第6章 結果と考察( CdS,CdSe 量子ドット)
6.5 CdS, CdSe 量子ドット吸着 ZrO 2 光電極の過渡回折
109
(t) = A
1exp (−
tτ1
) + A
2exp (−
tτ2
) ・・・ (6-5)
110
図6.9のZrO2基板におけるキャリア移動モデルを用いて説明する。ZrO2/CdSe 電極において はCdSe中のキャリアは電子・ホールともにトラップあるいは直接再結合によって失われる。一方、
複合化電極においてはCdSeからCdSへの電子移動が起こる。そのため、CdSe中の電子は直 接再結合よりも早く失われる。TG信号の第二成分の緩和時間 𝜏2が複合化によって減少したこと はこの量子ドット間の電子移動によるCdSe中のキャリア数の減少を示している。
またZrO2/CdSe/CdS電極におけるCdSe中のホールはエネルギー的にZrO2とCdSによって
閉じ込めを受ける。そのためZrO2/CdSe, ZrO2/CdS/CdSeよりもホールの緩和が遅くなると考えら れる。ZrO2/CdSe/CdS電極のTG信号の緩和時間 𝜏1が他の電極よりも大きいのはこのホールの 閉じ込めを反映しているものだと考えられる。
表
6.4 CdS, CdSe
量子ドット増感ZrO
2電極のTG
フィティング図
6.9 CdS,CdSe
複合化量子ドット吸着ZrO
2電極のキャリア移動モデル111
➢まとめ
ZrO2を基板とした電極のTG測定から複合化によるCdSe-CdSe量子ドット間キャリア移動過程の 変化が明らかになった。ZrO2/CdSe電極と比べてZrO2/CdS/CdSe, ZrO2/CdSe/CdS 両電極 の電子移動・トラップ時間が早まった。これは再結合のみが起こるZrO2/CdSe電極と比べて複合 化電極ではCdSeからCdSへの電子移動が起こるためと考えられる。
また、ZrO2/CdSe/CdS 電極では正孔のトラップ時間が遅くなった。これはZrO2とCdSによって CdSe中の正孔が閉じ込めを受けるためであると考える。
112
参考文献
[1] J.J. Prı´as-Barragan, M.E. Rodrı´guez et al.,J.Crys.Grows. 286 (2009) 279.
[2] Q.Shen, T.Toyoda et al., Appl.Phys.Lett. 97 (2010) 263113 [3] N. Guijarro, J.Phys.Chem.C. 114 (2010) 21928
[4] Y. L. Lee, C. F. Chi, S. Y. Liau, Chem. Mater. 22 (2010) 922.
[5] J. Wang.et al. Dyes and Pigments. 99 (2013) 440.
[6]Y. Tachibana, J. R.Durrant, J.Phys.Chem.100 (1996) 20056
113
第 7 章 研究総括
本研究は、金属カルコゲナイド量子ドット増感太陽電池の光励起キャリアダイナミクスが光電 変換効率に与える影響の解明を目的として研究を行った。本修士論文では、まずZnS表面修飾 が PbS 量子ドット増感太陽電池の光電変換効率に与える効果を、様々な角度から考察した。こ れにより表面保護材料が光電変換効率に与える影響を調べた。次に、この結果を踏まえた上で
CdS,CdSe 量子ドットの複合化が量子ドット増感太陽電池のキャリアダイナミクスと光電変換効率
を変化させる現象に着目し、そのメカニズムの解明に取り組んだ。
(1) PbS量子ドットのZnS表面修飾
STEM 像観察は、PbS及び ZnS の粒径、厚さそして吸着状態を確認することを目的として行っ たが、PbS/ZnSの界面が観察できずPbS, ZnSの粒径,膜厚の正確な議論ができなかった。
光電変換特性の評価から、TiO2/PbS(2)/ZnS(13)の条件下で、最大変換効率 1.4 %を達成し、
TiO2/PbS(2)/ZnS(4)に比べ、3.7 倍の増加を示した。また、ZnS 表面修飾によって、①Jscの増加
(n=0~2)②Jscの減少(n=2~8)③Vocの増加(n=0~8)④FF の不変(n=0~2,4,8)の4つの変化が起きた。
これらを引き起こすZnS表面修飾効果を以下のように考察した。
① Jscの増加(n=0~2)・・・・PbSの表面欠陥を減少させる効果
② Jscの減少(n=2~8)・・・・QDsから電解液への正孔の移動を妨げる効果
③ Vocの増加(n=0~8)・・・・TiO2から電解液への逆電子移動を抑制する効果
④ FFの減少(n=0~2,4,8)・・QDsから電解液への正孔の移動を妨げる効果, TiO2から電解液へ の逆電子移動を抑制する効果
① 仮説は光吸収特性と光電流変換量子効率の結果から、Jscの増加は、PbS 量子ドットの 増感波長領域が拡大したのではなく、電流値の全体量が増加したことによるものと分か った。さらに、TG測定から励起した電子数に対して、TiO2に注入する電子の割合が大き くなっていることを確認した。
② 仮説は、交流インピーダンスの逆電子移動抵抗 Rbetと過渡開放電圧測定の解析により、
検証した。ZnS 吸着回数の増加に伴い、逆電子移動の抑制効果が高まることが分かり、
仮説が確からしいことを示した。
ZnS 表面修飾は、変換効率を向上させ、ZnS の吸着量(膜厚)には最適値が存在することが分 かった。それに対して、QDsの表面欠陥を埋める効果、逆電子移動を抑制する効果を有すること を確かめた。今後は、光電変換効率を下げる要因である②④の考察の検証が課題となってい る。
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(2) CdS,CdSe量子ドットの複合化
本修士論文では CdS,CdSe 量子ドットの複合化による電極中のキャリアダイナミクスの変化と それによる光電変換特性への影響を検討した。TiO2/CdS/CdSe, TiO2/CdSe/CdSと吸着の順番を 変えることで電子状態を変化させた電極を比較した。
光 電 変 換 特 性 の 評 価 か ら CdSe 量 子 ド ッ ト を 単 独 で 用 い た TiO2/CdSe 電 極 と 比 べ て TiO2/CdS/CdSe電極で効率が1.5倍に上昇し、一方TiO2/CdSe/CdS電極では0.65倍に減少した。
特にJscはTiO2/CdS/CdSe電極で1.5倍TiO2/CdSe/CdS電極では0.68倍と大きく変化し効率の 変化と対応する。
この光電流の変化の原因としては、光吸収特性と光電流変換量子効率の結果から複合化によ る CdSe中のキャリアダイナミクスの変化が考えられた。そのため、TG 測定からCdSe中のキャ リアの緩和過程を調べた結果、二つの複合化電極は共に TiO2/CdSe 電極よりも電子の緩和時 間が早いことが分かった。この理由として複合化電極では二つの電子移動過程が存在するため であると考える。
TiO2/CdS/CdSe 電極では CdSe →CdS→TiO2という過程によってCdSe 中の電子がスムーズ
にTiO2に注入するが、TiO2/CdSe/CdS電極では CdSe →CdSとCdSe → TiO2という過程で電 子が移動するためCdSeからCdSに移動した電子は外部に取り出されない。このキャリア移動過 程の違いが光電変換特性に異なる影響を与えている。
このキャリア移動過程はZrO2を基板としたTG測定によってCdSe-CdS間の電子移動を検証 することができた。また、ZrO2/CdSe/CdS電極においてはCdSe中の正孔の挙動がCdSによって 閉じ込めを受けることで阻害されることが考えられる。
本研究からZnS表面修飾材料-PbS量子ドット,CdS-CdSe量子ドットなどのナノ界面構造の 制御が光励起ダイナミクスを変化させ、光電変換効率に大きな影響を与えることが分かった。こ のことは今後も高効率太陽電池実現において重要な要因となると考えられる。
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発表実績
(学会・シンポジウム発表登壇分)
[1] 大島 卓也,八谷 聡二郎, Pablo Boix, Ivan Mora-sero, Juan Bisquert, 沈 青, 豊田太郎,“ZnS 表面修飾を施したPbS量子ドット吸着TiO2光電極の光電変換特性と交流インピーダンス特性”
第73回応用物理学会学術講演会予稿集, p12-86.(2012年, 9月).
[2] 大島 卓也, 沈 青, 片山建二, 豊田太郎, ” ZnS表面修飾によるPbS量子ドット吸着TiO2
光電極の光励起キャリアダイナミクスの変化”, 第60回応用物理学会春季学術講演会予稿集 p12-83. (2013年, 3月).
[3]Takuya Oshima, Naoya Osada, Kenji Katayama, Shuzi Hayase, Taro Toyoda, Qing Shen,
“Photovoltaic Properties and Photoexcited Carrier Dynamics of CdS and CdSe QDs Co- sensitized TiO2 Electrodes” DSC-OPV8 P-39 (2013) Busan, Korea
[4] 大島 卓也, 長田 直哉, 片山建二, 吉野 賢二, 尾込 裕平, 早瀬 修二, 豊田太郎, 沈 青 ” CdS,CdSe 複合化量子ドット増感TiO2光電極の光励起キャリアダイナミクス”, 第61回応 用物理学春季学術講演会発表予定, (2014年, 3月).
(論文)
[1] N. Osada, T. Oshima, S. Kuwahara, T. Toyoda, Q. Shen, K. Katayama, “Photoexcited carrier dynamics of double-layered CdS/CdSe quantum dot sensitized solar cells measured by heterodyne transient grating and transient absorption methods” Phys. Chem. Chem. Phys. 15 (2013) 13825
[2] Feng Liu, Jun Zhu,Junfeng Wei, Yi Li, Linhua Hu, Yang Huang, Takuya Oshima, Qing Shen,Taro Toyoda, Bing Zhang, Jianxi Yao, and Songyuan Dai,“Ex Situ CdSe Quantum Dot-Sensitized Solar Cells Employing Inorganic Ligand Exchange To Boost Efficiency” J. Phys.
Chem. C. (2013) Article ASAP DOI: 10.1021/jp410599q