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第 5 章 結果と考察( PbS 量子ドット)

5.3 TiO 2 /PbS(2)/ZnS(n)の光電変換特性

本節では、TiO2/PbS(2)/ZnS(n)光電極、ポリサルファイド電解質溶液、Cu2S 対極を用いた量子 ドット増感太陽電池の電流―電圧特性を測定し、光電変換特性のZnS吸着回数n依存性を検討 した。現時点で、ZnSの被覆量(膜厚)が判明してないので、ZnS吸着回数nをパラメータとする。

図5.4と表5.2にその結果を示す。ZnS(13)で最高変換効率 1.4 %を達成した。ZnS修飾が、

変換効率を向上させる効果があることを確認した。

図 5.4 TiO

2

/PbS(2)/ZnS(n) の電流―電圧特性

5.2 TiO

2

/PbS(2)/ZnS(n)

の光電変換特性パラメータ

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図5.4、表5.2のデータをパラメータごとにまとめたのが図 5.5のグラフである。図5.5(a)はJsc

のZnS吸着回数n依存性を示す。n=13で、最大値8.4 mA/cm2を示し、それ以上では減少した。

図5.5(b)はVocのn依存性のグラフである。nの増加に伴い、Vocは増加した。図5.5(c)は、FFの

n 依存性で、ZnS を吸着量に対して、FF は影響を受けず一定であることがわかった。また、図

5.5(a)(d)を比較して分かる通り、変換効率は、短絡電流密度Jscの変化に最も影響を受けること

が判明した。以上の光電変換効率を決定するJsc、Voc、FFの変化を以下にまとめた。

Jscの増加 (n=4~13)

Jscの減少 (n=13~20)

Vocの増加 (n=4~20)

④ FFの不変 (n=4~20)

以上の4つの変化に対する考察を行っていく

5.5 TiO

2

/PbS(2)/ZnS(n)の光電変換パラメータの ZnS

吸着回数依存性

(a) J

sc

(b) V

oc

(c) FF (d) 

(a) (b)

(c) (d)

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Jscの増加 (n=4~13)

Jscは、量子ドットのキャリアの生成量や TiO2への電子注入量に強く依存する。Jscの増加は、

ZnS 表面保護層の PbS 量子ドットの表面欠陥を埋める働きによるものと考えた。量子ドットはバ ルクに比べ大きいため、表面にダングリングボンドが多数存在する[3]。これが表面欠陥となり、

光生成したキャリアをトラップし、量子ドット内部での再結合中心となりうる。しかし、ZnS によって PbS 量子ドットの表面を保護することで、ダングリングボンドを解消し、TiO2へのキャリア注入を 増加させる効果が働いた可能性がある。

Jscの減少 (n=20)

Jscの減少は、量子ドットの HOMO 準位から電解液の還元体イオンへの正孔移動(=還元体イ オンから量子ドットへの電子移動)が阻害されたためだと考えた。ZnS の伝導帯、価電子帯のエ ネルギー位置は、図5.6のようになる。この図ではCdSe QDsを例として挙げたが、PbSでも同様 のエネルギー構造が構成されていると考えられる。PbS の HOMO 準位から電解液への正孔移 動は、ZnS の禁制帯をトンネルして移動しなければならない。ZnS 吸着回数を増加させたことで ZnSがTiO2全体を覆い隠すほど吸着することとなった。それによってZnS層が厚くなり、正孔が スムーズに取り出されなくなったため、Jscが減少したと考えられる。

Vocの増加 (n=4~20)

注意すべきは、n=4~20でのVocの増加である。Vocは、4.4.4節(4-24)式に示すように、Jscの大 きさに依存する。n=20では、Jscが減少しているのにも関わらず、増加傾向を示していることから、

ZnS の確かな効果が存在することを示唆している。ZnS 吸着回数増加に伴い、Vocが増加する理 由に、逆電子移動の抑制効果が挙げられる。逆電子移動とは、TiO2に注入された電子の、量子 ドット中の正孔との再結合や、電解液に渡った正孔との再結合を指す(4-5-3項, 図4-12)。ZnSは、

量子ドット表面だけでなく、量子ドットの吸着していない、むき出しのTiO2にも吸着していると考え られる。そのため、②の逆の効果として、TiO2から電解液への電子移動を ZnS によってブロック されたのではないかと考えた。これに対し、交流インピーダンス法と過渡開放電圧測定により、

立証を試みた。5.5節と5.6節参照。

FFの不変 (n=4~20)

FF がZnS吸着によって変化しない理由は、②③と同じ理由に帰結すると考えられる。FFは、

図 5.7 に示すような等価回路の抵抗成分の大小に影響を受ける[4]。等価回路中に、光電極/電 解液間の直列抵抗成分(Rs+Rd+RCE)は存在しないが、電解液から量子ドットへの電子移動は電 子輸送サイクルの一部であるため、少なからず存在すると考える。界面に絶縁層である ZnS 層 を挿入することで直列抵抗が大きくなり、また逆電子移動が阻害されることで並列抵抗成分も大 きくなったと考えられる。この二つの抵抗成分のトレードオフによって FF が変わらないのではな いかと考えた。現在、広く適用されている等価回路は、色素増感太陽電池のものとまったく同じ

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であるが、量子ドット増感では、新たな等価回路を描ける可能性を考えている。これに関しては、

5.5で議論する。

5.6 TiO

2

/CdSe/ZnS/Polysulfide

のエネルギー図[5]

(vs. Ag/AgCl、印加電圧-1.0 V)

5.7

量子ドット増感太陽電池の等価回路における電子輸送過程

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➢まとめ

ZnS吸着回数を変化させたPbS量子ドット増感太陽電池の光電変換特性を評価した。ZnS吸 着回数nが13回の時、最大変換効率1.4 %を達成し各パラメータのZnS吸着回数依存とそれに 対する考察は、以下の通りである。

1: Jscの増加 (n=4~13) :PbS QDsの表面欠陥の減少

2: Jscの減少 (n=20) :PbS QDsから電解液への正孔移動の阻害 3: Vocの増加 (n=4~20):TiO2から電解液の逆電子移動の抑制

4: FFの不変 (n=4~20): PbS QDsから電解液への正孔移動の阻害, TiO2から電解液の

逆電子移動の抑制

以上を踏まえ、5.4節から以下の評価結果を示す。

(5.4節)光電流変換量子効率 :①②のJsc変化に対して、PbS QDs由来の光電流スペクトル がどう変化するかを評価した。

(5.5 節)交流インピーダンス測定 :太陽電池内部の電荷移動に関する抵抗を測定した。逆電子 移動に関係する逆電子移動抵抗 Rbetの評価を行い、逆 電子移動抑制効果の立証を試みた。インピーダンスス ペクトルから得られる④FF の減少に関する知見につい ても考察した。

(5.6節)過渡開放電圧測定 :TiO2から電解液への逆電子移動に関する考察を定量的に 行うため、TiO2内の電子の電子寿命の測定を行った。

(5.7節)過渡回折格子法 :ZnS吸着がPbS QDsからTiO2への電子注入、表面トラップ 過程に与える影響を調べるため、ps スケールの過渡応 答特性を評価した。

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図 5.8 TiO

2

/PbS(2)/ZnS(n)の IPCE スペクトル