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第4章 評価方法

4.1 光音響分光法を用いた光吸収測定

光吸収の測定には、不透明な試料でも光吸収の測定が可能な、光音響分光法(PAS:

Photoacoustic Spectroscopy)を適用した[1,2]。 PASは、光熱変換現象を利用した光吸収測

定法である。特徴として以下3点が挙げられる[3]。

 不透明な試料や散乱の強い試料でも測定が可能

 変調周波数を変えることにより、試料の深さ方向の情報を得ることが可能

 非破壊・非接触での測定が可能

物質に光が入射するとその光は、反射・吸収・透過など様々な現象を起こす。そのうち吸 収された光エネルギーは、再び光エネルギーとして放出される部分(輻射遷移過程)と、最 終的に格子振動(フォノン)すなわち熱エネルギーとして放出される部分(無輻射遷移過程)に 分かれる。光熱変換現象とは、この無輻射遷移過程に伴う熱エネルギーが音響やその他 の現象(焦電効果・圧電効果・試料の屈折率変化・赤外線の放出等)に変換されることを意 味している。

図4.1にPAS装置模式図を示す。Xeランプから出射された白色光は分光器により単色化 される。単色光はチョッパーにより変調され連続光から断続光となり、密閉されたPAセル内 の試料には単色の断続光が照射される。PAセル内の試料は光を吸収し、光熱変換現象に より熱が発生する。すると試料表面の温度が上昇し試料表面の空気は膨張する。試料表 面の温度変化は照射光が断続光であるために断続的に変化し、試料表面の空気を膨張・

収縮させる。この空気の圧力変化を音響波としてマイクロフォンで検出、プリアンプで増幅、

チョッパーと同期することによりPA信号を得る。そして照射光波長を変化させることにより PAスペクトルが得られる。波長𝜆とフォトンエネルギーℎ𝜈は式(4-1)の関係が成り立ち、PAス ペクトルは片対数グラフに横軸をフォトンエネルギーに換算してプロットした。光源強度の補 正には、完全吸収体に近いカーボンブラックシートのPAスペクトルを用いた。

ℎ𝜈 (eV) = 1240

𝜆 (n ) (4-1)

基板にガラスを用いているTiO2ナノ粒子電極は、試料が発した熱はガラス基板に逃げに くいため、低い変調周波数(本研究室:33 Hz)における測定が可能である。

TiO2の光吸収は直接遷移型であると仮定し、式(2)よりエネルギーバンドギャップ を求め ることができる。

( : PA信号, ℎ𝜈: フォトンエネルギー, : 定数) ( ℎ𝜈)2= (ℎ𝜈 − 𝑔) (4-2)

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この( ℎ𝜈)2をℎ𝜈に対してプロットした一例を図4.2に示す。スペクトルから直線関係が成り 立っている様子がわかる。この直線とℎ𝜈軸との交点が、 として見積もることができる。

図4.1 PAS測定装置模式図

図4.2 ℎ𝜈に対する( ℎ𝜈)2の例 光源:300 W Xeランプ

変調周波数: 33 H 測定波長:270~1200 n 光源強度の補正:カーボン

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次に図4.3に、CdSeを吸着したTiO2ナノ粒子電極のPAスペクトルの一例を示す。通常、PAス ペクトルは低エネルギー側から立ち上がりその後飽和する信号が得られる。この理由としてRG 理論[1]から低エネルギー領域においては熱拡散帳 𝜇𝑠に対して光吸収長 𝜇𝛽(1/𝛽)が長いため

( 𝜇𝑠 < 𝜇𝛽)PA信号に光吸収係数𝛽が反映される。しかし、高エネルギー領域においては光吸収 係数𝛽が大きくなり、熱拡散帳 𝜇𝑠に対して光吸収長 𝜇𝛽(1/𝛽)が短くなり( 𝜇𝑠> 𝜇𝛽)PA信号に光 吸収係数𝛽が反映されなくなる。そのため、高エネルギー領域においては信号が飽和する。

このPAスペクトルの肩の位置を半導体量子ドットにおける第一励起エネルギー 1と仮定 する。CdS,CdSe量子ドットの第一励起エネルギー 1はバンドギャップエネルギー 𝑔(1.75 eV)と比べて大きな違いがないことから、量子閉じ込め効果は弱いとして次に示す有効質量 近似[4]を適用した。

1𝑔 =ℏ2𝜋2

2𝜇𝑑2 (4-3)

ここで はバルクのバンドギャップを、𝑑は量子ドットの平均粒径を示す。𝜇は以下のとおりで ある。

1 𝜇= 1

𝑚𝑒+ 1 𝑚

𝑚𝑒 : 電子の有効質量 𝑚 : 正孔の有効質量 ここへ、2.4節で紹介した有効質量を代入し、量子ドットの平均粒径𝑑を見積もった。

図4.3 CdSeを吸着したTiO2のPAスペクトル例

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一方、PbS量子ドットの第一励起エネルギー 1(約2 eV)はバンドギャップエネルギー

𝑔(0.41 eV)に比べて非常に大きくなっていることから、強い閉じ込め効果が加わっていると

して次に示すPbS量子ドットの強束縛近似モデル[5]を適用した。

1𝑔 = 1

0.0252𝑑2+ 0.283𝑑 (4-4) ここで はバルクのバンドギャップを、𝑑は量子ドットの平均粒径を示す。

図4.4 PbSを吸着したTiO2のPAスペクトル例

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