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集落維持・存続における他出子の考察

ドキュメント内 ̶縮小論的な視点から ̶    (ページ 38-55)

 

第 1節   研 究 の動 機 お よび 目 的    

現在の農山村は、過疎化、高齢化、少子化、担い手不足といった問題が山積しており、とりわけ過疎地 域では、個人の生活レベルでの問題から、農村社会の維持、農業の機能不全といった社会問題までをも 抱えている。このような状況の中、もはやムラ内だけでは将来像を描きにくくなってきていることは事実であ る。このようの現状の中で、人口や世帯の減少・縮小を前提とし、いかに持続可能な農山村社会が維持・

存続できるかを考えざるを得ない。 

今日に至って、過疎農山村の将来像を描くため全国各地の農山村は「人口増加」を目標とする地域活 性化事業や「村おこし」活動を展開していったが、成功した例は多くない。また近年では農村振興の目的 で都市農村交流活動が日本各地で政策的にも推進されている。徳野は、農村振興における都市農村交 流の限界と可能性を分析し、漠然とした政策や交流活動の対象者の曖昧さといった問題点から、成果を 得たとは言い難く、明確な視点と政策なしでは、「赤の他人」8である都市部の交流人口と経済効果に期待 しても、地域活性化は困難であることを強く指摘している (徳野: 2007、2008b)。よって、今後において従来 の方法以外でも新たな資源を導入し、農山村地域の維持・存続問題を議論することが必要だということが 明確となる。続いて徳野は、都市農村交流活動の分析9を行った論文の中で、他出子との交流を農山村の 人口的構造問題に対する最も可能性の高い交流として主張し、彼らの過疎地域の維持・活性化における 位置づけ・重要性について次のように述べている。 

「他出子を軸に、家族の持つ固有の社会関係に依拠した交流であり、交流相手が限定される。近接都 市居住のままさまざまな生活領域での〈顕在的サポーター〉となるだけでなく、Uターン者ともなりうる可能 性をもつ。家族および集落の担い手ともなりうるため、農山村の人口的構造問題に対する最も可能性の高 い交流である。しかし、政策的には事業とも地域活動とも認識されることはなく、個別農家の個別問題とし て扱われることが多かった・・・」(徳野 2008a: 67)。     

この主張からも分かるように、他出子は現在の農山村維持・存続問題において最も強い資源となる可能 性がある。そして、2006年度に熊本大学文学部地域科学科によって行われた「熊本県山都町地域社会調 査」では、調査対象者の子どもの51%が近距離10に他出していることが判明しており、近接に居住している ことは他出子のその可能性をより高めていると考えられる(熊本県山都町地域社会調査報告書 2006,

168)。上記のように、農山村の維持・存続問題における他出子の重要性・可能性が明確になってきている のにも関わらず、他出子に関する研究は非常に少ないことも事実である。これらの研究の中でも農山村に 残っている親へのサポートが中心的な視点となっており、言い換えれば研究視点として他出子の「福祉的 機能」の研究が圧倒的に多い(赤木・近江 2003、石坂・緑川 2005、石坂 2002a、2002b)。なお、農業の担 い手としての他出子や地域運営において新たの方法としての他出子といった、経済的・生産的な側面から

の研究は少数ながら行われている(荒木 1992、荒木 1994、鰺坂 2005、芦田 2006、菅原・藍澤・井橋・富 士 2006)。他出子研究においては、過疎地域の将来像を描く上での他出子の意味または位置づけを全 体像の中で議論する研究はあまり見当たらない。このような現状を踏まえた上で、徳野の上記の分析や熊 本大学の調査結果を一つの出発点とし、熊本県山都町から他出している山都町出身者をケースにして、

過疎農村地域の維持・存続問題における他出子の可能性・位置づけを分析していくことを本章のメインの 課題としたい。 

  本章においては、2007年に我々熊本大学地域社会学研究室が行った「山都町他出子調査」のデータを 用いながら、他出子の視点からUターン問題、農村在住の家族および地域社会との関係、農業の担い手 問題などの課題から出発し、農山村社会の将来を考える上で他出子の可能性・役割を分析および考察し、

議論を進めていきたい。 

なお、山都町内の近接距離に別居している別居子たちは、「在村子」なのか、「他出子」なのか非常に微 妙に位置にある。彼らの動向が、実家や出身集落の維持・存続などに非常に重要な要因であることは、事 実であるが、今回の調査対象には含めていない。最大の理由は、調査実施上の労力上の問題である。な お、山都町内の近接別居子は、「他出子」のうち15%であることが判明している。そのため、上記の課題も 踏まえながら、過疎農山村地域の維持・存続・担い手問題においてどのようなパターンの他出子がいるの かを分析しながら、過疎農山村地域維持・存続論的な視点から他出子の類型化を試みたい。 

 

第 2節   集 落 維 持 ・存 続 にお ける他 出 子 の意 味 ・可 能 性 の検 証    

(1)調 査 方 法 

  「山都町他出子調査」は山都町役場と熊本大学文学部総合人間学地域社会学研究室により、2007年の 12月2日~25日の間で行われた。調査対象者は、19〜59歳までの山都町から熊本都市圏へ他出した人 を対象に、山都町役場において305人を無作為に抽出したものである。調査地域は熊本市中心とその周 辺11である。 

  本調査は、直接面接法および郵送法を用いて行われ、熊本市中心部を直接面接法、熊本市周辺部を 郵送法と区別された。調査者は直接面接法の場合は、対象の家庭を個別訪問してその場での聞き取りを 行なった。調査対象者が不在だった場合は不在表を残して連絡を取り、可能な限り訪問を繰り返した。ま た仕事や、その他諸事情を理由として直接回答が不能の対象者は、直接訪問法から郵送法へ変更した。 

その結果、母集団305人に対して、直接面接による有効回収は55件、直接面接から郵送法による有効回 収は7件、郵送法での有効回収は26件であり、全体で88件の有効回収ができた。そして有効回収率は 28.8%である。 

   

(2)  対 象 者 の基 本 属 性  

調査対象者88人のうち52.3%(46人)は男性、47.7%(42人)は女性である。年齢別で見ると、対象者全 員の30%(26人)は20代、19%(17人)は30代、27%(25人)は40代、そして24%(20人)は50代である。他 出子の調査時点での世帯構成を見ると、単独世帯は全体の28.4%である。夫婦のみ世帯は11.4%、そし て夫婦と未婚の子世帯から成る世帯は43.2%を占めている。また、片親と未婚の子世帯は5.7%である。

夫婦のみおよび核家族世帯は全体数の60.3%となっており、このデータから山都町他出子の半数以上が 熊本都市圏で家庭を形成していることが明確である。さらに、夫婦と両親もしくは片親世帯(1.1%)や夫婦 と両親もしくは片親と未婚の子世帯(3.4%)や兄弟姉妹同居世帯(5.7%)が全世帯の約2割弱を占めてい る。 

  他出子の学歴を見ると、半数近く(48.3%)が高卒で中等教育、4割以上(44.8%)が短大・大学等の高等 教育を受けている。これは、山都町地域社会(親世代が対象者となった)調査の場合は、初等教育は3割

(32%)、中等教育はほぼ同じで5割近く(48%)、高等教育が2割(20%)であったのに対し、他出子の方が 高学歴化している。また、収入構造の場合は、全体の半数近く(48%)は0−400万円、3割(32%)が400−

800万円、1割(11%)が800万以上の年収をもっており、この構造は親世代(山都町地域社会調査)の場合 も同様である。結果的には、両者とも低所得層が圧倒的に多い。他出している子ども達は、さまざまな農村 の維持・存続問題において基本的には3つの側面から考えられている。これらの中で最重要課題とされて いるのは「帰ってきてくれるか」と「農業を今後してくれるか」であり、そして「親(家族)をサポートしてくれて いるか、地域とどの程度関係を維持しているか」である。このような現状の中で、1節で論述した諸研究は 他出子の全体的な位置づけを議論しておらず、上記の3つの側面を課題別で取り上げている傾向が強い。

しかし、これらの3つの側面は相互に非常に深い関係を持っており、他出子の農村の将来に関する可能性 を議論する際にこれらの3つの側面を全体的に分析する必要がある。そのため、本研究においては他出 子の農村社会の将来における可能性を「Uターン」、「農業」、「実家・出身集落との関係」といった3つの側 面から分析し、一般動向を考察しながら議論を進めていきたい。 

(3)  他 出 子 の Uター ンに 関 す る動 向 

他出子は今後山都町に帰っていくのか。これを「山都町他出子調査」でUターンするかしないかという形 で聞いた。山都町出身の熊本都市圏在住他出子の26%(88人のうち23人)は今後「Uターンする」と回答し、

40%(88人のうち35人)は「帰らない」と回答している。さらに、現段階でUターンを「するか、しないか」を「決 めていない」の(88人のうち30人)は34%である。(表10-a) 

       

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