第4章 評価方法
4.6 過渡回折格子法(TG : Transient Grating)
4.6.5 回折格子間隔依存性[20,21]
本研究では励起キャリアの失活過程(消滅過程)の観測を目的としているが、TG法における屈 折率変化の要因としてキャリア拡散や熱拡散も考えなければならない。このような拡散による TG信号の緩和時間は図4.26に示すように、回折格子間隔に依存する。よって、励起キャリアの 失活過程を観測するためには、拡散が無視できる回折格子間隔で実験する必要がある。
拡散時間は拡散係数Dと回折格子間隔Λを用いて以下の4-44式で表される。
1
τ= D (2πΛ)2・・・(4-44)
τ ∶拡散時間、D ∶拡散係数、Λ ∶回折格子間隔
2-3式より、拡散時間の逆数が回折格子間隔の逆数の2乗に比例することがわかる。また図 4.26に示すように、物質は拡散しながら失活していくので、2-3式は以下の4-45式に変形でき る。
1
τ= D (2πΛ)2+τ1
0・・・(4-45)
τ ∶信号の減衰時間、D ∶電子の有効質量、Λ ∶回折格子間隔 τ0∶失活時間
図4.26 回折格子間隔と拡散による緩和時間の関係
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次に、2-3式と2-4式をグラフ上にプロットしたものを図4.27として示す。ここでは右辺第一項の 回折格子間隔Λを
q =2π
Λ・・・(4-46)
として、グラフの横軸をq2、縦軸を1/τとした。2-3式に対応するグラフ②と2-4式に対応するグラ フ①はq2に比例した直線となることがわかる。この際、グラフの傾きが拡散係数に対応する。一 方、グラフ③は信号が失活過程のみを反映している場合を示す。この場合、q2に対して1/τは一 定となる。すなわち、TG信号に拡散成分が含まれる場合減衰時間は回折格子間隔に依存し、
拡散成分が含まれない場合減衰時間は回折格子間隔に対して一定になると言える。
図4.27 TG信号の減衰時間の回折格子間隔依存性
①失活及び拡散に関係する減衰成分
②拡散に関係する減衰成分
③失活に関係する減衰成分
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図4.29 減衰時間の回折格子間隔依存性
続いて、TG信号で熱とキャリアの拡散を観測した以前の結果を示す。[22]図4.28はTiO2上に 吸着したCdSe量子ドットのTG信号を示す。測定はμsからmsオーダーで行われた。TG信号 からは2つの減衰成分が観測された。減衰成分①の減衰時間τ1の回折格子間隔依存性を図 2-15に示す。τ1の逆数はqの2乗(回折格子間隔Λの逆数の2乗)に比例し、原点を通る直線 となった。本項でも議論した通り、このような依存性を示す減衰成分は拡散に対応する。また、減 衰成分②も同様の依存性を示した。別の実験より、減衰成分①はキャリアの拡散に対応し、減 衰成分②は熱の拡散に対応することが示されている。TiO2上に吸着されたCdSe量子ドットの系 では回折格子間隔40 µm程度であれば、キャリアや熱の拡散成分はμsからmsオーダーで減衰 し、1 ns以下の時間領域を測定する際は拡散による信号への影響を考える必要がなくなる。以 上のことより、キャリアの失活過程を観測するためには以下のことが重要であると言える。
1) 拡散の時間領域を把握する
2) 得られたTG信号の回折格子間隔依存性が無いことを示す。
図4.28 TiO2に吸着したCdSe量子ドットのTG信号
①キャリアの拡散成分②熱の拡散成分
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参考文献
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