90%
No 10
miYes
10%90%
No
新規患者のプロセスマップでは、通常診療業務は1回につき167分27)、治療計画の変更 がある場合には1回につき30分が費やされている。そうすると、通常診療業務一回にかか るコストは、146.3ドル/回であり、治療計画の変更一回にかかるコストは、26.3ドル/回と 計算される。通常診療業務と治療計画の変更の回数を、それぞれ400回、40回とした場合、
TDABCを実施すると以下のように計算できる(図表7-7)。図表が示しているように、咽
頭鏡検査法が加味されていない場合では、未利用のキャパシティが計上されることになる。
図表7-7 TDABCを用いた未利用キャパシティの明確化(咽頭鏡検査法を加味しない場合)
(出所)筆者作成。
次に、未利用のキャパシティを減少させるべく、新たな治療方法として咽頭鏡検査法を 追加した場合の TDABC を実施する。新規患者のプロセスマップでは咽頭鏡検査法の所要 時間は1回につき10分であるため、咽頭鏡検査法一回にかかるコストは、0.88ドル/回と 計算される。その月間提供回数を50回と仮定して、TDABCを実施すると以下のように計 算できる。
27) 図表における分岐点で全てNoを選択した場合の業務時間合計である。
図表7-8 TDABCを用いた未利用キャパシティの明確化(咽頭鏡検査法を加味する場合)
(出所)筆者作成。
図表7-8 が示しているように、新たな治療方法が開発された場合であっても、コストド ライバーを新たに設定する必要はなく、単位時間が計測されたアクティビティを増やすだ けでよいので TDABC は改訂が容易であることがわかる。また、咽頭鏡検査法をアクティ ビティとして追加することで、未利用のキャパシティの割合が低下していることがわかる。
具体的には、咽頭鏡検査法を加味する前後で、未利用のキャパシティは 0.7%から 0.0%に 低下している。
つまり、有効な治療方法が開発され、医療スタッフが新たにその治療活動を行った場合 であっても、その治療方法にかかるアクティビティだけを TDABC の時間方程式に追加・
削除すればよいのである。この点、新たに活動を追加する場合にはコストドライバーを新 たに設定する必要があるABCと大きく異なる。加えて、有効な治療方法に関するアクティ ビティを追加することにより、キャパシティの利用度も向上させることができる。今回の 咽頭鏡検査法にかかるキャパシティは高額でなかったが、高額医療設備が遊休化している 場合を想定した場合だと、未利用のキャパシティの割合は当然大きくなる28)。
(4)医療提供の価値連鎖とTDABCの関係
28) Kaplan, R. S. and M. E. Porter [2011], pp. 57-58.
これまでの議論をまとめ、医療提供の価値連鎖(CDVC)と TDABC の関係を示すと以 下のように図示することができる(図表7-9)。
図表7-9 が示しているように、医療提供の価値連鎖が競争優位を創造するためのパター ンは二つ存在することになる。一つは、医療提供の価値連鎖を解析することで、価値連鎖 の連結関係の理解を深め、価値向上に貢献するパターンである。もう一つは、医療提供の 価値連鎖を修正してプロセスを追加・改訂した場合に、TDABCを用いてコスト面でのプロ セス変化の影響を提示することにより価値向上に貢献するパターンである。前者は、価値 連鎖内部または外部との連結関係を理解することで、その連結関係に最適化と調整を行う ことができる。後者は、新たに追加・改訂されたアクティビティを TDABC の時間方程式 に組み込むことで未利用キャパシティの弾力的運用が可能となる。
図表7-9 医療提供の価値連鎖とTDABCの関係
(出所)筆者作成。
また、医療提供の価値連鎖は、病態ごとのケア・サイクル全体を対象としたものである。
それゆえ、ポーターは保険者の取るべき戦略の一つとして、ケア・サイクル全体を対象と した医療保険の必要性に触れている。これは、現行の診療報酬制度を医療提供の価値連鎖 に従ったものにする、いわゆる「価値重視償還(value-based reimbursement)」の実現を 想定したものである29)。この点、医師の技術料算定の基礎となるRVUを用いるRVU法も、
こうした償還制度改革が適正に行われることで、基準単位となるRVUの精度向上につなが ることから関連性があると考えられる。
第4節 終わりに
本章では病院経営の展開を踏まえて、病院経営と病院原価計算の関係を考察してきた。
本章の議論は、以下のように集約できる。
まず、診療報酬が出来高払いであった伝統的な病院経営(品質管理重視の病院経営)で は、診療サービスに対して支払われる償還額を最大化させるような志向性(償還最大化志 向)をもつことになる。つまり、ここで用いられる病院原価計算は、医師に診療行為を委 縮させるような影響を与える原価計算は望ましくない。ゆえに、病院原価計算は、部門別 原価計算であれば単一基準・階梯式配賦法が適用され、診療行為別原価計算であれば、RVU 法やABCといった診療行為別原価計算は、導入・運用コスト面から当該病院経営になじむ 手法とはいえず、RCC法で十分であるといえよう。
次に、1983年から病院経営は、コスト管理を重点化した病院経営が主流となる。こうし た原価管理を重視する病院経営では、マネジドケアとの契約を有利に進めようとする病院 や、コスト・ベネフィットの観点から診療行為や医師を選定する病院が想定されているた め、詳細な原価情報を提供する原価計算が用いられることになる。それゆえ、部門別原価 計算であれば複数基準・相互配賦法が適用され、診療行為別原価計算であれば RVU 法や
29) Kaplan, R. S. and M. E. Porter [2011], pp. 63-64.
ABCが適合すると結論づけた。また、現在でもマネジドケアとの契約を有利に進めようと する病院が残っているとすれば、TDABCが用いられることになる。
最後に、価値重視の病院経営は、医療サービス提供者である医師や病院の意向も反映し たものであるため、「新しい」品質管理重視の病院経営として位置づけた。この価値重視 の病院経営を対象別に区分して病院原価計算の関係から考察を加えた。
まず、個々の病院を対象とするウエスト、ロス=フェンスター、マイケルマンら、そし てベンソンらの価値重視の病院経営では、医療費上昇を背景に医療を提供する側と管理す る側の協力関係を要請していることから、その共通情報基盤としてコストデータが求めら れることを説明した。そして、費用対効果の観点から、時間を配賦基準とした原価計算、
つまりRVU法やTDABC(若しくはABC)の採用を考えることができるとした30)。
一方で、ポーター=テイスバーグ、キャプラン=ポーターの価値重視の病院経営は、対 象は医療システム全体である。ポーターの競争優位の創造を目的に構築される価値連鎖は、
医療においても用いられ、その医療提供の価値連鎖が競争優位を創造するパターンは二つ 存在していることを明らかにした。一つは、医療提供の価値連鎖を解析することで、価値 連鎖の連結関係の理解を深め、価値向上に貢献するパターンである。もう一つは、医療提 供の価値連鎖を修正してプロセスを追加・改訂した場合に、TDABCを用いてコスト面での プロセス変化の影響を提示することにより価値向上に貢献するパターンである。ここにポ ーターが原価情報を戦略的に用いるにあたって、原価計算の計算合理性を加味した計算方 法として、製造業・サービス業を対象として考案された TDABC のような時間を配賦基準 とした原価計算の利用価値が高いと考えたことがわかる。彼が病院の経営戦略において必 要なものは、「正確な」原価情報ではなく、「経営判断を誤らせない」原価情報であり、
これはフランスにおいて同質セクション法やABCから、「取引の収益性」判断を利用目的
30) また、病院の経営形態は多様であるため、部門別原価計算や診療行為別原価計算におけるRCC法から 得られる原価情報であっても、BSCのような管理手法が機能する病院が存在する可能性は否定できない。
とするUVA法が再考されるようになった背景と共通している。
このように競争優位の創造には、価値連鎖の連結関係の理解というラインの側面が存在 する一方で、TDABCを用いた未利用キャパシティの弾力的運用というスタッフの側面も存 在していることになる。つまり、二つの側面のうち、未利用キャパシティの弾力的運用す
る TDABC のあり方こそが、価値重視の病院経営を支援する病院原価計算のあり方を提示
したものとなっているのである。