第6章 結果と考察( CdS,CdSe 量子ドット)
6.4 CdS, CdSe 量子ドット増感 TiO 2 光電極の過渡回折
改良型過渡回折格子(TG)法を用いて量子ドット中のキャリア移動過程を見積もった。CdSe量 子ドット中の光励起キャリア緩和過程を観察するため光パラメトリック増幅器を通してCdSeのみ が吸収する波長である570 nm (2.2 eV)に波長変換しポンプ光とした。
図6.4にCdSe量子ドット増感TiO2電極の改良型過渡回折格子法による測定結果を示す。TG
信号は10 psオーダーの早い減衰成分と500 ps以上の遅い減衰成分から成ると考える。そして、
TG信号はCdSe量子ドット中の光励起電子移動過程と正孔移動過程の二つの過程(式6-3)が含 まれていると考え、それぞれの同定を行った。
CdSe量子ドット増感TiO2電極に対してTG測定を空気中とNa2S電解質溶液中で行うことで 電極/電解質界面でのキャリア移動過程[2]を調べた。その結果、図6.4に示すように電解質溶液 中では早い減衰成分の信号強度が減少した。これはNa2S電解質溶液へのCdSe中の正孔の移 動の影響(図6.5)と考える。そのため、早い緩和が正孔のトラップ過程を反映していると考える。
そのため、遅い緩和過程が電子の注入・トラップ過程を反映していると考えられる。電子注入過 程とトラップ過程が分離できない理由として量子ドットの多層構造からTiO2に直接接触している 量子ドット中の電子と量子ドット/量子ドット界面電子移動を伴う電子では注入時間が異なり、電 子の緩和過程が長くなること[3]が考えられる。
0 100 200 300 400
1
TiO
2/CdSe in Air
TiO
2/CdSe in Na
2S electrolyte
Normalized TG Signal (a.u.)
Time (ps)
①
②
図6.4 CdSe量子ドット増感TiO2電極のTG信号 図6.5 溶液中のCdSe量子ドット増感TiO2電極の
キャリア移動過程
106
図6.6に複合化電極のTG測定結果を示した。その結果、複合化電極においてはCdSeのみの 電極に比べて電子注入・トラップ過程の緩和時間の減少が確認された。これはそれぞれの複合 化電極で異なる理由によるものと考える。
図6.7に複合化電極の光励起キャリア移動過程のモデル図[4]を示す。この図を用いて各電極に おけるCdSe量子ドット中で生成した光励起キャリアの移動過程を考える。
hν + CdSe
→ CdSe(e
-+ h
+)
TiO2/CdSe電極においてはTiO2に注入する光励起電子は以下のように移動すると考える。
CdSe (e-
) + TiO
2 → CdSe + TiO2(e
-)
図
6.6 CdS,CdSe
複合化量子ドット増感TiO
2電極のTG
信号表
6.3 CdS, CdSe
量子ドット増感TiO
2電極のTG
フィティング107
TiO2/CdS/CdSe電極においてはCdSe→CdS→TiO2とCdSを介した電子移動によってTiO2電極
に電子が移動する。
CdSe (e-
) + CdS
→ CdSe + CdS (e-) →CdS + TiO
2(e
-)
このことからCdSe量子ドット中の電子のスムーズな電荷分離・電子移動が可能になり[4]、CdSe 量子ドット中の電子の緩和時間が短くなる。
またTiO2/CdSe/CdS電極においてはCdSe→TiO2とCdSe→CdS 二つの電子移動過程が発生
する。
CdSe (e-
) + TiO
2→CdSe + TiO2(e
-) ,
CdSe (e-) + CdS
→CdSe + CdS (e-)
このためCdSe→TiO2のみの場合よりもCdSe量子ドット中の電子の緩和時間が短くなる。
しかし、CdSeからCdSに移動した電子はTiO2には注入しないため光電流には寄与しない。
このような電子移動過程の違いがIPCEに影響を与えている。IPCEの内訳は次の式で表すこと ができる[5]。
この式でLHEは光収集効率、φは電子注入効率、ηはFTO基板の電子収集効率
複合化電極においては光吸収層の増大によって光吸収量が増加し、LHEが増加している。しか
図
6.7 CdS,CdSe
複合化量子ドット増感TiO
2電極のキャリア移動モデル・・・ (6-4)
108
し、TiO2/CdS/CdSe電極が複合化による電子移動過程の変化によってTiO2電極への電子注入 効率φが増加によってIPCEが上昇しているのに対し、TiO2/CdSe/CdS電極ではCdSe→CdSと いう電子移動によってTiO2への電子注入効率φが減少し、IPCEを低下させている。基板は共 通であるためηは変わらない。
そのため、TG信号は両電極ともに早い減衰を示すもののIPCEは図6.3に示すように
TiO2/CdS/CdSe電極においては増加、TiO2/CdSe/CdS電極においては減少を示していると考えら
れる。
次にこのような複合化電極の電子移動モデルを確かめるために電子注入の起こらないZrO2
を電極基板としてCdSe - CdS量子ドット間の電子移動を調べた。
➢まとめ
複合化によってCdSe中の電子移動・トラップ時間がTiO2/CdS/CdSe, TiO2/CdSe/CdS 両電極 で早まるという結果が得られた。この理由として複合化によってCdSe中の電子の移動経路が変 化し、TiO2/CdS/CdSe電極では効率良くTiO2に電子が注入し逆にTiO2/CdSe/CdS電極ではTiO2
への注入にロスが生じるような電子経路になったことが考えられる。
109
(t) = A
1exp (−
tτ1
) + A
2exp (−
tτ2