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2-1068 (a) TFC-1

(b) TFC-3

図 2.4.3(3)-23 インコネル熱疲労割れ表面観察写真

TFC-1 TFC-2 TFC-3

図 2.4.3(3)-24 断面観察結果例 500μm

500μm

500μm

2-1069

(イ)SUS316L平板に導入した熱疲労割れの破面接触度評価

前節においてインコネル円盤に導入した熱疲労割れの破面の電気的接触の度合いの評価 を行ったが、図 2.4.3(3)-23 のように当該きずは表面の開口が明瞭であり、当該きずの分 析のみで熱疲労割れは破面の電気的接触がほぼ 0 と結論付けることは必ずしも適切ではな いと考えられる。そのため、本年度事業において、より開口の度合いが小である熱疲労割 れを導入し、同様の評価を実施した。

製作した試験体の外観を図 2.4.3(3)-25 に示す。厚さ 25mm の SUS316L 平板に 4 体の熱疲 労割れを導入したものであり、図 2.4.3(3)-26 は割れの表面開口の様子を撮影したもので ある。各割れの表面長さ、開口幅、そして破壊試験の結果明らかとなった最大深さは表 2.4.3(3)-8 に示すとおりであり、表 2.4.3(3)-6 の値と比較すると、確かに開口の度合い は小であることが確認できる。

渦電流探傷信号の収集に用いたのは、前節において用いたものと同じ、5mm 角の自己誘 導差動型プラスポイントプローブである。ただし、対象とするきずがより小であることを 踏まえて、励磁周波数は 100, 200, 400kHz、プローブリフトオフは 0.7mm と設定した。得 られた探傷信号及び探傷試験の後行われた破壊試験によるきず断面写真を図 2.4.3(3)-27

~図 2.4.3(3)-34 に示す。探傷試験信号は深さ 5mm、長さ 20mm の矩形人工スリットからの 信号の最大値が 10V となるように校正されたものであるため、いずれのきずからも有意な 信号が得られていると言える。また、きずには有意な分岐はないものの、複雑に曲がりな がら進展した様子が確認できる。試験により得られた各きずの最大深さは表 2.4.3(3)-8 に示したとおりである。各きず信号の比較のため、きず直上を通る走査線からの信号を示 したものが図 2.4.3(3)-35 である。信号の差異の程度は大きいものではない。

破壊試験結果に基づいてきずを一定幅かつ一様な内部導電率を有する半楕円領域として モデル化を行い、前節における分析と同様に探傷信号を再現するようなきずパラメータの 値を3次元有限要素法解析により評価した結果を、図 2.4.3(3)-36~図 2.4.3(3)-39 に示 す。いずれの条件においても、幅、導電率ともに小としたときに探傷信号の再現性が高い ことが確認できる。より定量的な議論のため、各図縦軸に error として示した、解析によ り得られた信号と探傷信号との差を最小化させた幅及び導電率の値をまとめたものが表 2.4.3(3)-9 である。当該熱疲労割れの電気抵抗は、前節において対象とした熱疲労割れの 値と比べるとやや小ではあるが、文献37において報告されている応力腐食割れの値と比べ ると明らかに大である。

以上は電磁的非破壊検査の観点からの疲労割れの評価であったが、参考のため破壊試験 に先立って同一試験体に対する超音波探傷試験も実施した。探傷には菱電湘南エレクトロ ニクス社製超音波探傷器 UI-25II、及びジャパンプローブ社製入射角 45 度、60 度、65 度、

37

Noritaka Yusa, Hidetoshi Hashizume, “Evaluation of stress corrosion cracking as a

function of its resisntace to eddy currents”, Nuclear Engineering and Design, Vol. 239,

pp. 2713-2718 (2009).

2-1070

70 度の横波斜角探触子(5Z10x10A45, 5Z10x10A60, 5Z10x10A65, 5Z10x10A70)及び入射角 60 度の横波集束探触子(5Z15A60)を用い、いずれも手探傷にて行った。また、得られた信号評 価のための距離振幅特性曲線は、同一試験体に対して、検査面から深さ 10, 20, 30mm の位 置に追加で加工されたφ2.4mm の貫通横穴を用いて作成した。得られたきず反射波の振幅 を、距離特性曲線比(DAC%)として示したものが図 2.4.3(3)-40 である。各きずの渦電流 探傷信号の差異は小でありまた実際破面の電磁気的接触の度合いは同程度であったが、超 音波探傷信号振幅には有意な差異があり、電磁非破壊検査と超音波検査におけるきず信号 影響因子は異なることを明瞭に示した結果となっている。

2-1071

表 2.4.3(3)-8 熱疲労割れ表面長さ、表面開口幅、最大深さ

ID Length [mm] Average opening [μm] Maximum Depth [mm]

279BCB1774 9.4 23.9 2.3 289BCB1776 9.1 26.1 2.2 300BCB1785 8.5 28.2 2.2 297BCB1786 9.1 31.7 2.4 表 2.4.3(3)-9 熱疲労割れモデル化における幅と導電率の値

ID Freq. [kHz] Width [mm] Conductivity [% base metal] Eq. Resistance

279BCB1774 100 0.02 0 ∞

200 0.01 0 ∞

400 0.05 0.1 0.5

289BCB1776 100 0.05 0 ∞

200 0.05 0 ∞

400 0.05 0 ∞

300BCB1785 100 0.02 0.1 0.2

200 0.01 0.1 0.1

400 0.01 0.1 0.1

297BCB1786 100 0.05 0.2 0.25

200 0.05 0.2 0.25

400 0.1 0.4 0.25

図 2.4.3(3)-25 SUS316L 熱疲労割れ試験体

2-1072 (a) 279BCB1774

(b) 289BCB1776

(c) 300BCB1785

(d) 297BCB1786

図 2.4.3(3)-26 SUS316L 熱疲労割れ表面観察写真

2-1073

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-27 279BCB1774 渦電流探傷信号

(a) 中央-2mm (b) きず中央 (c) 中央+2mm 図 2.4.3(3)-28 熱疲労割れ 279BCB1774 金相試験結果(スケール:200μm)

2-1074

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-29 289BCB1776 渦電流探傷信号

(a) 中央-2mm (b) きず中央 (c) 中央+2mm 図 2.4.3(3)-30 熱疲労割れ 289BCB1776 金相試験結果(スケール:200μm)

2-1075

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-31 300BCB1785 渦電流探傷信号

(a) 中央-2mm (b) きず中央 (c) 中央+2mm 図 2.4.3(3)-32 熱疲労割れ 300BCB1785 金相試験結果(スケール:200μm)

2-1076

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-33 297BCB1786 渦電流探傷信号

(a) 中央-2mm (b) きず中央 (c) 中央+2mm 図 2.4.3(3)-34 熱疲労割れ 297BCB1786 金相試験結果(スケール:200μm)

2-1077

279BCB1774289BCB1776300BCB1785297BCB1786

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-35 熱疲労割れきず直上走査線信号リサージュ

2-1078

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-36 279BCB1774 渦電流探傷信号分析結果

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-37 279BCB1776 渦電流探傷信号分析結果

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-38 279BCB1785 渦電流探傷信号分析結果

2-1079

(a) 100 kHz (b) 200 kHz (c) 400 kHz 図 2.4.3(3)-39 297BCB1786 渦電流探傷信号分析結果

図 2.4.3(3)-40 熱疲労割れ超音波信号振幅 DAC%

② 四端子法による直接測定

a)(i)①において渦電流探傷信号の分析により熱疲労割れの破面接触度合い評価を行い、

熱疲労割れの破面の電磁気的な接触の度合いは応力腐食割れに比してはるかに小であると いうことを明らかにした。ここでは、得られた結果のさらなる検証のため、四端子法による より直接的な抵抗値測定を実施した。

測定に用いた試験体の製作手順を図 2.4.3(3)-41 に示す。割れを切断後円柱状樹脂に埋 め込んだ後、さらに割れに垂直に試験体を切断することで、中央部に貫通した割れが存在

2-1080

する柱状の試験体を製作した。柱状試験体は各円柱状樹脂からきず発生面側から4体、き ず発生面と反対面側から1体切り出しているが、きず発生面側から切り出した柱状試験体 に関しては、金属顕微鏡を用いて割れの貫通が確認されたもののみを抵抗測定試験に使用 し、またきず発生面と反対面側から切り出したものは値の規格化のために用いる母材の抵 抗率を測定するために用いている。抵抗値の測定には日置電機製抵抗計 3541 および四端子 リード 9453 を用いた。尚、ここでの測定対象とした熱疲労割れは a)(i)①において用い られたものと同一である。

得られた試験結果を表 2.4.3(3)-10 に示す。表中柱状試験体採集位置とある値が小であ るほど当該試験体がきずの開口面側から採集されたことを示しており、特に値が 1 とある のは表層部から採集されたものである。Δ(RS)σ0とあるのは試験体断面積差異の補正を 行い、さらにきずの存在による抵抗値の上昇を母材の電気的導電率の値で規格化すること で得られた値であり、この値が大であるほど電気的抵抗が大であることを意味している。

対象が人工スリットのような導電性を有さないきずであればこの値は∞となり、電流を全 く乱さないきずであれば 0 となるものである。表より、局所的にみると導電性がない、即 ち破面の接触が 0 である部位が存在するものの、全体としては接触の接触は存在すると言 えること、またその度合いは実際には空間的に分布を有するということが確認できる。さ らに、同一断面では概ねきず開口部が最も抵抗値が大、即ち接触の度合いが小であり、き ず深部に行くに従って接触の度合いが大きくなっていることもまた確認できる。

熱疲労割れと応力腐食割れの破面接触の度合いの比較のため、従来研究において行われ た、応力腐食割れに対する同様な評価試験の結果38と本試験の結果を図として示したもの が図 2.4.3(3)-42 である。応力腐食割れに比べると熱疲労割れの破面の電気的接触の度合 いは明らかに小であるということができる。

38

N. Yusa, H. Hashizume, “Four-terminal measurement of the distribution of electrical

resistance across stress corrosion cracking”, NDT&E International, Vol. 44, pp. 544-546

(2011).

2-1081

図 2.4.3(3)-41 試験体製作手順

図 2.4.3(3)-42 熱疲労割れと応力腐食割れの電気的抵抗値比較

2-1082

表 2.4.3(3)-10 熱疲労割れ抵抗値測定結果

きず番号 断面番号(円柱状樹脂番号) 柱状試験体採取位置 Δ(RS)σ0 [mm/%σ0]

1 2 1 2.5E+02

3 1 1.4.E+04

2 6.4.E+01

4 1 ∞

2 1.2E+02

3 1.5E+01

5 1 5.0E+02

2 2.0E+01

3 1.0E+01

6 1 4.7E+02

2 5.3E+01

2 2 1 1.7E+01

3 1 3.0E+01

3 2 1 5.7E+01

3 1 2.2E+02

2 4.8E+02

4 1 ∞

2 2.0E+01

5 1 ∞

2 5.3E+02

6 1 ∞

2 4.4E+01

3 1.6E+01

7 1 9.2E+01

2 6.9E+01

3 9.5E+00

8 1 2.6E+01

2 1.1.E+01

9 1 2.9E-01

2-1083

(ii)破面接触度が検査信号に与える影響の評価

1)(c)a)(i)における各種分析の結果、熱疲労割れの破面接触の度合いは応力腐食割れに比 べると小であることが確認された。本節においては、得られた知見に基づき、破面接触度が 渦電流探傷信号及び渦電流探傷信号に基づくきず深さ担保精度に及ぼす影響について、数値 解析による評価を行った。

(ア)熱疲労割れの破面接触度が渦電流探傷信号に影響を与える度合いの評価

電磁非破壊検査の観点からは熱疲労割れは多くの場合はスリットと等価、即ち無限大の 抵抗を有すると見なされうるが、応力腐食割れの場合と比べると小ではあるものの、破面 の電気的な接触が存在することが明らかとなった。よって、ここでは3次元有限要素法解 析により、熱疲労割れの破面接触度が渦電流探傷信号に影響を与える度合いを評価する。

一般的にきずによる電流の乱れを利用する電磁非破壊検査の有限要素法解析においてき ずを一定幅かつ一様な内部導電率を有する領域としてモデル化した場合、きずの破面接触 の度合いは、きず領域の幅を内部導電率の値で除した値でかなりの程度整理されうるとさ れている。ここでの解析においては、表 2.4.3(3)-7、表 2.4.3(3)-9 に示された結果にお ける最小値を採用し、この値として 0.1 を採用した。解析において用いたのは 1)(c)a)(i) における探傷試験において用いられたものと同一の、5mm 角自己誘導差動型プラスポイン トプローブであり、リフトオフは 0.7mm、励磁周波数は 100kHz と設定した。対象としたの は長さ 20mm の矩形きずであり、深さが 1~5mm それぞれの場合について、内部接触がきず 信号に与える影響を評価した。対象はオーステナイト系ステンレス鋼を想定しており、本 条件における表皮深さは約 1mm である。尚、1)(c)a)(i)における評価結果及び一般的に疲 労割れをモデル化する際の幅の値は小であるという知見39に基づき、ここでのきずの幅は 最大で 0.5mm とした。

得られた結果を図 2.4.3(3)-43、図 2.4.3(3)-44 にまとめる。比較のため、各図におい ては同一形状ではあるが内部導電率を有しない理想きず、即ち人工スリットからの信号も 併せて示している。図より、きず深さが表皮深さ程度である場合には、破面接触が渦電流 探傷信号に及ぼす影響は小であり、最も接触の度合いが大である場合であっても、熱疲労 割れからの信号と人工スリットからの信号との間に大きな差異を確認することは出来ない。

きずが深くなるに従って破面接触の影響が大となるが、破面接触に起因する信号強度の低 下の度合いは、最大でも同一形状の人工スリットからの信号に比して4割程度であること が確認できる。

39

Zhenmao Chen et al., “A nondestructive strategy for distinction of natural fatigue