大体はまた完全体である.
命題B. (1) 標数ゼロの体はすべて完全体である.
(2) 標数 p > 0 の体 K が完全体であるための必要十分条件は, K = Kp, すなわち各元 a ∈ K に対しa = bp を満たす元 b ∈ K が(必然的にただ1つ)存在することである. 証明. (1) これは命題A(1) から従う.
(2) 必要性. a ∈ K に対し, f := Xp − a ∈ K[X] の K における1つの根 b をとる. f = (X − b)p に注意([1, 定理2.15, p.84], 問題 21 参照)すると, b の K 上最小多項式 pb (f を割る) が重根をもたないために pb = X − b でなければならず, b ∈ K, よって a = bp ∈ Kp.
十分性. K = Kp と仮定し, K[X] の既約多項式がすべて分離的であることを示せば
よ い. こ れ に 反 し, 非 分 離 的 既 約 な f ∈ K[X] が 存 在 し た と す る. 命 題 A(2) か ら, あ る g = cnXn+ · · · + c0 ∈ K[X] に対し f (X) = g(Xp). 仮定を用い, ci = bpi を満たす bi ∈ K を選び h = bnXn+ · · · + b0 とおけば, f (X) = g(Xp) = h(X)p. これは f の既 約性に反す.
系. 有限体はすべて完全体である.
証明. K を有限体とする. ch K =素数p となる. 問題21から p乗射: K → K, a 7→ ap は環の射. K が体だから必然的に単射. K が有限だから全射, すなわち K = Kp. 命題 B(2)から, K は完全体.
例. ch K = p > 0 の場合K(X) は完全体でない. これは, X /∈ K(X)p より命題B(2) か ら従う. あるいは, 文字 Y を Yp = X となるように定めると K(Y )/K(X) が(p 次)非 分離拡大である(これを確かめるため, Y のK(X) 上最小多項式が, T の非分離的多項式 Tp− X であることを示せ) としてもよい.
問題 21. ch K = p > 0 の場合, p 乗射またはフロベニウス射 Fr : K → K, x 7→ xp
はFp 代数射である(前命題(2) の条件 K = Kp はこの射が同型であることに同値). 次の定理はたいへん重要である.
定理. 有限次体拡大 L/K に対し, 次の3条件は同値である. (a) L/K は分離拡大である.
(b) K 上分離的な L の元 a でL = K(a) を満たすものが存在する.
(c) #AlgK(L, K) = [L : K]. (一般には不等号 ≤ が成り立つのみ. 定理 3.3 参照.)
この定理の証明に次の2つの補題を用いる. 補題B. 元a ∈ K に対し次は同値である.
(a) a が K 上分離的である.
(b) #AlgK(K(a), K) = [K(a) : K].
証明. 命題2.4 から (b)の式の左辺= #Sol(pa; K). また, 右辺 = deg pa. (a) ⇔ 前2式 の右辺が一致 ⇔ (b).
補題C. 有限次体拡大 L/M/K に対し次は同値である. (a) #AlgK(L, K) = [L : K].
(b) #AlgK(M, K) = [M : K] かつ #AlgM(L, K) = [L : M ]. 証明. 定理3.3Bの証明から,
AlgK(L, K) =∪
τ
AlgM(L, (K, τ )).
ここで, 右辺の
∪
τ は τ ∈ AlgK(M, K) 全体をわたる直和集合(disjoint union)を表し, (K, τ ) は K を埋め込み τ により M 代数と見たものを表す. 問題17 から τ (M ) = K. τ を通し M と τ (M ) を同一視する. M = τ (M ) の代数閉包の一意性から, K 代数同 型 ρ : K = M
−→ τ(M) = K≃ で ρ|M = τ を満たすものが存在する. σ 7→ ρ ◦ σ が全 単射 AlgM(L, K)
−→ Alg≃ M(L, (K, τ )) を与え, 従ってこれら2つの集合の個数は一致す る. 最初の等式と合わせ,
#AlgK(L, K) = #AlgM(L, K) #AlgK(M, K).
これと等式 [L : K] = [L : M ] [M : K],3つの不等式
#AlgK(L, K)≤ [L : K], #AlgM(L, K) ≤ [L : M], #AlgK(M, K) ≤ [M : K]
からこの補題が従う.
定 理 の 証 明. (b) ⇒ (a). 補 題B に よ り, 勝 手 な 元 b ∈ L に 対 し, #AlgK(K(b), K) = [K(b) : K] を示せばよい. 定理の条件 (b) から補題B (b) の等式が成り立つ. 補題C か ら満たすべき等式を得る.
(a) ⇒ (c). 定 理 3.3A か ら, L は L = K(a1, . . . , an) の 形. 有 限 次 分 離 拡 大 L/K が (c) を 満 た す こ と を, n に 関 す る 帰 納 法 で 示 す. n = 1 の 場 合, 補 題 B か ら OK.
M = K(a1, . . . , an−1)とおくと, 帰納法の仮定から,
#AlgK(M, K) = [M : K].
an は M 上分離的だから, 補題Bを L = M (an)/M に適用でき
#AlgM(L, K) = [L : M ]
を得る. これら2つの等式と補題C から条件 (c) の等式が従う.
(c) ⇒ (b). K が有限体の場合. L も有限体. 後に補題4.3 で見るように, L の乗法群 L \ {0} は巡回群. a をその生成元とすると, L = {0} ∪ {1, a, a2, . . . }, 従ってL = K(a). K が無限体の場合. 再び定理3.3A から, L は L = K(a1, . . . , an) の形. (c) を満たす L/K が (b) を満たすことを, n に関する帰納法で示す. n = 1の場合, 補題B, (b) ⇒ (a) を適用すればよい. n > 1 の場合, M = K(a1, . . . , an−1) とおく. 補題C から M/K に 帰 納 法 の 仮 定 を 適 用 で き, M = K(b) を 満 た す 元 b ∈ M が 存 在 す る. c = an と お く.
AlgK(L, K) の元すべてを(重複がないように)書き出したものを
σ1, . . . , σr, r = [L : K]
とすると, (σi(b), σi(c)) は i ごとに相異なる. K 無限体の仮定より, σi(c) ̸= σj(c) なる いかなる i, j に対しても, (σi(b) − σj(b))/(σj(c) − σi(c)) ̸= t となるような元 t ∈ K を 選べる. すると
σi(b + t c), 1 ≤ i ≤ r
はi 毎に相異なる. a = b + t c ∈ L とおくと, これは次を示している.
#AlgK(K(a), K) ≥ r = [L : K]
左辺 ≤ [K(a) : K] ≤ 右辺だから, 3つの不等号は等号に替わり, 特に [L : K] = [K(a) : K], よって L = K(a).
問題 22. Q(
√3
2, ω) = Q(a) を満たす元 a を1つ求めよ. 命題C. 代数体拡大 L/M/K に対し, 次は同値である.
(a) L/K が分離的.
(b) L/M, M/K がともに分離的.
証明. (a) ⇒ (b). これは易しい. 問題20 の解答参照.