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の結果, UCN-01 結合性は, NaCl 及び脂肪酸添加により濃度依存的に減少したこ とより, UCN-01 と hAGP の結合には静電的及び疎水性相互作用が関与しているこ とが示唆された. また, UCN-01 の hAGP 結合に及ぼす pH の影響について検討し たところ, pH の上昇に伴って結合率は増大し, pH 7.4 において最大(96.33%)と なった. UCN-01の構造と hAGP の等電点(pI=2.7)から考え合わせて, pH 7.4 で の最大結合率はゲスト-ホスト間の解離現象が程よく絡み合って静電的及び疎水性相 互作用が強化されたものと考えられる. 一方, pH 6.0において最小の結合率(69.74%)

が観察された. 癌細胞周辺のpHは正常細胞のpHより, 約0.3~0.5低下することが 知られている. そのため癌細胞周辺において抗癌剤である UCN-01 の結合率の減少 が起こり, 遊離型UCN-01の濃度が上昇して, 薬理効果に影響を与えるものと推察 される. さらに, hAGP 自身の CDスペクトルの pHプロファイルから, 三次構造 に若干の変化が観察された. これらの結果よりpHに伴うUCN-01結合の変化は, ホ スト-ゲスト間の複雑な解離状態に伴う相互作用の強化や hAGP のコンフォメーショ ン変化を反映したものと推察された.

3)hAGP からシアル酸を除いたアシアロhAGP に対するUCN-01の結合性を検討し

た. その結果, hAGP とアシアロ hAGPとの間には, UCN-01 の結合に有意な差異 は認められなかったことより, UCN-01 の hAGP に対する結合にはシアル酸は関与 していないものと考えられた.

 また, hAGP の 2 つのバリアント, F1*S 体と A 体において UCN-01の結合性を 検討したところ, これらの結合性に有意な差異は認められなかった. hAGP バリア ントに対する薬物の結合特性は数多く報告されており, F1*S の結合部位は比較的 大きい疎水性ポケットと考えられている. 一方, A 体の結合ポケットは, F1*S 体 のそれと比べて比較的小さく, 薬物の特異性が高いものと考えられている. その ため, UCN-01 は F1*S 体に特異的に結合するものと予想されたが, hAGP バリア ント間において UCN-01 の結合性に差異は認められなかった. それゆえ, UCN-01 の臨床応用に際してhAGP バリアントの発現量は考慮しなくてよいものと思われる.

また, hAGP は 183 個のアミノ酸残基からなり, 2 つのバリアント間において 22 残基が異なっているが, 結合性に変化はなかったため, 保存されているアミノ酸

残基がUCN-01の結合に関与していることが推察された.

4)UCN-01 の hAGP 分子上の薬物結合サイトを評価するために, Lys, His, Trp 及びTyr残基をそれぞれフェニルイソシアネート, DEP, HNBB 及びTNM を用い て化学修飾した hAGP を調製し, UCN-01 との結合性を検討した. 4 つのアミノ酸 残基の修飾化に伴って, いずれもUCN-01の結合性は低下した. 特にTrp残基修飾 により顕著に低下したことより, UCN-01 と hAGP の結合には, Trp 残基が重要な 役割を演じていることに加えて, His, Lys 及び Tyr 残基も関与していることが示 された. hAGP に存在する 3つのTrp残基は hAGP のバリアント, F1*S 及びA 体 においてすべて保存されているため, UCN-01 の hAGP バリアントに対する同程度 の結合性は, Trp残基の関与をさらに支持する結果と考えられる. また, 未修飾hAGP と修飾hAGPの蛍光スペクトルを測定した結果, 修飾hAGPにおいて蛍光極大波長 の長波長シフトと蛍光強度の減少が観察された. 修飾されたTrp残基数がほぼ1 で あることと, Trp 残基修飾に際し変性剤を用いていないことより, 表面に露出して いる160 位のTrp 残基が修飾されたものと考えられる. また, 同様な現象がhAGP

に UCN-01 を添加することにより観察され, UCN-01の hAGP に対する結合におけ

るTrp残基の重要性がさらに示唆された.

2. [3H]UCN-01及び hAGP の立体構造モデルを用いた hAGP 分子上の UCN-01 の結 合部位の検討(第3章)

1)光アフィニティラベル法を用いて, ステロイドホルモン類のプロゲステロン, 酸 性薬物のワルファリン, 塩基性薬物のプロプラノロール, cold UCN-01, UCN-02

及びStaurosporineを置換剤として[3H]UCN-01に対する阻害実験を行ったところ, 従

来より提唱されているように, hAGP 分子上の薬物結合部位は塩基性薬物や酸性薬 物及びステロイドホルモン結合部位が互いに重なり合った 1 つの幅広い薬物結合領 域を形成していることを立証することができた. 興味深いことに, UCN-01 の C-7 位の水酸基がα-配置した UCN-02 及び水酸基の脱離した Staurosporine による阻害効 果に差異が認められ, cold UCN-01, UCN-02 及び Staurosporine による阻害効果は 結合定数に依存していた. 一方, ワルファリン及びプロプラノロールによる阻害 効果はそれぞれ 16%及び 26%となり, プロゲステロンにより 58%の強い阻害効果 が観察された. これらの結果より, プロゲステロンとUCN-01のhAGP分子上でオ ーバーラップしている領域は, ワルファリン及びプロプラノロールのそれより大き いことが推察された. このため, UCN-01 を投与されている患者にプロゲステロン

を併用投与すると置換現象が起こり, 遊離型の UCN-01 の濃度が上昇するため副作 用が起こる可能性が考えられる.

2)UCN-01 の hAGP 分子上の詳細な結合部位を同定するために, ①[3H]UCN-01 を

hAGP 分子上に光ラベル化後, ②hAGP の糖鎖を除き, ③トリプシンを用いて断片 化し, ④得られた断片化hAGPを逆相HPLCにより高い放射活性を有するフラクシ ョンを分取・濃縮後, ⑤Capillary HPLCを用いてラベルペプチドを分離し, ⑥Edman 分解法によりN 末端アミノ酸解析を行った. その結果, N 末端から SDVVYTDXK というペプチドが同定され, このペプチドは hAGP 分子上の Ser153~Lys161 残基で あることが明らかになった. このうち, 8サイクル目に相当する 160 位のTrp 残基 だけがまったく同定されなかったことより, この部位の[3H]UCN-01 による光ラベ ル化の可能性が示唆された. 加えて, 化学修飾と光ラベル化の結果をもとに, W25A,

W122A 及び W160A 変異体を作成し, [3H]UCN-01 による光ラベル化を行った結果,

W25A 及びW122A の放射活性は, Wild タイプと比べて有意な差異は認められなか

ったが, W160A では, 約 80%の放射活性の減少が観察された . このことより,

[3H]UCN-01のhAGPに対する特異的な結合において, 160位のTrp残基が重要な役

割を演じていることが明らかになった.

3)光アフィニティラベル法と部位特異的変異法の結果より, hAGP の立体構造モ

デルを用いてドッキングシュミレーションを行ったところ, hAGP 分子表面におい て, Type I とIIの2つのモデル図が得られた. また, これら 2つのモデル図のう

ち Type IIモデルが実験結果とよく一致していた. Type II モデルにおいて UCN-01

は, Trp160 との水素結合やスタッキング相互作用が観察され, さらに, Lys135 や

Lys161 との静電的相互作用に加えて, Tyr157 とのスタッキング相互作用が観察さ

れた. UCN-01の C-7 位の異性体である UCN-02及び水酸基が脱離したStaurosporine

について Type II モデルを用いてドッキングシュミレーションを行った. その結果,

UCN-01, UCN-02及び Staurosporine の C-7 位の置換基とhAGPのアミノ酸残基との 相互作用において差異が観察された. UCN-02及びStaurosporine のhAGP に対する 結合定数は, UCN-01 > Staurosporine > UCN-02の順で低下するが, これらの結合定 数の低下は次のように考えられる. UCN-01の芳香環はTrp160とのスタッキング相 互作用しており, この相互作用は, Trp160 と同じ方向にある Lys161とUCN-01の C-7 位のOH基との静電的相互作用により強められる. 一方, UCN-02の C-7位のOH

基は, Trp160と反対側でGlu132と水素結合しているため, Trp160とのスタッキン グ相互作用が弱まり, 結合性が低下する. また, Staurosporine は C-7 位に OH 基 が存在しないため, 芳香環とTrp160とのスタッキング相互作用に変化はないため, 結 合定数はUCN-01 > Staurosporine > UCN-02の順で低下することが推察される.

以上述べてきたように, 本研究では化学修飾法, 光アフィニティラベル法, 部 位特異的変異法及びドッキングシュミレーションを用いることにより, 未だ立体構 造が明らかにされていないhAGP 分子上の UCN-01 の結合部位を, UCN-01 とhAGP との複合体を直接的に解析することにより, UCN-01 の結合における hAGP 分子上 の 160 位の Trp 残基の重要性を明らかにした. これらの知見は, 新規のStaurosporine 誘導体をデザインする上で非常に有益な情報であり, UCN-01 の臨床応用において, 副作用や薬理効果の予測, また, 薬物間相互作用の回避を行う上で有用な基礎資 料になるものと思われる. さらに, ゲノム解析やプロテオーム解析により新たな 薬剤ターゲット蛋白質の同定やその結合部位の同定が盛んに行われている今日, 本 研究で用いた, 光アフィニティラベル法もその手段として非常に有用であり , 部 位特異的変異法(pinpoint でアミノ酸残基を同定)やドッキングモデル(結合ポケ ットの三次元的な情報)のそれぞれの特徴を生かして, 組み合わせることによって 双方の欠点を補うことにより, 強力な結合部位の解析手段になるものと考えられる.

本研究で得られた知見は, UCN-01 の hAGP 結合の機序解明にとどまらず, 組織蛋 白質の結合部位を解明する上での貴重な基礎資料になるものと考えられる.

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