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ベクトル空間のテンソル積

ドキュメント内 代数学II(ガロア理論)2011 Akira Masuoka (ページ 39-44)

 K を体とし, V, W, Z K 上のベクトル空間とする. 以下, ベクトル空間, (双または 多重)線形射といえば,K 上のものをさす.

HomK(V, W) ={線形射V →W 全体} と書く.

定義. 写像 φ:V ×W →Z が双線形射であるとは,

(i) すべての w ∈ W に対して φ(−, w) : V →Z が線形, すなわちφ(av+bu, w) = aφ(v, w) +bφ(u, w), ∀a, b∈K, v, u∈V, かつ

(ii) すべての v ∈ V に対して φ(v,−) : W → Z が線形, すなわちφ(v, aw+bx) = aφ(v, w) +bφ(v, x), ∀a, b∈K, w, x∈W

をみたすときにいう. そのような写像全体からなる集合を BihomK(V ×W, Z) と書く.

問題 32. 双線形射 φ : V ×W → Z と線形射 f : Z → Z (Z ベクトル空間)の合成 f ◦φ:V ×W →Z は双線形射である.

命題A. V, W の基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を1組ずつ選び, 直積集合 I ×J に添え字をも つ Z の元 zij の組 (zij)(i,j)∈I×J 全体(写像 I ×J → Z 全体ともみなせる)からなる集 合を ZI×J と書く. このとき, φ7→(φ(vi, wj))(i,j)∈I×J が全単射

BihomK(V ×W, Z)−→ ZI×J を与える.

証明. ZI×J の元 (zij)(i,j)∈I×J に対し, 写像 φ:V ×W →Z φ(∑

i

aivi, ∑

j

bjwj) =∑

i,j

aibjzij, ai, bj ∈K

により定めると, これが双線形射であり, 対応 (zij)(i,j)∈I×J 7→φ が命題に与えられた写 像の逆写像であることが確かめられる.

 V, W に 対 し, ベ ク ト ル 空 間 Z と 双 線 形 射 φ : V ×W → Z か ら な る あ ら ゆ る ペ ア

(Z, φ) を考える(Z も変わってよい). このうち, 次の(普遍性)をみたすものを普遍的ペ

アと呼ぼう.

(普遍性) 任意のペア (Z, φ) に対し, 次の図式を可換にする(すなわち φ =f ◦ι をみたす) 線形射f :U →Z がただひとつ存在する.

U

f

V ×W

ι

;;

ww ww ww ww w

ϕ

##

GG GG GG GG G

Z

この性質は次のように言い換えられることを確かめよ.

(普遍性) 任意ベクトル空間Z に対し, 写像

ι : HomK(U, Z)→BihomK(V ×W, Z), ι(f) =f ◦ι が全単射である. (この写像の値域がBihom なのは問題32 の結果から.)

定理. 普遍的ペア(U, ι) が存在し, 次の意味で一意的である: (U, ι) も普遍的ペアとする と次の図式を可換にする(すなわちι =g◦ι をみたす)線形同型 g: U −→ U がただひ とつ存在する.

U

g

V ×W

ι

;;

vv vv vv vv v

ιGGGGGG## GG G

U

証明. 存在: V, W の基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を1組ずつ選ぶ. U (vi, wj)(i,j)∈I×J 基底にもつベクトル空間とし, ι :V ×W →U

ι(∑

i

aivi, ∑

j

bjwj) =∑

i,j

aibj(vi, wj), ai, bj ∈K

に よ り 定 め る. こ れ は 双 線 形 射 (前 命 題 の 対 応 で 元 (vi, wj)(i,j)∈I×J ∈ UI×J に 対 応 す る). Z を 勝 手 な ベ ク ト ル 空 間 と す る. 基 底 の 性 質 か ら, f ∈ HomK(U, Z) に 対 し, (f(vi, wj))(i,j)∈I×J ∈ ZI×J を 対 応 さ せ る こ と に よ り, 全 単 射 HomK(U, Z) −→ ZI×J が得られる. この全単射, 前命題の全単射, ι からなる次の図式は可換であることが見て 取れる. よって, ι は全単射であり, (普遍性)が確かめられた.

HomK(U, Z)

((

PP PP PP PP PP PP

ι

ZI×J

BihomK(V ×W, Z)

66

nn nn nn nn nn nn

 一意性: (U, ι) の普遍性から, ι =g◦ι をみたす線形射 g :U →U がただひとつ存在 する. これが同型であることを示せばよい. (U, ι)の普遍性から,ι =h◦ι をみたす線形 射 h :U → U がただひとつ存在する. g h が互いの逆写像であることを示せばよい. h◦g と恒等射 idU , (h◦g)◦ι=ι= idU ◦ι をみたす. (U, ι) の普遍性(における線形 射の一意性)から, h◦g= idU. 同様にして, (g◦h)◦ι = idU◦ι (U, ι)の普遍 性から, g◦h= idU.

 ひとくちに「一意的」といっても強弱がある. 上にいう「一意的」は同型がただひとつ であるという強い一意性である. 従って, 普遍的ペアのひとつ (U, ι) を選んで次のように 定義してよい.

定義. U V ⊗W,ι(v, w) v⊗w とかき, (V ⊗W, ι) または V ⊗W V W テンソル積と呼ぶ.

 ι の双線形性から, V ⊗W において次の等式が成り立つ. (v+u)⊗w=v⊗w+u⊗w, v⊗(w+x) =v⊗w+v⊗x, av⊗w =a(v⊗w) =v⊗aw.

ここに, v, u∈V, w, x∈W, a∈K.

 次は前定理の証明から従う.

命題B. V, W それぞれの基底 {vi}i∈I, {wj}j∈J を勝手に選ぶとき, テンソル積 V ⊗W は{vi⊗wj}(i,j)∈I×J を基底にもち, 従ってdimK(V ⊗W) = (dimKV)(dimKW).

語法. 定義の記号を用いると, (普遍性)は次のように表せる. 勝手なベクトル空間 Z と双 線形射φ: V ×W → Z に対し, 線形射 f : V ⊗W →Z f(v⊗w) = φ(v, w), ∀v ∈

V, w ∈W をみたすものがただひとつ存在する. この f φ の引き起こす線形射と呼び, v⊗w7→ φ(v, w) で表す. (最後の対応は写像を直に定義するものではない. V ⊗W 元は v⊗w で表せるものだけではなく, 一般の元はこの形の元の和であり, またその表示 も一意的でない.)

例. 例えば, 線形射

τV,W :V ⊗W →W ⊗V

をτV,W(v⊗w) =w⊗vにより定義できる. これは,φ:V×W →W⊗V, φ(v, w) =w⊗v が双線形射であり, それが引き起こす線形射として τV,W を定義するという意. この τV,W はτW,V を逆写像にもつ同型である. これをひねり射と呼ぶ.

問 題 33. x ⊗ v 7→ xv (ま た は v ⊗ x 7→ xv) が 線 形 同 型 K ⊗V −→ V (ま た は V ⊗K −→ V) を与える. これらを標準的同型と呼ぶ.

問題 34. 2つの線形射 f :V →V, g :W →W から, v⊗w7→f(v)⊗g(w) により与 えられる線形射 V ⊗W →V⊗W が引き起こされる. これを f ⊗g で表し, f g テンソル積と呼ぶ. f g がともに同型ならば f ⊗g もそう.

 2重テンソル積V ⊗W n 重の V1⊗ · · · ⊗Vn に一般化しよう.

定義. n > 1 を整数とする. n 個のベクトル空間 V1, . . . , Vn に対し, 別のベクトル空間 Z に値を持つ写像 φ : V1× · · · ×Vn → Z が多重線形射または n 重線形射であるとは, 各 1≤ i ≤n について第 i 成分だけ動かして得られる φ(v1, . . . , vi−1,−, vi+1, . . . , vn) : Vi →Z が線形射であるときにいう. とくに, 2重線形は先に定義した双線形に一致する. 定理. n個のベクトル空間 V1, . . . , Vn に対し, ベクトル空間 V1⊗ · · · ⊗Vn と多重線形射

ι:V1× · · · ×Vn →V1⊗ · · · ⊗Vn, ι(v1, . . . , vn) =v1⊗ · · · ⊗vn が存在して次を満たす.

(普遍性) 勝 手 な ベ ク ト ル 空 間 Z と 多 重 線 形 射 φ : V1 × · · · × Vn → Z に 対 し, 線 形 射 f :V1⊗ · · · ⊗Vn→Z f(v1⊗ · · · ⊗vn) =φ(v1, . . . , vn), ∀v1 ∈V1, . . . , vn ∈Vn

をみたすものがただひとつ存在する. (この f φ の引き起こす線形射と呼ぶ.) この性質をもつペア (V1⊗ · · · ⊗Vn, ι) は一意に決まる同型を除きただひとつである. 問題 35. 前定理の証明に倣ってこれを証明せよ.

 2重テンソル積からの線形射に関する先の語法を n 重テンソル積に一般化して用いる. 問題 36. v1⊗v2⊗v3 7→(v1⊗v2)⊗v3 およびv1⊗v2⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) がそれぞ れ線形同型V1⊗V2⊗V3 −→ (V1⊗V2)⊗V3,V1⊗V2⊗V3 −→ V1⊗(V2⊗V3) を与える.  上の2つの同型を合成して, 線形同型

(V1⊗V2)⊗V3 −→ V1⊗(V2⊗V3), (v1⊗v2)⊗v3 7→v1⊗(v2⊗v3) が得られる. より一般に, 例えば

(V1⊗V2)⊗(V3⊗V4)−→ V1⊗(V2⊗V3)⊗V4, (v1⊗v2)⊗(v3⊗v4)7→v1⊗(v2⊗v3)⊗v4 のように, 同じV1, . . . , Vn から多重テンソル積を繰り返し用いて構成されるベクトル空間 の間に自然な線形同型が存在する. 問題33 に与えたものに加えこれらすべても標準的同 型と呼ぶ.

 線形射 fi :Vi →Vi, 1≤i ≤n n 重テンソル積

f1⊗ · · · ⊗fn :V1⊗ · · · ⊗Vn →V1⊗ · · · ⊗Vn, v1⊗ · · · ⊗vn7→f1(v1)⊗ · · · ⊗fn(vn) が定義される. fi が同型ならば f1⊗ · · · ⊗. . . fn もそう.

ドキュメント内 代数学II(ガロア理論)2011 Akira Masuoka (ページ 39-44)

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