Trp160
第4節 小活
本章では, [3H]UCN-01 を光ラベル化剤として, 光アフィニティラベル法による
hAGP 分子上の UCN-01の結合部位の同定を行った. さらに, 光アフィニティラベ
ル法により同定したアミノ酸残基を, 部位特異的変異法を用いて置換させ, UCN-01 の結合に関与するアミノ酸残基を同定した. 最後に, これらの結果をもとに, hAGP の立体構造モデルを用いて, UCN-01, UCN-02 及び Staurosporine のドッキングシ ュミレーションを行った. 以下に得られた知見を要約する.
1)ステロイドホルモン類のプロゲステロン, 酸性薬物のワルファリン, 塩基性薬
物のプロプラノロール, cold UCN-01, UCN-02及びStaurosporineを置換剤として, 光 アフィニティラベル法による[3H]UCN-01 に対する阻害実験を行ったところ, hAGP 分子上の薬物結合部位は塩基性薬物や酸性薬物及びステロイドホルモン結合部位が 互いに重なり合った1 つの幅広い薬物結合領域を形成していることが分かった. 従 って, 従来より提唱されていることが, 今回, [3H]UCN-01 を用いた, 光アフィニ ティラベル法による阻害実験でも立証することができた. 興味深いことに, UCN-01 の C-7 位の水酸基の脱離した Staurosporine 及び水酸基がα-配置した UCN-02による 阻害効果に差異が認められ, cold UCN-01, UCN-02 及び Staurosporine による阻害 効果は結合定数に依存していた. 一方, ワルファリン及びプロプラノロールによ る阻害効果は 16%及び 26%となり, プロゲステロンでは 58%の強い阻害効果が観 察された. これらの結果より, プロゲステロンとUCN-01のhAGP分子上でオーバ ーラップしている領域は, ワルファリン及びプロプラノロールのそれより大きいこ とが推察された.
2)UCN-01 の hAGP 分子上の詳細な結合部位を同定するために, ①[3H]UCN-01 を
hAGP 分子上に光ラベル化後, ②hAGP の糖鎖を除き, ③トリプシンを用いて断片 化し, ④得られた断片化hAGPを逆相HPLCにより高い放射活性を有するフラクシ ョンを分取・濃縮後, ⑤Capillary HPLCを用いてラベルペプチドを分離し, ⑥Edman 分解法によりN 末端アミノ酸解析を行った. その結果, N 末端から SDVVYTDXK というペプチドが同定され, このペプチドは hAGP 分子上の Ser153~Lys161 残基で あることが明らかになった. このうち, 8サイクル目に相当する 160 位のTrp 残基 だけがまったく同定されなかったことより, この部位の[3H]UCN-01 による光ラベ
ル化の可能性が示唆された.
加えて, 化学修飾と光ラベル化の結果をもとに, W25A, W122A 及び W160A 変異体を作成して[3H]UCN-01 による光ラベル化を行った結果, W25A 及び W122A の放射活性は, Wildタイプと比べて有意な差異は認められなかったが, 160位のTrp 残基をAla残基に置換させた W160Aにおいて, 約80%の放射活性の減少が観察さ れた. このことより, [3H]UCN-01 は hAGP 分子上の 160 位のTrp 残基に光ラベル 化されていることが明らかになった.
3)光アフィニティラベル法と部位特異的変異法の結果より, hAGP の立体構造モ
デルを用いてドッキングシュミレーションを行ったところ, hAGP 分子表面におい て, Type I とIIの2つのモデル図が得られた. また, これら 2つのモデル図のう
ち Type IIモデルが実験結果とよく一致しており, Type II モデルにおいて UCN-01
は, Trp160 との水素結合やスタッキング相互作用が観察され, さらに, Lys135 や
Lys161 との静電的相互作用, 加えて, Tyr157 とのスタッキング相互作用が観察さ
れた. Type IIモデルにおいてさらに詳細な結合部位の同定を行うために, UCN-01 の C-7 位の異性体である UCN-02 及び水酸基が脱離したStaurosporineを hAGP の立 体構造モデルを用いてドッキングシュミレーションを行った. その結果, UCN-01, UCN-02 及び Staurosporine の C-7 位の置換基と hAGP のアミノ酸残基との相互作用 において差異が観察された. UCN-01, UCN-02 及び Staurosporine の hAGP に対す る結合定数は, UCN-01 > Staurosporine > UCN-02の順で低下するが, これらの結合 定数の低下は次のように考えられる. Type II ドッキングモデルにおいて UCN-01の
芳香環は Trp160 とスタッキング相互作用しており, この相互作用は, Trp160 と同
じ方向にある Lys161とUCN-01のC-7位のOH基との静電的相互作用により強めら れる. 一方, UCN-02の C-7位のOH基は, Trp160と反対側でGlu132と水素結合 しているため, Trp160とのスタッキング相互作用が弱まり, 結合性が低下する. ま た, Staurosporine は C-7 位に OH 基が存在しないため, 芳香環との Trp160 とのス タッキング相互作用に変化はないため, 結合定数はUCN-01 > Staurosporine > UCN-02の順で低下することが推察される.
以上の結果より, [3H]UCN-01 は hAGP 分子上の 160 位の Trp 残基に光ラベル化 されていることが判明し, UCN-01 の hAGP に対する特異的な結合性において, 160 位の Trp 残基が重要な役割を演じていることが明らかになった. また, UCN-01, UCN-02及び Staurosporine と hAGP の Type II モデルを用いたドッキングシュミレー
ションの結果より, 160 位の Trp 残基に加えて新たに, Glu132, Lys135, Tyr157
及び Lys161 の重要性が明らかになり, 今後, これらのアミノ酸残基の変異体を作
成することにより, さらに詳細な結合部位の解明ができるものと期待される.