̶予 防 対 策 論 的 な ア プ ロー チ か ら現 実 分 析 的 な 視 点 へ ー
第 一 節 本 章 のね らい
今後、日本社会全体が人口減少型社会へと変質していく中で、農村社会の将来像をどのように考える 方がよいのか。人口減少は現実であるのにもかかわらず、農村の人口を増加させることによって農村活性 化を目標にする、という現実的ではない方法を導入し続けるのか。それとも、パースペクティブそのものを 変えて、新たな方法の有用性を考えるのか。前者の人口増加型の集落再生論より、後者の人口・世帯の 縮小を視野に入れ、そうした状況に対応可能な農村集落像を模索してゆく縮小論的再生論のほうが、より 現実的と言わざるを得ない。そこで、前章において議論した限界集落論は縮小論的なスタンスをもってい ると考えられる。しかし、限界集落論は縮小論的な発想を持っているものの、農村集落に定住している 人々の世帯の人口側面に着目し、その高齢化率で縮小論的な農村像を分析しようとしている。たしかに、
集落をはかる指標として、人口はもっとも基本的な要因ではある。しかし、農村の将来像を現実的に捉える には、視野を広めて、広範囲にわたる、多側面を含む形でその枠組みを再整理する必要がある。
そのためには、縮小論の枠組みをはじめにのところで簡単に整理していたが、ここでも少し説明を加え てみよう。縮小問題は、とりわけ近年に出てきたものではない。ずっと前から今日に至るまで経済学や政治 学をはじめとし、さまざまな領域においてさまざまな側面から研究されてきたものである。例えば、シュマッ ハーの『スモール イズ ビュティフル』という著書もその一つである。一方、従来の日本近代社会は、急激 な人口増加をベースとした産業化・近代化による社会発展を基本的な枠組みとしてきた。このように、拡大 論を軸とした日本の発展論のなかで縮小問題に関する幾つかの議論が人口減少を先取りするかたちで 展開されはしたが、現実的に嚮導理念とはなりえなかった。
高田保馬は、日本社会の変動を論ずるなかで縮小論の基本的な発想も取り入れている。高田は(1971
)「結合定量の法則」をもとに出発し、日本社会の将来の方向性を描く際に次のような段階があると述べて いる。「①基礎社会、とくに親族集団および村落共同体が解体し、また基礎社会はしだいに利益社会化す る ②全体社会は国民社会へと拡大し、部族や氏族や村落共同体は消滅していき、他方、家族は核家 族へと縮小していく 」。高田は、農村社会の機能的および人口的な縮小を指摘し、これを日本社会の近 代化過程だと考えていた。富永は、高田のこの過程説明を導入し、自身の近代化理論を展開させた(富 永健, 1990、73−74)。農山村の縮小問題は、日本の近代化が始まった以来、事実として受けられてきたが
、とりわけ高度経済成長期以来集落や地域の衰退として強く意識されてきた。その代表が「過疎」論であり
(安達生恒、1981、安達生恒、1985、今井、1968、伊藤善市編著、1974)、現代においてさらにその先鋭化 された状況を描き出したのが、大野晃の「限界集落」論である(大野晃、2005、2007)。 以上の議論を要約 すれば、近代化によって農村部に代表されるゲマインシャフト的共同体は縮小し、代わって国民社会全体
の中でゲゼルシャフト的な組織が拡大してゆくというのが日本近代化論の通説であり、こうした社会の形式 上の変化は、農村部から都市部への人口の大量移動を必然的に伴うものとされてきた。いわば、これらの 議論ではゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ、農村から都市へという流れが近代化の必然として組み込 まれていた。
しかし、共同体的社会は一方的に縮小し、そして消滅するのであろうか。日本は産業化を進めていく中 で、農村衰退/消滅論が強く受け入れられてきたことに対して、山本陽三(1981、1977)や守田志郎(1987
)などの多くの村落研究者が大きな社会変動の中での農村・農業の変化への対応を分析し、集落存続論 を展開してきたのである。現代的ムラ存続論者である徳野は、システム過疎論的な視点から農村存続問題 を分析し(徳野、1999)、マクロには農村集落の人口および世帯数が減少するものの、減少は必ずしも消 滅につながるとは限らないと述べている(徳野・木村, 2008、14−15)。システム過疎論そのものが、人口が 減少することなどを前提にして、少ない人口でも地域の人々が生き生きとくらせるシステムを形成していく 努力の必要性を強く意識し、主張している(徳野、1998、165‒168)。また、山本努の「集落分化型過疎」論 において過疎化の過程を検討している際に、集落の条件次第で過疎化の進行が異なることを分析してい る(山本、1996、206)。
こうした議論を考慮すれば、限界集落や今後限界集落化が予測される準限界集落も、全ての集落が消 滅に至るとは言い難く、集落ごとの多様な将来像のパターンが存在すると考えられる。にもかかわらず、現 在の縮小論的な視点での集落存続論は、高齢化率や減少/増加率など集落内部だけの人口要因を軸 にしながら農山村の存続問題を議論してきている。そこでの縮小型集落モデルは、多くの場合、社会的機 能不全に陥って、将来に消滅していくと予測される社会的衰退論として措定されている。しかし、現実的に は、集落は多様であり、その多様な集落の存続を人口の側面のみで分析すること自体に限界がある。
そこで、従来の分析単位のレベルの変更や新たな要因を検討する必要がある。徳野は、従来の分析単 位レベルを拡大していくことを主張し、具体的には①個人の年齢構成から世帯類型への拡大、②在村住 民から都市他出子(者)への拡大、③農業経営から非農業的就労への拡大、④集落内サポート構造から 別居子サポート構造への拡大の必要性を指摘している(徳野・木村, 2008、14‒15)。このように、従来の分 析枠組みを整理し、限界集落化した集落の存続問題を人口要因のみならず他の要因も考慮しながら検 討していくことは重要な作業であると考えている。そこで、「限界集落化した集落」が存続していくのにどの ような要因が働くのかを検討し、徳野の分析単位レベルを参考にしながら、その集落の存続要件の整理を 試みることを本稿の中心的な作業としながら、限界集落化した集落に関する試論を展開していきたい。
第 2節 集 落 の存 続 要 件 の分 析 枠 組 み の整 理
集落の存続問題を議論する際に、さまざまな要件が取り上げられる。この中でも確実になくてはならな いのは人口・世帯類型的要件であり、何よりも重要な意味を持っている。大野の限界集落論も人口的要件 を軸にしながら集落の限界性を分析している。しかし、その人口用件は集落内の世帯の構成員の年齢別
集積である。すなわち、行政(役場)の住民台帳に記載された各個人の年齢別集合体である。この住民台 帳をベースとした人口要件分析には、大きな問題がある。それは、「家族」と「世帯」の違いである。「世帯」
は、現在同居している家族メンバーだけの構成員となる。そのため、他出子や別居子など同居していない 家族メンバーは住民台帳に入らない。農家・農村の存続問題を考える場合、第5章で既に他出子や別居 子は、実家や出身集落の将来にとって非常に大きな影響を与えることは、指摘した。だから、住民台帳を 基礎とする「世帯」の人口構成だけでは、将来の農家や集落の分析はできない。それゆえ、我々は、他出 子・別居子をも含めた「家族」に注目し、空間(自治体)を超えた家族員のあり方、家族・世帯の動向を「T 型集落点検」法(後に詳しく述べる)によって見ていく方法をとっている。
また、家族と世帯の関係は、非常に複雑かつ緊密であり、その定義や関係性を簡単に述べることはでき ないが、個人の年齢集積で分析するよりも、世帯類型に着目して、分析することを考察した。この世帯類型 は、単に個人の数量的集積(高齢化率)から、集落の将来を分析するのではなく、個人の生活基礎単位で ある家族メンバーの生活関与も含めた世帯類型に分析単位を移すことである。基本的に、分析対象が、
現在の農村住民が居住している自治体だけの人口構成や共同性のあり方の分析になるのか、自治体を 超えた生活範囲での分析になるのか、が分かれる。個々で我々は後者を取る。
次に、集落は「存続するのか/しないのか」は、単純な人口構造のみから決定できない。 第二の要件とし ては、人口と相互に関係している経済/所得の要件である。マクロ的な側面からみれば、従来の農村社 会における生産/経済構造は、農林業のみで形成されることが多かった。したがって、収入/所得構造も 農林業を軸にしていた。しかし、とりわけ戦後以降の、産業化により農村社会に大きな変動が起こり、それ に都市化による農村人口の減少も加わり、農業は生産/経済的な側面における基本的な力を失いはじめ た。例えば、1960年のGDPは16.7兆円であり、その内農業総生産額は1.5兆円である。つまり、農業は国内 総生産額の10分の1を支えていたわけである。では、今日の状況はどうであろうか。2005年には、GDPは 503.3兆円であるのに対して、農業総生産額は5.3兆円であり、農業は国内総生産額の100分の1を支える に留まっており、あきらかに産業としての相対的な衰退傾向を示している(徳野、2008d)。兼業化が農村で 生きていくうえで重要となり、農業そのものの意味は変質してきたわけである。農村社会の存続問題を分析 する際に上記のような背景および現状をまず把握せざるを得ない。そして、世帯レベルでの農業からの収 入のみに限定せずに、非農業的就労まで分析単位を拡大していくことがより現実にあう方法だと見ている
。それは、それぞれの世帯の農業との関係状況と同時に、所得を形成する上での兼業(雇用)状況も把握 でき、よって各世帯の農業状況および雇用状況といった経済/所得構造について議論できるからだ。
第三の要件は、移動・サポートである。従来、農村社会の生産/生活活動は地理空間的に集落内に集 中していた。産業化・都市化に伴って日本社会は移動型社会へと変質していく中で、農村社会もさまざま な側面で範域を拡大していった。上記のように、生産/生活行動の範域の拡大は、農村社会の存続問題 を起こす背景ともなり、一方でその問題の解決策の一つともなったわけである。すなわち、若年層が都市