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第4章 「横臥姿勢」に対する人間の認識

4.2.3 Grave, tomb の語源分析

4.3.1.3 Drop と fall の概念的相違

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ここで、ここまで述べてきた動詞DROPと動詞FALLの概念を以下(6)に整理しておく。

(6) DROPの概念:垂直に下方向に移動する「落」概念 FALLの概念:弧状の軌跡を描く「倒」概念

この両者の概念的相違は以下(7)の引用に如実に表れている。

(7) The ShooterのプロデューサーLorenzo Di Bonaventuraの製作解説

I’m not an accurate sniper. No, but I learned a little about it. What’s.very interesting is, a bullet literally will fall between 30 and 40 feet just because of the range. So, when it’s shot, it’s shot in an arc, not, as we always imagine it, straight. So, that arc is calibrated to figure out how long it’s gonna fall, how much the wind is gonna move it back and forth, how much the curvature of the Earth is going to play into it, which is really, sort of, mind-behinding concept…

(私は正確な狙撃手とはまるで違うが、少し教えてもらった。興味深いのは、発射 後に弾丸が落下するということだ、約10メートルほどもね。発射された弾丸は 我々が想像するのと違い、直進せずに、距離が長いほど弧を描いて飛ぶんだ。そ の曲線を計算して発射する必要がある。風の抵抗も考えるし、驚くべきことに地 球の曲線まで計算に入れる。)

[表]

RANGE (YARDS)

VELOCITY (FT/SEC)

BULLET DROP (INCHES)

0 2900.0 0.00

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250 2324.4 -14.99

500 1816.0 -71.10

750 1375.0 -195.15

1000 1084.8 -436.14

―The Shooter

ここで注目すべきは、弾丸の「落下」に対して fallが用いられる一方で、弾丸の「落差」

を表すためには‘bullet drop’、つまりdropが用いられているということである。このfall とdropが如何に使い分けられているのかを明らかにするために、以下(8)に弾丸の軌道を 図示する。

(8) BULLET DROP(落差)

実際、弾丸は垂直に落下するわけでなく、「弧状の軌跡」を描いて落下していく。この「軌 跡」は「倒」概念で表した軌跡と重なる。つまり、弾丸は「弧状の軌跡」を描くためにfall を用いて表される。一方で、「落差」は、弾丸が発射された高さと落下した同一の弾丸と の「垂直の距離」で表わされる。この「垂直の距離」は、直線的でなければならず、した がって「弧状の軌跡」とは認識されない。そのために、fallではなくdropが用いられるこ とになる。またこの筆者の主張は以下(9a-b)に示す言語現象によっても説明可能である。

弾丸は「弧状の軌跡」を描く

→fall

落差は垂直上下差の距離 で表わす

→drop

90 (9a) He fell over a precipice.

(9b) ? He dropped over a precipice.

「弧」の概念を有するoverは、「弧状の軌跡」を表示するfallとは共起するが、垂直落下 を示すdropとは共起しえないのである。

以上のことから前出(2a-b)(以下に再掲載)の容認度の相違が如何に生じるのかを理解す ることができる。

(2a) A fur is falling.

(2b) ? A fur is dropping.

(2b)が不自然な文となる要因は、‘a fur’の指示物には或る一定の重量がなく、浮力が加 わるために、加速度が付いて垂直落下することなく、(ゆっくりと)左右に揺れながら落下 するためである。また、dropの垂直落下概念は、以下(10a-b)の絞首刑執行の様子を表した 例文にも如実に表れている。

(10a) At 9 a.m. on the appointed day, a carriage took him to the scaffold where a small crowd waited in the drizzling rain. At 10:15 the trap door slammed open, and he dropped through.

(判決で下された日の午前9時、彼は馬車に乗せられて絞首台にやってきた。そこでは

少数の人々が小雨の中その時を待っていた。10時15分、落とし蓋がバタンと下に開 き、彼の体は穴を通って、垂直落下した。)

―The Shooters (1996:198) (10b) He19 made one final observation from the gallows. Surveying a crowd of 4,000 that

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had assembled to witness his drop through the trap, he said, “I see a good many enemies around, and mighty few friends.”

(彼は絞首台の上からこの世の最後の見納めをした。彼は、落とし戸口から垂直落下す るのを見に集まった4,000人の群衆を見渡して言った。「敵対者は山ほどいるが、友 人はほとんどいないな。」)

―Gunfighters of the Old West (1996:172)

絞首刑に処される際に、被処刑者の身体は真下に空いた穴から垂直に落下する。この事象 を示すにはfallではなくdropを用いる方が極めて自然である。