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(ii)破面接触度が検査信号に与える影響の評価

1)(c)a)(i)における各種分析の結果、熱疲労割れの破面接触の度合いは応力腐食割れに比 べると小であることが確認された。本節においては、得られた知見に基づき、破面接触度が 渦電流探傷信号及び渦電流探傷信号に基づくきず深さ担保精度に及ぼす影響について、数値 解析による評価を行った。

(ア)熱疲労割れの破面接触度が渦電流探傷信号に影響を与える度合いの評価

電磁非破壊検査の観点からは熱疲労割れは多くの場合はスリットと等価、即ち無限大の 抵抗を有すると見なされうるが、応力腐食割れの場合と比べると小ではあるものの、破面 の電気的な接触が存在することが明らかとなった。よって、ここでは3次元有限要素法解 析により、熱疲労割れの破面接触度が渦電流探傷信号に影響を与える度合いを評価する。

一般的にきずによる電流の乱れを利用する電磁非破壊検査の有限要素法解析においてき ずを一定幅かつ一様な内部導電率を有する領域としてモデル化した場合、きずの破面接触 の度合いは、きず領域の幅を内部導電率の値で除した値でかなりの程度整理されうるとさ れている。ここでの解析においては、表 2.4.3(3)-7、表 2.4.3(3)-9 に示された結果にお ける最小値を採用し、この値として 0.1 を採用した。解析において用いたのは 1)(c)a)(i) における探傷試験において用いられたものと同一の、5mm 角自己誘導差動型プラスポイン トプローブであり、リフトオフは 0.7mm、励磁周波数は 100kHz と設定した。対象としたの は長さ 20mm の矩形きずであり、深さが 1~5mm それぞれの場合について、内部接触がきず 信号に与える影響を評価した。対象はオーステナイト系ステンレス鋼を想定しており、本 条件における表皮深さは約 1mm である。尚、1)(c)a)(i)における評価結果及び一般的に疲 労割れをモデル化する際の幅の値は小であるという知見39に基づき、ここでのきずの幅は 最大で 0.5mm とした。

得られた結果を図 2.4.3(3)-43、図 2.4.3(3)-44 にまとめる。比較のため、各図におい ては同一形状ではあるが内部導電率を有しない理想きず、即ち人工スリットからの信号も 併せて示している。図より、きず深さが表皮深さ程度である場合には、破面接触が渦電流 探傷信号に及ぼす影響は小であり、最も接触の度合いが大である場合であっても、熱疲労 割れからの信号と人工スリットからの信号との間に大きな差異を確認することは出来ない。

きずが深くなるに従って破面接触の影響が大となるが、破面接触に起因する信号強度の低 下の度合いは、最大でも同一形状の人工スリットからの信号に比して4割程度であること が確認できる。

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Zhenmao Chen et al., “A nondestructive strategy for distinction of natural fatigue

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きず深さ1mm きず深さ2mm きず深さ3mm きず深さ4mm きず深さ5mm

図 2.4.3(3)-43 破面接触の影響(きず幅=左:幅 0.01mm、中:幅 0.02mm、右:幅 0.05mm)

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きず深さ1mm きず深さ2mm きず深さ3mm きず深さ4mm きず深さ5mm

図 2.4.3(3)-44 破面接触の影響(きず幅=左:幅 0.1mm、中:幅 0.2mm、右:幅 0.5mm)

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(イ)熱疲労割れの破面接触度が渦電流探傷信号に基づくきず深さ担保精度に及ぼす影響を 与える度合いの評価

電磁非破壊検査技術は深いきずのサイジング能は低いものの、浅いきずの定量化におい ては既存の超音波探傷技術に比して優位性があると考えられている。そのため、電磁非破 壊検査をきず深さがある一定以下であることを確実に担保するための技術として用いるこ とは、原子力プラント全体の安全性向上に資すること大であると期待される。しかしなが らその一方、電磁非破壊検査により得られる探傷信号からはきず深さに関する情報が直接 的には得られるものではないため、何らかの逆解析技術を用いる必要があり、逆問題の不 適切性に起因する評価誤差が危惧される。

以上の観点に基づき、渦電流探傷信号からの深さ評価における不適切性を、熱疲労割れ を対象とすることを想定し、3次元有限要素法解析により評価した

解析体系を図 2.4.3(3)-45 に示す。導電性平板中央部に存在する十分に長いきずの深さ を、渦電流探傷信号から評価することを想定したものである。きずは一定幅 w、一定深さ d、

そして一様内部導電率 s を有する矩形領域としてモデル化されており、用いた各パラメー タの値は表 2.4.3(3)-11 に示すとおりである。1)(c)a)(i)における知見を反映し、解析に 用いたきず内部導電率の値は、幅を導電率で割った値が 0.1(mm/%母材導電率)以上となる よう、きず幅の値に応じて表のように 6 段階に変化させた。用いたプローブは、外枠 4.77mm のフィラメント状プラスポイントプローブであるが、プラスポイントプローブの出力信号 は差分を取らず、プローブを構成する 2 つの矩形コイルの信号を独立に評価した。信号計 算点は、きず中央直上から、きずに垂直な方向に 1mm 間隔で 10mm まで移動させた箇所まで の、計 11 点である。プローブの励磁周波数は 100 kHz、リフトオフは 1mm と設定した。平 板はインコネル 600 を想定し、その導電率は 1MS/m、比透磁率は 1 である。平板厚みは 4.77mm であり、これは励磁周波数 100kHz における表皮深さの 3 倍に等しい。

評価に用いる指標として、深さ d1、幅 w1、内部導電率 s1 であるきず1からの渦電流探 傷信号を 1, 1, 1

,

1 d w s

Vi 、深さ d2、幅 w2、内部導電率 s2 であるきず2からの渦電流探傷信号を

2 , 2 ,

, 2

2 d w s

Vi とし、両信号の差異 を

11

1 , 1 11

1

, 1 ,

2

2 , 2 , 2 1 , 1 , 1 / 1 , 1 , 1

i i i

i

i

d w s V d w s V d w s

V

により定義する。表 2.4.3(3)-11 示したきずに関する全ての組み合わせについて の値を 評価し、 0.05 を満たす組み合わせを抽出した。尚、本評価手法自体は平成 23 年度事 業におけるものと同一であるが、平成 23 年度事業においては応力腐食割れを想定したモデ ルであったのに対し、本年度解析では 1)(c)a)(i)において得られた知見に基づき、熱疲労 割れを想定して実施したものとなっている。

得られた結果を図 2.4.3(3)-46、図 2.4.3(3)-47 に示す。各図(a)中の数値は 0.05 を 満たす組み合わせの数であり、図(b)は 0.05 を満たす全組み合わせに対する深さ誤差 の標準偏差である。比較のため、図(b)には平成 23 年度事業において評価を行った、応力

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腐食割れモデルを対象とした時の値も併せて示した。きずが深くなると共に定量的な深さ 評価が困難にはなってはいるが、その度合いは応力腐食割れを対象とした場合と比べると 著しく小であることが確認できる。よって、熱疲労割れに対しては、破面の接触の度合い が浅いきずの深さ推定誤差に与える影響は、表皮深さの程度までであれば小であると考え られる。これは 1)(c)a)(ii)(ア)において得られた知見とも合致するものである。

(iii)本年度のまとめ

電磁非破壊検査における主たる影響因子の一つである破面接触の度合い及びその影響の 定量評価を、熱疲労割れを対象として行った。

熱疲労割れの破面接触の度合いは、渦電流探傷信号の有限要素法による分析、及び四端子 法による直接測定にて実施した。平成23年度製作のものに加えて本年度新規に製作した開口 幅が小である熱疲労割れを対象としたが、いずれの結果においても、熱疲労割れの破面接触 の度合いは小であり、破面接触に起因する電気的抵抗の値は最も低い場合でも応力腐食割れ のものの10倍ほどであった。続いて行った破面接触の影響の評価解析の結果、熱疲労割れの 評価においては、割れの深さが表皮深さ程度までであれば、破面接触の影響はわずかである ことが明らかとなった。また、併せて実施した超音波探傷試験により、電磁非破壊検査と超 音波検査でのきず影響因子は明らかに異なることを確認した。

本年度業務により、電磁非破壊検査の観点から熱疲労割れと応力腐食割れの差異につい て定量的な知見が得られた。今後割れの破面接触度に関するデータの更なる拡充及び発生 メカニズム毎の整理により、破面接触度が探傷信号に及ぼす影響の定量的な評価が可能と なり、検査信号評価時のより適切な裕度の設定につながると考えられる。

表 2.4.3(3)-11 きずパラメータ

パラメータ 値

きず深さ(d)* 1/15, 2/15, 3/15, 4/15, 5/15, 6/15, 7/15, 8/15, 9/15, 10/15, 11/15, 12/15, 13/15, 14/15, 15/15

きず幅 (w) ** 0.01, 0.02, 0.05, 0.10, 0.20, 0.50 内部導電率(s) *** 0, 2×w, 4×w, 6×w, 8×w, 10×w

* 試験体厚さに対する比、** 単位: mm、*** 単位: %母材導電率

図 2.4.3(3)-45 解析体系図

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d1*

d2*

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

1 1119 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

2 0 830 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

3 0 0 644 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

4 0 0 0 513 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

5 0 0 0 0 464 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

6 0 0 0 0 0 390 1 0 0 0 0 0 0 0 0

7 0 0 0 0 0 1 349 30 0 0 0 0 0 0 0

8 0 0 0 0 0 0 18 328 95 3 1 1 0 0 0 9 0 0 0 0 0 0 0 94 308 120 7 3 2 2 1 10 0 0 0 0 0 0 0 2 114 268 146 9 7 3 2 11 0 0 0 0 0 0 0 1 7 143 245 157 13 8 3 12 0 0 0 0 0 0 0 1 3 9 149 214 139 17 3 13 0 0 0 0 0 0 0 0 2 7 13 134 207 86 7 14 0 0 0 0 0 0 0 0 2 3 8 17 83 185 8

15 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3 3 7 8 82

(a) きず深さ分布 * unit: (100/15)%t

(b) 標準偏差値

図 2.4.3(3)-46 プラスポイントプローブ励磁-きず平行コイル検出

2-1089 d1*

d2*

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 1 954 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 683 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0 554 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0 0 0 476 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 0 0 0 0 462 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6 0 0 0 0 0 393 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 0 0 0 0 0 0 348 28 0 0 0 0 0 0 0 8 0 0 0 0 0 0 26 337 140 2 1 0 0 0 0 9 0 0 0 0 0 0 0 118 316 163 8 3 2 2 1 10 0 0 0 0 0 0 0 2 154 308 219 13 8 7 3 11 0 0 0 0 0 0 0 1 7 218 275 221 19 9 3 12 0 0 0 0 0 0 0 0 3 13 231 265 213 28 7 13 0 0 0 0 0 0 0 0 2 8 19 221 245 195 8 14 0 0 0 0 0 0 0 0 2 7 9 19 197 214 9 15 0 0 0 0 0 0 0 0 1 3 3 7 8 9 100

(a) きず深さ分布 * unit: (100/15)%t

(b) 標準偏差

図 2.4.3(3)-47 プラスポイントプローブ励磁-きず垂直コイル検出

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b) 疲労割れにおけるき裂面酸化皮膜の渦電流試験への影響評価

PIRT 手法により抽出された重要課題の一つである疲労割れにおけるき裂面の酸化被膜 の影響を評価し、その知見を提供する。具体的には、SUS316 の試験体に予き裂として試験 体中央に半円形の切欠きを加工して 4 点曲げによる疲労試験により切欠きから予き裂を進 展させる。その後、切欠きを切削加工により取り除き、再び 4 点曲げ疲労試験によりき裂 を進展させて深さの異なる疲労割れ試験片を作成する。得られた試験体を電気炉にて異な る温度・時間で加熱処理を加えき裂内部に酸化被膜を形成して、渦電流信号への影響の度 合いを評価する。また、割れが閉口する方向と開口する方向に応力を加えて酸化被膜の渦 電流信号への影響の度合いを評価する。

(ⅰ) 酸化被膜の渦電流信号への影響評価

① 4 点曲げによる疲労割れ試験片の作成

図 2.4.3(3)-48 に試験体の概要を示す。材質は SUS316 である。大きさは 300×75mm、厚 さ 20mm で、板の中央に予き裂として切欠きを加工する。切欠きの寸法は R37.5mm、角度が 60°、深さが 0.5mm(長さ約 12mm、幅 0.6mm)に加工する。

図 2.4.3(3)-49 に使用する曲げ試験機を示す。使用する曲げ試験機はインストロンジャ パン 8802 型である。図 2.4.3(3)-50 に試験体の取付け状態を示す。4 点曲げは図 2.4.3(3)-51 に示すように、外側と内側 2 点ずつの支点で試験片に曲げモーメントを付加 するもので、軸荷重の圧縮疲労試験機に 4 点曲げ冶具を取り付けて実施する。割れ試験面 である引張側面の試験片中央部の内側支点間では、最大引張り応力が均一となる。

表 2.4.3(3)-12 に試験条件を示す。4 点曲げの内側支点間隔を 50mm、外側支点間隔を 200mm として最大荷重 50kN、最小荷重 5kN として試験周波数を 15Hz とする。

振動回数を 3 万回、予き裂深さ約 0.8mm を初期き裂として試験体を作成する。次に、予 き裂を導入した試験片の表面を 0.6mm 切削加工することにより切欠き部を除去したのち、

再度疲労試験により振動回数をそれぞれ 5,000 回、27,000 回、45,000 回加えてき裂を進展 させ、疲労割れの目標深さを 1mm、3mm、5mm として試験片を作成する。

図 2.4.3(3)-52 と図 2.4.3(3)-53 に加熱処理試験後の試験片の疲労割れ部分を切断して 断面観察した写真を、図 2.4.3(3)-54 に試験前の表面観察写真を示す。表 2.4.3(3)-13 に 断面観察及び表面観察より求めた割れ深さと長さの測定結果を示す。

② 疲労われの熱処理(600℃、450℃)による酸化被膜の影響試験

疲労割れ試験片を電気炉内(大気中)で加熱温度 450℃、600℃で加熱処理して、24 時間 毎に 24、48、72 時間で電気炉から取り出し室温まで冷却して、疲労割れの渦電流探傷を行 い ECT 信号への影響を確認する。

図 2.4.3(3)-55 に使用する渦電流探傷装置の外観を示す。使用する渦電流探傷装置は ASSORT PCⅡ(アスワン社製)である。図 2.4.3(3)-56 に使用するプローブの概要を示す。