Transition of filling materials in soft tissue augmentation
ルネ・デュ・クロー(東京スキンクリニック)
René du Cloo, M.D., Tokyo Skin Clinic
Abstract
Soft tissue augmentation is a cosmetic procedure with a fairly long history, starting with the injection of paraffin at the end of the 19th century. In this article the history of soft tissue augmentation will be reviewed so that we can learn from the mistakes of the past and can gain a better understanding of the events that led to the development of the currently available products. The author will then present an overview of these products after classifying them into three categories, namely, absorbable, non-absorbable and autologous fillers. Some advice will be given as to the criteria to be applied for introducing a new product into cosmetic practice.
キーワード :.collagen,.hyaluronic.acid,.filler.injection,.non-absorbable.fillers,.autologous.fillers
過去の教訓
医療における補充剤の注入歴は既に長い。よ く知られている最初の注入物はパラフィンであ る。899 年にチェコの外科医 Gersuny が癌の 治療で睾丸を摘出後,陰嚢にパラフィンを注入 した。それから数年以内に顔の注射も多く行わ れるようになった。しかし,パラフィンは激し い異物反応を起こしやすいため,早くから合 併症が出現した。既に 906 年に合併症が報告 されているにもかかわらず,パラフィン注射 は 960 年代まで特にアジアで頻繁に行われた。
最近でも東欧や韓国で未だに行われているとの 報告がある)。
シリコン注射の初期の歴史についてはあまり 知られていない。第二次大戦中米軍が新しく開
発された液体シリコンを電気変圧器の絶縁に 使った。戦後米軍の需品係が横浜港の倉庫から 大量の絶縁液がなくなっていることに気が付い た。この液は米国兵士の客を増やす目的で売春 婦の胸を大きくするのに注入された。米軍の一 等軍曹が金銭と引き換えに現地女性の胸に注射 したとの目撃者からの報告もある)。
シリコン液注射はパラフィンなどの注入液と 比べて危険が少ないとされたため,他のアジア 諸国にすぐに広がった。950 年代にアジアか らシリコン注射を受けた患者が渡米すると,米 国でも行われるようになった。主に娯楽産業で 働いていた女性のために「クレオパトラの針」
と呼ばれるシリコン注射による豊胸術が盛んに 行われた。医者でない注入専門家によって行わ れたことがほとんどで,当時の医学文献は無い。
96 年に初めて日本の内田がシリコン注射に ついて形成学会誌で報告した3)。
連絡先:.ルネ・デュ・クロー,東京スキンクリニック . 〒 06-003 東京都港区六本木 3--4-F . [email protected]
3 しかし,シリコンも異物反応を起こす性質が あるので,胸にしこりができたり,胸全体が硬 く痛くなったりするような副作用が頻繁にみら れた。その上,注射したシリコンは隣接部位に 移動する傾向がある。局所的に炎症反応を起こ す物質をシリコン液に添加し,カプセル形成を 促進することによってこの移動の予防を試みた 注入者も多くいた。特にベバリーヒルズに引っ 越した日本の医師桜井がオリーブオイル配合 の注入液を考案すると,これが大人気を呼び,
964 年まで数十万人の女性に注入された。現 在ではこうした不純物の混入により合併症が深 刻化したことが知られている。964 年 Cronin によるシリコンプロテーゼの発表と共に,胸の シリコン注入の時代は終わりとなった。
シリコン注射による皮膚のへこみやシワの 治療のパイオニアの一人はニューヨークの Orentreich である。皮膚のシリコン注射は注入 部位に見られる硬結,紅斑などの合併症がよく 知られているので,ほとんど使われなくなって きた(図 )。しかし,Orentreich らは独自の micro-droplet.technique が安全であることを訴 え,今でもシリコン注射を行っている4)。
新しい時代:安全な注入剤の登場
976 年に米国の Knapp. が抗原性の低いコ ラーゲンの精製に成功し,シワなどの治療に皮 内注入することが可能となった。98 年米国コ ラーゲン社の Zyderm に FDA 認可が下り,初 めて安全が確認された注入剤が登場した5)。そ の後 Zyderm.II および深いシワに使う Zyplast も発売された。コラーゲンは大流行した商品で,
998 年だけで 90 万件位の治療が行われたとの 報告がある。
しかし,995 年頃新しい注入剤ヒアルロン 酸が美容医療市場に登場した。スキンテストが 不要で,治療がすぐにできるという大きな利点 がある。その後牛皮由来のザイダーム・ザイプ
ラストが BSE 問題の影響を受けて,その使用 が大幅に減少した。
005 年米国内でのコラーゲン注入は 万件,
その内 3 割が牛皮由来コラーゲンで,残りの 7 割は新しいヒトコラーゲンであったことが報告 されている(図 )。
スエーデン Q-Med 社の設立者 Bengt.Ågerup は,非動物由来安定化ヒアルロン酸(NASHA)
の開発に成功した。この製品は 996 年より Restylane として販売されてきた。今でも最も 使われているヒアルロン酸の一つで,発売以降 全世界で 400 万件以上の治療が行われた。コ 図 2 2005 年米国注入剤使用件数(ASAPS のデータ
をもとに作成)
図 1 シリコン注入の合併症
ラーゲンとボトックスに続き,003 年に 3 番 目のシワ治療薬として Restylane が FDA に認 可された。
000 年に同じく非動物由来のフランス製 Juvéderm が登場した。単相性のゲルであるた め異物反応による肉芽種型炎症のリスクが軽減 された。006 年 Juvéderm も FDA に認可された。
現在:注入剤の豊富な時代
今まで主な注入剤の歴史的背景について述べ たが,注入剤のニーズが増えると共に,特に最 近の数年間多数の新製品が登場した。代行個人
輸入によってそのほとんどが日本でも簡単に 手に入るようになった。わかりやすいように,
注入剤をまず 3 つの大きなグループに分ける
(表 )。
.吸収性注入剤
代表的な吸収性注入剤はヒアルロン酸および コラーゲン製剤で,効果の持続期間は数週間か ら 年以上のものまでいろいろある。
注入用ヒアルロン酸は実に製品の数が多 い( 図 3)。 現 在, 鶏 の と さ か か ら 作 ら れ る Hylaform を除き,ほとんどの製品が微生物発 吸収性注入剤 コラーゲン(ウシ,ブタ,ヒト由来)
ヒアルロン酸(粒子含有タイプ,ゲルタイプ)
その他
非吸収性注入剤 粒子含有タイプ ゲルタイプ 自家組織注入剤 自家脂肪組織
自家コラーゲン PRP
表 1 注入剤の分類
図 3 ヒアルロン酸の豊富な種類
34 酵によって産生されている。
ヒ ア ル ロ ン 酸 注 入 剤 も ま た Restylane の ようにヒアルロン酸粒子が含まれる製品と Juvéderm のような単相性の製品と つのタイ プに分けることができる。理論的に粒子を含ま ないものは異物反応を起こしにくい。最近発売 されたスイス製の Teosyal・Esthelis は蛋白残 留物およびエンドトキシンの含有量を減らした 製品である5)。
牛由来コラーゲンに対してアレルギー反応を 示す人は人口の 3%に達するとの報告があり,
注入前にスキンテストを行う必要がある。その ため実際の治療まで 4 週間以上待たなければ ならない。新しく開発されたヒトコラーゲン
(Cosmoderm,.Cosmoplast)6)およびブタコラー ゲン(Evolence,.Evolence.Breeze)7)はアレル ギーの発生率が低く,スキンテストが不要とさ れている。さらにウシコラーゲンより効果の持 続期間が大分長くなった。
現在日本であまり普及していないその他の吸 収性注入剤については,代表的製品を表 にま とめた。
.非吸収性注入剤
非吸収性注入剤は人体に分解されない注入剤 で,効果は長く続き,ものによって「永久的」
である。ほとんどの患者が長持ちする注入剤を 望んでいると言えるであろう。長く残る注入剤
を使用することによって経済的の負担が減るだ けではなく,からだに対する負担(痛み,炎症 など)または社会的な負担(治療後のダウンタ イム)が少なくなる。それにもかかわらず,非 吸収性注入剤はあまり好まれていないようであ る。理由はいくつか考えられる。注入物が永久 に残っても効果は永久に続かないことがある。
注入部位からの拡散または移動がありうる。ま た,短期的な結果が良くても,時間の経過と共 に皮膚が自然に変化することにより改善が失わ れていくこともある。最後に,注入後副作用が 出現した場合永久に消失しない可能性がある。
シリコン注射後の問題を考えると,非吸収性注 入剤の使用には慎重にならざるをえず,限られ た症例にしか使うべきでないと思われる。参考 までに現在主に使われている非吸収性注入剤を 表 3 にまとめた。
3.自家組織注入剤
自家組織注入剤は患者自身の組織を採取して 作成し,代表的なものは脂肪,自家コラーゲン,
最近話題になった PRP(platelet-rich.plasma)
である。利点はアレルギーの危険が皆無に近い ことである。
脂肪注入では脂肪吸引で採取した患者の脂肪 を別の場所に注入する。移植した脂肪の大部分 が生着するので,効果も半永久的である。顔面 にはもちろん,乳房などに注入することも可能
商品名 有効物質 特徴 効果持続時間 *
Sculptra
(旧名 New-Fill)
ポリL-乳酸 皮内コラーゲン.
産生の促進
3 年間以上持続 することがある Radiesse 合成カルシウム・ヒドロキシアパタイ
ト・マイクロスフェア・ゲル懸濁液
動物・ヒト由来の 物質を含まない
8 ~ 4 ヵ月
Bioinblue ポリビニルアルコール 非動物性・非生物
工学的生産方法
~ 8 ヵ月
* 主にメーカー提供のデータに基づく
表 2 その他の吸収性注入剤