第 4 章 実験結果と考察 89
4.2 Polymethyl Methacrylate についての測定結果と解析
4.2 Polymethyl Methacrylate についての測定結果と解析
4.2.1 Raman スペクトル結果
図4.15: PMMAの分子構造
レーザーラマン分光光度計により得られたPolymethyl metacrylate(PMMA)(図 (4.15)のSpontaneous Ramanスペクトルを図4.16に示す。
0.6 0.8 1
In te n si ty ( a .u .)
CH2 Symmetry CH2 Anti symmetry
CH3
Anti symmetry CH3 Symmetry
2600 2800 3000 3200 0.4
Raman Shift (cm−1)
図4.16: PMMAのRamanスペクトル
このSpontaneous Ramanスペクトルには2900 cm−1付近にPVAと同様に大きなピー クが観測されている。しかし、図4.2に示すPVAのスペクトルと比較すると、PMMA のスペクトルは構造が複雑である。これはPMMAの構造式からわかるように、PMMA にはCH2基とともに、CH3基も含まれており、CH3基の振動モードの周波数がCH2 基の周波数と近いためである。CH3基の振動モードについての文献値をもとに、この
Spontaneous Ramanスペクトルの同定を行なった。CH3の対称、反対称伸縮振動をそ
れぞれ2890 cm−1、3000 cm−1の位置のピークに対応する。このスペクトル測定結果 は、PMMAにおける時間分解CARS信号の解析の参考とする。
4.2.2 CARS スペクトルの測定結果
図4.17に800nmと1300nmの倍波である650nmを励起光としてPMMAに入射し て得たCARS信号のスペクトルを示す。これはProbeパルスであるk3(ω3)パルスの遅
延時間をτ= 0 (ps)に固定し、3つの励起光が同時になる場合のCARS信号スペクト
ルである。
図4.17: PMMAのCARSスペクトル
このCARSスペクトルで特徴的なのが、スペクトル幅が非常に広く、CH2基とCH3 基の分子振動モードとの対応関係が分かりにくいことである。しかし、2900 cm−1付 近にピークを確認できた。これはCH2基の伸縮振動モードであると考えられる。しか
し、Spontanious Ramanと比較すると本来検出できると予想していた対称伸縮振動と
反対称伸縮振動のピークの分裂は見られなかった。
唯一同定が可能であるCH2基の伸縮振動モード(2900 cm−1)に着目して、時間分解 CARS信号の測定を行った。
4.2. Polymethyl Methacrylateについての測定結果と解析 103
4.2.3 時間分解 CARS 法の実験結果
図4.17に示すPMMAのCARSスペクトル測定により、CH2基の伸縮振動モードに 由来するCARS信号が観測されていることが確認できたので分光器でCH2基の伸縮 振動の位置(2900〜3000 cm−1付近)の信号光を抽出して、時間分解CARS分光を行っ た。その結果を図4.18に示す。
−0.5 0 0.5 1
10−3 10−2 10−1 100
delay time (ps)
CARS signal Intensity (a.u.)
CARS Signal
図4.18: CH2基の伸縮振動の時間分解CARS信号
測定結果から遅延時間とともに対称伸縮振動と反対称伸縮振動のモードによる周 期的なCARS信号の強度変化を(beat)を観測した。この結果に式(3.6)を用いて数値
Fittingを行うことでコヒーレント振動緩和時間と、信号に寄与している振動モードの
特定を行う。
4.2.4 時間分解 CARS 信号の Fourier 変換結果
PMMAのCH2基に対して得られた時間分解CARS信号のFourier変換結果を図4.19 に示す。このフーリエスペクトルの結果から0 cm−1、90 cm−1付近、150 cm−1付近、
220 cm−1付近、350 cm−1付近、430 cm−1付近にピークを観測することができる。
まず、図4.17のCARSスペクトルと比較すると0 cm−1と250 cm−1がそれぞれ対称 伸縮振動と反対称伸縮振動モードであると考えられる。90 cm−1と150 cm−1にみられ るピークはPMMAに含まれるCH3の対称伸縮振動と反対称伸振動に由来するピーク であると推測している。一方、350 cm−1付近、430 cm−1付近にピークが観測されてい るが、観測される原因は分かっていない。
0.05
F o u r ie r s p e c tr u m
250 cm
−10 cm
−1(2750 cm
−1)
(3000cm
−1)
CH2 : CH2 : symmetry
0 100 200 300 400 500 0
Wavenumber (cm
−1)
F o u r ie r s p e c tr u m
CH2 :
Anti-symmetry
図4.19: CH2基の時間分解CARS信号のFourier変換
Fourier変換で得られたこの結果は、時間分解CARS信号をFittingする際に利用する。
4.2. Polymethyl Methacrylateについての測定結果と解析 105
4.2.5 PMMA 中の CH
2基のコヒーレント振動緩和時間
時間分解CARS信号に寄与している各振動モードのCoherent振動緩和時間を評価す るために、Fitting関数を式3.6を用いて数値シミュレーションを行った結果を図4.20 に示す。実線が測定結果、波線がシミュレーション結果である。
−0.5 0 0.5 1
10−3 10−2 10−1 100
delay time (ps)
CARS signal Intensity (a.u.)
CARS Signal Fitting
図4.20: CH2基による時間分解CARS信号
シミュレーション結果はFitting関数中の∆ωにFourier変換によって得た結果であ
る250 cm−1を代入し、計算ソフトを用いて各振動モードのコヒーレント緩和時間を求
めた。図4.20からCH2の対称伸縮振動と反対称伸縮振動のコヒーレント振動緩和時 間は、それぞれ300 fs、270 fsと求められた。CARS信号のビートの原因はPVAの解 析結果と同様に対称伸縮振動モードと反対称伸縮振動モードに由来する2つのCARS 信号を同時に検出しているためであると考えられる。