K を体とし, V, W, Z を K 上のベクトル空間とする. 以下, ベクトル空間, (双または 多重)線形射といえば,K 上のものをさす.
HomK(V, W) ={線形射V →W 全体} と書く.
定義. 写像 φ:V ×W →Z が双線形射であるとは,
(i) すべての w ∈ W に対して φ(−, w) : V →Z が線形, すなわちφ(av+bu, w) = aφ(v, w) +bφ(u, w), ∀a, b∈K, v, u∈V, かつ
(ii) すべての v ∈ V に対して φ(v,−) : W → Z が線形, すなわちφ(v, aw+bx) = aφ(v, w) +bφ(v, x), ∀a, b∈K, w, x∈W
をみたすときにいう. そのような写像全体からなる集合を BihomK(V ×W, Z) と書く.
問題 32. 双線形射 φ : V ×W → Z と線形射 f : Z → Z′ (Z′ ベクトル空間)の合成 f ◦φ:V ×W →Z′ は双線形射である.
命題A. V, W の基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を1組ずつ選び, 直積集合 I ×J に添え字をも つ Z の元 zij の組 (zij)(i,j)∈I×J 全体(写像 I ×J → Z 全体ともみなせる)からなる集 合を ZI×J と書く. このとき, φ7→(φ(vi, wj))(i,j)∈I×J が全単射
BihomK(V ×W, Z)−→≃ ZI×J を与える.
証明. ZI×J の元 (zij)(i,j)∈I×J に対し, 写像 φ:V ×W →Z を φ(∑
i
aivi, ∑
j
bjwj) =∑
i,j
aibjzij, ai, bj ∈K
により定めると, これが双線形射であり, 対応 (zij)(i,j)∈I×J 7→φ が命題に与えられた写 像の逆写像であることが確かめられる.
V, W に 対 し, ベ ク ト ル 空 間 Z と 双 線 形 射 φ : V ×W → Z か ら な る あ ら ゆ る ペ ア
(Z, φ) を考える(Z も変わってよい). このうち, 次の(普遍性)をみたすものを普遍的ペ
アと呼ぼう.
(普遍性) 任意のペア (Z, φ) に対し, 次の図式を可換にする(すなわち φ =f ◦ι をみたす) 線形射f :U →Z がただひとつ存在する.
U
f
V ×W
ι
;;
ww ww ww ww w
ϕ
##
GG GG GG GG G
Z
この性質は次のように言い換えられることを確かめよ.
(普遍性) 任意ベクトル空間Z に対し, 写像
ι∗ : HomK(U, Z)→BihomK(V ×W, Z), ι∗(f) =f ◦ι が全単射である. (この写像の値域がBihom なのは問題32 の結果から.)
定理. 普遍的ペア(U, ι) が存在し, 次の意味で一意的である: (U′, ι′) も普遍的ペアとする と次の図式を可換にする(すなわちι′ =g◦ι をみたす)線形同型 g: U −→≃ U′ がただひ とつ存在する.
U
≃ g
V ×W
ι
;;
vv vv vv vv v
ιG′GGGGG## GG G
U′
証明. 存在: V, W の基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を1組ずつ選ぶ. U を (vi, wj)(i,j)∈I×J を 基底にもつベクトル空間とし, ι :V ×W →U を
ι(∑
i
aivi, ∑
j
bjwj) =∑
i,j
aibj(vi, wj), ai, bj ∈K
に よ り 定 め る. こ れ は 双 線 形 射 (前 命 題 の 対 応 で 元 (vi, wj)(i,j)∈I×J ∈ UI×J に 対 応 す る). Z を 勝 手 な ベ ク ト ル 空 間 と す る. 基 底 の 性 質 か ら, 各 f ∈ HomK(U, Z) に 対 し, (f(vi, wj))(i,j)∈I×J ∈ ZI×J を 対 応 さ せ る こ と に よ り, 全 単 射 HomK(U, Z) −→≃ ZI×J が得られる. この全単射, 前命題の全単射, ι∗ からなる次の図式は可換であることが見て 取れる. よって, ι∗ は全単射であり, (普遍性)が確かめられた.
HomK(U, Z)
≃
((
PP PP PP PP PP PP
ι∗
ZI×J
BihomK(V ×W, Z)
≃
66
nn nn nn nn nn nn
一意性: (U, ι) の普遍性から, ι′ =g◦ι をみたす線形射 g :U →U′ がただひとつ存在 する. これが同型であることを示せばよい. (U′, ι′)の普遍性から,ι =h◦ι′ をみたす線形 射 h :U′ → U がただひとつ存在する. g と h が互いの逆写像であることを示せばよい. h◦g と恒等射 idU は, (h◦g)◦ι=ι= idU ◦ι をみたす. (U, ι) の普遍性(における線形 射の一意性)から, h◦g= idU. 同様にして, (g◦h)◦ι′ =ι′ = idU′◦ι′ と(U′, ι′)の普遍 性から, g◦h= idU′.
ひとくちに「一意的」といっても強弱がある. 上にいう「一意的」は同型がただひとつ であるという強い一意性である. 従って, 普遍的ペアのひとつ (U, ι) を選んで次のように 定義してよい.
定義. U をV ⊗W,ι(v, w) を v⊗w とかき, (V ⊗W, ι) または V ⊗W をV とW の テンソル積と呼ぶ.
ι の双線形性から, V ⊗W において次の等式が成り立つ. (v+u)⊗w=v⊗w+u⊗w, v⊗(w+x) =v⊗w+v⊗x, av⊗w =a(v⊗w) =v⊗aw.
ここに, v, u∈V, w, x∈W, a∈K.
次は前定理の証明から従う.
命題B. V, W それぞれの基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を勝手に選ぶとき, テンソル積 V ⊗W は{vi⊗wj}(i,j)∈I×J を基底にもち, 従ってdimK(V ⊗W) = (dimKV)(dimKW).
語法. 定義の記号を用いると, (普遍性)は次のように表せる. 勝手なベクトル空間 Z と双 線形射φ: V ×W → Z に対し, 線形射 f : V ⊗W →Z で f(v⊗w) = φ(v, w), ∀v ∈
V, w ∈W をみたすものがただひとつ存在する. この f を φ の引き起こす線形射と呼び, v⊗w7→ φ(v, w) で表す. (最後の対応は写像を直に定義するものではない. V ⊗W の 元は v⊗w で表せるものだけではなく, 一般の元はこの形の元の和であり, またその表示 も一意的でない.)
例. 例えば, 線形射
τV,W :V ⊗W →W ⊗V
をτV,W(v⊗w) =w⊗vにより定義できる. これは,φ:V×W →W⊗V, φ(v, w) =w⊗v が双線形射であり, それが引き起こす線形射として τV,W を定義するという意. この τV,W はτW,V を逆写像にもつ同型である. これをひねり射と呼ぶ.
問 題 33. x ⊗ v 7→ xv (ま た は v ⊗ x 7→ xv) が 線 形 同 型 K ⊗V −→≃ V (ま た は V ⊗K −→≃ V) を与える. これらを標準的同型と呼ぶ.
問題 34. 2つの線形射 f :V →V′, g :W →W′ から, v⊗w7→f(v)⊗g(w) により与 えられる線形射 V ⊗W →V′⊗W′ が引き起こされる. これを f ⊗g で表し, f と g の テンソル積と呼ぶ. f と g がともに同型ならば f ⊗g もそう.
2重テンソル積V ⊗W を n 重の V1⊗ · · · ⊗Vn に一般化しよう.
定義. n > 1 を整数とする. n 個のベクトル空間 V1, . . . , Vn に対し, 別のベクトル空間 Z に値を持つ写像 φ : V1× · · · ×Vn → Z が多重線形射または n 重線形射であるとは, 各 1≤ i ≤n について第 i 成分だけ動かして得られる φ(v1, . . . , vi−1,−, vi+1, . . . , vn) : Vi →Z が線形射であるときにいう. とくに, 2重線形は先に定義した双線形に一致する. 定理. n個のベクトル空間 V1, . . . , Vn に対し, ベクトル空間 V1⊗ · · · ⊗Vn と多重線形射
ι:V1× · · · ×Vn →V1⊗ · · · ⊗Vn, ι(v1, . . . , vn) =v1⊗ · · · ⊗vn が存在して次を満たす.
(普遍性) 勝 手 な ベ ク ト ル 空 間 Z と 多 重 線 形 射 φ : V1 × · · · × Vn → Z に 対 し, 線 形 射 f :V1⊗ · · · ⊗Vn→Z でf(v1⊗ · · · ⊗vn) =φ(v1, . . . , vn), ∀v1 ∈V1, . . . , vn ∈Vn
をみたすものがただひとつ存在する. (この f をφ の引き起こす線形射と呼ぶ.) この性質をもつペア (V1⊗ · · · ⊗Vn, ι) は一意に決まる同型を除きただひとつである. 問題 35. 前定理の証明に倣ってこれを証明せよ.
2重テンソル積からの線形射に関する先の語法を n 重テンソル積に一般化して用いる. 問題 36. v1⊗v2⊗v3 7→(v1⊗v2)⊗v3 およびv1⊗v2⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) がそれぞ れ線形同型V1⊗V2⊗V3 −→≃ (V1⊗V2)⊗V3,V1⊗V2⊗V3 −→≃ V1⊗(V2⊗V3) を与える. 上の2つの同型を合成して, 線形同型
(V1⊗V2)⊗V3 −→≃ V1⊗(V2⊗V3), (v1⊗v2)⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) が得られる. より一般に, 例えば
(V1⊗V2)⊗(V3⊗V4)−→≃ V1⊗(V2⊗V3)⊗V4, (v1⊗v2)⊗(v3⊗v4)7→v1⊗(v2⊗v3)⊗v4 のように, 同じV1, . . . , Vn から多重テンソル積を繰り返し用いて構成されるベクトル空間 の間に自然な線形同型が存在する. 問題33 に与えたものに加えこれらすべても標準的同 型と呼ぶ.
線形射 fi :Vi →Vi′, 1≤i ≤nの n 重テンソル積
f1⊗ · · · ⊗fn :V1⊗ · · · ⊗Vn →V1′⊗ · · · ⊗Vn′, v1⊗ · · · ⊗vn7→f1(v1)⊗ · · · ⊗fn(vn) が定義される. 各 fi が同型ならば f1⊗ · · · ⊗. . . fn もそう.