3. 1 序
本章では、基質強度を損なうことなく密着性を確保するのに有効と考えられ る、パルスCVD法によるC/C複合材料への直接siC耐酸化コーティングを行い, その効果を確認するために、下記の研究を実施した結果についてまとめる。
(1)パルスCVDによる直接siCコーティングの基礎実験として、反応温度を変化 させたときの成膜速度、成膜形態、膜質等について調べる。
(2)調製したsiCコーティングつきc/c複合材科の高温大気暴露による重量減少 の測定実験と,高温大気中での引張強さおよび引張弾性率の測定実験を行い、
耐酸化コーティングとしての性能を評価・一考察する。
3. 2 実験方法
3. 2. 1 パルスCVD実験装置
図3.2‑1に本実験で用いたパルスCVD装置を示す。使用原料(MTS)やその 構成は第2章で示した装置とほぼ同様であるが,反応容器の形状は若干異なり、
装置としては別のもので、より大型になっている。すなわち反応管(耐熱合金 製)の有効寸法は内径60mm,高さ250mmで、大型の引張試験片サイズの試料
の処理が可能になっている。第2章と重複する部分もあるが,以下に簡単に装 置と実験方法の概略を説明する。
(1)原料のMTSを,飽和器内でのバブリングによって水素キャリアガス中に飽 和させ,リザ‑バ(ステンレス製:内容積10f)に蓄えた。
(2)リザ‑バのガスを電磁弁を通して反応管に送り、管内圧力が100kPaになる まで充填した。このとき入口側電磁弁開、出口側電磁弁閉とした。
(3)電磁弁を全て閉じ,管内圧力100kPaのまま2‑3秒間の反応させた。
(4)反応操作後,出口側電磁弁を開いて反応管内を133Pa以下に真空ポンプ (3台×1420J/min.)で減圧にした。
なお,減圧系は第2章の装置とは異なり1系統のみとしたが、大容量ポンプの 並列使用によって減圧に必要な時間を1秒以内に押さえることができた。
MTS Saturator
図3.2‑1パルズcvD装置の概要
3. 2. 2 C/C複合材料試料
実験に用いた基質であるC/C複合材料試料は、一般的なレジンチャー法を用 いて作製した。反応温度に村する膜質等の調査には市販のPAN系汎用高弾性繊 維(M40,東レ(秩))の織布を用い、酸化特性および強度特性の評価にはピッチ 系の超高弾性繊維(ⅩN‑70,日本石油化学(秩))の織布を用いた。これら織布を 市販のフェノール樹脂(TD‑2506、大日本インキ(秩))を合皮したものをプリプ レグとした。このプリプレグを平板冶具上に積層して厚さ約2.Ommとしたもの
を,高分子フイルムで真空パックし、オートクレーブ中で423K, 2時間の加 熱硬化を行った.硬化して得た板はArガス中1273K, 4時間で樹脂分を炭化し た。炭化直後の板は樹脂の炭化による収縮で低密度,低強度であるから、さら
にフラン樹脂(vF‑312、日立化成(秩))の加圧含浸,硬化と1273K, 4時間の 炭化を計3回線り返して級密化した.最後に2273K, 1時間の高温処理を行っ て完成したc/c複合材料の板から次項3.3に述べる所定の試料を切り出した。以
上の工程を図3.2̲2にまとめて示す.このようにして得られたc/c複合材料板の
繊維体積含有率は断面の画像解析から62%で,また体積気孔率は水銀ポロシメ ータによる測定で14.6%であった。
図3.2‑2 パルスCVD実験用C/C複合材料基材の作成フロー
3. 3 実験結果と考察
3. 3. 1 パルスCVDの最適反応温度
パルスCVDの最適反応温度を探るため,各パルスサイクルの反応保持時間を
2.Os、 MTS濃度を5mol%8こ固定し、反応温度を1273,1373,1423,1473および
1523Kの間で変化させ,それぞれ.10000パルスサイクルの実験を行った。試料 には20×30×2.OmmのC/C複合材科板を用いた。なお、前章2.のパルスCVI実
験では,基質内部への析出充填が目的であったので、表面での膜形成をなるべ く避けるために1073‑1373Kという比較的低い反応温度(析出下限近く:
2.3.1項参照)で実験を行った。これに村し,本章のパルスCVD実験では,ア ンカー効果を有する表面膜の形成が目的であるので、パルスCVI実験の時に比 べ高めの温度で実験を行った。
図3.3‑1に蒸着速度の温度依存性を示す。蒸着速度vdは以下の式(3.3‑1)で求 めた。
W Vd‑
S・p・N・th
・ (3.3‑1)
ここで、 Wは蒸着によって増えた重量, sは試料の表面積, pはsiCの密度、 N はパルスサイクル数およびtbは反応保持時間であるo図3・3‑1に見られるように,
蒸着速度の温度依存性はあまり大きくなく、 1273Kから1523Kの温度差250Kで も2倍になる程度であった。膜の析出形態(モルフォロジー)の観察は、光学 実体顕微鏡(250倍)で行った。全ての膜表面は比較的平滑で微粒多結晶質であ
り,柱状や樹枝状の結晶成長等は見られなかった。また膜表面のⅩ線回折の結 莱,全ての試料からβ‑siCのピークが得られたが、反応温度1373K以下ではsi
の析出が顕著であった. 1423K以上で得られた膜表面のⅩ線回折パターンを図 3.3‑2示す。温度の上昇とともにβ‑SiCのピークが鋭くなっていくのがわかる。
しかしながら、 1423Kでは見られない炭素のピークが1473K程度から見られる
ようになり、 1523Kではかなり顕著になったo Kingonら【1]は、 MTS/H2の系 における平衡析出相について、反応温度が1200‑1600Kで全庄が100KPa (本 実験の反応保持中の圧力)のとき、 H2とMTSのモル比がおよそ10以上でβ‑
SiCの単相析出になると報告しているo今回の実験では, H2とMTSのモル比は
19 (MTS濃度5mol%)であるから,熱力学的には炭素の共析は起こらないもの
七考えられる。したがって,今回観察された反応温度上昇に伴う炭素ゐ共析は、
次に示す2つの理由のうち、いずれかによるものと考えられた。
(1)MTSの分解による炭化水素の発生と、熱分解炭素の析出
MTSは、 H2存在下の気相中または基質表面上で一旦siCIx+CH4に分解した
後, siCに化合するとすれば、反応温度が高くなると炭化水素(cH4)の単独 熱分解の反応速度がsiC化合の反応速度に近づくため,炭素の共析が起こる ことが考えられる。平井ら【2】は、 siC14.C3H8の系では温度が高いほど炭素 の共析が見られると報告しているが、これも同様の機構によるものと考えら れる。
(2)逆反応によるSiCのエッチングと炭素の残留
反副生ガスであるHClの脱離が十分に進まず,かつ、反応温度の上昇に伴い
析出の逆反応の速度が高くなるとすれば、一旦析出したsiCが、 sic+4HCl
‑ siC14+Cの逆反応でエッチンーグされはじめ、結果として炭素が残留する と考えられる。
以上の結果をふまえ,良いSiCの結晶性と高い蒸着速度のために反応温度を 高くしたいところではあったが、炭素の析出は耐酸化性に悪い影響を与えるの で,反応温度として炭素の析出が顕著ではない1473Kを選定し、以降の評価試 料を調製することにした。反応温度を1473Kとしても、図3.3‑1の結果から高温 の1523Kとは大差ない析出速度が得られる.
図3.3‑3に1473KのパルスCVDで得られた試料の研磨断面の電子顕微鏡写真
とⅩ線マイクロアナライザ(EPMA)によるSi‑Ka分析結果(図中の輝点がsi元
素存在位置を示す。 )を示す。写真はc/C複合材料とコーティングの境界付近 を中心にしたもので、矢印で示すようにC/C複合材料表面の気孔中に十分なコ
ーティングのアンカーが打ち込まれていることがわかる。
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