第4章 パルスCVlの反応容器形状の違いがSiC充填
4. 2 異なる実験装置でのパルスCVI実験結果の差異
4. 2. 1 実験方法
a.異なる形状・寸法の反応管を持つ2つの実験装置
本章でいう2つの実験装置とは,先の第2章のパルスCVI実験に用いた小型 のもの(図2.2‑1)と,第3章のパルスCVD実験に用いた比較的大型のもの(図 2.3‑1)である。双方とも基本様式は同一であり、共にSiCの析出用で原料に
はMTSを用いるものである。また,圧力パルスも'共に吸気時100kPa,排気時 133Pa以下で与えられる。
これら2つの装置の内容を比較すると,最も異なるのは後述する反応管形 状と寸法であり、その他の原料ガス調製系、排気系および加熱系は規模およ び細部の差こそあれ反応管容積に村応したガス供給、排気,および加熱能力 の点で同等と考えられる。 (第3章でパルスCVD実験に用いた装置は別にパ ルスCVD専用と言うわけではなく、第2章で実験したパルスCVIの圧力サイク
ルをすべて実現可能なように設計されている。 )図4.2‑1に2つの装置の反応 管形状および寸法を示す。これ以降では,図2.2‑1に示した小型装置の反応管
をタイプA、図3.2‑1に示した大型の反応管をタイプBと呼ぶことにする。タ イプAの反応管は直径20mmの先閉じ形状で、中にスペ‑サーが入っている。
このスペ‑サーは反応管内のデッドスペースを少なくし、原料ガスを節約す る目的で挿入したものである。一方タイプBは、直径57mmの先閉じ形状であ るが、スペ‑サーは入っていない。これは吸排気能力をより高めるために、
原料ガスの節約よりも吸排気抵抗の減少をねらったものである。
y
(A)
図4.2‑1パルスCVI実験に用いた2種類の装置の反応管形状
A :図2.2‑1のもの B :図3.2‑1のもの
b.パルスCVlの試料
前記a.節に示した2つの装置によるパルスCVI実験で用いた試料は,以下 に示す要領で作製した多孔質のC/C複合材科である。
強化繊維にはピッチ系の超高弾性繊維(日本石油化学(秩)製ⅩN‑70)の織布 を用い,この織布を市販のフェノール樹脂(大日本インキ(秩)製TD‑2506)を含
浸したものをプリプレグとした。このプリプレグを平板冶具上に積層して厚 さ約2.Ommとしたものを、高分子フイルムで真空パックし、オートクレーブ
中で423K・ 2時間の加熱硬化を行った.続いて硬化して得た板をArガス中
1273K・ 4時間焼成し,樹脂分を炭化した後,そのまま2273K・ 1時間の高温
熱処理を実施した。このようにして得られた多孔質c/c複合材科は、繊維体積 含有率65%、体積気孔率23vol.%であった。これから10×20mmと25×200mm
の板を切り出し,それぞれタイプA,タイプBの反応管を持つ装置用のパル スCVI試料とした。それぞれの試料は各反応管内に5枚づつ入れた0
4. 2. 2 実験結果
パルスCVI実験は,第2章でタイプA反応管の装置により得られたsiC充填
のための好ましい反応条件とほぼ同等な、反応温度1173K, MTS濃度5.Omol%
およびパルスサイクルごとの反応保持時間l.5sで実施した。
図4.2‑2に双方の装置で得られたパルスCVI後の供試体研磨断面の電子顕微 鏡写真(図中a, c)およびⅩ線マイクロアナライザ(EPMA)によるSi‑Ka分
析結果(図中b, d:輝点がSi元素存在位置)を示す。図中のa, bはタイプ A反応管による30000パルスサイクルで得られたものであり, c, dはタイプ
B反応管による25000パルスサイクルで得られたものである。また矢印は試料 表面を示し、点線は試料の板厚中央を示す。これらのデータから、次に示す 点が明らかにされた。
(1)タイプA反応管では第2章に示したものと同様な内部充填が得られ、しか
も表面の目詰まりを示す皮膜形成が見られない。 (第2章結果の再現)
(2)タイプB反応管では内部充填は十分でない。表面には目詰まりを示す撤密 な皮膜が観察され、これ以上操作を継続しても内部にはガスが供給されな いから、充填は期待できない。 (第2章の結果と矛盾)
装置による温度計測の誤差も考え、タイプBの装置では温度を±50K程度振っ て実験を行ったが、結果は同じであった。
以上の結果から、パルスCVIによるSiCの内部充填は、装置(反応管の形状・
寸法)によって変わることが明らかになった。
園4・2‑2 実験装置(反応管形状)の遠いによる/てルスCVl実験結果の差異 反応温度I 173K, MTS濃度5mol%,保持時間l.5s/cycle
a :タイプAの反応管使用時の断面電子顕微鏡像
b :同上の(同‑視野)のEPMA Si‑Kαイメージ
c :タイプBの反応管使用時の断面電子顕微鏡像
d :同上の(同一視野)のEPMA SトKαイメージ
4. 3 パルスCVl反応管内流れのCFD解析
4. 3. 1 解析の目的
パルスCVIで表面皮膜なしにSiC充填が得られる(前項4.3で述べた実験結果
のうちタイプAによるものに相当)理由について、 Sugiyamaら【1】は「急激に 導入される冷たい原料ガスが基質表面の温度を下げるため」と説明している。
これは基質の気孔内部に原料ガスが浸透する段階で熱交換が行われ、そこで はじめて反応(析出)が可能になることを意味し、実際の現象をうまく説明 できるものと考えられる。したがって、先の4.2項で述べた2つの反応管にお けるパルスCVI実験結果の差異は,反応ガスが反応管内に導入された時に基質 表面を冷せたか否かによると考えることができる。
2つの反応管は先の図4.2‑1に示したように形状と寸法が異なる。したがっ て反応管内のガス流れが異なることが予想され、このガス流れの違いが基質
表面の冷却の違いをもたらすのではないかと考えられる。そこで、 2つの反 応管における導入時の反応ガスの流れおよび温度変化を解析し、これを比較
することとした。このような非定常の流れであっても,その解析は最近の電 子計算機発達に伴うcFD解析手法の実用化によって可能になっている。
4. 3. 2 CFD解析の方法
cFD解析ツールとして、ここでは2次元軸対称非構造格子用NavieトStokes解 析ソルバー(UG2 :川崎重工業(秩))を用いた。その内容【2】を以下に示す。
・有限体積法に基づく2次元軸対称非構造格子法
・ MUSCL型TVD法とosher法による非粘性流速評価
・粘性項の評価は2次精度の中心差分と等価
・ Baldwin‑Lomaxの代数型乱流モデル使用
・ Gauss‑Seidel緩和法を用いた陰的時間積分
・ LTS (LocalTimeStep :解析時間の大幅短縮のため各格子点、各計算 ステップごとに時間差分を変化させ適正化)の使用
本項の解析で用いた計算格子の数は10000‑15000点程度である。一方,解析 の境界条件と初期条件は下記とした。
(I)境界条件
・モデル形状は図4.2‑1の2つの反応管それぞれについてy=0を軸とする軸 対称とし,試料は反応管内に占める体積の割合が実際と等しい円筒形と みなす。試料長さは実際と同じとする。
・試料および反応管内部は固体壁かっ断熱とする。
・ガスの流入条件(速度)はマッハ1.0とする。
(2)初期条件
・原料ガス初期圧力: 110kPa、温度:313K
・反応管内初期圧力:670Pa,温度:313K
・原料ガス流入口(図4.2‑1中のタイプAでx=140、タイプBでx=20)か ら上流の流速はマッハl.0で一定
4. 3. 3 解析の結果
図4.3‑1に反応管内に導入された原料ガス流れの相村温度分布を色で示す。
図中のa‑hはそれぞれ下記に対応する。
a :タイプA反応管の1000計算ステップ時 b : 同 2000計算ステップ時
c : 同 3000計算ステップ時
d : 同 最終計算ステップ時
e :タイプB反応管の2500計算ステップ時
f : 同 3000計算ステップ時
g : 同 4000計算ステップ時
h : 同 最終計算ステップ時
ここで言う最終計算ステップとは,原料ガスが反応管内に充満した時点であ り、これ以上計算を続けると発散する時点を意味する。また,温度を表す色
は、図中の下部にあるカラーバーで定義され,数字は温度比である。温度比 は左端の0.0がoKを表し、右端の1.0が原料ガスの初期温度313Kを示す.なお, 初期温度以上になる部分はすべてl.0で表される。この結果から,タイプAと
タイプBの反応管内部のガス流れとその試料まわりにおける温度分布には明 らかな違いが見られる。タイプAでは導入された原料ガス流がスペ‑サー先 端部で広がったあと、試料表面から離れることなくその表面に沿って流れる
のがわかる。これはスペ‑サー先端が半球状であるため、ちょうどノズルの
役割を果たし,ガス流れをなめらかにしているためと考えられる。試料上の 原料ガスは一様に断熱膨張して低温化しており,これが試料に密着して流れ
るのだから試料表面が十分な冷却を受けると容易に想像できる。これに村し て、タイプBでは原料ガスが試料端部にぶつかったあと,試料から剥離して
しまう。図中(h)の矢印が示す温度境界はガス流れが試料端部にぶつかる
ことによる衝撃波(Bow‑Shock)の発生を声すと考えられ、衝撃波に包まれ
た試料表面には冷たいガスが当たらず、当然冷却もされないと考えられる。
図4.3‑2には試料の1mm上空における温度分布を示した。ここで,Ⅹ/Lは囲
4.2‑1のⅩ軸に沿った試料上の相対位置を表し、 Ⅹは試料のガス入り口側端部
からの距離を、 Lは試料長さを示す。この回4.3‑2からもタイプAの反応管内 におかれた試料近傍の原料ガス温度は、時間経過に関わらず試料良子方向に
一一様に低いのに対して、タイプBではかなりの温度分布があり、しかも高温 部では原料ガスの初期温度を超える部分があることがわかる。
以上のCFD解析では、計算を容易にするために固体壁は313Kで、かつ、完 全断熱とみなした。実際の反応条件では、試料表面の初期温度は1173Kである ため、原料ガスは試料からの予熱を受け、この点で解析と異なる。しかしな がら、試料温度が高いことによる原料ガスの予熱は、主として試料と原料ガ スの接触による熱交換によるものと考えられるため、原料ガスが試料と接触 するまでの温度変化は、定性的には実際の反応条件でもおおむね解析結果と
同様な傾向を示すと考えられる。したがって、 CFD解析の結果は、先の4.2項
の実験結果の差異について、ある程度説明可能と考えられる。すなわち、 「タ イプAの反応管では中に挿入した、先端が半球状のスペ‑サーが予期せぬ効
果を発揮し、結果として試料表面を冷やす効果があるため、表面への皮膜析 出を抑制するが、タイプBでは衝撃波を伴う気流の剥離で試料表面が冷やさ れないために、表面析出が容易に起こった。 」ものと考えられる。