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米国病院原価計算の展開

第1節 はじめに

前章でみてきたように、1983 年のメディケアによる診断群類分類別包括支払方式

(DRG/PPS)の導入、1980年代後半からのマネジドケアによる医療管理の強化、そして医

療機関機能評価認定組織(JCAHO)の「医療の質」評価指導方針の変革が、病院に原価管 理の必要性をもたらした主要な背景をなしている(図表2-1)。

まず、1983年のメディケア償還制度改革では、償還対象が部門サービスからDRGとい う疾病別患者群に変更され、この改革が原価管理上、重要な意味を持つようになった1)。加 えて、1980年代後半から急速に市場規模を拡大し始めたマネジドケアによる医療管理の強

化は、DRG/PPS 導入の影響と相まって、疾病(DRG)別原価管理の普及を促進し、医師

を管理対象とする医師別原価管理の本格化をもたらした2)

図表2-1 アメリカにおける病院経営環境の変化

年代 出来事

1965年 公的医療保険制度としてのメディケアが誕生

1983年 DRG/PPSがメディケア病院保険(パートA)に導入される

1980年代後半 マネジドケアによる医療管理の強化

医療機関機能評価認定組織(JCAHO)の「医療の質」評価指導方針の変 革

(出所)荒井[2007]、2-19頁より筆者作成。

1) 荒井[2001]7頁。

2) 荒井[2001]9頁。なお、医師別原価管理は、診療行為別原価や疾病別原価を基に、医師別に管理するも

のであるため議論の対象としない。

本章では、病院でコスト意識が高まるにつれ、どのように原価計算の洗練化が進められ てきたのかを、保険者機能の強化をもたらした病院経営環境の変化と絡めながら検討する ことにしたい。本章の構成は次のようになっている。まず第 2 節では、病院での部門別原 価計算に相当する診療科別原価計算の特徴を整理する。第3節では、診療行為別原価計算とし て、患者別原価計算と疾病別原価計算を取りあげる。なお、本章で取り扱う病院原価計算の種類 は、以下のようになっている(図表2-2)。

図表2-2 病院原価計算の種類

病院原価計算 特徴

1 診療科別原価計算 通常の原価計算でいう部門別原価計算に相当

(適切な部門設定と配賦基準が必要)

2 患者別原価計算

(診療行為別原価計算)

患者の一人ひとりの特性を加味した原価計算

(患者の重症度や医師の勤務時間の測定が必要)

3 疾病別原価計算

(診療行為別原価計算)

疾病別に原価を集計する原価計算

(出所)筆者作成。

第2節 診療科別原価計算

保険者機能が強化された場合、伝統的な診療報酬任せの病院経営では経営が成り立たな いため、病院は不採算な診療科・診療行為を認識する必要性が生じてくる。そのため、原 価集計単位の設定はもちろんのこと、部門設定や配賦基準の設定も適切に行う必要がある。

本節では、原価管理対象が多様化する以前から実施されている診療科別原価計算の仕組み から説明していくことにしたい。

1. 診療科別原価計算の部門とは何か

診療科別原価計算とは、入院部門は病棟別に、外来部門は診療科別に部門を設定し原価 を集計する原価計算である。仮に、病院のプロフィットセンターとして、特にその損益を 明確にする必要があれば、特設部門を設けて原価計算を行うことになる。聖路加病院の渡 辺明良によれば、これら診療部門は診療科別原価計算では最終原価集計部門となるが、最 終原価集計部門を診療科ではなく病棟・外来部門にとどめた場合には単に部門別原価計算 と呼ばれることになる3)

次に、手術室や麻酔科をはじめ、放射線科・検体検査室・生理検査室・薬剤部・リハビ リ室など、主としてコメディカル部門を中心とした部門は、中央診療部門として設定され る。診療部門や中央診療部門は、病院の収益を司る部門であることから、総称して「主部 門」と呼ばれる。

一方で、病院内には収益と直接関連しない部門も存在する。例えば、一般管理部門や医 事課のような事務各課は管理部門に区分され、リネン洗濯部門や給食部門、放射線フィル ム管理室のような部門は補助部門に区分される。また、研究所があるような病院の場合は 研究部門を配置することもあり、大学附属病院などの場合は教育部門を含めることもある4)。 以上をまとめると、図表2-3のように図示することができる。

このように部門設定がなされると、次は部門別に原価を集計することになる。原価が集 計されるコスト・センターは、①医師や看護師、コメディカル5)、事務職員の給与などの給 与費、②薬剤費や診療材料費などの材料費、③福利厚生費や光熱水道費などの経費、④清 掃や患者給食といった委託費、⑤研究研修費、⑥病棟などの減価償却費に分類される6)

3) 渡辺[2012]157-158頁。

4) 教育部門を含めた区分については、Nackel, J. G. et al. [1987], pp. 92-94を参照されたい。

5) コメディカル・スタッフ(co-medical staff)とは、医師や看護師以外の医療従事者のことを指し、薬剤 師、理学療法士、作業療法士、歯科衛生技師などが該当する。

6) 原価の測定方法や集計方法については、今中[2003]が参考になるので、そちらを参照されたい。

図表2-3 部門設定の考え方

(出所)中村・渡辺[2000]、69頁。

2. 診療科別原価計算の配賦計算

次に、診療科別原価計算を行うにあたり、まず集計された原価の流れから確認しておき たい。診療科別原価計算の原価配賦の流れは、一般的に図表2-4 のようになる。本章では 説明を簡潔に行うため、特設部門や研究部門は考慮せず、また、補助部門と管理部門は区

分せずに補助管理部門として取り扱う。

次に示す設例を用いながら、診療科別原価計算の仕組みを確認していくことにしよう。

図表2-4 診療科別原価計算の原価配賦の流れ

(出所)筆者作成。

設例2-1

入院部門(病棟A、病棟B)と外来部門(内科、外科)の他、中央診療部門(放射線診断 部門)と補助管理部門(看護管理室)が存在する病院を想定する。給与費に関する診療科 別原価を算定するにあたり、診療科別の原価を算定する際に用いるデータは、次のように なっている。なお、階梯式配賦法を用いて配賦計算を行い(優先順位は補助管理部門の方 が高い)、補助管理部門の原価配賦は看護師数に基づき、中央診療部門の原価配賦は X 線 撮影回数に基づいて配賦する。

まず、看護管理室(補助管理部門)の原価を、看護師数に基づいて入院部門、外来部門、

および中央診療部門にそれぞれ配賦する。

次に、放射線診断部門(中央診断部門)に集計された原価を、X線撮影回数に基づいて、

入院部門と外来部門に配賦する。

よって、診療科別原価は、以下のようになる。

上記の設例は、給与費に限定されたものであるが、当然、材料費や経費、委託費なども 同様の手順を踏むことで、最終的に診療科別全体の原価が算定されることになる。

また、前述の図表や設例でも指示されているが、病院原価計算では、診療科への配賦計 算方法に階梯式配賦法がよく用いられる。これは、補助管理部門は、入院や外来の部門だ けでなく中央診療部門にもサービスを提供している一方で、中央診療部門は、一般的に補

助管理部門にサービスを提供することがないためである。設例でいえば、看護管理室のサ ービスは、放射線診断部門に看護師が配置されていることから配賦計算を行うことができ るが、放射線診断部門は X線撮影回数を基準に配賦計算を行うため、X線撮影を行わない 看護管理室に原価を配賦することはできない。このような中央診療部門と補助管理部門の 関係から、診療科別原価計算には階梯式配賦法がより適合すると考えられる。但し、補助 管理部門を補助部門と管理部門に区分した場合には、補助部門と管理部門の配賦方法に相 互配賦法を用いることを想定することが考えられる。

3. 診療科別(部門別)原価計算の展開

以上の中央診療部門費や補助管理部門費を配賦する議論は、米国における部門別原価計 算の歴史展開ではAHA [1935]まで遡ることになるが、実際に部門別原価計算を盛んに行な うようになったのは、公的医療保険であるメディケアが創設された1965 年以降である 7)。 なぜならば、メディケア患者を受け入れている病院は、メディケア原価報告書として部門 別原価計算の結果を毎期報告することが義務化されるようになったからである8)

しかしながら、1983年より以前は、診療行為別原価計算を実施していない病院がほとん どであり、実施している場合でも依拠するその原価情報はかなり不正確なデータで、事実 上まともな診療行為別原価計算は実施できていなかった9)。また、AHA[1968]においても、

診療行為別原価計算の算定については、特殊原価調査に依存するものであると説明されて いる10)

部門別原価の配賦方法については、「メディケアに必要とされる年間原価報告書は階梯 式配賦法を詳しく述べているので、包括請求システムを持っていない病院でさえも階梯式

7) 荒井[2007]20頁。

8) 荒井[2007]22頁。

9) 荒井[2001]8頁。

10) 神馬[1974]16頁。

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