The Japanese Association of Management Accounting
The Japanese Assooiation of Management Aooounting
目本
管
理会 計 学 会 誌
管
理 会計 学
第
15巻
第 2号管理
会 計 学
第
15巻 第
2号1 . は じ め に
本
論
文は
,新 会 計 基準
の適 用に お
ける 利
益マ ネジ メ
ント (
eamings management) に
つ い て考
察 す る もの で あ る. わ が
国に お
い ては ,
「固 定 資 産の減 損 に 係 る 会 計 基 準」 (以 下,
減損 会
計 基 準と
す る )が 2005
年4
月1 日
以 後 開 始 さ れ る 事 業 年 度か
ら適 用さ
れてお り
,2004
年3 月 31 日
以降
に 終
了 する
事業
年度 で
早 期適
用が
認め ら れ
て いる , そ
こで
本 論文 で は
, 減損
会 計 基 準の早
期 適 用 企 業に
存 在 する
と考 え られる
会 計 行 動 の 規則
性 を 合理
的に
説 明 する た め
に,
2004 年3
月 期, 2005
年3
月 期に
早 期 適 用し た
企 業 を 対 象に し
て,
利 益 と減損
損 失の計上
額の 関 係に
つ いて
実 証分 析 を 行っ
た .
米
国に お け る 先行
研究 に よ れ
ば,
固定 資
産の減 損損
失の計
上は 頻 度 が 高 く
, かつ巨額 と
なる
こと が 指 摘 さ れ
て
いる
b 減 損の手
続に お
いて は
経 営 者の 判 断 が 求 め られる
場 面 が 多 く,
計 上 額に
も 裁 量の余 地が
大 きい.
ま た 減 損に
関 する
基 準の 制 定 後,
減 損 損 失の 計上 が 正
当 化で き ること か
ら利 益マネ
ジメ
ント
の 影 響が
よ り強 く なった
こ と を 指 摘 する
研 究 も存在
す る1.
減
損
会 計 基 準の 適 用に お
いて , そ
の 時期
を選
択し
て減 損
損 失 を 計 上で
きる
とす
れ ば, そ
の適 用は
利 益に
余 裕が
ある
と きか,
ある
いは
も とよ
り利 益が
悪 化 して
いる
場 合で は
ないか
と 考 え られ る .
つま り
利 益 平 準 化,ビ
ソグ ・
バ スと よ ば れ る
会 計 行 動を と
っ て いる
こと が 想 定 さ
れ る.
早期 適
用は
任意 で
あ るので 適
用 自体 が
経 営 者の 裁 量の 範 囲内
で あ る. そ
のた め
経営者 は 適
用の 時 期 にっ い て,
当 期の 企 業の 状 況 を 見て
判 断 する で
あろ
う.
本 論 文
で
は 利 益 平 準 化 とビ
ッ グ・
バス とい う利 益マ ネジ メ
ン トが
, 早 期 適 用 企 業の減 損 損 失
の 計
上 に
当ては ま
っ て いた か
ど うか検 証 を 行 う.
分 析は
利 益の状 況以
外で 特 定の 経 営 者の動 機 を 仮 定 する
もの では
な く, 早 期
適 用に 対 し
て利
益平準
化,
ビ ッ グ・
バ スと
見ら れ る 行動 が 存
在したか ど うか を 跡
づ
ける
もので
ある .
本論 文 は
, わ が 国の 減 損 会 計 基 準の早 期
適 用 企業
の 調 査 に あた
り,
減 損 損 失 を 計上
する
前の 利 益 を 基 準に
,そ
の 利 益の 水 準 ないし
変 化 がプ ラ
ス の領
域に
ある か
マイ ナ
ス の領域 に
あ るか
に 区 分し
て利 益 平 準 化 仮 説 およ び ビ
ッグ ・
バ ス仮 説 を 検 討 する
こ とに
特徴
を有
する ,
また , わ が
国に お け る 一 連
の新
会計
基 準の適 用 に お
い ては
利 益マネ
ジメ
ン トが
行 わ れ た 証 拠 が 提 示 さ れて
いる
2.
本 論 文は
減 損 会 計 基 準の早
期 適 用 を 調 査 対 象 とする
こ とか
ら,
新 会 計 基 準の 適 用に
お ける
利 益マ ネジ メ
ン トの証 拠 を 蓄積
させ る
とい う意 義 を有 し
て
いる .
分 析 の結 果, 減 損 会 計 基 準
を 早
期 適用 し た 企 業 に お
い ては ,減 損損失
の計 上 が
裁量 的 に
行わ
れ,
ビ ッ グ・
バ ス,
利 益 平 準化
の視 点か
ら なさ れ て
いる 証
拠が 得 ら れ た . そ
の こと は ,
経営
者が
利 益の状 況 を 見て
減 損 損 失の 金 額 お よ び 計 上 する
タイ ミ
ン グ を 選 択し
たこ
と を 示し て
いる .
本 論 文の 構 成は
次の とおり で
ある .第 2 節
で先
行 研究 ,第 3 節
では
仮 説 の設 定と 検
証 方 法を
示 す
.
検 証の 結 果は
第4
節で
展 開 される .第 5 節 は ま と め と 今後
の課題 で
ある .
2 . 先行 研 究
わ が
国 で は ,減 損会計
基準 は 2006
年3
月 期か ら
適 用 さ れて い るが ,2004
年3
月 期 以 降の 早期
適 用 も容 認 されて
いた . こ れ に
対し
米 国に お
いて は ,1995
年に 財務会
計基
準 書 (以 下SFAS
と する
)第
121 号「
Accountingfbr
thelmpairment
ofLong −Lived
Assets
(長 期 性資
産の減
損に
関 す る会計 処 理
)」が 公
表 されて 減
損に
関 す る 基 準が
定 め られ た,SFAS
第 工21 号は
,2001
年に 公
表 され た SFA
S
第144
号 「Accounting
fbr
thelmpairment
orDisposal
ofLong −Lived
Assets
(長 期 性 資 産The Japanese Association of Management Accounting
The Japanese Assoolatlon of Management Aooountlng
減 損 会 計 基 準
の適 用 に お け
る利 益
マネ
ジ メント
の
減損 ま た は 処
分に
関す る
会 計処 理
)」に お
きか え
られて いる が , 内
容の 基 本的 な 点 は
維 持さ れ
て い る
,
SFAS 第 121
号公
表 以 前 は,
固 定 資 産の減 損 に 関 する
基 準が
未 整 備で あった .
そのた め
減 損の タ
イ
ミ ング ,
計 算方
法, 開示
方 法に
関 し て経営者
が裁量 を 有
し ていた . そ
うい っ た中で実 施 された
固定資
産の減損 と
利 益マネ ジ メ
ン トに
つ いて
検 証が
行 わ れて い る.
そこ で しばし ば
取り 扱
われ る
のは ,減 損損 失 と
利 益 平準
化 仮 説, ビ
ッグ ・
バ ス 仮 説 およ び 経 営者
交 代と
の関 連で あ る . こ れ
らに 着 目 し て
先 行研
究 を概観 し よ デ ,
Elliott
andShaw
(1988 )1
ま, 1982 年か ら 1985年
の 間に
減損損 失 を
計 上 した
企業
につ い て 調 査 して
いる . そ
こで は ,減損損 失 を
計上 し た 企
業は ,
利 益が
産 業の 中 央 値よ
り も 悪 化し
て いた
こと ,
対象 と し た 240
社の
う ち39 % で 減損 損
失を
計上 し た
年度 に CEO ,社
長,
CFO が
交 代し て
いる こ と を 示 し て
いる .
こ の 行動 は 前
任者 に
その減損損
失の責 を
負わ せ ,
将 来に
関 する
期 待を 改善 し
,自 ら
の業績
評 価の基
準を
下 げよ
うと し
て い ると
説 明 さ れて いる .
Zucca
andCarnpbell
(1992
)は ,1978
年か
ら1983
年の 間に
固 定 資 産の減 損 を 行った 企
業を
サン プルと し
た分
析を 行
った .
分 析に お
い ては 当
期の期 待 利 益 を,
ランダ
ム・
ウォー ク ・
モ デルを
は じ め と
する 5
つ の モ デルで 計算 し
,減損損 失控 除前利
益が
期 待利益
以上 で 減損 損
失を
計上 し
た とし て
も 期 待 利 益 を 下 回 らない場 合 を 利 益 平 準 化, 減 損 損 失 控 除 前 利 益 が 期 待 利 益 を 下 回る
場 合を ビ
ッ グ・
バ スと し
て,
減損
を 行った 企
業 を 分 類し た .
その 結 果,
サンプ
ルと し
て選 択さ れ た 77 社
の う ち,22
社 が利
益平準
化,45 社 が
ビッグ ・
バ スと
整合 し て
いた .
Francis・et・al
.
(1996 )は ,
1989 年か
ら1992
年の 間に 公
表 され た 減 損 損 失に
っ いて ,
減 損 損 失 を被
説 明変
数, 計 上
の要 因と な る 変数 を
説 明変数 と し
て 回 帰 分 析 を 行った .
する と 減 損損
失は 経
営者
の交代
, 企業規模
,過 去
の マイ ナ
ス の異常
項 目と
プラ
ス の 関 係, 過去
の株
式 収益 率 と は
マイ
ナ ス の 関 係を
示 した . と
ころ が
, 利 益平
準化
仮 説 (利 益が前期
より
増 加 する
ほど
減 損 損 失が
増 加 )と ビ
ッグ ・
バ ス 仮 説 (利 益が
前 期よ り
減 少 する ほ ど
減 損 損 失が
増加
)に 一
致 す
る
証拠 は
得ら れ な か
った .
Rees et al
.(
1996) は
, 1987年
か ら 1992年
の間 に
固 定資
産の減損損
失 を計
上した
企業
の利 益マ ネジ メ
ン トに
つ い て 会 計 発 生 高(
accruals )を 用い て 調 査し ,
減 損 を 行 っ た 年 度の裁 量 的 会 計 発生
高が
有 意 にマ イナ
ス で あ るこ と を 報 告し て
い る。
ま た 減 損 を 行 っ た 年 度のサンプ
ル企 業の利 益は
, 属 する
産業
の中央値 よ り
も 低か
った ,
つま り ,
減損損
失の 計上 と あ わ せ
て利 益マネ
ジメ
ントを 実
施し
,更 に 利
益を
減少 さ せ て
いた と
い うこと に な る .
上 記の 研 究 は SFAS 第 121 号の 制 定 前
で
ある が ,
制 定 後 を 含 めて
行 わ れ た 研 究 として
は,
Riedl(
2004
)が
ある .
そこ では ,1992
年か
ら1998
年 まで の期 間 を 対 象に
減 損 損 失の要 因に
つ い て,
経 済 的な
要 因と
利 益マネ ジ メ
ント と 考 え
ら れる
要 因に
分 類し ,
基 準 制 定 前 後に そ れ ら
要 因の 影 響が
異 なる か ど
うか
を 調査 し た .
経 済 的 要 因と
し ては ,
マ クロ 経 済 要 因,
産 業 全 体の 利 益 状 況と 企
業の業 績の変
化 を 取り 扱
っ て い る,
利 益マネ ジ
メ ント と
考え
られ る 要 因 とし
ては ,
利益
平 準 化, ビ ッ グ・
バ ス,
経
営 者交 代 な ど を
対象 と し
ている .
分 析 の結果
,SFAS 第 121 号
の 制 定 前 後を
比較 する と ,
経 済的
要 因につ い て は ,SFAS
第121
号 制 定 前と
関 連 す るもの の,
制 定 後に
は その関 連が
弱ま
ること が
示 さ れた ,
また
報告
さ れた 減
損 とビ
ソグ ・
バ ス の 関 係が
制定
後に は よ り 強 く
なる こ と
,そ し て こ
の ビ ソ グ・
バ スは
, 私的情
報の提 供と
い うよ り は 経営者
の機
会 主義
的報
告 を 反 映し て
いる 可
能 性 が 高い こと
を 指 摘し た .
わ が 国
で
減 損 会 計 基 準 制 定 前に
つ いて
, 減 損 損 失 (価 値 損 傷 損 失 )に
関 する
実 証 分 析 を 行った
の が 岡 部
( 1998
)で
あ る.
そこで
は, 1985
年のデー
タ を 用いて ,
価 値 損 傷 損 失 と 予 想 業 績 水 準管
理会 計
学第
15巻 第
2号所 有 構 造
,
負 債 比 率,
企 業 規 模,
実 効 税 率 との 関 係 につ い て 調 査し た .
価 値 損傷 損
失は 純 特 別
損 益 (特別
利 益マイ ナ
ス 特別
損 失 )で
代理
させ て
いる . そ
の 結 果, 予
想 利 益 水 準,
所 有 構 造 と 実 効 税 率に
つ いて , そ
れ ぞ れ 価 値 損 傷 損 失 との 関 連 が 指 摘 され た.
これ
に
対し ,
減 損 会 計 基 準 制 定 後に
その影 響 の分 析 を 行った
研 究 とし
て は,
辻 (2005
)が
あり ,減 損会
計 基 準の 早々 期適
用企
業 (2004
年3 月
期 )と
早 期適
用 企業
(2004
年9 月 中
間期
)を 対 象に 財 務 的特徴 を
調 査し
た. そ
の中 で ,
早々期適
用 企業 と
早期適
用 企業
の売
上高経
常 利 益 率 は 未適
用 企業 よ り
大き
い が減
損損
失 計上 後
の利
益 率で は そ
の 差 が小
さ く なる こ と ,
ビ ッ グ・
バ ス と見
られ る
企 業 が ある こ
と,早
々 期 適 用 企 業に は そ
の後に
財 務 体 質 改 善の
動 き が 見 られる
こ と な ど を報
告 し て いる .
次
に
山 本 (2005, 2006
)は ,2004
年の 早 期適
用 企業 を
用いて ,経 営
者 交 代と 会 計
発 生 高 を 用いた
利 益マネ
ジメ
ントな ど に
つ い て 調査 し て
いる .
対 応サ
ンプルを
用い て経営者
交 代の頻 度
を調
査 した 結果
, 有 意 な 差は見
られ
なか った .
利 益マ ネジ
メ ン ト は , 裁量
的 会 計 発生
高 を適
用2
年 前か
ら計算
す ること よ
り調 査し
て い る.
その結 果,
早 期 適 用企
業 全 体 とし
て,適
用 する 前
の期
と 比 較 し て 有意 に
裁量
的会
計 発生 高 が 上
昇し て
いる
こと か ら ,
早 期適
用 時に
利 益増
加 的 な 会 計 行 動 を とって
いる
, つ まり
利 益平
準化
が観
察 され
た と結 論し て
いる
4.
川
島
(2006b
)では ,2004
年に
早 期 適 用し た
企 業 を用い て,
回 収 可 能 価 額の測 定方
法に
つ いて
調 査し た . そ
こで は , 自 己 資
本比
率を
代理 変数 と
する 財 務的
健 全 性 と 回 収 可 能 価 額の算
定に お け る
使用
価値 お よ び 正
味 売 却 価額
の選
択,正
味 売 却価額
の算
定,割
引 率の設
定と
の 関 連 性 を 分 析し た . そ
の結
果, 財務
的 健 全性
の高
い 企業 ほ ど
,低 め
の回
収 可能価
額と
なる よ
うな 測 定 方 法 を 用い て い る 証 拠 を 提示 し た .
川 島( 2006a)
は2004
年, 2005
年3
月 期の 早 期 適 用 企 業 を 用いて ,
回 収 可 能 価 額の算
定と
財 務 的 健全
性に
っ い て調査 し ,
同 様の 結 論 を 得て い る.
双 方の研 究で は
業 績 指 標と し
てROA
も 用い て分 析し
て いるが ,
回 収 可 能 価 額の算 定 との明 確 な 関 連は
示さ
れて い
な
い.
本 論 文
は
, 山 本(
2006)
らの 先 行 研 究 と異 なり
,早
期 適 用 企業 に お け る 利
益の 水 準 ないし そ
の変 化
に
よって
サンプ
ル を 区 分 し, そ
れ ぞ れ 減 損 損 失 額 との 関 連 を検
討 する . そ
こか
ら利 益 平 準 化お よ び
ビッグ ・
バ ス の存在
を 検 討 す ること
を 目的と し
て分 析 を 進め る .
3 . 仮 説
の設 定 と 検 証 方 法 3 . 1 . 仮 説 の 設 定
固 定 資 産の 減 損
は , そ
の 発 生 を 経 営 者 が 認 識し
たの ち 記 録す る
こと に
なる .
つ まり
会 計 上の 認 識に
減 損 が 先 行 する ,
これ とは
別に ,
経 営 者に
よる
組 織の
再 編 や 生 産 計画
の 変 更 な どの意 思 決 定 に 伴い,
減 損が
発 生 する
場 合が
ある .
こ の 場 合は
前 者よ り
も減
損のタ イ ミ
ング と金 額に
大 き な影響
を及
ぼ すこ とに
なる
(Elliott
andShaw
l
988
,91−92
)5. ま た ,減損損
失の計 上 に
つ い ては , 資
産の グルー ピ
ン グ, 正
味 売 却価 額
の計算 ,
使用 価値
の算定
の際に
用いる
将 来キ
ャ ソシ
ュ・
フロ
ー
の見
積 もり
, 割 引 率の選 択 な ど
で
さ ま ざ ま な 経 営 者の判
断 が 要 求 され る
6.
さ らに 早
期 適 用に
つ いて
は, 適 用 その ものに
経 営 者 が 裁 量 を 有 する .
つ まり
,減損 損
失の 計 上のタ イ ミ
ン グ およ び
金 額 につ い て,
経 営 者に 対し て選
択の 余地 が
多 く残さ れ て
いる .
本 論 文で
は ,
こ の経 営 者の減
損 損 失の計上 に
関 す る 裁 量 性に
着 目し,
利 益の 水 準 ないし
その変
化と 減 損損 失 に
関す る 検
証を
行 う,経 営者 は ,減損損
失の 兆 候の 把 握,
認 識の 判 定 そし て
測定 を
行い ,そ
の 期の 利 益 状 況 や導
入し た
こと に よ る
将 来の利 益 改 善,
利 害 関 係 者 の反 応 を 予 測
ドキュメント内
The Japanese Association of Management Accounting NII-Electronic Library Service
(ページ 41-47)