2重テンソル積からの線形射に関する先の語法を n 重テンソル積に一般化して用いる. 問題 36. v1⊗v2⊗v3 7→(v1⊗v2)⊗v3 およびv1⊗v2⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) がそれぞ れ線形同型V1⊗V2⊗V3 −→≃ (V1⊗V2)⊗V3,V1⊗V2⊗V3 −→≃ V1⊗(V2⊗V3) を与える. 上の2つの同型を合成して, 線形同型
(V1⊗V2)⊗V3 −→≃ V1⊗(V2⊗V3), (v1⊗v2)⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) が得られる. より一般に, 例えば
(V1⊗V2)⊗(V3⊗V4)−→≃ V1⊗(V2⊗V3)⊗V4, (v1⊗v2)⊗(v3⊗v4)7→v1⊗(v2⊗v3)⊗v4 のように, 同じV1, . . . , Vn から多重テンソル積を繰り返し用いて構成されるベクトル空間 の間に自然な線形同型が存在する. 問題33 に与えたものに加えこれらすべても標準的同 型と呼ぶ.
線形射 fi :Vi →Vi′, 1≤i ≤nの n 重テンソル積
f1⊗ · · · ⊗fn :V1⊗ · · · ⊗Vn →V1′⊗ · · · ⊗Vn′, v1⊗ · · · ⊗vn7→f1(v1)⊗ · · · ⊗fn(vn) が定義される. 各 fi が同型ならば f1⊗ · · · ⊗. . . fn もそう.
A⊗A τA,A≃ //
mA
""
FF FF FF FF
F A⊗A
mA
||xxxxxxxxx
A
.
ここで, また今後も, 名前のない同型はすべて標準的同型であり, τA,A はひねり射を表す. 証明. 第1の図式の可換性を示そう. 射はすべて和を保ち, (A⊗A)⊗Aの元は(a⊗b)⊗c, a, b, c∈ A, の形の元の和だから, この形の元の行き先が, 2通りの行き方で一致すること をみればよい. 実際に行き先をたどり,
(a⊗b)⊗c7→ab⊗c7→(ab)c,
(a⊗b)⊗c7→a⊗(b⊗c)7→a⊗bc 7→a(bc).
A が満たす結合律により, (ab)c=a(bc). こうして行き先は確かに一致する.
同様に, 1が A の単位元であることから第2の図式の可換性が, A における積の可換性 から第3の図式の可換性が従う.
問題 37. 逆に, ベクトル空間 A̸= 0 と線形射mA :A⊗A→A, iA :K →A が上の可 換図式すべてをみたせば, A は ab = mA(a⊗b) を積, iA(1) を単位元として環を, 更に iA をK の埋め込みとしてK 代数になる.
以上より, 問題37 にいうようなトリプル (A, mA, iA) を以てK 代数と呼んでよい. 命題B. (A, mA, iA), (B, mB, iB) を K 代数とするとき,テンソル積 A⊗B は
mA⊗B : (A⊗B)⊗(A⊗B)−→≃ A⊗(B⊗A)⊗Bid⊗τ−→B,A⊗idA⊗(A⊗B)⊗B
−→≃ (A⊗A)⊗(B⊗B)mA−→⊗mB A⊗B, mA⊗B((a⊗b)⊗(a′⊗b′)) =aa′⊗bb′ を積,
iA⊗B :K −→≃ K⊗K iA−→⊗iB A⊗B, iA⊗B(x) =x⊗1(= 1⊗x)
をK の埋め込みとしてK 代数をなす. これを K 代数(として)のテンソル積と呼ぶ. 証明. 積の定義から, A⊗B は分配律をみたし,iA⊗B は和を保つ. あと, 積の結合律,可換 性, 単位元の存在,iA⊗B は積と1を保つことを見ればよい. 積A⊗B×A⊗B→A⊗B
は双線形だから, 結合律(αβ)γ =α(βγ)を示すのに,α =a⊗b, β =a′⊗b′, γ =a′′⊗b′′
としてよく, この場合, A, B における結合律を用いて
(αβ)γ = (aa′⊗bb′)(a′′⊗b′′) = (aa′)a′′⊗(bb′)b′′
=a(a′a′′)⊗b(b′b′′) = (a⊗b)(a′a′′ ⊗b′b′′) =α(βγ)
と求めるべき結合律が従う. 同様にして, 1⊗1 が単位元であること, また残りも確かめら れる.
定義. C をK 代数とし,A, Bをその部分K 代数とする. 双線形射A×B→C, (a, b)7→
ab (C における積) が引き起こす線形射
µ:A⊗B→C, µ(a⊗b) =ab
がK 代数のテンソル積A⊗B から C への K 代数射であることが容易に確かめられる. この µ が単射であるとき, A とB はC において K 上線形無関連であるという.
問題 38. µ が単射 ⇔ µ′ : B⊗A → C, µ′(b⊗a) = ba が単射. こうして線形無関連性 は, 考える部分 K 代数の順によらない.
例. 2変数多項式環 K[X, Y] において, 部分 K 代数 K[X], K[Y] は K 上線形無関連で ある.
上の定義の状況で(しかし線形無関連性は仮定せず), K 代数射 µ : A⊗B → C の像 µ(A⊗B) をAB と書く. これは, 有限和 ∑
i aibi (ai ∈A, bi ∈B) の形の元全体からな り, A, B を含む C の最小の部分 K 代数に一致する. 従って, 問題14 に与えた代数体 拡大における合成体の記法に一致する. ここで問題13 から, 代数体拡大 L/K において,
「L の部分 K 代数」と「L/K の中間体」が同義であることを思い出そう.
命題C. 同じ状況の下, A, B の K 次元 dimKA, dimKB はともに有限であるとすると, (1) dimKAB も有限で, dimKAB ≤(dimKA)(dimKB).
(2) A と B が K 上線形無関連 ⇔ dimKAB = (dimKA)(dimKB).
証明. K 代数の(というよりベクトル空間の)同型定理2.2 から従う.
例. 2つの有限次体拡大L1/K,L2/K に対し, 拡大次数[L1 :K], [L2 :K] が互いに素で あれば, [L1L2 :K] は([L1 : K], [L2 :K] の両方を割ることから)積 [L1 :K], [L2 : K]
に一致しなければならない. 従って命題C(2)からこの場合, L1 とL2 はK において K
上線形無関連である. 具体例を挙げるため, n, m >1 を互いに素な整数とする. ζnζm は 1の原始 nm 乗根, 従って合成体Q(ζn)Q(ζm) は Q(ζnm) に一致. しかも定理 4.3 の系 から
[Q(ζnm) :Q] =φ(nm) =φ(n)φ(m) = [Q(ζn) :Q] [Q(ζm) :Q].
従って, nと m が互いに素であれば, Q(ζn) と Q(ζm) は Q 上線形無関連である.
より一般にn(>1)個の K 代数A1, . . . , An に対し, n重テンソル積A1⊗ · · · ⊗An は, (a1⊗ · · · ⊗an)(b1⊗ · · · ⊗bn) =a1b1⊗ · · · ⊗anbn, ai, bi ∈Ai
を積, 1⊗ · · · ⊗1 を単位元,
i:K →A1⊗ · · · ⊗An, i(x) =x(1⊗ · · · ⊗1)(=x⊗1⊗ · · · ⊗1 =. . .)
をK の埋め込みとしてK 代数をなす. 特に A1, . . . , An がある K 代数 C の部分 K 代 数である場合, K 代数射
µ:A1⊗ · · · ⊗An →C, µ(a1⊗ · · · ⊗an) =a1. . . an
が定義される. これの像をA1A2. . . An と書く. これはA1, . . . , An のすべてを含むC の 最小の部分 K 代数に一致する. µが単射であるとき, A1, . . . , An はC において K 上線 形無関連であるという. これは部分 K 代数の順によらない条件である. またこの条件が みたされる場合, µ を通して A1⊗ · · · ⊗An と A1A2. . . An を同一視し, しばしば
A1⊗ · · · ⊗An =A1A2. . . An またはA1A2. . . An=A1⊗ · · · ⊗An のように書く.
問題 39. K 代数 C の部分 K 代数A1, A2, A3 が K 上線形無関連であることと, A1 と A2 がK 上線形無関連であり, かつ A1A2 と A3 がK 上線形無関連であることは同値で ある. さらにこれは, 個数3を n(>2) に一般化して成り立つ.
問題 40. K 代数射σi :Ai →A′i, 1≤i≤n のテンソル積
σ1⊗ · · · ⊗σn :A1 ⊗ · · · ⊗An→A′1⊗ · · · ⊗A′n はK 代数射である. 各 σi が同型ならば σ1⊗ · · · ⊗σn もそうである.
定理. 各1≤i≤n に対し, Li/K は体のガロア拡大であるとし, Gi = Gal(Li/K) と書 く. (規約3.4 に従い Li ⊂K と見て) K において, L :=L1. . . Ln とおくと, これはすべ ての Li を含む K の最小の部分体になる(L1, . . . , Ln の合成体と呼ぶ).
(1) L/K はガロア拡大であり, 制限写像が与える
ρ: Gal(L/K)→G1× · · · ×Gn, ρ(σ) = (σ|L1, . . . , σ|Ln) は群の単射である.
(2) L1, . . . , Ln がK 上線形無関連 ⇔ ρ が全射(従って同型).
証明. (1) L/K がガロア: L は K 上分離的元で生成されるから, L ⊂ Ksep (4.2節最 初の例). こうして L/K は分離的. σ ∈ AlgK(L, K) とすると, 各 Li/K の正規性から σ(Li) = Li. 従って, σ(L) = σ(L1). . . σ(Ln) = L1. . . Ln = L. 定理 4.1 より L/K は 正規.
ρ が群の単射:群の射であるのは各制限写像 Gal(L/K) →Gi がそうだから. 単射性 は, σ|Li がすべて恒等射ならば, σ 自身恒等射であることから従う.
(2) 前の例(の一般化)から, 線形無関連性は
[L:K] = [L1 :K]. . .[Ln :K]
に同値. 群の位数を比べて, この等式の成立と単射 ρ が同型であることが同値になる. 問 題 41. 定 理 (2) に お い て 互 い に 同 値 な 条 件 が 満 た さ れ る と き, ρ の 逆 写 像 ρ−1 : G1× · · · ×Gn →Gal(L/K) は
(σ1, . . . , σn)7→σ1⊗ · · · ⊗σn により与えられる.
例. 前の例で見たように,互いに素な整数 n, m >1 に対し, Q(ζn) とQ(ζm)はQ上線形 無関連である. 前定理(2) をこれらの Q 上ガロア拡大で確かめるため,制限写像が与える 群の射
ρ: Gal(Q(ζnm)/Q)→Gal(Q(ζn)/Q)×Gal(Q(ζm)/Q)
を 考 え る. 1 の 原 始 nm 乗 根 ζnm と し て ζnζm を と り, 定 理 4.3 の 群 同 型 を 用 い る と, 上の ρ は環同型 Z/(nm) −→≃ Z/(n)×Z/(m) (中国剰余定理) の引き起こす群同型 (Z/(nm))× −→≃ (Z/(n))××(Z/(m))× と同一視できるから, 確かに同型である.