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SA(Subharmonic Array)

75 日本規格協会、JIS ハンドブック 34、金属表面処理、pp.17-28, 1996

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の表面に向けて送信する。図 2.4.3(3)-93 に示すように、き裂の高さは 10mm とし、ステン レス鋼の内部に存在するものとする。

図 2.4.3(3)-93 内部き裂とアレイ探触子による超音波送信

② き裂エコーのパラメトリックスタディ

表面粗さのパラメータはRa=0.05mm、0.5mm の 2 種類を考える。このとき、Rsmはそれぞ れ 1.8mm、1.25mm、0.75mm、0.5mm の 4 種類とした。すなわち、計 2×4=8 パターンのエコ ーを計算した。まず、Ra=0.05mm を一定とし、Rsmを変化させた場合のき裂からのエコーを 図 2.4.3(3)-94 に示す。45 s あたりの振幅がき裂上端からの回折波、49 s あたりの振幅 がき裂下端からの回折波に相当する。Rsm=1.8mm と 1.25mm の場合は、上端回折波と下端回 折波を明確に分離するのは難しい。Rsmが小さくなると、上端と下端回折波の間の波の数 が増加する様子がみられた。これはき裂の折り曲げによる屈曲点の増加によるものである。

さらにRsmが小さくなると、き裂の折り曲げに起因する振幅が見られなくなる。周波数が 2MHz の超音波を送信しているため、大凡の波長は 1.5mm 程度であるから、波長の 1/3 程度 のRsmの場合は、き裂性状の折り曲げ数による粗さの影響は小さいということがいえる。

次に、Ra=0.5mm と一定にしてRsmを変化させた場合の欠陥エコーの計算結果を図 2.4.3(3)-95 に示す。Raが大きくなる、すなわち、き裂の凹凸の平均高さが大きくなるこ とによって欠陥エコーの波の数も増加している。図 2.4.3(3)-94 のRa=0.05mm と比較する と、上端回折波と下端回折波の識別が困難になり、かつ、粗さに起因する振動が長く継続 することがわかった。また、Rsmが小さくなると、波の数が増加しており、これは図 2.4.3(3)-94 と同様の傾向である。

以上のことから、Rsmが小さくなれば、き裂の折り曲げによる屈曲点の増加によって、

波の数が増加することがわかった。しかし、送信波の波長に比べてRsmが十分に小さい場 合には、粗さに起因する振動が減少し、滑らかなき裂面からの欠陥エコーの形状に近づく ことがわかった。Raを大きくした場合、2 つの端部回折波の識別が難しくなることが見ら れた。また、粗さに起因する振動が長く継続する様子も見られた。

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図 2.4.3(3)-94 Ra=0.05mm を一定にして、Rsmを変化させた場合のエコーの変化

図 2.4.3(3)-95 Ra=0.50mm を一定にして、Rsmを変化させた場合のエコーの変化

③ 応力腐食割れを模擬したき裂モデルに対するエコー計算

実際に現場で発生した応力腐食割れを対象にフェーズドアレイ探触子を用いた欠陥エコ ーの数値解析を行う。環境助長割れと疲労割れについては、被検体が手に入らなかったた め、ここでは、応力腐食割れについてのみ、き裂エコーのシミュレーションを行う。ただ

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し、環境助長割れや疲労割れについても解析の手順や手間は同じである。応力腐食割れの 詳細断面写真(図 2.4.3(3)-96)をスキャンし、折曲点の接点を用いて FMBEM の数値メッ シュを作成した(イメージベース処理)。図 2.4.3(3)-96 の写真では、き裂の開口幅は一定 ではないが、要素作成の簡略化のため、ここではき裂の開口幅は区間一定で 0.05 ㎜とした。

応力腐食割れの高さは 4.85 ㎜でありフェーズドアレイ探触子の中心から左に 40mm 離れた 被検体内部に存在するものとする。

図 2.4.3(3)-97 (a)(b)ではフェーズドアレイ探触子から入射波が生成され、き裂方向に 向かっていることがわかる。図 2.4.3(3)-97 (c)では、入射波がき裂の上端部に到達し、

上端回折波が発生していることがわかる。その後、き裂の表面を伝わりき裂下端部に到達 し下端回折波が発生している。また、図 2.4.3(3)-94 と図 2.4.3(3)-95 のパラメトリック スタディでみられたように、表面粗さに起因する振動が発生していることがわかる。この 場合も、き裂の端部エコーに表面粗さに起因する振動成分が含まれてしまうので、エコー の識別が困難となることがわかる。

図 2.4.3(3)-96 実際の応力腐食割れの写真から再構成したき裂モデルの数値メッシュ

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図 2.4.3(3)-97 応力腐食割れからの超音波散乱の可視化

(ⅱ) 溶接組織中の波動伝搬特性(音速、散乱、減衰)に関する検討

① 影響因子に対する現状認識

管台セーフエンドの異材継手は、板厚が 90mm 以上のものあり、溶接による加熱・冷溶が 金属組織に影響を及ぼすため、結晶粒の成長方向が局所的に異なることが知られている。

このため、音響異方性を呈し、超音波伝搬において屈曲を生じる。また、粗大な結晶粒に よって、超音波が散乱・減衰し、き裂エコーの S/N 比を低下させる。以上のように、溶接 部の超音波伝搬特性を明らかにし、これがき裂の検出性やサイジングに及ぼす影響の度合 いを評価することは重要である。

粒界における散乱・減衰が、非破壊検査の信頼性を低下させることは一般的には知られ ている。粒界散乱によるノイズは、ランダムノイズに相当するため、空間的平均化処理な どの波形処理や合成処理によって、き裂エコーの S/N 比を改善できる可能性があることが 示唆されている76。しかし、き裂検出に用いるコーナーエコー以上に端部エコーの SN 比を 低下させるため、サイジング精度に及ぼす影響は大きい。また、ニッケル基合金溶接部は、

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S. Kitazawa, et al., Advanced inspection technologies for energy infrastructure,

Hitachi Reviews, Vol.59, No.3, 2010.

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溶接の結果、局所的に方向が異なる柱状晶組織となるため、この音響異方性を考慮する必 要がある。しかし、フェーズドアレイ UT における音響異方性の影響を補正する試みは、最 近の報告事例としてあるものの、実機検査の規格としては整備されていない77。音速の局 所的変化については解析的に推定が可能78であり、多くの研究事例があるが、粒界による 減衰・拡散までも厳密にモデル化した研究は少ない。

以上より、溶接部の音速分布や、散乱・減衰の特性を予め把握することは、き裂の端部 エコーの評価や S/N 比の向上に寄与し、検出性・サイジング性能を改善することにつなが る。ここでは、イメージベース波動伝搬解析79を応用して、溶接金属中を伝搬する超音波 の高精度推定を検証する。

② 溶接金属のモデル化

ここでは溶接金属として、ニッケル基合金を対象とする。管台セーフエンドの異材継手 は、板厚が 90mm 以上のものあり、溶接による加熱・冷却が金属組織の変化を生じ、結晶粒 の成長方向が局所的に異なる。また結晶粒は 10mm 程度まで大きくなることもあり、これら を無視して検査することは、UT の信頼性を著しく低下させる。本事業では、組織観察によ って得られたミクロスケールの結晶分布を超音波伝搬解析シミュレータに組み込み、解析 を実行することで、溶接部の波動伝搬特性を明らかにする。ここでは、溶接部を含む試験 体の EBSP データから金属組織の成長方向を計測し、このデータを解析に反映し、現実的な 数値モデルを作成する。また、溶接部の材料定数は、EMAR 計測によって結晶粒の弾性定数 を算出した。

(ア) 溶接組織のミクロ構造の同定

ここでは、後方散乱電子回折像80(Electron Back Scattering Pattern: EBSP)を測定 することで、結晶の方位、大きさ、成長方向を同定する。図 2.4.3(3)-98 に V 開先の一部 を切り出した原子力プラントのモックアップ部材から切り出した溶接試験体(幅 115mm、

高さ 25mm、板厚 5mm)の観察写真を示す。左側は SM490、右側が SUS316 であり、多層盛溶 接によって接合されている。溶接部の構成金属は約 70%がニッケルであり、その他にクロ ム、鉄、マンガン等を含んだ合金となっている。この溶接部の金属組織を詳細に観察する ために、EBSP 測定を行った。EBSP は結晶粒毎の情報を得ることができ、結晶粒の方位分布

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古川敬、南康雄、杉林卓也、古村一朗、音響異方性材料へのフェーズドアレイ UT 法の適用、

溶接・非破壊検査技術センター技術レビュー、Vol.7、 pp.13-17、2011.

78

A.H. Harker, J.A. Ogilvy and J.A.G. Temple, Modeling ultrasonic inspection of austenitic welds, Journal of Nondestructive Evaluation, Vol. 9, pp.155-165, 1990.

79

中畑和之、イメージベースモデリングによる超音波伝搬シミュレーション、日本音響学会誌、

Vol.67、No.7、pp.273-278、 2011.

80

Edited by B. L. Adams et al.: “Electron Backscatter Diffraction in Materials Science”,

Kluwer Academic/Plenum Publishers, 2000.

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が測定できる。EBSP 測定は東レリサーチセンター(株)に委託した。写真の断面を x1–x3断 面とし、EBSP 測定時の座標軸の TD(Transverse Direction)をx1軸に、RD(Rolling Direction)

をx3軸とした。ND(Normal Direction)は板厚方向(x2軸方向)とした。ニッケルは立方 晶であるので、以下は立方晶の方位分布について述べる。図 2.4.3(3)-99 と図 2.4.3(3)-100 に、それぞれ TD と RD 方向から見た結晶方位分布を色付け(ミラー指数[001]に近いほど赤 が強い)したものを示す。一般の溶接金属に比べて、金属粒が大きく、局所的に異なる方 向を向いていることがわかる。

図 2.4.3(3)-98 溶接試験体の断面写真(材質はインコネル)

図 2.4.3(3)-99 溶接部の EBSP 撮影図(Transverse direction:TD)

図 2.4.3(3)-100 溶接部の EBSP 撮影図(Rolling direction:RD)

集合組織の方位を見るために、図 2.4.3(3)-98 の赤い領域(Pole figure と指示)の極点

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図を図 2.4.3(3)-101 に示す。これは、ND 方向から観察した場合に、{001}、{101}、{111}

の配向の集合程度を表している。つまり、値が大きくなるほど向きが揃った結晶粒が多い ことを示している。{001}のみ RD 方向に赤色が強くなっていることから、主として RD 方向 を向く{001}面が多いことがわかる。なお、{001}の TD 方向も赤色が強くなっているため TD 方向を向いているとも言えるが、ニッケルは立方晶であるので{001}面が RD 方向を向い ていることと等価である。一方、{101}と{111}面は全体的にランダムである。これらのこ とから、Pole figure の金属結晶は RD 軸に垂直な断面内でランダムに分布していると言え る。この傾向は全ての視野で同様である。

図 2.4.3(3)-101 極点図(図 2.4.3(3)-98 に示す赤い領域)

(イ) 溶接組織の材料定数および音速の同定

金属組織の分布は、EBSP 測定によって把握できた。金属粒の大きさは大きいもので数 mm 程 度 以 上 あ る 。 こ の 金 属 粒 の 弾 性 定 数 を 特 定 す る 。 こ こ で は 電 磁 超 音 波 共 鳴

81(Electro-Magnetic Acoustic Resonance:EMAR)法により、ニッケル基合金の溶接試料の 弾性定数を解析する。電磁超音波共鳴とは、電磁超音波センサ(electromagnetic acoustic transducer: EMAT)によって金属内に MHz 帯域の共鳴を発生させる新しい計測方法である。

共鳴スペクトルから共鳴周波数を、また共鳴時の残響にあたる緩和曲線から減衰係数を測 定する。EMAT は永久磁石とコイルで構成され、電磁気的作用で金属試料の表面に直接超音 波を励起させるので非接触測定が可能である。得られた共鳴周波数を逆解析することによ り、すべての独立な弾性定数を決定できる。測定は、日本テクノプラス(株)に依頼した。

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荻 博次、平尾雅彦、本田崇、福岡秀和、EMAR 法による超音波伝達減衰と金属材料結晶粒径

の非接触測定、日本金属学会誌、Vol.58, No.9, pp.1021-1028, 1994.